第19話 No.1
ダテカイザーは正義のロボットである。とうとう、信念を懸けた戦いが始まる。
しばらく飛行していると、巨大な飛行船が見えてきた。
「出たな、ラグビーボール!」
「あの船は砲弾で弾幕を張るから、ここで1度散開するよ!」
デイトンの呼び掛けに答え、全員の機体が別れて飛んでいく。飛行船から、小さく黒い粒が射出される。ロボットだ。
「カメラに敵影。量産型ステリアだと思われる」
ニーアが通信で全機に伝達する。
「各自、飛行船を目指して全速で前進!」
アストルの指示が通る。
「さぁ、攻略戦だぜ!」
カイの言葉に合わせて、ダテカイザーの噴射口がより一層出力を増した。
「ドリルチューン」
マークが呟く。同時に、リリドの爪先がドリル状に変形した。
「そんなもの!」
リリドに対するステリアは4機。胸のバルカンに加え、右手に長いバレルのライフルを携えている。
「全機散開。バルカン1、ライフル3!」
ステリアのパイロットの男が他の機体へ指示をする。
「甘い」
瞬間的にリリドが脚を振り上げた。1機のステリアのライフルがドリルで削られる。
「いつの間に!?」
そのステリアはライフルを放棄し、バルカンを開放した。周囲の3機はリリドの後方へ下がりライフルを構えている。4機のステリアを線で繋ぐと、リリドを四角形で囲んでいる形になる。
「撃て!」
まず、ライフルの弾が飛来する。黒い直線がリリドの真横を通る。
「小型質量弾と判断。遠距離戦闘プランを廃止」
マークがそう言うと、右の太股に装着されているナイフを引き抜いた。以前は超硬度質量弾長距離砲の弾が装備されていたのだが、超質量砲が完成し、リリドの右腕をまるごと銃身にする必要性がなくなったのだ。
細身の腕からナイフが振り下ろされる。目にも留まらぬスピードのそれは、ライフルを構えていたステリアの頭部に直撃した。炎で溶かしたように、頭部の装甲が崩れ落ちる。
「あのナイフ、普通じゃない…!」
ナイフは常に微細な振動を繰り返しており、肉眼でも確認できる。これはバイブレーションニードルと同じ仕組みだ。しかし、ダテカイザーやエーリが使用しているものよりも鋭利さでは劣る。アストルに、刃部分が広いほど振動に乱れが生じるのだ、と教えられた。マークはそんなこと歯牙にもかけていなかったが。
「退避しろ!グレーベル!」
「ダメです、メインカメラがやられて…」
リリドが頭部を破壊されたステリアの肩を左腕で掴んだ。
「命令通り、殺しはしない」
背面の飛行ユニットをナイフで切り落とし、ステリアを地面へと投げた。まっ逆さまに落ちていく。
「貴様ぁ!」
胸から突出したバルカンが回り始める。弾丸が発射される直前だ。
「残りの2機!援護しろ!」
「りょ、了解!」
どうやら、最初にライフルを破壊したステリアが指揮をとっているらしい。残りの2機のステリアは再びライフルを発射する。
「甘いと言っている」
弾丸を軽々と躱し、リリドは直線に並んだその2機の前を弧を描くようにして通過する。ステリアの頭部が、また溶けた。
「!」
「またカメラをやられたか!サブに切り替えろ!」
「それだけではありません!操縦が!」
「これは…コックピットを大きくくり貫かれて…」
言葉の途中で、2機のステリアの胸部だけが抜け落ちた。胸部には、コックピットも含まれている。
「あんな…一瞬で…!?」
「次はお前だ」
マークの淡々とした口調は、まるで機械のようだ。
「くっ…!皇帝の麾下の意地を見せてやる!」
残った1機のステリアが、バルカンを発射した。薬莢が背面から零れ落ちていく。
「無駄だ」
次の瞬間、リリドはステリアの真横にいた。
「な、なぜだぁ!」
リリドがバルカンにナイフを突き刺たてた。銃身が溶け始める。
「まだ勝機は…」
「!」
男は目を見開いた。リリドを掴もうとしたステリアの両腕が、すでに切り落とされていたからだ。
「戦力の無効化を確認」
男が気付いたときには、ステリアは背面のユニットを切り落とされ、落下を始めていた。
「前進する」
「雑魚だらけだ、本当に本隊なのか?」
「…今は飛行船を目指すだけです」
騎士とサイエビット、そしてエーリR、Lが並んで飛行している。
「カイとグレイさん大丈夫かな…」
ローラーンの口調が心配そうだ。
「心配ないって。カイはバカだしグレイも吹っ切れたみたいだからさ」
ソリルが答えた。
「…ダテカイザーのパイロットには、負けてもらっては困ります」
ニーアが小さく呟く。
「ニーアさん、だっけ?カイの応援してくれてありがとね!」
ローラーンが通信越しに笑い掛けた。
「いや、ただ私は」
「いいのいいの照れなくて!ニーアちゃん!」
途中で遮られた。
「おいローラーン、ニーアちゃんって…」
「だって私たちと歳近そうだし…」
「…」
ニーアは何も答えなかった。
「ムーア、そっちへ行った!」
「任せろ!…振動弾を喰らえよ!」
灰色の機体、レレドの右手のバレルの長いライフルから弾丸が射出される。飛来したステリアの肩を貫いた。損傷部から火花を散らした後、ステリアの右腕が爆発した。
