第24話 決着
ダテカイザーは正義のロボットである。ダテカイザーとアヴァーラの戦いは、本来の自分を取り戻したカイによって戦況が一転、ダテカイザーが勝利。アヴァーラは大きく破損した。しかし、皇帝の資格と呼ばれる何かが…。
それは、黒く、大きな翼だった。コアと思われる真四角な箱から、4本の羽が広がっている。背面には噴射口が備えられており、激しい炎を噴射している。飛行ユニットをそのまま巨大にしたようにも見えたが、羽はまるで蜘蛛の足のように、関節が存在していた。ただの翼というわけではなさそうだ。
「おい、ありゃなんだ」
「…」
皇帝の麾下母艦内部。銃を向けられた眼鏡の男はムーアの言葉に反応しなかった。
「ちっ…ヤな感じだ」
「まるで…」
ニーアが、巨大なモニターに映った翼を見つめている。
「カラスの、ような」
「あいつ…死ぬつもりだ!」
カイには、翼を得たアヴァーラ、つまりアサストルが何をしようとしているのか検討がついていた。アストル号を巻き込んで、自爆しようとしているのだ。ダテカイザーが追跡するものの、追い付けない。遥かに速いのだ。アヴァーラが欠損し重量が軽くなっていることもあったが、明らかに速い。
「人間が耐えられるスピードじゃ…ない」
デイトンが呟く。
「あんなに速かったら…中の人間は耐えられない…絶対に…!」
「やっぱりあいつは…命を捨ててまで」
なぜだ?カイは思う。そうまでして、アストル号に拘る理由は。
考えてばかりでもいられない。なんだか、今日はもうたくさん考えた気がしていた。
「よっし、全速力で行くぜ!」
「…!」
「カイ、下から何かくる!」
高い、金属音がする。ダテカイザーの足に何かが激突し、火花が散った。どうやら、ぶつかってきたのは足らしい。前のめりになるが、一回転し、態勢を立て直した。
「なん…だ?」
「行かせないよ…ダテカイザー!」
両腕のない細身の機体、ラバリエンス。ナンバー4のカリウスだ。
「そんなんで何かできんのかよ!置いてくぜ!」
ダテカイザーは見向きもしない。
「待てよ…お前…!」
飛び立っていく。
「く…リークス…リョーキ…みんな…!」
カリウスのまだ幼い顔に、涙が浮かぶ。
「あいつ…止めちゃうよ…俺たちの約束を…止めちゃうよ!」
「時間を喰っちまったが…追い付いてやるぜ!出力500倍だ!」
「これ以上速くならないって知ってるクセに…」
バカじゃない、とデイトン。呆れた顔をしていたが、嬉しかった。やっぱり、本物だ。寂しさだって、ある!
「あああもう頼むぜ!!追い付けよー!」
カイが頭をグシャグシャと掻いた。
母艦内部。眼鏡の男は、相変わらず4人に囲まれたままだ。
「じゃあニーア、お前に頼む」
ムーアがニーアの肩を叩いた。
「分かった。…死なないように」
「敵は1機だぜ?」
2人の間からマークがぬっと顔を出す。
「うおっ!びっくりだぜ!」
「長距離射撃が出来るのはムーアのレレドだけだ。戦況的に応援が必要だと判断する」
「どうやら生命反応はこの人しかいないみたいだから。できるだけ多い方がいいかなって」
ミューエルが苦笑いをしながら付け足した。
「了解した。私の分もアランクス様を頼む」
「…お前、いいのか?」
ムーアだ。質問の意味が分からなかったのか、少し上を向いて考えるような仕草をした。そしてこう答えた。
「私よりお前たちの方が、助けられる可能性が高い。だから」
「へいへい…そうかよ」
「だが悔しくない訳ではない。次は必ず私が守る」
「…ああ。今回は任せとけ」
「…」
ニーアの表情は変わらなかった。
「いやー、これヤバイんじゃないかデイトンさんよ…」
額に汗が浮かんでいる。
「あと10秒でアヴァーラは到着…こっちは20秒」
「…後ろから何かきてるぞ?」
「また敵かな?」
「いや、もっと軽い感じの…」
「こっちでも捕捉したよ。2秒後に左腕あたり。危険物質はなし」
飛びながら、左腕を伸ばす。ガシャン、と手のひらにぶつかった。握る。
「これは…銃か?」
「その通りだ、カイ」
通信が繋がった。白髪が映る。
「ムーア!」
「そいつは俺のレレドのロングレンジライフルだ。弾はもう入れてる」
「サンキュー助かるぜ!…にしても、どうやって飛ばしたんだ?」
「リリドのアーマーユニットはパージする際に敵への衝突を目的とした小型の噴射口が設置されている。パージされたユニットは小さいため敵パイロットに撃墜される前に衝突させることができる。それを利用し、あらかじめロングレンジライフルを…」
「要は、パージしたアーマーに乗せて運んだってことさ」
ミューエルが短く纏めた。
「…」
「最近よく喋るよな、お前…」
「説明をしようとしただけだ…」
「…とにかくサンキュー!」
左手から、右手に持ち換える。引き金に指を掛けた。
「デイトン、こいつを使ったらどうだ?」
「それならあと2秒で射程に捉えられるよ!」
「ならやってやる!」
