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爆天砕地ダテカイザー  作者: 相羽マオ
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第26話 梟

 目下に広がる雲。地上から見れば、天気は曇りだろうな、とミシャは思う。

 飛行船の中にいるというのに、駆動音の1つも聞こえない。室内は広く、明るい。遮蔽物が無いため、太陽光が眩しい。長い通路を挟んで、左右に1つずつ座席がある。ミシャは右の窓側に座っている。奥にある通路の出口まで、そこそこ距離がある。

 座ってもう2時間くらいになるだろうか。緊張も、こう長引くと薄れてしまう。

(これでは、ダメだ…)

 バチっ、と頬を叩く。これは第一歩なのだ。チャンスなのだ。ここで失敗する訳にはいかない。これもすべて―――――。

 通路の奥から、肩幅の広い軍服の男が歩いてくる。

「ミシャ」

「死ぬぞ、自覚がないようでは」

言葉でこそ窘めているようだが、口調はどこか諦め気味だ。

「言っただろ。最終的に壊せれば、何でもいいんだって」

「…まだ、お前は幼いだろう」

「…ダテカイザーのパイロットだって、俺とそう変わらない」

ミシャが拳を固めた。

「復讐、か…」

「だって奴らはー」

言葉を遮るようにして、サイレンが部屋中に高音を響かせる。

「とにかく、無理はするなよ」

男はそう言い残し、急ぎ足で通路の奥へ消えていった。


「さて、」

シートベルトを外し、立ち上がる。サイレンが鳴る前から、この部屋には自分しか居なかったようだ。

「みんな、異端とは居たくないってか」

世界の異端なのは、俺も含めたお前たち全員だというのに。

「自覚が足りねえのは、どっちだよ…」

団結のできないレジスタンスなどに、存続の道はない。ここの総統も、理解しているはずだ。

「見所ある奴だと思ったが、そうじゃなかったみたいだな…だが!」

自分には、関係ない。

 ミシャは、格納庫へと走り出した。




「いやあ、暑いねー!」

「暑いね…」

青空の真ん中に、太陽。先ほどまで空を覆っていた雲は、千切れてバラバラに散らばってしまった。

「だいぶ、自然も戻ってきたね」

「だね…」

果てのない草原の中心に、二人の少女がいた。

「どこが私たちの家だったか分かる?ミリア」

「…ごめんお姉ちゃん、分からない」

ローラーン・カナンとミリア・カナン。ここは、戦争で焼き払われた彼女たちの故郷、エカサル。人が居なくなってから数年経ち、緑が一帯を覆っていた。

「私たち、こんなに大きくなったよ…お母さん、お父さん」

「もう、16になったよ、私」

ローラーンがしゃがみこみ、目を閉じる。合わせて、ミリアもしゃがみ横並びになった。

「…」

「…あ」

風を切る音が、遥か上空から聞こえる。飛行船だ。雲の流れとは比べ物にならないくらい、速い。

「あんなに飛ばして、どこへ行くんだろう」

「…」

「何か、起こる気がする。ローラーン」

ミリアが、はっきり言った。




「最新鋭機を20機…ですか」

軍服の男同士が、格納庫で立ち話をしている。その後ろを、作業服やパイロットスーツの人間たちが通る。

「といっても試験機です。先月イエストとの会合の結果、噴射口(ブースター)を必要とせずに飛行が可能なその最新鋭機の開発に、技術提供して貰えることになったとか」

「例の()()()の為の…」

「ええ。新政アサキメスが、各国に統一を促さなければならない。その為にも国連軍の結成は必要なのですよ」

「国土も15年前に元通り。これ以上の衰弱を防ぐためにも…ですな」

男が咳をする。

「…それで今回のCSAH掃討戦でお披露目を」

「そうでしたな」

「メディアでも大きく取り上げます。イエストと協力して開発したという点も強く」

「…世界平和、着実に近付いていますな」

途端に、鳴り響く高音。緊急出動のサイレンだ。

「基地内全隊員に伝達。こちらへ向かう飛行船を補足。テロ組織CSAHのマークを発見。戦闘配備」

男が口角を上げてニヤリと笑う。

「あちらから来てくれるとは思いませんでしたよ」




 最新鋭機と呼ばれたロボットは、黒を基調としたボディカラーに、所々に差し色でグレーが入っている、厳つい機体だ。両肩や太ももががっしりとした装甲で覆われており、並の弾丸では通らないことが視覚的に分かる。名はデトミネイター。主武装はロングバレルのライフルに、左右の腰に備え付けられた(見た目はレールガンのようである)超硬度弾マシンガン、大腿部の超硬度ナイフ、そして右肩から展開する小さなバルカン。1機のみの隊長機には、デトミネイターの全長を超える、まるで警察の特殊部隊のような黒い盾が装備されている。

 アサキメスの量産機の高貴(ロイヤル)、ステリアをベースに、イエストが技術提供を行って完成した、世界でも最高水準の機体だ。

 現在、高貴が第2世代、ツィス団やナンバー、イエスターズの機体が第3世代と呼称され、このデトミネイターは第4世代に当たる。第3世代と第4世代が一線を画している点は、噴射口を必要とせずに飛行が出来る点だ。

