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爆天砕地ダテカイザー  作者: 相羽マオ
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第10話 黎明!皇帝と騎士!

 ダテカイザーは正義のロボットである。今日も人間の平和と安寧の為に戦うのだ。




 次の日の昼、アストル号で戦果報告が行われた。椅子に座った5人が円形の机を囲んでいる。デイトンはいつも通り机の上のコースターの上。

「僕たちツィス団が与えたダメージは補給船2隻のみだね」

アストルが机の中心にあるモニターの画面を点けた。ポリゴンの高貴の横に『×180』と書かれている。

「どうなんだ?アサキメスにとっては」

そう言ったのはソリルだ。

「大きいといえば大きいかな。末端の支部に高貴(ロイヤル)を回す余裕はもうないと思うよ」

「堀は固めたってことか…」

「それよりさ」

今度はローラーンが喋った。

「No.5のリークスが死んだことの方がダメージでかいんじゃないの?」

「…そうだねぇ」

誰かが切り出すのを待っていたようで、アストルが説明を始めた。

「これは大きいね。イエスト・イエスターは以前から強力だったけど、これでもっと目の敵にされるだろうね」

「アサキメスは何をすると思う?」

「イエスト・イエスターに対抗して精鋭チームを作る可能性が高いね」

「精鋭…」

「つまり、各支部の守備が手薄になるとも考えられる。けど」

「けど?」

カイとデイトンの声が重なった。睨み合う。

「僕たちのこともほっとけない筈だから、作ってはい終わりー…とはいかないと思うね」

「つまるところどういうことだ?」

カイが尋ねる。

「分かんないね。何も行動しないかもしれないし」

「なんだぁ…」

「15代当主のアサストル・アサキメスは何を考えてるか分かんないことで有名だし…」

「ま、戦争をおっ始めたんだから悪いやつには変わりないだろうがな」

ローラーンがこの部屋にいる人間の顔を流れるように見た。何かに気付いたようだ。

「あれ?グレイちゃんは?」

「本当だ、黒髪の姉ちゃんがいねぇ」

「黒髪好きなの?」

デイトンが訊いた。

「別に好きじゃねぇけど、なんだよ」

「いや、なんでも…」

(デイちゃん、いきなりすぎる…)

ローラーンは思った。


「あの娘は塞ぎ込んじまったみたいだぜ」

ソリルが言う。

「両親とリークスの死を重ねてしまったのかもしれないね…」

「降りるとか言わないよね…」

「あいつの意志は揺らがねぇと思うぜ」

カイが断言する。

(何かしでかすまでは、多分あいつはやめない)

あの時感じた強い意志は、絶対に揺らがないだろう。

 


 デイトンは、カイの顔を見て思った。

 同じ思いを、カイも感じている気がする。最初に出会ったとき、彼から感じた寂しさだ。あれは自分と同じものではないか。境遇も全く違う彼が、どうして同じ寂しさを感じるのか。

 私とは真逆で、考えることが苦手な彼が、くよくよ悩まない彼が、どうして、同じ気持ちを抱えるのか。

…どうして、こんなときにそんなことを…





 ニーアは飛行機の窓から空を見ていた。綺麗な青だ。発色のよい原色の青とはまた違う、穏やかさを感じさせる薄い青。

「1人、か…」

今日はアランクスはおらず、1人だ。本国から呼び出しを貰い、こうして1人雲の上である。何かしらの式を行うらしいが、詳細は知らされなかった。いつもアランクスの隣にいたので、離れるのはもう何年ぶりになるのか分からない。

「ニーア様、飲み物をお持ちしましょうか?」

女の乗組員が声をかけてきた。アランクスのような王家の人間専属の兵士であるニーアは、貴族と同じ待遇をされる。貴族に対するサービスは過剰なのだ。わざわざ専用の部屋まで用意してくれていた。

「いえ、結構です」

このように30分ごとに訊いてくる。大変だろう。

「私は大丈夫です、お休みください」

「お気遣い頂き有難う御座います、ですが…」


 貴族制度が未だ存在しているアサキメスだが、正直に言って必要ないとニーアは思っていた。取り巻きのナンバー達、自分のような専属の兵士、プラスアルファ。この程度しか貴族、または貴族扱いはいない。一体何のための貴族制度だというのだろうか。

(まぁ、何の影響もないから、いいのか)

そもそも貴族の数が少なく、ほとんどが行政、軍に携わる者である。普通に生きていれば関わることのない人種なのだ。だから差別などといった問題は起きないし、生活を逼迫させる原因にもならない。厳しく取り締まられているため、悪巧みをする貴族もいない。やはり、どちらでもいいか。

 そういった面も含めて、この国が気に入っている。侵略行為には反対の声も多いが、生活に影響が出なければ、自然とそういった声も鳴りを潜める。この国の住民は世界で最も幸福だと思う。箱庭の幸せだとか、そういう批判もあるだろう。だが、

(命の危険がないというのは、最上の幸せだ)

