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爆天砕地ダテカイザー  作者: 相羽マオ
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第7話 ガロント支部強襲作戦(前編)

 ダテカイザーは正義のロボットである。今回は格納庫でもみんなの為にいつでも戦うのだ。



 最初に仕掛けたのはエーリR・L。作戦通りだ。アストルが行ったのは補給船の通信への介入。ダテカイザーがそちらに向かっていると伝え、乗組員を避難させる。30分後には生体反応がゼロになった。避難完了。

 カイは正直驚いていた。命を救うことの徹底。アストルにはメカニックと同時に、白衣のせいでマッドサイエンティスト的なイメージがあったので、命を冷徹に切り捨ててしまうのでは、と潜在的に思っていたようだ。

 こいつらなら、背中を預けられるかもしれない。俺の正義と、同じような気がする。フィーリングだが、信用できると思った。


 エーリRはクモのように甲板に張り付くと、足の片刃ニードルを使って補給船の解体を始めた。Lはそれを守る役割がある。膝下まで水に浸かりながら、ライフルを構えている。右のマニュピレータの人差し指を常に引き金に掛けており、いつでも迎撃できるようにしてある。

 補給船は3隻あった。中には約60体の高貴(ロイヤル)が積み込まれていて、整然と並んでいた。この数が同時に襲ってきたら敵わないな、とローラーンは思った。そうならない為の抑止だ。事前に調べた機関部を避けて解体して行く。動力に当たったらどうなるか分かったもんじゃない。


 ガロント支部は震撼した。主戦力を載せた補給船が、謎のロボット2体の襲撃を受けたのだ。

「昨日といい、第三勢力増量中なのか…!」

ナンバー5、リークスは焦っていた。彼は一度戦闘を行った敵を分析、弱点や癖を見抜いて戦う。ダテカイザーは既にデータを取れているからこそ、余裕があったのだ。しかし、新型の登場となると、途端に巨大な壁が立ち塞がったように感じる。そこが彼のナンバー5たる所以であり、弱みだ。何事も準備しなければ気がすまない。十分な実力はあるのだが、その性格のせいで全力を発揮できないのだ。

 データを全て知り尽くした時のリークスは、アサキメス一の兵士とも言われている。自分の所へ早急に映像を送るよう部下へ伝達する。

「さて、これでどこまで準備できるか…」

無論、彼が戦うのはカナン姉妹ではない。


 

 アストル号は、ガロント支部を避けるように弧を描いて進んでいる。支部の正面40キロの地点で残りの二機を降ろす予定だ。


「それにしても、こいつはレーダーに引っ掛からねぇのか?」

カイがそう聞くと、アストルはまた得意気な顔をして解説を始めた。

「これはね、君の機体のシステムの系統と同じなんだよ」

「ダテカイザーと?」「TS-5と?」

カイとデイトンはお互いを睨み合って、またアストルの方を向いた。

「仲がよろしいことで。…君の機体の電磁波を採集するのがあるでしょ?」

長くなりそうだ。デイトンは真剣に聞いているようだが、カイはぽけーっと間の抜けた顔をしている。聞いているかは分からない。

「あれをもっと強くしたものさ。エネルギーを採集しながら電波障害を同時に起こすんだ。…まぁ、仲間にも通信が届かなくなっちゃうけど。でも、それはたぶんもうすぐ改善できるよ」

