第16話 決意!始まるみんなの戦い!
ダテカイザーは正義のロボットである。今日も量産機をメッタメタに叩き潰すのだ。
ダテカイザー、クルツ5がアストル号に収用された後、カイ、デイトン(もちろん外出仕様)、グレイは、前回戦果報告をした部屋に向かった。扉が開き、アストルとソリルの姿が見えた。円形の机の周りに並んで座っている。それに習い、2人も腰を下ろした。カイがデイトンを机上に乗せる。
「すっかり先輩だねぇ」
アストルが言った。
「先輩、って?」
「カイくんのことだよ。グレイくんの先輩みたいに見えるからさ」
「俺が先輩…!」
「あー、喜んでるとこ悪いけど、グレイさんの方が7歳上だからね」
「…」
グレイは黙ったままみんなの話を聞いている。考え込んでいるのではなく、カイ達の会話に微笑ましさを感じていた。
「いいですよ。カイさんが先輩で」
グレイは微笑んだ。
「お、おう」
(こいつ…やっぱり黒髪ロングが好きなの…?)
デイトンがカイの事を睨み付けた。
「なんだ?」
「別に!」
話し声を聞いて、ローラーンとミリアも集まった。
「カイ!あの量産機の群れによく勝てたね!」
「まぁな!グレイのお陰でもあるぜ!」
「そんなことありませんよ」
デイトンがあることに気付く。
「毎回私が何かに気付いてる気がするけど…リョーキとカタセは?」
「ここだ」
低い声。カイは察した。
「後ろに…いる!」
振り向くと、いた。パイロットスーツの長身のオールバックの男。
「エラント支部の時と同じだな」
カイが不意討ちを決められたことを言っているのだ。
「うるせぇっ!」
「一応捕虜でしょ!放しちゃダメでしょ!」
「いやぁ、大丈夫だよ、多分」
「えー…」
「狐月も破壊された今、私に逃げる術はない」
「いや、他のロボット奪って逃げたりできるでしょ…」
「そんなのできないように細工済みさ!」
アストルが腰に手を当てて威張った。
「いやでも銃とか持ってたら殺されるよ?普通に」
(でもこの人正々堂々とか言いそうだな…)
デイトンの予想は当たった。
「正々堂々とした勝負以外で他人の命を奪うことはできない」
「サムライって、やっぱりバカ…?」
「んでよ、リョーキはどうしたんだよ」
「あの人は殺しそうだからね…両手だけ拘束して倉庫にぶちこんだよ」
「賢明だ」
カタセが頷いた。
「いやぁ、なんか、ズレてるんだよねぇ…」
「さぁ、本題だ。僕たちが次にやることは、アサキメスの徴兵をやめさせること」
「つまり…」
「そう。アサストルを潰す」
決意の込もった声だ。肉親を打倒しようとしているのだから、当然とも言える。
「この際こいつのことについては触れてやんな…」
ソリルが言う。
「あれ?カイくん達知ってるの?」
「なになに、なんのこと?」
ローラーンが首をかしげる。
「ああ、俺たちはカタセから聞いた」
「教えてよ」
ローラーンが言う。
「私が言おう」
カタセが代わりに解説した。
しばらくたった後、解説が終わり、
「えええーーーっ!!」
とローラーンが驚嘆の声を上げた。
「カタセさん…すごい記憶力だね…」
「君たちのことは覚えていなくて申し訳ないが…」
「え?ローラーンたちとカタセって知り合いなのか?」
「ふふ、内緒!」
幸せそうな笑顔だ。カイが詰問しようとすると、デイトンに釘を刺された。「だから詮索禁止だって!」
「なんだよ…」
「はいはい!本題本題!」
「でもよ、徴兵ってやつはいつから行われるんだ?」
「公式発表だと…あと10日」
「10日…」
10日以内にアサキメスを打倒する。デイトンは不安だった。それは果たして現実的だろうか。アサキメスの全勢力と対峙するということなのだ。あの巨大な飛行船に加え、ナンバーがあと2人。世界各地の支部の勢力も集結するだろう。そして、
「皇帝の麾下…」
「あいつらはさっき倒したので全部じゃないのか?」
「おそらく違うね。あれは3分の1くらいじゃない?」
「あんなに居たのにか…」
「だって、凄く強いやつは居なかったでしょ?」
「…」
シュバールツを思い出した。確かに強くなかった。
「騎士のパイロットも居なかったじゃん」
「後は、あの新しい量産機!」
デイトンが人差し指をピンと立てた。
「もう解析は済んでるよ。あれはグレイくんが戦ったナンバー5が乗ってたステリアの量産型。ユーステリアの中身だけってことさ」
「でも、胸のバルカンがなかったですよ?」
「そう。機動力に全振りしてるってことさ。高貴みたいにお国柄の体現をするのは止めて、本腰を入れたんだ」
「それにしても、あんな数の新型量産機、よく隠し持ってたもんだ」
カイはそう言うと、カタセの方を向いた。
「私も知らなかった」
(ホントかよ…)
カイは訝しげにカタセを見たあと、またアストルの方を向き直った。
「で、どうするよ?」
「簡単さ。10日以内にアサキメスの全勢力を潰す」
「そうは言ったってよ…」