自分本意で生きることは、間違いでないと思うのだ。大切な人を亡くしてからでは、遅い。大切な人と共有できる時間は、限られたことだとニーアは知っている。

「お母さん、お父さん、お兄ちゃん…」

願わくば、そういった生活を。他人の幸せの上に立っても、自分たちが幸せな生活を…。

 私が大好きな、この国の人々に。私と違う道を。





 イエスト・イエスター、彼らもまた戦果の報告をしていた。ワリン国際空港の数あるスタッフルームの一室で、3人の男が長机に横並びに座っており、1人の男が対座している。

「今回は目的も遂げられたし、素晴らしい」

「リークス…アサキメスのNo.5」

呟いたのはマーク・ディンス。リリドのパイロットだ。キャラメル色の髪には艶がある。小柄で、ムーアの肩ほどまでの身長だ。

「で、次は何をすりゃいいんだ?」

白髪の男、ムーアが対面の男に尋ねる。

「次は、アサキメスの王都で行われる何らかの式を襲撃する」

「何らか…って、なんです?」

そう言ったのはミューエルだ。長めの黒髪を紐で括っている。

「分からない。だが、カタセのようなナンバーたちも出席するらしい」

その男は箱のような男だった。角張っていて、巨大。その巨躯に睨まれれば、誰でも怯んでしまうであろう屈強な男。

「で、俺たちにはそこへ突っ込めと…」

「アサキメスは空を飛べる2足歩行の兵器を保有していない。爆撃して退却するだけだ。危険はない」

「彼らが対空兵器を配置しない訳がないと思いますが…」

「無論、その可能性は高いだろう。我々は既に認識されている。当然のことだ」

「…じゃあおっさん、どうすんだよ?」

ムーアは両手を頭の後ろに回して足を机に乗せた。その行儀の悪い行動を咎めることもなく、男は続けた。

「単機で行ってもらう。ムーア・クルーズ。君にだ」

「俺、か…」

「レレド以外の2機はまだ万全ではない。現在最大スピードが出せるのはレレドだけになる」

「なるほどね…」

「式は明日の朝10時から行われる。7時に発進する。また、右腕を超硬度質量弾長距離砲(リリ・ダッド)に換装する」

物凄いスピードで射出される質量弾は、まるで点滅するレーザーのように見える。その破壊力は、直撃した高貴の装甲が綺麗な円形に削られるほどだ。

「一撃をぶちかませばいいんだな」

「この作戦は今後の情勢に大きく影響する。元首も期待を寄せている」

「…元首さま、ね」





 グレイは照明も点けていない暗い部屋の中、ベットに横たわっていた。人が死んだ。確かに死んだのだ。目の前で、命を散らした。彼の魂が消える瞬間が、見えてしまった。見てはいけないような気がした。

 

 人の死を、幼い頃から見てきた。

 

 グレイの父親は、木星計画に携わる技術者だった。木星計画は長期に渡る開発であったので、小さな街が開発船内部に出来ていた。母と一緒に、グレイも付いていった。3人で暮らした。優しい両親だった。

 15代アサキメス王の侵攻が始まった。

 開発船は放棄され、約3000人もの人々が取り残された。そこからだ、人の死をよく見るようになったのは。

 食料を奪うため、殺し合う。船の外へと身を投げる。錯乱し、他者を殺める。血の色をよく見た。

 両親がそれをさらに彩った。

 銃撃によって、死んだ。最期の時まで、グレイを抱き締めていた。幼い彼女の頬には、母の血が伝っていた。



 断片的にしか思い出せないほど、嫌な記憶だ。それが、リークスが死んだ瞬間に突然よみがえった。

「お母さん、お父さん…」



 次の日。



 ニーアは式典会場に入っていった。現在時刻は9時、開式まであと1時間あるが、特にやることもなく、席に座って大人しく待つことにした。それにしても広い会場だ。赤いカーペットに、石で出来た巨大な円柱形の柱。はるか天井まで伸びているその柱は、会場にいる人間の縮尺が間違っているように感じさせた。天井は吹き抜けになっていて、昨日とは変わって雲に覆われた空が見えた。わずか50人ほどが集まる式にしては、会場が広すぎる。遥か前方にあるステージは、こちらを見下ろすには十分すぎるほど高い。

 席は2列になっており、前に5席、後ろに50席ほどある。前の席に座るのは、席数的にナンバー達であろう。しかし、リークスは一昨日の戦いで命を落とした。なぜ座席を設けたのだ?誰か新しいNo.5を決め、そこへ座らせるのがこの式の目的なのか?それにしては人が多いし、面倒で無駄なことである。



 少しして、他の人間がぞろぞろ入ってきた。分かってはいたが、兵士ばかりだ。先日の戦いで同じ戦場に立ったシュバールツもいた。ニーアの顔を見つけると、小走りでこちらに向かい、隣に座した。

「ニーア殿、貴公もお呼ばれしたようで」

「そのようですね」

「なぜ呼ばれたか知っていますか?」

「知りません」

先ほど考えたことは言わなかった。

「先日リークス様が亡くなられたでしょう。きっとその代わりを…」

「そうですか…」

シュバールツは面白くなさそうな顔をして、軍服のポケットから薄い端末を取り出した。多分メールか何かだろう。

 ナンバー達はまだ来ていない。後から入場するのだろうか。 


 バスドラムの重い音が響いた。アサキメス国歌の演奏が始まったのだ。それに合わせ、男がステージの階段を上がっていく。一歩一歩歩く度、長い白髪が左右に揺れた。麗しさを全体に纏わせながら、男は演台の前で足を止めた。


「ようこそ、精鋭(帝国の騎士)のみなさん」


不敵な笑みを浮かべた男に、ニーアは畏怖してしまった。生気のないビスクドールが喋っているようだ。無機物が喋るのは、不気味だ。


「今日からこの国は、聖アサキメス()()となります」

「…何?」

場が凍った。


つまり、彼は――――

「皇帝を名乗ろうというのか…」

閲覧していただきありがとうございます。

今回は遅くなりましたが、週に1話投稿したいと

思っています。

気合いでどうこうなるロボットが好きです。


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