「…これはダレストアの発明のはずよ?」

デイトンが質問する。教授と研究生みたいである。

「それはダレストアが木星計画に関わっていたからさ」

哲学でも語り出すような言い前だ。


「宇宙全域には微弱な電磁波が流れている。この星もさ。それらを採集してエネルギーに出来る。それは永久機関さ。あってはならない」


白衣のマッドサイエンス感溢れるメカニックはまだ続ける。


「でも作られた。この意味が分かるかい?僕らは禁忌を冒してまで世界を1つにしようとしてる」


「エネルギーが無くならないのはダメなのかよ?」


「ダメだよ」断言する。

「それは生命としての意味で本当の終わりだよ。あの子供みたいにね」



 ………………。

なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、カイもデイトンも怖くて震え上がった。

「やっぱりこの人…」

「精神病んでるんじゃ…」

カイは寒気を感じて、デイトンにくっつきたくなった。知っての通りデイトンは実態がないので、そんなの無理である。


「なーんて、冗談だよ!あはは…あれ?」

二人は忽然と消えてしまっていた。暗いモニタールームに一人だけになった。

「…さみしいなぁ」

そんなにビビらなくたっていいじゃないか。





 ワリン国際空港地下。格納庫でパイロットスーツの男が3人、自機に乗り込んで動作をチェックしている。青、緑、灰。それぞれリリド、ルルド、レレドだ。

「マーク、リリドの右腕は急遽一般イエスターの右腕を着けただけだ。飛行形態の時は機体バランスに気を付けろ」

「了解」

「ミューエル、お前の機体は損傷が大きく、飛行性能が落ちている。無理はするな」

「了解、ムーウはどうだい?」

レレドの胸のコックピットハッチが開き、パイロットスーツを身に纏った白髪の男・ムーウが親指を立てている。


「…よし、イエスト・イエスター、出撃だ!」

格納庫の前面が開き、日の光が上から射し込む。斜めになっている滑走路を上へと上がっていき、地上に出ると同時に空へ飛び立つのだ。

 ムーウはペンダントを握り締めていた。家族全員で撮った写真が、ガラスの中に入っている。全員が正装で、ムーアと少女が椅子に座り横に並んでいる。後ろに並んでいる男性と女性は、二人の両親だ。

(アイニー、お前の分まで戦ってやる…!)

「リリド!ムーア・クルーズ、飛ぶぜ!」



 ガロント支部の主力部隊は、リークスを除いたほとんどが後方の海岸沿いの警備に割かれていた。支部にはリークスと、ニーア、そしてアランクス。その他高貴が5機ほど待機している。

 ニーアとアランクスは本来海岸沿いの警備に加わる予定であったが、ニーアの強い希望によって支部に留まることとなった。

「ここにいれば、また奴と逢える気がするのです」

まるで離れ離れになった恋人を待つ乙女のようだ。いや、乙女であることには違いないのだが、どうにも似合わない。アランクスはそんな失礼なことを考えていた。

「…止めても、絶対聞かないだろうからね」

本来、上官である彼ならば命令として無理やり同行させることは出来るのだが、彼自身がそういった強制力のあるものを嫌っているので、基本的には部下の意思を尊重させている。

 彼は自由が好きだった。皇族として政治をするのが嫌で、軍隊の指揮を担当したいと志願したのだ。しがらみから逃れられないのは分かっている。だが、少しは自分で決める自由が欲しいのだ。


 突然レーダーに反応があったようで、ニーアが出撃許可を求めてきた。

「アランクス様、私が哨戒してきます」

おもちゃを欲しがる子供のようだ。恋焦がれる乙女であったり、ねだる子供だったりと、今日のニーアは様相がくるくる変わって忙しい。

「気を付けてくれ」

敵影は2機。詳細は不明。哨戒に兵士を3機ほど連れていくように指示した。

「さて、どうなるか…」

もし4機が仲間であるのならば、あの補給船側の2機は囮ということになる。間違いなく仲間だろう。急で不自然だ。ならば、今すぐに戻ってきて貰わなければ。早速アランクスは海岸沿いの部隊に連絡を入れる。

(あと30分…か)

部隊の帰還まで30分。それまでは持ちこたえなければならない。


 ニーアは一刻も早い戦いを望んでいたが、リークスはそうではなかった。

(新しい機体がさらに2つ!?)

先程やっと補給船を襲ったペアの機体の対策を講じたところであるのに、次にまた二機。しかもまだ外見も何も分からない。ニーアの騎士(パラディン)にカメラが付いているため、ある程度までは対策を立てられると思うが、不審なのは突然現れた点だ。出現点はガロント支部のレーダー範囲内であるから、見つからぬ筈がないのだ。

 ペアの機体が囮であることはすぐに分かった。そうなると自分たちでこの支部を持ちこたえさせなければならない。しかし、不審な2機が気になって思考がまとまらない。

 胃が痛む。すぐに常備の胃痛薬をバッグから取りだそうとすると、ノックもせずに入ってきた兵士に驚いてしまって、ソファーから転げ落ちた。

「リークス様!イエストです、イエスト・イエスターです!」

「なんだと…!」

胃痛の治まる隙を与えてくれない。何事も潤沢な予算と長い時間を掛けなければ…。



 イエスト・イエスターの登場は、すぐにツィス団にも伝わった。既にソリルとグレイを降ろした後だ。

 しかし、今アストル号が滞空しているのはガロント支部の半径80キロ圏内である。遥か上空を航行している為肉眼では発見されないが、電磁波を解除すればレーダーの圏内であることは明らかであり、二人に通信を繋げばアサキメスに見つかる。

