第29話 デウス・エクス・マサト
マサト。マサト・アカサカ。中学生、14歳。将来の夢はヒーロー。劣悪な家庭環境で育つ。…10歳の時、実の親を…
「おっと…」
自分の考えを、マサトは遮断した。伝記が後世に残るならばこんな感じだろうか、と思考を巡らせていた。…そうなれば、自分のあの時の行為はどのように、歴史家に判断されるのだろうか。
「エネルギー回復しました」
ミスカが言う。
「…よし」
「これから、どうしますか?」
「戦闘が起こったら、突っ込む」
「了解しました」
「…この、デアジステスで…」
力を手に入れたのだから、振るわなければ意味がない。
ニーアがイエスターズの3人を引き連れ、廊下を進んでいく。
「ここは何て言う施設なんだい?」
ミューエルが尋ねる。
「名称としては…軍事基地?」
「軍事基地…」
数ある軍事基地の中でも、王都、行政府より一番近くにある。ここはミラティス支部だ。
「ここで治るまでは待機かー」
「それだけではない」
マーク。
「羽の付いた機体と、白い機体に対策をしなければ」
「最新鋭機のデトミネイターですら太刀打ち出来なかったんだぜ?既存の装甲じゃあとても…」
「その件についてだが」
ニーアが割って入る。
「奴等の駆動から推測するに、ダテカイザーの系列だと考えられるらしい」
「2機ともか!?」
ムーアが驚く。
「…確かに、まるで人間のような動きだった」
ダテカイザーことTS-5は、パイロットの脳波を読み取り、擬似的に動作を共有する。その為、パイロットの反応を即座に反映させることができる。
「対策についてだが…アストルに来てもらうことになった」
「…なんとかなりゃいいけどな…」
突然、サイレンが鳴り響く。廊下が非常ライトの赤色に染まる。
「全隊員に伝達。羽付きの機体が元アサキメス所有地…現エカサルに出現!破壊活動を開始した!」
「エカサルだって?」
ムーアが反応する。
「エカサル…確か、僕たちの先代が焼き払った町…」
ミューエルが、ぽつりと呟いた。
「でもよ、あそこはまだ復興途中じゃなかったか?」
「ああ。アサキメスから返還されて、まだ一年だ。土地の所有権とかの整理も終わってない。建物なんて廃墟しかないはずさ」
「廃墟を壊してんのか…?」
「分からない、でも行くしかないね」
「俺達はまだ出られないが」
マークが言う。
「デトミネイターが9機残っている。それに搭乗してもらえるか」
「もちろんだよ」
ミューエルが頷く。
「少しの休憩も許してくんねぇなんてな…」
(エカサル…そこに何があるというんだ?)
ニーアも、ミューエルも、ムーアも、同じことを考えていた。
羽付き、片翼のグラウファーのコックピット。目下にはエカサルの花畑が広がっている。
「エール、生命反応はどうだ」
「はいっ!…半径1キロにはありませんね…」
「…ライトスの情報が正しいなら、ここにいるんだろう?」
「私、あのおじ様は信用できません!顔だって見せないし…」
「…ああ。だが、この機体だって奴が用意したものだ。補給も、便宜も奴の計らいだ」
「そう…ですけどっ」
…また、誰かを利用させてもらうのだ。ミシャは思う。先程のCSAHのように。彼らは、どんな気持ちだったのだろう?飛行船の中で消失させられた時、彼らは。自分の事を、恨んでいるだろうか。…当然か。
モニターに、6つの点が表示された。ピコン、と点滅する。
「この反応は…さっきのゴツい人たちです!」
「さすが国家だ。もう準備ができるとはな…」
「みなさん、同じ機体です!」
「先制攻撃だ。行くぞ!」
レバーを操作し、出力を大きく上げる。風を切る音が、コックピットの中からでも聴こえた。
デトミネイターは、縦一列に並び飛行している。羽から発射される針を警戒しているためだ。
「…来た」
デトミネイターの3倍ほどのスピードで、接近してきている。
「各機、致命傷だけは避けろ。以上」
「へいへい。ここで死ぬつもりはないぜ」
「奴の針は盾ごと貫く。被弾さえしなければいい」
「難しいこと言ってくれるな…」
「距離300メートル、来ます!」
グラウファーが片翼を展開し、針を発射する。一秒間に20もの針を射出しているため、対面ではほぼ避けられないと言ってもよい。
「上昇!」
隊列を崩さないまま、デトミネイターは上昇する。針は命中していない。
「ちっ…」
グラウファーは翼を畳み、また広げた。
「…!分かった!」
針が飛来する。下降し、回避する。
「ニーア、何が分かったんだい?」
「奴は針を射出するときに角度を変えられない。つまり横方位には攻撃できても、奴の直線上にいなければ当たらない」
「っつーことは…奴を上か下から攻撃すりゃいいってことか!」
デトミネイターがグラウファーの上部と下部に散開する。
「ロングバレルライフル、展開しろ!」
バレルが起き上がる。銃口が捉えているのは、頭と、足裏。
「撃て!」
「エール、回避運動!」
「は…はいっ!」
グラウファーは翼を畳み、後方へと下がる。しかし、1つの銃弾が爪先に命中し、少しだけ機体がよろけた。
「今だ!」
上と下のデトミネイターが、それぞれ飛行しながら銃撃を続ける。またグラウファーを挟む形となる。今度は銃弾が胸部を掠める。
「くっ…このままじゃ!」
ミシャの額に汗が浮かぶ。
「テロリスト共が…まとめて消し飛ばしてやるぜっ!!」
