第9話 ガロント支部強襲作戦(後編)
ダテカイザーは正義のロボットである。今日も大国を相手取り、戦争の愚かしさを説く…のだ。多分。
ダテカイザーはステリアに殴りかかった。ジェットパックのように噴射口を噴かし、放物線を描きながら拳を突き出し、殴りかかった。
「そんな遅い攻撃で!」
ステリアは飄々と躱してしまった。カウンターが来る。ステリアが勢いよく飛び上がった。得物で一刀両断するつもりか。
「行きますよ!」
クルツ5の90mm口径銃の援護射撃がステリア目掛けて向かうが、空中で機体を捻って直撃を避ける。
「さっきの硬派さはどこにいったんですかね…」
「その状況ごとで無駄なモノを捨てるのがプロだ」
「…」
「ニーア、君と話してるつもりだったんだが…」
「それは失礼しました」
ニーアが騎士を前進させる。片腕が欠損している為、無理は出来ない。
「だが、相手はダテカイザー…」
はやる気持ちが抑えられない。紫の機体、クルツ5の射撃が危険であると理解しつつ、ダテカイザーの方へと向かってしまう。
(戦術的には紫を叩くのが先決だ。だが…)
「ニーア、何をやっている?君なら分かっていると思ったのだが…紫の相手を頼むぞ」
「…了解しました」
(…そうだな、私はアサキメスの軍人だ)
自分を律しようとしたが、諦められなかった。
その時、3機の細身のロボットが上空から降下してきた。三角形のフォーメーション。
「間違いない…イエスト・イエスターだ」
「こんなにも復帰が早いなんて!」
デイトンは昨日の戦いを思い出していた。青の機体と緑の機体はダテカイザーの攻撃によって大きく損傷した。よく観察すると、リリドの右腕は左腕と同じように普通の腕になっており、銃口ではなくなっていた。
「その分チャンスかもな…コックピットから引きずり下ろしてやる!」
「ホントに大丈夫かなぁ…」
カイは気合い十分だったが、デイトンはそんなノリではなかった。いつも通りだ。
「ほんっと、仲がよろしいようで…」
グレイがクスクスと笑っている。
(ここでよくないって言ったらハモりそうだな…)
(ここでよくないって言ったらハモりそうね…)
「ダテカイザーに攻撃する」
滞空しているリリドが腰から銃を取り外し、ダテカイザーに銃口を向けた。
「マーク!いつもと違うからな!気を付けろよ!」
レレドのムーアが通信する。
「分かっている」
それにリリドのマークが答えた。
「僕は紫と兜の方をやるよ」
そう言ったのはルルドのミューエルだ。
「生憎…こっちも空が飛べるんでね!」
「行かせるか!」
ステリアが飛ぼうとしたダテカイザーの足を蹴飛ばした。前のめりに倒れる。すかさず得物を振り下ろそうとするが、リリドの弾丸がそれを阻んだ。
「…っ、直撃は危険だ」
リークスはまたもや焦っていた。ガーステリアからステリアになったのはあの紫の機体、つまりクルツ5を仕留められると思ったからだ。こんな混雑した戦闘になることは考慮していなかった。
「2対2ならまだしも…プラス3とはな…」
流れ弾でも直撃は心配だ。ここぞというチャンス以外は防御に専念する。
(そして、彼に認めてもらうために…)
「お?大将が撤退してくぜ?」
「まだ海岸の方の部隊は到着してないみたいだけど…」
「ビビりか…?」
「そんなわけないでしょ!…うん、そんなわけないわよ」
「近接戦闘に持ち込む」
リリドが銃先から剣を展開すると、槍のようにして突き始めた。ダテカイザーはレーザートンファーでそれを押さえつつ後退りした。高低差で押さえ込まれている。
「どうすんの!」
「俺も飛ぶ!」
噴射口から光が放たれる。少しずつ増幅して行き、収束した。すると突然大きな光となり、爆音を響かせた。
