姉妹
この設定変えたいんだよな~
僕たちは街を出て近くの森に身をひそめながらキャンプをした。
病院から持ってきた薬をダイチさんは僕に見せてくれた。
「これなんだけど、ただの星水じゃ一向に治んないからって親父が作った薬。星水となんか合せてるみたいなんだけど…まぁこれ使ったときの症状が軽いから好き」
このまま星水を使って治療していってもいいのかという質問に僕でも力になれるなら、と話をしているのだが何せ施設でもダイチさんのような人は見たことがないから難しい。
「これはマジェンジよりもかなり薄くなっているものですね。…ちなみに今、僕と一緒にいて症状はないんですか?」
「ん~、そこまでこれと言ってはないかな。前は空気中の星水とか、エリウスでもだめだったけど一緒にいるうちに慣れた」
ご飯を食べてからも話を続けた。
今度図書館にでも行って資料を探してみよう。
いまだにあれも調べてないし、一気に読んでしまおう。
夜になり見張りはラズさんがしてくれるそうで、僕は自分の寝床に座ってダイチさんのことを考えていた。
するとライルさんが突然僕に森まで来てほしいと言ってきた。
「いいですよ」
彼女から誘うということは何かあるんだろう。
僕も気になっていたし、話すチャンス。
ラズさんに断りを入れて僕たちは森の奥へと進んだ。
「ジェリオスさん、すみませんこんな夜に…」
「気にしないでください、どうしたんですか?」
今日のライルさんはくまちゃんを持っていなかった。
いつもなら肌身なさずに持っているのに…。
「あのね、ドバルから私の中にお姉ちゃんがいることを聞いたの…」
「ドバルが?」
「うん、お姉ちゃんに頼まれたんだって。私はなんとなく気付いてたからそっかぁって感じだったの、でも…でもね」
ライルさんは突然苦しそうにしだした。
僕が彼女の体に触れるととても冷たかった。
生きた人ではないような冷たさ…。
「でもね、私、思い出しちゃいけない事を思い出してしまったの。それから何をするのも怖くて、消えてしまいそうで…怖くて」
そこまで言って髪を束ね、それをリボンでくくった。
「ラインさん…どういうことですか?」
「あたしがいけなかったんだ。ねぇ、ジェリー…ドバルを叩いて起こしてきてよ。あいつにも全部言わなきゃ…」
「…わかりました。ここで待っていてください」
僕はとりあえずドバルのもとに行き叩いて起こし、寝ぼけたままのドバルと二人の元に戻った。
まだラインさんのままで僕たちが来たことを見て静かに笑った。
「お、ライン。久しぶり」
「前はありがとうね、ドバル」
この二人もしばらく会ってなかったようで軽く挨拶を交わす。
ラインさんは僕たちを座らせて、自分もその場に座った。
「あのね、このままじゃライルが消えてしまうかもしれないの。具体的に言うと元に戻るだけなんだけどね…」
「元に戻るってどういうことだ?」
僕が疑問に思った所を先にドバルが質問してくれる。
「二人にはお姉ちゃんの私が死んだ、って言ったよね。でも事故で死んじゃったのはあたしじゃない…ライルなの」
僕は耳を疑った。
ラインさんではなくライルさんが亡くなっていた?
