第12話 再戦のサムライ貴族
ダテカイザーは正義のロボットである。強大な敵を相手に、勇猛果敢に立ち向かうのだ。
格納庫、コックピットに搭乗する前にアストルが声をかけてきた。
「君の機体の両腕、ボディカラーに合わせといたからね」
「ああ、あのサムライの人のやつだったもんな…」
カタセが狐月の両腕をくれたのを思い出した。敵対しているはずなのにおかしな奴だったなぁと思う。
「それにしても…この機体はほんと謎だらけだ」
「寝ている間に調べたの…!?」
デイトンが過剰に反応した。彼女にとっては体の一部のようなものであるからだろう。
「ナノマシン…って、おかしいよね。やっぱり。ナノマシンはナノマシンでも、細かすぎて粒子状になってるんじゃないかなって思うんだ。生憎それを調べることはまだ出来ないんだけどさ、それで」
「…ハッチ閉めまーす」
バタン、とハッチが閉まった。
「ダテカイザー、発進!」
今回の作戦は敵の新しい戦力を見定めて、あわよくば破壊すること。4機の機影が確認された。まずダテカイザーで乱入し、マズくなったら退却、行けそうだったら増援という、非常に都合の良いようにできた作戦だ。
今日は空が曇っている。デイトンはちょっとがっかりしているようだ。
「曇りだし、カレーも食べられないし、はぁー…」
「電気に味ってあるのか?」
電気、というのはデイトンの充電のことで、デイトンにとっての食事は充電だからだ。
「ない、というか、分からない。私には味覚とかないからね」
「へー」
「…なんかムカつく」
地上が見えてきた。今回はアサキメス本国での作戦だ。大きな広野があり、小さな家が点在している。王都とは少し離れているらしい。
「カイくん。見えたかい?」
アストルが通信をしてきた。
「見えたぜ」
ちょっと浮いている。…ん?
「浮いてるぅ!?」
「どうやらあちらさんも開発してしまったようだ…というよりは、秘蔵っ子と言うべきかなぁ」
「経緯はどうでもいい!!勝てそうなのか?」
「それを確かめに行くんじゃないか」
「へいへい…」
噴射口の出力を上げて、ドーム目掛けて飛翔する。ロボットの外装がはっきり見え始めた。先頭に居るのは、先日戦った狐月だ。前と外見に差異がある。背面の翼の様なものから、腕が生えている。レレドを苦しめたサブアームだ。
報告では4機だったはずだが、狐月の1機しか見当たらない。レーダーにも引っ掛からない。
「うわ、またあの人と一対一なのね…」
「俺たちは強くなった!空も飛べるし、いけるぜ!」
「あっちは飛べるようになった上に新装備まであるんだけど…」
「先手必勝!」
「もうツッコむのも面倒くさい…」
腰のホルスターから150mm口径の銃を取り出し、連射する。この銃は普遍的なロボット用の銃よりは口径が大きく、1つ1つの弾丸が重い。基本、牽制や精密機械の破壊などにしか用いられないのだが、この銃は当たる部位によっては敵に大きなダメージを与えることも可能だ。しかし、カイの性格上使うことはあまりない。狙いを定めるのが面倒なのだ。
「あっ、弾切れた」
「1つも当たってないわよ!?」
狐月が一歩も動いていないにも関わらず、弾丸は全て外れた。建物が周りになかったのが幸いであった。
「ダテカイザー…相変わらずバカだな」
カタセがはは、と笑った。
「声聞こえないけどバカにされた気がする!」
「そのバカと一緒に乗ってる私のことも考えてよね…」
「次は格闘だ!」
着地する。地面が揺れた。
「もっとゆっくり着地しなさいよ!」
「スーパーなロボットはドシンと着地するんだよ!」
などと口論しているうちに、通信が来た。アストルからではなく、カタセの狐月からだ。
「3日振りだな、ダテカイザー」
「カタセ…カタセ・ミーデス」
「早い再会だったな」
「何か用かよ?」
「…この戦いは君に勝ち目はない」
断言した。
「やってみなきゃわからねぇだろ!」
「分かる」
「だから、退却しろって?」
「そうではない。ガロント支部を攻撃したのは、君の仲間だろう?彼らと君を一度に相手にしよう。無論、私はこの1機だ」
「なめてんのか…!?」
「私は―――この狐月・宵でどこまでやれるか試したいのだ」
「…いいぜ」
「ちょっとカイ!」
カタセが約束を守るとは限らない。デイトンは疑ってかかったものの、どこかでカタセは信用できると思っていた。
(これは、私の心…?)