「これは困った。イエスト・イエスターの強さも分からないというのに」

モニタールームに戻ってきていたカイとデイトンは、顔を見合わせる。

「…俺たちが行くしかないな」

アストルは頭を掻きながら「悪いね」と言った。

「出撃準備、頼んだよ」

「おう!」


 ほとんどの機体が出撃した、がらんどうな格納庫へとカイとデイトンは走った。厳密に言うと走っているのはカイだけである。デイトンはカイの手の中だ。

 片膝を立ててしゃがんでいるダテカイザーがいる。コックピットは開いたままで、昇降用電動レールの鉄鋼で出来たロープが垂れている。ロープの尾には自転車のペダルのように足を掛ける為のステップがある。左手でロープを掴み、左足をステップに掛ける。感知した電動レールが、ロープを巻き上げ始めた。どんどん地面が遠くなる。不安定だが、5メートルのロボットにはこれくらいで丁度良いのだ。少ししてコックピット横でレールが止まった。コックピットの開いたハッチの裏側に降りる。内部へと入っていき、ハッチを閉める。デイトンの円柱型のデバイスを定位置の窪みに嵌める。ガチャ、と音がするとのデバイスの側面に名前が現れた。『Daten』


レバーを握る。指を開いたり閉じたりして感触を確かめる。

「よし、行けるぜ!」

 ダテカイザーは滑走するレールに足をかけた。両足の踵が接続される。膝を軽く曲げ、脇を締める。廊下のように細長く、真四角にくり貫かれた空間。つまりレールの通り道は射出口に繋がっている。入り口の側面にランプが設置されており、二色の丸が縦に並んでいる。上から赤、青の順だ。それが何を意味しているかぐらい、カイにも分かっている。

「赤は止まれ、青はぶっ飛ばせだ!」

「それはさすがに訂正するわよ!」

「カイ、デイトン!爆天砕地ダテカイザー、出るぜ!!」

「人のツッコミを聞けぇぇぇ!!」


 レールと足の縁が擦れて火花が飛ぶ。どんどん加速していく。

アストルの話によると、こうだ。


「君の機体の噴射口(ブースター)はエネルギーの消費が著しい。だけど、このアストル号が近くにあれば電磁波エネルギーを受け取ることができるんだよ!」

「つまり?」

「空を翔べるんだよ!正真正銘の、長時間の飛行さ!」

「アストル号はガロントから肉眼で見えないくらいの遠くへ降着する。この電磁波エネルギーの範囲は半径100キロさ」

「つまり?」

つまりつまりとそれ以外にボキャブラリーはないのかい、と嫌味たらしく言い、また続けた。

「天空からの強襲作戦さ!」

「おお…!」

だいぶ大仰な言い方だが、カイは体の中を熱がほとばしるような感覚がした。空から現れ巨悪を成敗し、仲間を救助する。まさに正義の味方ではないか!熱血!ロマン!

 別に軽い気持ちで正義を振るおうとは思っていない。いや、本当に…。


 ダテカイザーはバックパックをパージし、噴射の準備をする。速度が最高に達した。レールで斜めに下って行くと、四角い射出口が見えた。外は雲で真っ白だが、明るい。速度を保ったまま外へ出た。すぐに噴射口を噴かす。

 



 雲の群れをくぐり抜けると、そこに見えたのは蒼穹だ。雲たちの上に出たらしい。遮蔽物のない世界が、どこまでも続いている。この星が丸いことが分かる。

「うわぁ…!」

デイトンは目を輝かせていた。

「ちょ、ちょっとだけコックピットを開けてよ!」

「しょうがねぇなぁ…」

コックピットのハッチが半開きになる。隙間から風が吹きすさぶ。強い光が射し込んで、目が眩んだ。

 

 デイトンはその景色を目に焼き付けた。私が壊れても、絶対忘れない。この空の青を、この星の形を。

そして――――

「おーい、そろそろ閉めてもいいか!?」

カイのことも、記憶の隅くらいには置いておいてあげる。




閲覧していただきありがとうございます。

今回はあんまり動きがありませんでした。

パイルバンカーが好きです。

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