じゃぁこの肉体はラインさんのものになる。
それを知らないでライルさんは生きていたのか…。
「ライルはお化けなのか?」
ラインさんは頷いた。
「あの日、事故で死んだライルを生き返らせたくて私は魔法で魂を呼び覚ました。その時にライルは自分が死んだんじゃなくて、あたしが死んだと思っていることにあたしは気付いた。だからチャンスだと思ってくまちゃんの中に彼女の魂を閉じ込めて…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
僕は焦って止めた。
「死者の魂を呼ぶ魔術は封印されたはずじゃないんですか?それにラインさんが魔法を使う、ましてそんな強力な魔法を…」
「そんなにやばい魔法なのか?」
ドバルが僕を見た。
「はい。死んだ人を魂だけでも生き返らせるものですから。例えば過去の偉人や科学者を生き返らせて政治とかを任せちゃえば楽でしょ?そういうことがずっと昔にあったらしく、この魔法は封印されたんです。それにこの魔法にはたくさんの魔力と知識が必要で普通の人間では扱うことができないものなんです。だから昔の人は生贄を対価として偉人と話をしていたんです」
ラインさんは少し困った顔をしながら話を続けた。
「あたしたちは両親が大魔術師で私たちも小さいころから魔法の練習をしてきた。お父さんは禁断の魔術書をなぜか持っていてそれをみてあたしは魔法を行った。それでもたくさん失敗しちゃった。だから対価を用意したの。ライルの魂を呼ぶための対価は…ライルの体。どうしてそんなことをしちゃったのかは分かんない、でもそれで失敗すればよかったのに成功しちゃって…あたしは最低な人間だ」
ラインさんは泣きながらそう言った。
僕は寒気が止まらなかった。
恐怖で何も、言えなかった。
「…それで蘇ったライルの魂は自分の中に入れられないからってくまちゃんの中に閉じ込めて、ライルがあたしの体を自由に使えるように自分の魔力を全部使ってライルの意思をつなぎとめることにした」
普通ならできないようなことを彼女はさらっとしたのか…。
僕は自分を落ち着かせ声を発した。
「ラインさんはどうしたいんですか…?」
二人とも大事な仲間なんだ、助けてあげたい。
ドバルもまだ話についてきてる、あいつだって同じ気持ちのはず。
「あたしは…」
その時風が吹いてリボンが飛んだ。
髪がふわっとほどける。
ドバルが立ち上がりリボンを拾いに行った。
木に引っ掛かってしまったようでドバルは上っていく。
「ジェリオスさん、私はここにいちゃいけないんですよね?」
ライルさんが僕の手を握りながらそう言った。
「…死者は天界に行くのがこの世のルールです」
「なら私はまた死にます。お姉ちゃんのおかげでみんなにも会えた、もう十分です」
僕は首を振った。
「でも僕を呼んだ時にライルさんは怖いって言ってましたよね、それはライルさんがまだここに…」
そこまで言うとドバルが帰ってきた。
それをライルさんは受け取るとまた髪を結んだ。
「ラインさん…僕は」
「わかってる。ライルはまだここにいたいと思ってる。でもそれは人の生に反していること…あたしのせいであの子は苦しんでる。ドバル、ジェリーごめんね。あたしはまだあの子と一緒にいたい…。ライルだってまだみんなといたいに決まってるの!でももうつなぐ魔力が残ってない…っ」
ドバルが僕の顔を見る。
「ジェリオスがつなぐことってできないのか?」
「人の魂を扱うことは僕には…ただの魔法使いにはできません。できるのは悪魔と手を結んだ闇魔術師や、死神くらいです」
僕は正直迷っていた。
やろうと思えばできるかもしれない、でもそしたら彼女たちは僕がいなくては生きていけなくなってしまう…簡単に言うと彼女たちは僕の奴隷のようになってしまう。
それに失敗すれば僕も含めて3人の魂が消失してしまうかもしれないし、ぐちゃぐちゃになってしまうかもしれない。
そもそも死者をこのまま無理やりな形でつなぎとめていいのだろうか…。
そんなことしていていいのか。
「ライルが満足してくれれば自然と天に上ることはできるはずなの。それまであたしの体でライルに生きていて欲しい…それくらいなら許してもらえると思うの。地獄に堕ちるのはライルじゃなくてあたしだから、どんな方法でもかまわない!」
僕はドバルを見た。
ドバルはそれが悪いことだとしても仲間の気持ちを大切にしたいんだ、という顔で僕を見つめ返した。
…僕もそうしたいよ。
でもそれは本当に彼女たちのためになるの?