 噴射口を搭載した機体は、あまり差はないものの、やはり通常と比較すると重くなる。そこで国連軍の機体として求められたスペックは、頑丈で、かつ軽さを維持できるということ。それが、イエストの提供した技術だ。しかし、その仕組みは謎に包まれており、イエスターズが空を飛べる理由と合わせてアサキメスの研究者に探られたものの、解明には至っていない。

 だが、戦場には機体の背景など関係ない。

 アサキメス王都最西のミラティス支部から、続々とデトミネイターが現れる。

 円上に隊列を組み、その一番前に隊長機が位置している。

「各機、今回の任務はテロ組織CSAHの撃破」

「…こんな機体で戦えるなんて…」

「いくら最新鋭の機体だからといっても、まだ試験段階だ。気を抜くな。以上」

通達が終わると、円を崩さずに飛行船の方向へと上昇していく。両手でライフルを支えながら、迎撃の体勢を崩さない。

 

 一方、飛行船格納庫。

 ミシャが、白い機体の前に佇んでいた。作業服の、黒く日に焼けた肌の男が話しかける。メカニックのようだ。

「お前さんの機体…こりゃどこで手に入れたもんなんだ?」

「知ってどうする?」

「ただ単に興味があるだけさ。こんな機体、見たことねえ」

「ナンバーだってよく分からない専用機を持ってただろ。さして珍しくもない」

「お前さんみたいな少年が、どこでってことだ」

「…まぁ、気が向いたら話してやるよ」

「そうかい」

 ミシャが黒い筒状の()()を手に握っている。上部に赤いボタンがあり、それを押す。すると白い機体のコックピットのハッチが開き、硬質のロープが下がってきた。ミシャが足を掛ける。

「アサキメスでも、イエストでもねぇ。一体なんなんだ、その機体…」

 

 上昇する。乗り込む。筒状の機械を丸い穴へと差し込んだ。

 猫なで声が、コックピット中に響き渡った。

「TS-7!起動しました!」

「うるさい」

15センチメートルほどの小さな少女が、ミシャの周りを飛び回る。長い茶髪が、左右に大きく揺れる。

「邪魔だよ、お前」

「ミシャさん、酷いです!私はパイロットのサポートをするための…」

「それは何度も聞いた。確かに捕捉とかには役立ってるが、その鬱陶しさはなんとかならないのか?」

「明るく楽しくが私の性格の基本設計ですから!」

「はぁ」

ミシャが大きく溜め息を吐いた。

「大体、なんで毎日衣装が変わるんだ?」

「気付いていただけてましたか!今日はシンプルなシャツに…」

「やっぱいいや」

「どうしてそんなに冷めてるんですか…」

少女が大げさに肩を落とし、落ち込んだアピールをしている。

「別に冷めてるんじゃない。もう慣れたんだ」

「ミシャさんも、折角そんなに綺麗な金髪を持っていらっしゃるのに!服をお変えになってみては?」

「全部終わったらな…そろそろ行くぞ、エール」

「はい!グラウ・コピス・システム、機動します!」

ミシャが操縦桿を強く握り締める。駆動音が鳴った。

「グラウファー、出撃する…!」




「…」

「二番機、どうした?」

「なんでもありません」

ニーアは、デトミネイターに搭乗していた。アランクスから参加するよう言われたのだ。側近の兵士であるという事実を隠して。

 

「知ってると思うけど、僕には兄さんの他にもまだ兄弟がいる」

「弟、妹が1人と聞いていますが」

「ああ。妹は今も政務に勤しんでいる。だけれど、一年前に父が死んでから、弟の行方が知れない。昔から彼は僕たちと違って父に賛同していて、皇帝の麾下(インペライル)にも進んで参加しようとしてたんだ」

「してた、と言うことは、間に合わなかったと?」

「意図的に、僕が遅らせた。色々連れて来られると厄介だったからね」

「それと何の関係があるのですか?」

「…弟がね、テロ組織に出資してるんじゃないかと思ってるんだ。それに、軍にはまだ知り合いも残ってるはずさ。僕の側近だと知れば隠蔽を働くかもしれない」

「だから、味方にも知られないように探ればいいのですね」

「難しい任務だが、今僕は身動きが取れない。ツィス団…兄さんに頼むわけにもいかないから、頼むよ」

「分かりました」

「…君には、迷惑をかけてばかりだね」

「いえ。この命は、アランクス様の為に使うと決めていますので」


 そういえば、とニーアは思う。ムーアは、イエスターズは、今どこにいるのだろう。アランクスが即位し、国土を返還してからは一切出動していない。今も妹の為に命を懸けているのだろうか、彼は。そう思っていると、隊長機から通信が繋がった。

「全機に通達、敵影を確認。あちらが攻撃を仕掛けてきた後、迎撃を開始する」

「…」

CSAHにとっては勝てるはずのない戦いだ。それでもなぜ、彼らは戦うのだろう。世界が平和になるのが、そんなに気に入らないのか。

「な、なんだ?!」

通信に、複数の動揺した声が重なった。

 上空にメインカメラを向ける。1機のロボット。太陽の光を背に受けながら、滞空している。

 白いボディに、青い上半身の装甲、エメラルド色に輝く両目。それよりも目を引いたのは、背中の巨大な、()。機械とは判断できるものの、そのシルエットはまるで鷹の様だ。

「一体…あの機体は…?」

「…やってやるよ…っ!」

ご拝読ありがとうございます。

ペースを守りたいです。

いろいろ考えてます。

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