桜色
「おかえり、遅かったね~」
僕らが戻るとエリウスさんだけが起きていて、見張りをしていた。
彼女は自分のけがの処置をしているところだった。
「けが大丈夫?」
ドバルが尋ねるとエリウスさんは手を止めて頷いた。
「心配ご無用~。私頑丈なの!それより二人は大丈夫?けがあれば直すよ」
エリウスさんはずっと治癒魔法で皆のけがを直しているように見える。
治癒魔法は普通の魔法のように簡単には習得できない。
それを普通に使えてる彼女もライルさんのように才能があるのだろう。
「エリウスさんは大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。…ジェリオスの魔力はすごかったな~」
どこか遠くを見るようにエリウスさんが頬に手をあてた。
「でもエリウスさんのように人を助ける魔法は使えませんよ」
僕たちは座って、飲み物をもらう。
ドバルは薪を火にくべた。
「そんなことないよ」
バチ、バチッと音が鳴る。
たき火は火力を増し、炎が夜空へと登る。
「治癒魔法は体を一時的に直すもの。傷の自己再生速度を速めてるだけだから、この魔法で人の命を救うことはできない…。でもね普通の魔法は人を殺したり物を破壊したりするけど、人の命を救えるんだよ。私たちはあの時ドバルがジェリオスを連れてきて、ジェリオスが本気で戦ってくれなかったらサーティスに殺されてた。ジェリオスの魔法は私たちの命を救ったんだよ。それも人を助ける力だと私は思うな」
僕はどういえばいいのかわからなかった。
彼女の考え方は僕にとって新鮮で神秘的なものでもあった。
自分のこの力は何かを破壊するしかないものだと信じていた。
でも間接的ではあるけど誰かを助けれる…。
それは僕にとって幸せなこと。
「ジェリオスは時々俺より馬鹿だからな~」
僕がうつむいて考えていた時ドバルが僕の肩を叩いた。
「馬鹿と天才は紙一重、ってな」
…僕は反論しなかった。
いつもなら一緒にしないでくださいとか言うけど、今日はいい気分だ。
ドバルは僕にない所を持っている、その足りない面が僕の馬鹿なところなんだ。
「あ~、エリーも寝ろよ。ジェリーもね」
ドバルがそう言えばとエリウスさんに言う。
見張りをやるつもりなんだろう。
…ってかエリーってエリウスさんのことか。
懲りずに省略あだ名つけたんだな。
「エリーは元気なのです、だから見張りしまするっ」
彼女も何か真顔で言ってるし、何、こういうの流行ってるの?
「駄目です、エリーはお寝むして下さいなのです!」
うぇ、ドバルがきもい…馬鹿だから仕方ない。
「…わかったよー、ラズが後で起きて交換する約束だから起きたら交換してね~、おやすみ」
「おやすみなさい」
「また明日な!」
エリウスさんは元に戻り布団に入って行った。
すぐにエリウスさんの寝息が聞こえてきた。
彼女もつかれていたんだろう。
「ジェリオスも早く寝ろよ」
「ドバルが寝るならいいですよ」
実際自分でも動けるのがびっくりするくらい体は疲れていた。
魔力の使い過ぎだろうなと考えながら、ドバルには無理させたくないからいつものように言う。
「…ぶー」
「なんですか、ほっぺ膨らませても可愛くないですよ?」
「じゃ、今度二人で寝てあげるから~、ね?」
…僕は赤ちゃんか。
「いらないです」
「じゃぁ、おんぶしてあげるから!」
「いら…」
さっき自分からお願いしちゃったし断りにくい!!
…頭使ってきたな、ドバル。
そのにこやかな心の中では
「ふはっははは!どうだジェリオスー、断れないだろう!!」
と言っているに違いない。
うわっ、割と腹黒い奴だったんだな!!
ただの馬鹿だと甘く見ていた。
「…わかりました。寝ます」
僕の負けだよ、ドバル。
あいつに黒い死神でもついてんじゃないのか?