「大丈夫さ。勝機はある。心強い協力者がいるからね」
ふふん、とまた威張った。
「誰だ?」
「決まってるじゃないか。イエスト・イエスターさ」
「え…」
「ええっーーーー!?」
ガロント支部・内部。カイたちツィス団とイエスト・イエスターの襲撃により、支部の管理者・リークスを失った。今は臨時でアランクスが管理を任されている。
アランクスたちが到着したのは、ダテカイザーがアストル号に到着したのとほぼ同時刻であった。
「…なんかこの支部、寂れてるな」
ムーアが呟いた。
「その理由は、君が一番よく知ってるんじゃないかな?」
アランクスが穏やかに言う。ムーアはコックピットを撃ち抜いた感触を思い出して、気分が悪くなった。そうだ、この支部の統治をしてた奴を殺したのは俺だ。奴にも家族が居たかもしれないのに。そんな事を考えていたのが顔に出ていたのか、
「仕方のない事情があるんだろう?」
とアランクスが声をかけてきた。
「…それでも、殺したのに代わりはない」
「確かに君は人を殺したさ。けれど、この国はそれと比べ物にならない数多の人を殺してきた。今この瞬間もだ」
「それに加えて次は民を殺すつもりらしい。もう、限界だ」
「じゃあ何だ。義勇軍でも作ろうってのか?」
「その通りだ」
そう言い放ったアランクスに、ムーアが反駁する。
「無理だ。あんたの人脈がどれほどのものか知らないが、国一つには勝てやしない」
「ニーアと、君がいるだろう」
「な…」
本来敵であるはずの自分を仲間にカウントしたのにも驚いたが、それよりもあまりに楽観的であることに驚いた。…いや、嘘だ。この男は腐っても現皇帝・アサストルの子息だ。勝算のない戦いに挑む可能性は低いだろう。だとすると彼は何を頼りにしているのだろうか。もし自分が仲間になったとして、レレドは狐月にやられて再起不能だし、他に有力な味方が存在するだろうか。
「…」
「何を考え込んでいるんだい?」
「うわっ!」
急に話しかけられて驚いた。
「そう言えば、君を拘束したままだったな。ニーア、外してくれるかい?」
「了解しました」
ニーアが拘束していたムーアの腕をほどいた。少し痛んだ。
「ではこれから出発しよう」
「アランクス様、どちらへ?」
「仲間のところへ」
ほら、やっぱり用意してるんじゃないか。でも、誰だ?
徴兵宣言の翌日。イエスト・イエスターの本部があるワリン国際空港の一室。
「どうしてです!なぜ助けに行かないんだ!」
声を張り上げているのは、ミューエル・ウィルウィだ。通信をしており、その相手はあの箱のような角張った男だ。
「ムーアが助かっている可能性は低い」
「不時着していましたよ!」
「アサキメスに拘束されていると考えるのが妥当だ」
「だとしても!生きているなら助けるべきでしょう!」
「これは決定されている。以上だ」
通信は一方的に遮断された。
「なぜだ!」
ミューエルが壁を叩く。
「なぜ彼を助けようとしない…」
「…」
部屋のもう一人・マークは沈黙しており、一言も発しようとしない。まるで置物のようだ。
「…マーク。次の出撃はいつだと思う」
「徴兵宣言に反応してダテカイザーを始めとした一団がアサキメスに攻撃を仕掛けるだろう。そこに加勢する形になると予想する」
「漁夫の利、ね…」
「それだと意味が異なるぞ」
「え」
少しの間、ミューエルはポカン、と口を開けたまま固まった。そして、
「そうだね、悪かったよ」
と言って、微笑んだ。ブレないマークを見ていると、悩んで当たり散らす自分がバカらしく思えた。
「くよくよ悩んでても、仕方ないか」
「…」
ふとマークの方を向くと、部屋の窓から空を見上げていた。青というには薄い水色が、遥か彼方まで広がっている。
「空、好きなのかい?」
「…分からない」
マークは空に視線を向けたまま、返事をした。
「…」
空。見ているだけで、マークの心の中から形容できない何かが込み上げてくる。
いつか、あの空の果てまで行ってみたいと思った。
夜。超高層ビルの最上階。ガラス張りになっており、窓から無数の星が覗いている。男が2人。片方の男はグラスを片手に椅子に腰かけており、もう片方の男はその横に立っている。照明も点けずに、椅子に座った男は星空を見つめている。
「元首様、この状況をどう見ます」
「…一筋縄では、きっと行かない」
「何せ、相手はあのアサストルですからね」
「ここで大きく出たのは予想外だった」
「勝つのは我々か、アサストルか」
「…それとも、決定事項か…」
「まさか!奴にはまだそんな力はありませんよ」
「危惧しているのは奴だけではない」
「…1人増えたということですか」
「これは問題だ。しかし、順番を違えるつもりはない」
「待っていろ…」
男は、星空に手を伸ばした。
ご拝読いただきありがとうございます。
気合いを入れて書きたいと思っています。
義手って格好いいですよね。




