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爆天砕地ダテカイザー  作者: 相羽マオ
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第3話 爆誕! 爆天砕地ダテカイザー!

 ダテカイザーは、正義のロボットである。今日も強大な敵を相手にし、愛と自由の為に戦うのだった。


 騎士・アサキメスは強かった。他の燕尾服と比べて桁が違う強さだ。

 その強さは騎士の機体のスピードによって裏打ちされている。この機体にとって速さは強さだった。というのも、騎士は装甲を軽量化する代わりにスピードに全てを注いでいる。多段攻撃による撹乱を主な戦法としているのだ。

 1度でも大きな打撃を喰らってしまえばすぐに機体が崩壊してしまうだろう。しかし、そうさせない操縦スキルが、ニーアにはあった。


 「追い付かない!」


ダテカイザーも擬似的にパイロットと動きを共有しており、柔軟で迅速な行動をとることが出来るが、堅牢な装甲の為、速さに全てを注いだ騎士には劣っていた。

「どうした?こんなものか!」

休む間もなく次々に攻撃が加えられる。騎士のくせして主武装は刃渡りの短いナイフ2本だった。逆手に持っている。

「こんなとこでやられてたまるか!」

だが打開策が見つからない。カイは焦るばかりだ。思うようにダテカイザーが動いてくれない。動かす暇を与えてくれない。


「もらった!」

ダテカイザーの頭部のスコープの溝にナイフを差し込まれた。まずい、このままだとメインカメラがやられる!

「スコープ損傷大!メインカメラの70%が見えなくなったわ!」

メインモニターは既に右下だけしか見えなくなってしまった。まだ見える場所があるだけありがたい。しかし、どうする。このままでは一方的にいたぶられるだけだ。どうにかならないか。そうだ、

「空を、飛べたら…!」

「そんなの考えてもしょうがないでしょ!」

「いいや、飛べる!飛べ、ダテカイザー!」

「なに言ってるの!」

その時だ。ダテカイザーの背面のバックパックの線に沿うようにして緑の光が走ると、バックパックの装甲がパージされ始めた。中から現れたのは…大きな、噴射口ブースター

「え、何これ!こんなの知らな…」

「いっけぇぇぇえ!」


 噴射口から大きい光が放たれると、そのまま斜め上空に飛んでいくダテカイザー。それを見ていた騎士―――ニーアは唖然としていた。


「飛んだ…人型兵器が、空を…」

「よっしゃ!スゴいぜダテカイザー!」

「待って!…これ、3秒くらいしか飛べないみたい」

「え、なんで」

「エネルギー消費がいつもの10倍くらいだから、3秒超えると歩けなくなるわ」

「じゃあダテ脳天割りキックだ!」

「なんじゃそりゃぁぁぁ!!」

噴射口を逆噴射し始める。3秒経ってしまった。あとは自然落下に任せるしかない。


「当たれぇぇぇ!!」


騎士は持ち前のスピードで避けようとしたが、高い高度からの落下のデタラメなスピードには勝ることが出来なかった。

 衝撃で地面が揺れた。煙が立ち込めている。周りの地面が隆起したようだ。円形になっている。その中心には―――

 

 

 見得を切るダテカイザーと、下半身が断裂した騎士の姿があった。

「ダテカイザーはダテじゃないぜ!」

これには流石のアランクスも、驚きを隠せない。

「ニーア…」

騎士からの通信が入る。

「すみません、失敗しました」

「いいんだ、生きてさえいれば…」

上下に大きく揺れていた肩が、息を吐いてやっと落ち着いた。

「しかし、このままでは陥落するのは目に見えているな…」


「要請した()()()はまだかい?」

「間もなく到着します」

これて安心だ、と思った。


 一方ダテカイザーはメインカメラをやられてしまってほとんど視界を奪われた状態であった。このまま戦いを続行するのはマズイ。

「デイトン、この場合はどうするんだ?」

「パージしたバックパックの中に予備のスコープがあったはず」

先程落としたバックパックのの中から長方体を拾い上げる。殆ど壊れてしまったスコープを強引に引き剥がし、予備のスコープをあてがう。

「…これ、くっつくのか?」

「ナノマシンだかなんだかが勝手にくっつけるはずよ」

「自動操縦はないのになぁ…」

「パイロットより機体の方が大事なのよ、きっと」


2分程経って完全に装着されたようだ。

「動作確認。燃料が少ないこと以外オールグリーン」

「もう飛べないってことか。何とか捕縛膜は?」

「電磁エネルギー。ここら辺はまぁまぁ電気が通ってるから2時間動作を止めたら満タンくらいね」

「じゃあ行くしかないか…」

城に向かって歩き始めた。と言ってももう目の前にある。近くで見ると遠くで見るよりもっと迫力がある。悪の要塞というよりは華麗なる皇族の住居だ。オーケストラでもいるんじゃないか。