「威力は超硬度小型質量弾砲には劣るが…狙いやすいな」
アランクスたちが修理したレレドは、見かけはほとんど変わっていない。だが、超硬度小型質量弾砲は廃止されている。その代わりにマニュピレータ接続が可能なロングレンジライフルがこさえられた。
「先へ急ごう!」
もう片方は緑の機体、ルルドだ。
「ああ…これを最後の戦いにしてやる!」
クルツ5、グレイは無数のステリアを振り切り、飛行船に最接近していた。
「…落とします!」
太陽の光が船体に反射して、眩しい。侵入できる箇所を飛び回って探す。
「…どうして迎撃がこないのでしょう?」
ダテカイザーが接近した時は大量の砲弾により応戦していたはずだ。それが今はない。無防備だ。
「!」
グレイがあることに気付いた。レーダーが一瞬乱れたのだ。ジャマー搭載機が近辺にいる証拠だ。
「潜んでいる味方を攻撃しないために…砲撃を止めていたんですね」
クルツ5は周囲を警戒する。
「仕掛けるのが遅かったかぁ…」
高めの男の声がした。機体のスピーカーから発せられているようで、飛行船に反響している。
「ナンバー4。カリウス・カザル。ラバリエンス」
突然、船の上部から細身の機体が現れた。体躯に似合わない巨大な箱を両肩に1つずつ担いでいる。中には4つの赤い丸。
「…ミサイル!」
一体どこから現れた?グレイは混乱していたが、そこへ間髪入れずにミサイルが発射された。尾に灰色の煙を引いている。
あっという間にミサイルに距離を詰められたクルツ5は、小型銃をミサイルに投げつけた。爆発する。巨大な黒い煙が上がった。
「煙幕!?」
このミサイルは威力を度外視した煙幕だ。視覚を奪われた。
「…4つのうち1つは煙幕だけれど…ね」
カリウスが呟く。その顔はまだ幼い子供のようだ。
煙の外から、クルツ5に向かって続きのミサイルが飛来する。
「1つが煙幕だったなら…あんな量は必要ない。つまり!」
クルツ5のバックパックが開口し、小型の箱型の機械が射出された。上部にプロペラがついており、自律飛行するようだ。
「…?」
一方のカリウスは、レーダーが乱れているのを発見していた。ジャマー搭載機が現れた時と同じ乱れ方だ。
「何が起こってる?」
黒い煙の中で何が起こっているのか。
「逆にこちらが悩まされることになるとはね…まぁ、でも」
あれだけのミサイルだ。当たらないはずがない。カリウスの思った通り、数秒後に爆発が起きた。爆発の数はミサイルの総数と一致する。
「こんなにあっさりとは、ね…」
立ち上る黒煙へ、ラバリエンスが近付いた。
「!」
カリウスは驚いた。ラバリエンスの右腕が、突然爆発したからだ。
「これは一体っ!?」
続いて左腕も爆発した。何かが接触し、起爆しているようだ。煙が晴れる。中から、超硬度弾ライフルを構えたクルツ5が現れた。
「な…に?」
気付いた時には、ラバリエンスは土にめり込んでいた。
「クルツ・バグ。すごい技術です…」
クルツ・バグというのは、先ほどバックパックから射出された小型のメカのことだ。1つ1つにジャマーが搭載されていて、パイロットの任意で自爆させることができる。
ガロント支部で騎士の警護をくぐり抜けたのは、このジャマー機能を使用したからだ。通常より広範囲のジャマーなので、最速でリークスの元へと辿り着けたのだ。
「…」
自分は成長したのだろうか、とグレイは思う。ナンバー5・リークスとの戦いで、カイに助けてもらわなければ死んでいた。それが、今は1人でナンバーを相手取り、勝利することができた。
やはり、吹っ切れたからなのか?またモヤモヤしそうだったので、そこで考えるのをやめておいた。
それにしても、警護が薄い。砲台があるとしても、ツィス団を始めとした今のメンバー全員の攻撃を防げるとは到底思えない。
「そうだ、砲台を今のうちに潰して…!」
もう一度ライフルを構える。飛行船が抵抗を見せる様子はない。弾丸が射出され、砲台を貫く。同じように他の砲台も破壊する
「…やっぱり、おかしいです」
飛行船の周囲にはステリアすらいない。ここが要だというのに、どうしてだろう、とグレイは思う。
「違和感に気付いても、何もしないのか?」
男の声だった。またも、割り込み通信だ。
「…っ!誰ですか!?」
「ナンバー1」
「ナンバー…1…!」
機体は、飛行船の下部から射出された。白に金の縁取り。右手には巨大な剣。剣のサイズだけでもクルツ5の全長を越えている。しかし、驚くべきなのはそこではない。その剣が馴染むほど、機体が巨大なのだ。
「まるで…」
「巨大な高貴、とでも思ったか?」
「こんなサイズが有り得るの…!?」
「…お前とあの小僧なら、操れるかもしれないがな」
「小僧…?」
「おっと、本人自身に教えるのは面白くないからな。今はとにかく…」
「やらせてもらうぜ」
今のグレイに、それは太陽をも覆うほどの巨躯に見えた。
ご拝読ありがとうございます。
最近お嬢様言葉を体得したい願望が生じました。
気品のある人間目指して頑張ります。