「魔力以外でつなぐ方法ってないのか?」
ドバルがパッとしない僕の顔を見ながらダメもとで聞いてきた。
「魂、つなぐ、魔力…」
何かあった気がしてとりあえず僕は連想ゲームのように考えていく。
「天界に一番近いところ、天想魂崖…あそこなら」
「なんとかできるの!?」
「はい、ただ二人が同じ意志で行かなくてはなりません。それにラインさんは確実に地獄に堕ちることになります…その覚悟はありますか?」
ドバルも心配そうにラインさんを見る。
ラインさんはしばらく下を向いていたが顔をあげ笑った。
「いいよ、もうライルを呼んだ時点で地獄行きの切符買っちゃったんだから、いまさら恐れることなんてなかった。あとはちゃんとライルと話すね…それから決める。明日には言うから二人とももう寝ていいよ…ありがとう」
「俺が二人の間に立って話そうか?」
「ううん、大丈夫。心の中で話するから、ライルもその気なら可能なはず」
僕とドバルは複雑な気持ちのままその場を後にした。
二人で重い空気を感じながら先に口を開いたのはドバルだった。
「なぁ、ジェリオスはやっぱり反対か?」
「そんなことないですよ。でも本当にいいのかなって…。ライルさんが蘇った時点で彼女たちは歪んでしまっています。それに加担するようなことしてもいいのかなと…」
ドバルはその言葉に否定的なことを言った。
「俺は歪んでるとか、加担?とかそんなこと思わないけどなぁ」
「なんでですか?」
「だってラインは確かにやっちゃいけない事をしてライルを生き返らせちゃったけど、ライルはそれに気付かなかったわけだしライル自身楽しんでたからそれでいいと思うんだ。それに今回二人ともが同意すればライルたちは幸せだろ?それはそれでいいと思うんだ」
僕はドバルの言葉に少し安堵をおぼえながら頷いた。
「そうですよね…そう言う考えもありですよね」
するとドバルがとても驚いた顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「何ですか?」
「ジェリオスがマイルドになった、気がして…?てか珍しく俺よりも馬鹿だったな~」
僕はドバルの頭を叩いた。
「マイルドって何ですか?あと、馬鹿に馬鹿って言われたくないです!!」
「だからって叩くか!お兄ちゃんにそんなことしていいのか~?」
僕は知りませんと言って先に歩いた。
ドバルがそのあとを楽しそうに追ってきた。
ライルさんたちが悩んでいるときにこういうことをするのはどうかと思うが、きっとドバルも僕を元気づけようとしてくれていることなんだろうな。
帰るとラズさんがコーヒーを飲んでいた。
彼は無糖のコーヒーが大好きだ。
コーヒーを飲んで眠気を覚ますとかじゃなくてコーヒーが好きだそうだ。
大人っぽくてかっこいいとドバルは言っていた。
「おかえり」
「「ただいま」」
僕たちはそれぞれの寝床の上に座った。
ラズさんは何も言わずに火を見ている。
「なぁ、ラズって悪いことしたことってあるか?」
「…あぁ、あるぞ」
ドバルがごろんと横になる。
「前も言ったように俺はセリアファクトの国王と仲よくしてもらっている。まぁ、誰にでも仲はよくするんだが、その国王のご飯を作った時にエリウスとびっくりさせようということになってな…」
「何をしたんですか?」
僕もついついラズさんの昔話が気になってしまった。
あんまり悪いことしなさそうだから…。