「おう、おやすみ!今度してやっから」
…案外何も考えてないって落ちもあり得るかも。
ま、いいや、寝れる時にいっぱい寝よう。
考えることはたくさんあるけど明日からにしよう。
朝食をとり終わり、僕は昨日先延ばしにしていたことを考える時間をもらった。
まず一つ、ウジ虫がこの件で僕たちを完ぺき敵視しているはずだ。
こちらの情報もサーティスから本部に伝わっているだろう。
ということは僕たちを止めるべく全力で来るかもしれない。
そうなるとサーティスよりも強い人とも戦わなくちゃならなくなるかもしれない。
今の戦力じゃ勝てない。
まぁ、しばらくは様子を見てくるだろうけど…。
二つ目、僕が連れて行かれた施設の破壊がまだ済んでいない。
それを終わらせること。
爆発時間を設定するための機械をつい先日暇な時に作っておいた。
これがあれば誰でも簡単に設定できる。
できればみんなに使い方を教えたいと思うが、今のみんなは疲労がひどい。
それにこれ以上疲れさせたくない。
ということで今回は僕一人で行ってみんなは安全なところまで逃げてもらい、後で合流しようと思う。
三つ目、先に述べたように今は回復が優先だ。
だから近くの町で泊まろうと思う。
そこを合流地点にしてもいいかもしれない。
…とりあえず今のところはこれくらいか。
あとは気になっていたのはライルさんのことだ。
あれからどうなったのかとても心配だ。
口数も減っているようだし、あまりよくないのかもしれない。
ラインさんに聞いてみなくては…。
僕はこの三点を簡単に伝えた。
「壊すなら俺も行こうか」
そうラズさんが言ってくれたが僕は断った。
「ラズさんはライルさんをお願いします。…ドバルもいつも通りにしているようだけど疲れてると思うので」
僕が小さな声で言うと彼は素直に聞き入れてくれた。
「ありがとうございます。ラズさんも疲れているのにすみません」
「気にするな。ジェリオスも無理しすぎだ、倒れるなよ」
僕は頷いて施設に向かった。
ついてこようとするドバルはラズさんが止めてくれている。
町の場所はもう覚えたし、途中でウジ虫に会うことはないだろう。
大丈夫だ。
問題は一人で来るとは言ったものの、この施設を見るとどうしても昨日のことが頭から忘れられない。
あの大部屋で僕は何をしてしまったんだろう。
いや、わかってる。
でも認めたくないんだ…。
ちょうどサクラのことを思い出していたからもあって、無意識で人を殺すなんてしたくなかったのに。
理性よりも恐怖が勝ってしまったからいけないんだ。
もっとしっかりしなくちゃみんなに迷惑をかけてしまう。
僕はなれているはずなのに…。
「待って~!!」
施設の廊下を歩いていると後ろから声が聞こえ、僕は振り向いた。
廊下の鉄と靴がぶつかる音が響いていた。
「どうしたんですか?」
「私もいく!」
彼女は僕の隣に並び、笑った。
「エリウスさんも疲れているんだから…」
「それならジェリーだってそうじゃないの。人のことよりまず自分のことから!」
エリウスさんは僕を置いて先に進みだした。
鼻歌歌いながらスキップして…本当に明るい子と言うか。
初めて会ったときは意識なかったけど大人っぽくておしとやかそうなんだろうなと思ってた。
きっととても幸せな環境で過ごしてきたんだろうな…。
「ね、どこに行けばいいんだっけ…?」
「監視室…こっちです」
「おー、テレビだぁ!!おっきぃねぇ」
モニターを指差しエリウスさんは監視室に入って行った。
僕は機械の前に立つ。
ついでだからエリウスさんに教えよう。
「エリウスさんちょっといいですか?」
彼女はきょとんとした顔で僕の方に来た。
そんな彼女に僕は施設の破壊についてサラッと話した。
「ふむ…何かを救うためには犠牲が必要ってことだよね。わかるよ、早くそんなことをしなくてもいい世界を作らなくちゃ」
エリウスさんもドバルと同じように言うかと思って覚悟はしていたのだが、はっきりとそう言われ僕は驚きながらも頷いた。
彼女もそういう経験をしてきたのかもしれないな…。
「それじゃぁ、ここ押してこれ挿してこれを押せばいいのね!んで、逃げる」
彼女は教えた通りに操作をして爆破スイッチを押した。
何も起こっていないように見えるが、おしたスイッチが赤く点灯する。
「行きますよ、制限時間は五分なんで」
「は~い」
僕たちは走って管理室、廊下と行く。
道は覚えている、迷うこともない。
ただやっぱりここみたいに大きい施設となると5分だとギリギリ過ぎる気もするよなとも思う。
まぁ後でエリウスさんにも意見を聞いて改良するならしよう。
「ジェリー、なんか楽しいね」
エリウスさんがふとそんなことを言い出した。
「あ、施設破壊が楽しいとかじゃないからね?こうやって走るのが楽しい♪」
そう思わない?と聞かれ戸惑ってしまう。
走ることが楽しいとかめったにそう言うことを言う人はいないと思うんですが…。
一般の人はみんな楽しいの?