ライフルのバレルを展開する。
「こっちでサポートするわ。………」
「…どうだ?」
「……ロック!」
引き金を、
「当たれよぉおおおお!!」
引いた。
黒い翼の基部を、貫いた。
黒煙が上がる。
「…まさか、自爆さえ止められるとは、ね…」
アサストルの目は、ひどく充血していた。血の涙が零れ落ちる。アヴァーラが斜めに傾く。滞空ができなくなったのだ。翼にヒビが入り、右半分が砕け落ちる。
「父さん…」
「…」
アストルとアランクスが、神妙な面持ちで目前に迫ったアヴァーラを見ていた。
「…が…」
「…?」
「よし、後はあいつを取っ捕まえるだけだぜ!」
ダテカイザーはくるくる回転しながら、あっちこっちへとフラフラしながら飛んでいる。
「テンション上がったのは分かるから…もう」
そう言うデイトンも、顔には微笑をたたえていた。
「…ありがとう」
「…なんだよ、出撃前にも聞いたぜ?」
「この後もまだいざこざがあると思うし、まだ時間が掛かるだろうけど…ぜんぶ終わったら、一緒にどこかへ行こうよ」
「どこか?」
「どこでもいいの。空の果てまで、アテのない…」
「…ふっ」
カイがにやけた。
「な、なによ!」
「いや、なーんでも?」
「もう、バカにして!」
「空の果てか…。いいかもな、それも」
わぁ、とデイトンが目を輝かせた。
(そんな目で、見んなよ…な)
まるで…宝石みたいだな、と自分で思って、笑った。
「よっと…」
動かなくなったアヴァーラを、担ぎ上げる。
「大丈夫。生きてるみたい」
「さすが皇帝だぜ」
ジジ、と通信が繋がる音がした。
「?誰だ?」
「…に…」
「通信元、微弱すぎて誰だか分かんない」
「アストル号が邪魔してるのか?」
確か、アストル号は強大な電磁波採集システムが搭載されているため、通信を阻害するのではなかったか。
「いや、それはもう改善したって言ってた。…ジャマーが散らばってるのかもね」
「ふーん…」
「さ、帰りましょう」
「だ…」
まただ。男の声。
「この声、どっかで…」
「逃げろ!」
瞬間的な出来事だった。
アヴァーラの翼がしなり、ダテカイザーを貫いた。
頭から、コックピットに掛けて突き刺さっている。
「う…」
痛い、頭がぐらぐらする。
カイの右肩すれすれに、黒い巨大なモノ。あと少しでもズレていたら、間違いなく貫かれていただろう。
「助かった…のか?」
「カイ…」
「デイトン…大丈夫か?」
「うん、全然大丈夫だよっ」
ふと、デイトンの方へと向いた。
映像が、乱れている。
「デイトン…デイトン!デイトン!お前!」
「…バレちゃった?」
「バレちゃったじゃねぇ…!」
「メインコンピュータ、壊れちゃったみたい」
デイトンの足元が、霞む。
「おい…待てよ!絶対、いやだ!」
「もう、そんなこと言ったって、仕方ないんだから」
デイトンがわざとらしく腰に手を当て、そう言った。
「あのね…カイに、まだ言いたいこと、たくさんあったんだ」
「でも…もう、ここまでみたいだから…」
「まだだ…諦めんな!アストルに頼めばきっと…!」
「分かるんだ。私、中からも外からも、消えていくのが」
腰の辺りまで、消えかかっている。
「あ…」
「…だから、ね。最後に伝えたいの。ありがとう。私、本当に、人間になれるんじゃないかって、そう思ったの」
「みんなが…カイが、私に夢をくれたの」
「なら諦めるなよ…死ぬなよ…っ!なぁ、頼むから…!」
「もう…何回も言わせないでよねっ!…」
泣き出しそうな声。
肩の下まで、消えた。
「短い、短い間だったけど…ね」
「楽しかった。何回も言うよ、ありがとう」
「カイを1人にするのは不安だけど…」
「きっと、みんなが助けてくれるよ」
「うっ…ぃ…やだ…」
「泣かないで、カイ」
「…これからも、いつも、一緒だよ…」
涙が零れて、カイの手のひらに落ちた。それは、確かに質量を持っているように感じられた。
「…う」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」
ダテカイザーが、翼を押さえ込んで、引きちぎる。すると、メキメキと音を立て、突き刺さった翼が形を変容させていく。
「ナノマシンが…カイくんに呼応している…!」
それは、黒く、光を浴びて輝いた。
「兄さん…」
「ダメだ…あれは荷電粒子砲だ!実現しない夢の兵器…でも5mほどしかない人型兵器が発射したら!」
「自壊する…」
「死ねぇえええええええ!!!!」
「カイくん!!」
それは巨大な直径の、ビームだ。宇宙まで一直線に伸びる。虹色の光に、アヴァーラは包まれた。
「…カイ、ダテカイザー。君達は…」
「君達自身を見失うな…」
そして、砕けて溶けた。
程なくして、ダテカイザーがバラバラに砕け散った。
「デイ、トン…」
ご拝読ありがとうございます。
これからの予定は考え中です。
まだまだ続ける気ではいます。