「王は甘いものが大好きなんだ。だからデザートに辛いものをたっぷりかけたんだ。そしたらあいつは火を吹いて泣きながら中庭の池に飛び込んだんだ」
笑いながら言うラズさんはとても楽しそうだ。
というか笑うとこじゃないような…。
「で、どうしたんだ!?」
ドバルも楽しそうにしている。
「エリウスが怒ったらやばいから逃げよっか、というから一緒に走って逃げた。次に城に行ったときは口を真っ赤に腫れさせた王が…ぷっ。王の口がた、たらこみたいだった。あれはエリウスと笑ったな…」
ここまで笑うラズさんは初めてみた。
そんなに面白い顔してたんだろうか…。
たしかセリアファクトの王は女性だと聞いている。
ショックだっただろうに…。
「それからはあいつに悪いことしていない。さすがにもう会わないとか言われたら困るからな…。それが最近した悪いことだ」
ラズさんはまだ少し笑いながらコーヒーを飲んだ。
「へぇ、一回でいいから会ってみたいな、国王に。でもジェリオスもあんまり悪いことしなさそうだよな~」
ドバルに僕は振られてびっくりしてしまった。
「確かにな」
ラズさんまで僕の悪いことの話を聞きたがっている。
え、悪いことって言っても…。
「んと…そうですね」
施設にいたときの話は暗くなってしまう…。
それは避けた方がいいだろうな。
「あ、僕がまだ一人で旅をしていた時に図書館に毎日住み込むように本を読んでいたのですが、お腹減っちゃって…持ち込みOKだったからサンドウィッチを食べながら本を読んでたんです。そしたら中身のトマトが本に落ちちゃって、そのまま本棚に返しちゃいました。今となってはすみませんって気分です」
「割とやるな!!」
「何がですか!?」
ドバルが真顔で冷や汗をかいたくらいにして僕に言う。
ラズさんは優しく微笑んで僕たちを見ている。
「なんか俺も昔色々やったの思い出したよ。隣のばぁさんの畑からこっそり大根抜いたり、近所の子供と大人を驚かしたり…なんだかんだで楽しかったなぁ」
ドバルもそこそこ悪いことしてる。
ガキ大将っぽいもんなぁ。
「さってと、俺も寝よっかな。目、覚めちゃったけど寝れるっしょ。お休み~」
ドバルが布団にくるまった。
僕も布団に入る。
「おやすみなさい。何かあったら起こして下さいね」
「ああ、おやすみ」
僕はライルさんのことを考えながら寝た。
ちゃんと話せていればいいんだけど…。
次の朝、目が覚めた時にはくまちゃんを大事そうに抱いたライルさんが寝ていて安心した。
ラズさんに挨拶をして自分でお茶を汲む。
「よく眠れたか?」
「はい、ありがとうございます」
僕はお代りのついでにラズさんにも飲みますか?と聞く。
「いただこう」
僕がコップに汲んで手渡すと一口飲んでお茶の水面を眺めた。
「コーヒーの方がよかったですか?」
僕がもしかするとと思い、尋ねると彼は首を振った。
「いいや、お茶がよかった。…あのあとドバルと話をしたんだが、ドバルはお前が初めて会った時と比べて変わったと言っていた」
ラズさんの話に思わずお茶を噴きそうになった。
ドバルがそんなことを?
僕が変わっただって?
「俺も初めて会った時よりもジェリオスは話しかけやすくなったように感じる。前はずっと難しそうな顔をしていたからな、お前は」
「そうですか?今とそんなに変わらないと思うんですけど…」
ラズさんにまで言われて僕は困ってしまう。
そんなにひどかった、のかな?