僕は、走る=逃げる時、だから楽しくはないと思う。
「私、ちょっと人とずれてるからなぁ~。う~ん」
黙ってしまった僕を見てエリウスさんが言った。
「エリウスさんはちゃんとした人間だと思いますよ?」
「そーかな?昔から変わってるとか、天然とか不思議ちゃんとか言われるんだもん」
「…不思議ちゃんって何ですか?」
エリウスさんは意味を丁寧に教えてくれる。
僕はその時、エリウスさんとサクラが重なって見えた。
悩みながら一生懸命に言葉を探して、教えてくれるその姿と顔が…。
「…サクラ」
「ほえ?桜?」
ついつい声に出してしまったらしい。
どう説明しようかと何でいるうちに施設の外に出ていて、森に入りかけた時再び彼女は口を開いた。
「私の髪の色、ピンクでしょ」
「え、そうですね。とっても綺麗だと思っていました」
「みんなから言われる~。実は昔この髪の色が嫌だったの。でも今はねこう思ってるの、このピンクはサクラのように美しく華麗で人の心に春をプレゼントするものなんだって…桜っていいよね」
「はい、僕も実物を見たことないですがそう思います」
ある文献で見たサクラの花びらはとても美しかった。
エリウスさんが言ったように彼女は本当に春らしい。
…こういう表現も変だとは思うけれど。
「僕の知っているサクラという名前の人もエリウスさんのように明るい人でした。エリウスさんみたいに…」
その時後ろから光が放たれたかと思うと爆発音とともに風が僕たちを空に飛ばした。
やっぱり時間考えなくちゃな…と冷静に考えてる暇はなかった。
思ったよりも高く吹き飛ばされてしまった。
「エリウスさん!!」
隣にいた彼女がいない事に気付き叫ぶ。
そういえば彼女は星水にあったってたんだ、もしかすると今回も…。
そのことを考えてなかった…!
「無事ですか!?」
「生きてるよ~」
彼女の声は僕よりも高い位置から聞こえてきた。
上を見上げると真っ白い光の粉―精密に言うと空気中の星水が光の魔力に反応して白く粒子状に光っているだけ―が僕に降り注いでいた。
そしてその出所を見るとエリウスさんが、背中に真っ白な美しい光の羽をまとった姿で僕の方に手を差し伸べて飛んできているところだった。
その姿はどう見ても天使そのものだった。
僕は呆気にとられてしまって…きっとどっかの馬鹿みたいに口を開けていただろう。
天使は僕の体を抱くようにつかみ、空を舞った。
森や大地が遠くに見える…。
「大丈夫?生きてる…よね?」
声にハッとし、僕は頭を上げた。
そこにはいつものエリウスさんがいた。
「…天使なんですか?」
僕の質問に彼女はくすくすと笑った。
「人間だよ~。私ね、空が大~っ好きなの!それで空飛びたいなってアイス食べながら思ったら出来たんだよ」
…どんな理論でそれが可能なんですか。
「あ、高いの苦手?私の友達はだめでさ、こうやってやったら…」
とエリウスさんは咳払いをして顔つきを変えた。
「や、やめろぉ!!あたしは高いところが嫌いなんだよっ!?よくもやってくれたわね!!後で見てなさい!…って言って気絶しちゃった~」
こ、怖い。
「だ、大丈夫ですよ。僕は高所恐怖症じゃないから…それにしてもその人怖いですね」
「もとからこんなだけどね~。でもいい人…だと思うよ?しばらく会ってないけど」
そう言ったのと同時に僕は地面に優しく下ろされた。
エリウスさんが地面に着いた瞬間、背中の羽は空気中に消えていった。
「到着いたしました、またのご乗車お待ちしておりま~す♪」
周りを見ると待ち合わせ場所にしていた町についていた。
歩くよりも早く着いたんじゃないだろうか…。
「さ、行こう?」
彼女は元気な様子で宿に向かっていく。
僕は置いて行かれないように小走りで彼女の後を追った。