極太のレーザービーム。デトミネイターとグラウファーは即座に退避する。
「う…うわぁっ!!」
「ガーリルっ!」
デトミネイターの1機が、逃げ遅れてビームを浴びた。通過した後には、装甲の欠片も残っていない。
「ちっ…1機だけかよ」
「お前は…!」
「名乗り忘れてたなぁ。このロボットはジアデステス」
宙に浮かぶ、白い機体。両腕には刀。胸に大きな孔。
「まとめてぶっ潰してやるぜ…!」
瞬間に、ジアデステスが大きく翔んだ。刀をグラウファーヘ振りかぶる。同時に、グラウファーも柄を取り出した。
「あれが見えない剣ってやつか…」
刀と激突し、キン、と金属音が鳴る。
「な…」
ミシャが呆然としている。
「どうして俺の刀が折れないか不思議なんだろ?…それはな、」
再びデアジステスが刀を振るい、グラウファーの手から柄を叩き落とす。
「俺の刀だからだぁーーッッ!!」
縦一文字に閃光が走る。グラウファーの右腕の、肘から先が両断された。
「くそっ…くそっ!くそ!」
「くたばりやがれっ!」
胸部前で両手の拳を握り締めると、エネルギーが収束を始めた。
「…!」
ミシャは思い出す。あの攻撃で、羽を貫かれたのだ。
「翼を失う訳にはいかない!」
滞空しているデアジステスに、針を射出する。しかし、収束するエネルギーに呑まれ、ボロボロに砕けた。
「…また」
また逃げるのか、俺は。ミシャの時間が止まった。
誰かを利用して、都合が悪くなれば切り捨てて、孤独を選んでおきながら、一人では戦えない。そんな、俺に…。
「世界が、壊せるのか?」
「じゃあな!」
「…」
「…分からないとしても、今ここで死ぬ訳にはいかない!」
何かがミシャを突き動かした。ビームが発射されると同時に、グラウファーが潜るようにしてそれを避ける。紙一重だ。
「避けやがった!?」
「グラウ・ピコス・システム稼働率120%…ミシャさん!」
「ああ…風を感じる!」
ミシャが操縦桿から手を離し、拳を固める。すると、グラウファーのマニュピレータも拳を作った。
「受けてたってやるぜ!」
再度、デアジステスはエネルギーを収束させる。
「ミシャさん!あと8秒以内ですっ!」
「くそっ…間に合うか?!」
デアジステスの装甲に、弾丸が激突する。
「っ…なんだ!?」
「そこの羽!俺たちが援護してやるから決めろ!」
デトミネイターだ。
「…分かった、ここは貰うぞ!」
「おらぁっ!」
デアジステスがビームを放つ。デトミネイターの方向だ。5機が散開して躱す。
「あのパイロット…やっぱりガキだな?」
「…」
「はぁ、はぁ……!」
マサトの息が荒くなる。
「…!しまった!」
デアジステスが振り向くと、目の前にはグラウファーの拳があった。
「飛んでけッ!!」
グシャ、と顔にめり込む。
「うわぁぁぁあッッ!!」
殴られた顔を押さえている。
「あいつ…自分が殴られた訳じゃねぇのによ」
「よほど自分の機体が好きなのかな…」
「て…てめぇらっ!覚えてやがれ、よ…!」
デアジステスは目にも止まらぬスピードで退却した。
「逃げ足がどれより速いってな…」
「…そこの羽の生えた機体のキミ。助かったよ、ありがとう」
ミューエルが優しく語りかける。
「俺は…俺にとっても、都合の悪い相手だっただけだ」
「それに、こいつの名前はグラウファーだ」
「グラウファー、か…いい名前だね。鳥かい?」
「知らん…」
「グラウファーの名前の元はフクロウさんです!」
エールが突然出てきた。
「あはは…君も2人乗りなんだ」
「…不本意だがな」
「グラウファー。逃がすわけにはいかないぞ」
マークが冷たい口調で言い放つ。
「…」
「まぁ待て。俺たちはお前がここ、エカサルで何をするのか訊きたいだけさ」
ムーアだ。
「私は含まれていないんですかっ!?」
エールが不服そうに甲高い声を上げた。
「あ…あぁ。お前たち、か」
「…それは、言えない」
「そう、か…それは困ったぜ」
「…じゃあ、お前たちは何のために戦ってるんだ?何が目的だ?」
「…俺は…」
通信が入る。
「ニーア、退却してくれ」
金髪で、西洋陶器のように白い肌。
「アランクス様…!」
「今のアサキメスの王様か…どうしてだ?」
「イエスト郊外で戦闘が発生した…同盟国として黙っている訳にはいかない」
「しかし!」
マーク。
「国連軍を結成するために、今は必要な行動だ」
「それに君たちを向かわせなければ、我々がイエスターズを拘束していると取られるかもしれない…そうなれば、各国から弾劾される可能性がある」
「従って、優先度はこちらが先だ、頼む」
「…仕方ねぇ、決着はまた今度だ!フクロウさんよ」
「次は君と、戦場以外で会いたいね…」
「…どうだか、な」
イエスト郊外。
「そのボロいロボットでどこまで行けるのかなぁ?」
黒い、カブトムシのような一本角と、菱形の一つ目が特徴的な機体。右手にはナイフ。
「…うるせぇ…」
それと対峙しているのは、全身煤だらけの、継ぎ接ぎのロボット。右肩や左足など、高貴のパーツで補っている部分が多々あり、サンドカラーのマントを被っている。所々に、薄汚れた白や青色が覗く。
ビィ、と鈍い音を立てて、廃れたロボットのスコープが青く光る。
「……やってやる…さ」
ご拝読ありがとうございます。
だいぶ久しぶりになってしまいました。
楽しく書いていきたいです。