「サーティスに連れていかれて帰ってきてから、ジェリオスは少し明るくなった。俺はそう見ていた」
僕はまたコップにお茶を汲んで、座った。
僕としては変わった気がしないんだけど、どうなんだろう。
でも少し明るくなったと言われてうれしかった。
なんだか人間に近づけたような気がして…。
「ありがとうございます。自分ではあまり自覚ありませんが、きっとそう言ってもらえるのはラズさんやみんなのおかげです」
「…ジェリオスの笑った顔はドバルとおなじ顔だ」
ラズさんが立ち上がり、自分のコップを水場に洗いに行った。
ドバルとおんなじ顔。
僕が大好きなあの笑顔と…。
でもあれはドバルだから安心感を与えられるものだと僕は思う。
だからきっと双子として似ているってことだ。
それでも本当にうれしかった。
「おはよ~」
僕がお茶を飲んでいるとダイチさんが起きた。
「おはようございます」
彼にもお茶を汲んで渡す。
「あ、サンキュー。ふぁ~よく寝た。外で寝るのもいいな」
「ならよかったです。硬くて寝れないとかだったらどうしようかと思ってました」
ダイチさんは笑って、んなことないよ、と手を振った。
「…あのさ、一つ聞いて言い?」
ダイチさんが辺りをきょろきょるして僕の近くに来る。
「え、いいですけど…」
そう答えて僕はダイチさんに耳を貸す。
「ラズとエリウスって仲いいの?どんぐらい?」
「仲いいですよ。僕たちが会ったときはもう二人で旅をしていました。戦闘ではまさに阿吽の呼吸です」
僕がそこまで言うと難しそうな顔をしてダイチさんは元の場所に戻って行った。
なんでそんなことを聞くんだろうと首をかしげると、彼は笑った。
「このことはラズに内緒な?話してくれてサンキュー」
ちょうどラズさんが帰ってきて、ダイチさんとラズさんが挨拶をする。
ダイチさんがあまり自分から話さない彼に気さくに話しかける。
同じエリウスさんと仲良しという共通点を持っているんだ、何かあるのかもしれない。
僕はラズさんと交換で水場に行ってコップを洗った。
ライルさんがみんなに話があると朝食の時に言った。
僕とドバルは顔を見合せた。
「あの、ダイチさんは知らないと思うけど私たちは二重人格なんです。それで今回…その、私ともう一人の人格を保つために協力してほしいんです!」
「…天想魂崖に行くんですね」
僕がきくと彼女は強く頷いた。
天想魂崖ときいてエリウスさんが声を発した。
「そこって天使がいるってところでしょ?」
天想魂崖は確かに天使がいるという噂がある。
昔、死者をよみがえらせるために天想魂崖に行き、天使にお願いをしたという神話がある。
「私の魔法のほとんどは天空魔法らしいの。それを人間の私がなんでか使える…だから天使に会って理由を聞きたいんだ。ついでにいいかな?」
彼女はライルさんの顔を見た。
「うん、一緒に行こう」
行くことが決定した。
「天想魂崖はラッキーなことにここのすぐ近くにあります。山を少し登らなくてはなりませんが…」
僕の言葉にみんなは準備を始めた。
「ジェリオス」
僕が荷物をまとめていると後ろから声をかけられた。
「あぁ、ライルさん。どうしたんですか?」
彼女はくまちゃんを抱えて、その場にしゃがんだ。
「ありがとう。ラインからも言っておいてって言われました…」
そう言って頭のリボンを外し、僕の手にのせる。
「天想魂崖に着くまで預かってて…?私がライルでいるために。戦闘もちゃんとするから」
「…わかりました。でも無理はしないでくださいね?」
僕は頷いてそれを丁寧にバッグにしまった。
彼女も笑って他の人のところに走って行った。
彼女たちなら大丈夫…僕はそう思った。
天想魂崖がある山はそこまで険しい道ではなかった。
きちんと遊歩道のようなものが用意されていて、道なりに進むだけでよかった。
その途中で僕はエリウスさんと話をした。
「天空魔法だったんですね」
「あ、うん。いろんな武器を出せるのも天空魔法のおかげだよ」
彼女は僕に右腕を見せた。
そこにはシルバーのチェーンブレスレットがあった。
ブレスレットにはたくさんの武器の形をしたチャームが付いていた。
「ここについてる武器なら何でも使えるよ。逆に言うとついてないと使えないんだけどね…」
そもそも天空魔法というのは文献にしか載っていなくて、しかも天使が使えるという確かな証拠のない魔術の一つだ。
エリウスさんが魔法をいくら使っても尽きないのも天空魔法の力なのだろうか。
ただ僕は前に彼女の中の星水濃度を変動させた時、天空魔法の存在に気付かなかった。
天空魔法についての文献は少ないし、天空魔法と人間が使う魔法は似ているんだろうか?