「呼んできてやるよ、ツィス団メンバーをな!」
アストルは承認した。
「もうツッコむのも面倒くせぇ…」
「だけど、今回はエーリの左右だけだよ」
「サイエビットはまだ修理中だってよ」
ソリルは騎士を思い出したのか、軽く溜め息を吐いた。
「僕と修理ロボットじゃあ限界があるんだよ」
「グレイくんは…まぁ難しいよねぇ」
「じゃあ私とミリア、行ってくるね」
「頑張ってねぇー」
アストルが手をひらひらと振った。
「さてと」
「?」アストルが首をかしげた。
「お前の素性について話してもらおうか」
「…もう疑われてるなんてね」
「会ってもう10日は経つが、お前はどうにもおかしいからな」
「君は…そうだったね」
「ああ。もうこれは俺の性だから仕方ない」
ソリルが銃を向けた。
「話すよ。話す」
アストルは神妙な面持ちになり、白衣の腰ポケットから長方形のデバイスを取り出した。画面をソリルへ向ける。
「僕は―――――」
エーリには噴射口がない。そのため、アストル号が地上ギリギリまで下降しなければならない。海へ着水する。
「エーリR、ローラーン・カナン、行くよ!」
「…エーリL、ミリア・カナン、行きます…」
アストル号前面の射出口からR、Lの順に飛び出した。膝の辺りまで水に浸かる。
「うひゃあ、また水場?」
「…早く噴射口付けてくれないかな」
陸地はすぐ近くで、あと数メートルほどだ。歩く。
「ミリア?」
「…なに?」
「アストルさんってこのロボットどっから持ってきたのかな?」
「…闇ルート、とか」
突然の物騒なワードに、ローラーンは驚いて、それから笑った。
「ミリアが冗談言うの久しぶりだねっ!」
「…そう、かな」
昔のミリアに戻ってきているということだろうか。久しぶりに私以外の他人と会話したからかもしれない、と思う。
陸に着いた。変なモノが浜辺に鎮座している。巨大な球体だ。
「脱出ポッド?でも生体反応はないね」
気にせずに行くことにした。
「おー、きたきた!」
「うわ、あのロボット腕6本もあるじゃん…」
「他の2機は?」
カタセが尋ねた。
「片方はあんたらのとこの騎士にやられて修理中。もう片方は精神ダメージが大きくてな」
「多足とあの忽然と消えたという機体か。手合わせ願いたかったが…」
忽然と消えたというのはグレイのクルツ5だ。カイもどういう機能なのか知らない。
「とにかく…やるならやろうぜ!」
「よし、宜しく頼む」
「ねぇねぇ、カイってあのロボットのパイロットとお友達?」
「そんなんじゃねぇけど、なんつーかなぁ…」
「人生指南してくれた人みたいな?」
デイトンが代弁する。
「あと、両腕くれた人だな」
「?」
「5秒カウントの後に開始する」
「よぉし!」
カウントされると緊張する。カイは汗をかいた。
「5」
「空調の温度下げよっか?」
「いや、いい」
「4」
「暑いと体に悪いかもよ?」
ローラーンが口を挟んできた。
「3」
「いいって言ってるだろ…」
「またまたぁ」
「2」
「む、黒髪の次は茶髪狙いなの!?」
「次から次になんだよ!」
「1」
「大体茶髪だったら私だって…」
「今話すことかそれはよ!」
「0」
「いちいち話しかけてくる奴を狙ってる前提にすんな!」
「バカなのにツッコミに回るの珍しいわね」
「うるせーよ!」
「いざ、勝負…!」
それぞれが自分の役割を瞬時に理解し、陣形を作る。近接戦闘にエーリRとダテカイザー、後方での射撃にエーリL。ダテカイザーとエーリRのバイブレーションニードルが起動する。振動で足元の草が揺れた。
最初に仕掛けたのはダテカイザーだ。右腕、左腕の順にトンファーを突き出す。狐月はサブアームを使うまでもなく右腕の刀で受け止めた。そこへエーリRが滑り込み、狐月の足を払う。エーリRのバイブレーションニードルは足に装着されていて、足技を主体とした攻撃が得意なのだ。狐月はトンファーを押さえつつ、飛び上がりエーリRの足を躱した。ワイヤーで吊られているかのようだ。
そこへ弾丸が飛来する。エーリLの巨大口径の長距離ライフルだ。
「こんな至近距離で撃ってくるとは…!」
本来はもっと長距離を狙撃する際に使用するライフルだ。だが、距離が近い分、当然到達速度が速い。回避に気をとられている内に、当てる。という魂胆なのだ。
「その程度、見抜けないと思うか!」
「知ってたぜ!」
ダテカイザーはトンファーを刀から離し、何かを投げた。先ほど撃ち終わった150㎜口径の銃だ。
「目潰しか…そうは行かん!」
狐月がサブアームの刀で切り捨てる。銃は斜めに二分された。
「やっぱ簡単には行かねぇか!」
続いて、ライフルの弾丸も叩き落とされた。
「凄い…少しでもズレたら刀が折れちゃうわよ」
「さっすが、サムライだな…よおし!」
噴射口から光が放たれ、ダテカイザーが宙に浮く。
「カイ!今飛んでもダメよ!」
狐月がダテカイザーを見上げている。そして飛んだ。
「空中戦か…いいだろう!」
「ちょっと!私たちは飛べないんだけど!」
「そこで見てろよ!」
「はぁー…」
「…お姉ちゃん、元気だして」
「勝てる秘策でもあるの、カイ?」
「…今回は、正直ある!」
「め、珍しい…」
デイトンが本当に驚いた様子で、カイはちょっとだけ腹が立った。
「とにかく…あるもんはある!」
カタセは興奮していた。彼らこそが、自分の血を沸騰させてくれる。指の血管の先まで煮えるような感覚がする。
どうして彼らなのか。出会ってから数日、考えた。しかし、理由は見当たらない。それに、この気持ちを前にして、理由など意味をなさない。
「さぁ、かかってこい、ダテカイザー!!」
ご拝読ありがとうございます。
最近プラモデルに手を出しました。
ランナーからの手もぎはやめた方が無難です。