「で、どうするの」

高貴ロイヤルを全部壊した後に人間避難させてここをぶち壊す」

「そのいいとこ取りで上手く行くといいわね…」

「発射口を辿って行ったら整備場のはずだ!」


スロープからずんずんと城の中へ入っていく。やたら長い。ここから勢い良く射出されたらそりゃあ速い訳だ。騎士はそんなもの関係なく並外れていたが。

「見えた!」

大量の燕尾服が見えた。理路整然と並んだそれらは少し不気味だ。早速ビームトンファーを展開させる。振動音が閉鎖的な整備場で反響した。壁や地面が微細に振動する。

「さぁ、やりますか」

その瞬間、急に整備場の明かりが落ちた。赤外線に切り替える。

「なんだ…?」


「あとは()()()に任せよう」

アランクス達、エラント支部の人間は既に避難を完了していた。屋外から巨大な城を眺望している。

「袋小路」ニーアが呟く。

「これで勝てないなら我々は無能だろうね」

アランクスはそう言うが、勝利を確信しているようだ。いつも通りの落ち着きだ。

「君のサムライ魂とやらを見せてもらうよ…」

「カタセ…」またニーアが呟いた。

「彼は気難しいと聞くからね…なぜか1機での発進を条件にしてきた」

最後に1つだけ付け足した。

「だが、任務の遂行率は100%だそうだよ」


 機体の残骸の上にダテカイザーは立っていた。

「これで全部だな…」

「センサーに反応。これは…支部に向かってきてる!」

「このデカさは高貴ロイヤルか…?」

「分からないけど、人型兵器ではあるわ」この質量でこのスピードだ。射出された人型兵器以外あり得ないだろう。

「支部の発射口を上がってくるわ!」

「面白れぇ、また1対1か!」

一体どういうつもりだ。デイトンは訝しんだ。囮か、それとも己の力に絶対的な自信があるのか。ならば先程の騎士と同じような実力者であるに違いない。戦い抜けるのか?一抹の不安が頭をよぎる。

「おい、大丈夫か?」

「え、ええ…」

そうだ。ダレストアを出たときから決めたのだ。彼の『天命』に賭けてみるのだと。価値のない自分自身を価値のあるものへと昇華させられるかもしれない。

「行きましょう!」

「お、おお…」

急に元気になったものだからカイは少々驚いた。


「結局さっき明かりを落としたのはなんだったんだ?」

「さぁ。もしスコープがダメになってたらそこに追い打ち掛けられたからじゃない?

「でも予備がありました…と」

「…」

怪しい。何か裏があるような気がする。しかし不審物などどこにも見当たらない。消火栓の赤い光だけだ。

「さ、来るよ」上がってくる。黒い機影が―――



 上がってきたのは、見慣れた燕尾服だ。

「こいつが、1対1を?」

違う。心拍数が一気に上がる。心臓の音が聞こえる。脈打っている。そんな、まさか。その隙を突いたというのか。

 ダテカイザーの後ろに、黒い機影。首がなく、胴体と一体になっている。アンバランスな体型だ。胴の中心に丸い赤目が1つ。暗闇の中で、鈍く光っている。

 腕を一振り、ダテカイザーの右腕が飛んだ。鋭い刃で両断されたようだ。

「そんな…どこにいた!?」

「天井だ」低い男の声が響き渡る。

「センサーには反応がなかった…」

「ジャマーを使用した」

ジャマーというのは、一時的にジャミングを起こす兵器であり、ロボットに搭載される。だが、ロボットに積むような大きさでは、5秒ほどしか持たない。

「そんなの見逃す訳ねぇだろ!」

「まだ分からないか」

「私の狐月(こづき)は上から来た」

狐月というのは男の機体らしい。つまり、支部の屋上に飛び乗ったということか。

「着地した音なんてしなかったぞ…!」

「数秒の間に壁をよじ登ったとしたら?」

「な…」

「戦というものを何も分かっていない」次の一振りで左腕を飛ばされた。

「くっそぉ!もっと速く動けよ!」

詰め寄る狐月に、強い焦燥感。このままでは勝てない。

「カイ!ここは退却するしかないわ!」

「うるせぇ!」

「お前の言っている正義とはなんだ?」

「なに…?」


 視界が歪み始める。揺さぶられている。抉ろうとしているのか。深層に語りかけてくるようだ。

「大見得を切っていたようだが、お前の正義とはこうして戦争を幇助するものを破壊することか?」

「そうだよ!何が言いたいんだ、あんた!」

僅かに残った勇気を絞り出して叫んだ。頭が痛む。

「不安定だな。本心はなんだ?」

有無を言わせない威圧を感じる。

「…これは『天命』だ!」

「それは本当にお前の本心か?」

そしてこう続けた。

「天命ではなくて、お前の意志でいいじゃないか。それが正義ということなのか、と俺は聞いている」


 …何か、割れるような音が頭の中に響いた。なぜ、天命にとらわれていたのだ?正義に理由なんていらない。だって、俺は…

「俺の正義を信じるからな!だから、それが俺の意志だ!」

「―――それが正義なのは、やはりお前はバカだということだ」笑った。

「ならバカをやらせてもらうぜ!今日からコイツの名前は!くだらねぇ天命を爆破する!爆天動地ダテカイザーだ!」



 呆気にとられていたデイトンがやっと口を開いた。

「ちょっと!流石に地震は起こせないって!」

(なんかよく分かんないけど、成長した…ってこと??)

デイトンには2人の男の気持ちは分からなかった。カイも、自分の気持ちがよくわからなかったが、とにかく高揚していた。


「よぉし、ならこいつの名前は爆天砕地ダテカイザーだ!」

「愉快な連中だな…」


だが、肝心なことに気が付いていないようだ。

「あ、腕がねぇーっ!!!」

独身バンザーイ!!

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