「私は気付いたらこの力を使ってたから最初は自分は天使なんだ、って思ってたんだけど…親は人間だし、常に羽があるわけじゃないから」
「なるほど。エリウスさんは普通の人間だと思いますけど…まぁ、天想魂崖でわかればいいですね」
「うん!」
僕はライルさんの様子を気にしながら一番後ろになるように歩いた。
辺りがすべて見えていい。
前にはドバルがいるから安心だし…。
僕はもっと仲間を信じなくちゃ。
しばらく歩くとみたことのない建造物が並ぶ頂上に着いた。
真っ白な柱は汚れ一つなく、風化もしていなくて綺麗な状態だった。
柱と柱の間には小さな祠がある。
まるで新品のようなそれに僕らは思わず見とれてしまった。
そしてそれがここの空間をますます神秘的な空間にしている。
「…ついた」
ライルさんが真っ先に前に行く。
僕たちは後に続き少し空気の薄い世界を味わう。
さらに奥に行くと祠があり、これもまた綺麗だった。
その後ろに人の13倍くらいはあるだろうかというほどの大きい扉。
「誰が作ったんだ…?」
ドバルが口を開けて上を見る。
「神話によると天使が昔ここに天界と人間界をつなぐために、巨人族に頼んでここまでもってきてもらったそうです。馬鹿、いい加減に口を閉じたらどうです?」
「へ~…って、馬鹿じゃねーっ!!」
ライルさんが少し笑いながら僕の前に来る。
僕は彼女がなぜここに立ったか分かっている。
「はい、ライルさん」
バッグから取り出したリボンをライルさんに渡す。
それを受取ってもう一度笑うと、何も言わず頭に付けて祠の前に立つ。
「…この文字は何?」
「どれ~?」
エリウスさんが真っ先にライルさんの隣に行き、指さすところを見る。
「ラナス・リアライウ・クルーレ・ゲナスリア?うんとね…天界と人間界の境目、天想魂崖って書いてるのかな?」
僕も隣に行きその文字を見せてもらう。
しかし僕にはさっぱり読めなかった。
見たこともない文字だ。
それをエリウスさんは読み、意味まで解いた。
「読めるんですか?」
彼女は頷いた。
「たぶんファシニスク文字だよ。何でだったか昔に一回呼んだことあってその時にファシニスク文字だって教えてもらった~」
ファシニスク文字…ああ、聞いたことがある!
たしか人間が天使と交流があった大昔に使われていた文字だ。
やっぱりエリウスさんは何か天使と関係があるんだ…。
「簡単に訳すと、この祠は天使と人間の友好の証。この祠を開けた者の気持ちが強ければ天使に届くだろう。…天界より天使が参る?」
要するにライルさんとラインさんの気持ちが強ければ天界から天使がくる、ということか。
僕は後ろに下がり扉を見上げた。
ライルさんは僕らの方を不安そうに見つめる。
「ライルが…二人が開けていいんだぞ」
ドバルが笑って彼女らに言う。
皆が頷き、エリウスさんがラズさんの隣に行く。
「二人なら大丈夫だから、心配しないでね」
エリウスさんも言う。
ライルさんは頷いて祠に手をかけた。
遠くからでも震えているのがわかる。
「天使さん、お願いします。私たちの気持ち、届いて下さい…」
彼女が深呼吸をして祠の扉を強く握り、開いた。
しかし何も起こらず、中には鏡が一枚あるだけだった。
「…ライル」
ライルさんがそう言った。
いや、髪はライルさんのままだけどラインさんだ!
そして鏡に映っているのがライルさん?
まるで鏡の奥にもう一つの世界が広がっているようで、そこに一人ライルさんが立っていた。
僕たちは黙って見つめることしかできなかった…。
「ライル、何が起こってんの?」
「私も分かんないよ…お姉ちゃん、私、やっぱりみんなといちゃダメなのかな?」
彼女たちはとても慌てたように僕らを見た。
ドバルが真っ先に走り、ラインさんの隣に行く。
鏡にはドバルが移ることもなく、ライルさんだけが残っていた。
「ライル、そっちはどうなってんだ!?」
「ずっと白い世界が続いていて、祠だけがあるの。怖いよドバル…!消えたくないよっ」
ドバルは鏡に触れた。
それでも中に入ることはできなかった。
「大丈夫だから、俺らがいるから!ライル、泣いちゃだめだぞ?」
鏡の中で彼女は頷いた。
ライルさんはくまちゃんを抱き締めた。
ラインさんは真っ白な空に向かって叫ぶ。
「ちょっと、天使だか何だか下りてきなさいよ!!ライルを、私の妹を返して…私たちはこんなの望んでないっ」
しかし何も起こらない。
このままじゃいけない、僕は持っている知識のすべてを振り絞って解決策を考えた。
でも天使相手に人間ができることなんて…。
「エリウス、俺を空に連れてって!」
考えているとき、ドバルが叫んだ。
「空に?いいけど…何するの?」
「天界って空にあんだろ?なら飛んでけばあるはず!!」
「馬鹿、そんな単純なことじゃないんですよ?」
僕がそう言ってもドバルはやる気満々だ。
「やってみなきゃ何もわからない…。ライルたちがこのままでいいのか?」
「…そんなこと、あるわけないじゃないですか」
僕の言葉が終るとエリウスさんが声を発し、背中に羽が現れる。
ラズさんとダイチさんも不安そうな顔で見守る。
「ライン、安心して…?私たちが助けるから」
「…うん」
エリウスさんがそう言うとドバルを抱いて空へと昇っていく。
僕たちはただ祈るだけだった。
「お姉ちゃん…」
鏡の中からライルさんの声が聞こえる。
「もしこのままこの世界から出れなかったら…私、後悔しちゃう。お姉ちゃんと、みんなともっとずっと一緒にいて楽しいこととか辛いこととかたくさんしたい…だから出口を探してくる!」
「ライル…?」
「絶対に帰るから、お姉ちゃんはそこで待ってて?置いてかないでね?」
鏡の中のライルさんの姿が見えなくなり、ラインさんがその場に座り込んだ。
それをラズさんが支える。
「ライン…大丈夫か?」
「ねぇラズ、ライルが…あのあたしがいなくちゃ何もできなかったライルが一人で出口を探しに行った。あたしは待ってることしかできないの?」
鏡にはもう何も映っていない。
その時ダイチさんが空を指差した。
「帰ってきた!」
二人は地面に着地すると暗い顔で首を振った。
「何にもなかった。ずっと扉が続いてるだけで…」
ドバルがラインさんの様子を見て隣に座る。
そしてラズさんが説明をする。
エリウスさんも祠の前に立ち祈っていた。
「…ラインさん、くまの人形にライルさんの魂は入っているんですよね?」
僕は一つの可能性を見出してラインさんに尋ねた。
「うん。でもくまちゃんはあの子が持ってる」
それを聞いて僕は安心した。
「ならライルさんの魂を呼んだラインさん本人なら今、ライルさんの魂がどこにあるかわかりませんか?」
僕が言うと彼女は首を振った。
そして立ち上がり、鏡を見つめて言った。
「私はライルと体をつなぐために魔力をすべて失ったから、追跡できないの」
魔力というのは無限にあるものではない。
そして星水を飲めば永久的に使えるというものでもない。
例えばラインさんがエルフの星水を飲んだところで魔法を使えない。
彼女は魔法使いという才能を使ってライルさんと自分をつないでいたんだ。
なら…一か八かだ!
「ラインさん、僕と一緒に来て下さい。…あなたの、ライルさんの魔力の記憶を持った体を僕に貸して下さい」
「えっ?」
僕は鏡を祠から取り、彼女とともに扉の前に立った。
座っていたドバルが立ち上がり僕を心配そうに見る。
「ジェリー、何をあたしはすればいいの?」
僕は鏡をラインさんに片手で持ってもらって、もう一方の手を強く握りしめた。
「ラインさんはライルさんのことを強く考えていて下さい…。僕がラインさんの中に残っているはずのライルさんの魔力を探して、今彼女がどこにいるのか探しますから!」
そして僕はダイチさん以外を呼んだ。
「三人も手伝ってください。ドバルとラズさんの心は強いから…僕がライルさんを探す手助けをして下さい。エリウスさんは僕に魔力を分けて下さい。ダイチさんは僕の魔力で星水に当たらないように遠くから見守っていてください…お願いします」
そう言うと皆は頷いた。
「何もできないのは悔しいけど、祈ってるから!」
ダイチさんが親指を立ててはなれる。
ドバルとラズさんがラインさんとともに鏡を持ち、エリウスさんが僕に魔力を分けるために手を僕に向ける。
思った通り、エリウスさんなら自分の魔力を人に分けることができると思っていた。
…きっとライルさんはラインさんや僕たちに会うために一人で出口を探して走っている。
もしその場所が分かればラインさんも安心するだろうし、運良ければ迎えに行く方法も見つかるはず…!
「…いきます!!」
僕がラインさんの中を流れる星水をたどる。
ちょっとでいいからライルさんの魔力に干渉できれば…!
「ライル…」
ラインさんの中に星水があることは確認できる。
でも魔力が見当たらない。
すべて使い切ったのはわかっていたけどここまでなくなるものなんだ…。
お願いだからみんなの声にこたえて下さい…。
「ジェリオス!」
僕を呼ぶ声に僕は閉じていた眼を開いた。
ドバルが僕の隣にきて扉を指差す。
「あ、開いてる?」
大きな扉がわずかだが開いている。
その隙間からまばゆいほどの光が洩れている。
「ライルっ!!あたしが、お姉ちゃんが今行くよ…」
ラインさんはそのまま扉の中に入っていく。
勢いで鏡が落ちてガシャンという音とともに割れる。
ドバルがそのあとを追おうとしたが、それを僕は止めた。
「何だよ、あのまま二人とも死んじゃったらどうすんだよ!」
「大丈夫です。僕らは待ってましょう…」
あの時、一瞬だけ感じたライルさんの魔力。
彼女はすぐ近くにいる。
扉はこれ以上閉まることも閉じることもしなかった。
僕たちはダイチさんの元へと行く。
「大丈夫かな…?」
エリウスさんが心配そうに光を見つめる。
「信じよう、二人を」
ラズさんが言うとエリウスさんが頷いた。
しばらくの間光を見ていた僕らはさすがに不安になり、扉の元へと行った。
「ライルー、ラインー!」
ドバルが叫んでも声は反響することなく消える。
返事は返ってこない。
僕はもうだめかと諦めかけた。
でもドバルがあきらめないで名前を叫んでいる。
いつか答えてくれると信じて…。
「ライル、ライン…!!」
すると遠くから声が聞こえた気がした。
それにドバルは気付いていないようだった。
「ドバル、声が聞こえる」
僕が言うとドバルは大人しくして耳を傾けた。
その声はどんどん近くに来る。
「…ドバルっ!!」
そして光の中からラインさんが飛び出した。
ドバルにそのまま抱きついて、ドバルは体勢を崩して倒れる。
「ライン!…ライル?」
髪はそのままで手にはくまちゃんを持っている。
「ドバル、私…お姉ちゃんと一緒に帰ってきたよ!」
「おかえり!」
ドバルが頭をなでる。
「うん、ただいま。…ドバル、みんな、本当にありがとう」
扉は静かに閉まり、また閉ざされた。
ライルさんは笑って皆に囲まれている。
「あたしたち、ドバルが馬鹿だから泣くんじゃないかって心配してたんだから」
「…ライン?」
髪はそのままで雰囲気が変わる。
でも前ほど変わったような感じはしない。
「うん、なんかこのままでもいれるみたい!今だってライルとも共有してるし。でもわかりにくそうだから髪結ぶのはこれからもやるよ♪」
とりあえず二人ともが帰ってきてくれて本当によかった。
僕たちはしばらく喜びに浸っていた。
「…みんな、ありがとう」