「…っ」
物凄い出力だ。リリドはそのまま押し上げられる。
「レレド、射撃を頼む」
「りょーかい!行くぜ、今回は普通の距離だが…超硬度小型質量弾砲!」
「またあのスナイパーライフルか!」
「カイ!躱して!」
今、ダテカイザーはリリドと押し合っている。出力を下げれば押さえ込まれ、上げれば的になる。
「だったら…超スピードで押し上げてやる!」
「もう限界出力だけど!」
「そんなの…知ぃるかよぉ!!」
カイがレバーを限界まで倒す。
「レレだかリリだか知らねぇが、ぶっ飛ばしてやる!」
「もう!さっきから叫びすぎよ!」
不思議とリリドを押すスピードは上がっていった。気合いに応える訳がないので、きっと空にいるアストル号がだんだん近くなってエネルギー供給量が増えたのだろうとデイトンは仮説を立て、自己完結した。
「クソ、狙えねぇぞ、マーク」
「…ならこいつは俺が倒す。ミューエルの援護に行ってくれ」
「大丈夫かよ」
「心配するな」
レレドがその場から離脱する。2機は雲を越え、対峙した。
「1対1か…!」
「青…」
その色だけは、マークにもはっきりと見えた。
一方、クルツ5と騎士、ルルドとレレドの4機の戦場では、目が回るような戦いが繰り広げられていた。
クルツ5が超硬度ナイフを振るい、それを騎士がまたナイフで受け止める。そこへルルドが銃剣で割り込み、遠くからレレドが狙う。状況はイエスト・イエスターが有利だった。というのも、クルツ5と騎士はそれぞれ破損しているのだ。
「いずれ、あの長距離射撃にやられる…」
グレイは危惧した。だが騎士は攻撃を止めない。相手も狙われていると分かっているはずだ。
(イエスト・イエスター)
ニーアはその単語を反芻していた。家族の仇だ。
(いつだ?いつ奴らを仕留められる…)
別に仇だから優先するという訳ではない。そう思い込むことにして、クルツ5へ攻撃しながら考える。
灰色の機体はここからは見えないため、まずやれるのは緑の機体になるだろう。ルルドは滑空しながら攻撃を仕掛けてくる。その時しかない。スピードが尋常ではないが、こちらの騎士だってスピードが売りなのだ。
ルルドの攻撃を待つ。意表を突くために、クルツ5への攻撃の手は休めない。
「…来た」
「この人、イエスターを攻撃しようとしてる…!」
グレイにも伝わったようだ。ルルドが飛んでくる。
「…いけ!」
騎士がナイフを投擲した。
当たった音はした。だが、どこに命中したかまでは分からない。
(…いってくれたか?)
騎士はルルドが過ぎていった方向を見た。仰向けに倒れ込んだルルドの顔に、ナイフが突き刺さっている。
「これは…やられたね…」
ミューエルは諦念した。レレドに頼ろうとしなかったのが駄目だったのだと、後悔した。慢心した。まさかこのスピードに着いてこれるとは。
「ここ最近はイレギュラーとたくさん会うみたいだ…まぁ、イエスターズも十分イレギュラーな存在か…」
騎士が少しずつルルドに近付いていくと、突然、ステリアが横を駆け抜けていった。
「ニーア!紫を頼む!」
「リ、リークス様!今は――――」
ここで自分がやらなければ。いくら作戦が崩されても、No.5としての矜持も崩されては意味がない。
(彼の―――カタセのように、なるんだ)
いつも慎重なリークスにとっては、真の実力者であるカタセは憧れだった。彼のようにアサキメスの臣下である矜持を、そしてそれに見合う実力を。だから、彼に認めてもらう。イエスト・イエスターの1人をやれば、彼も認めてくれるだろう。作戦を乱したイレギュラーだが、これはチャンスだ。
「待っててくれ、カタセ…!」
弾丸が、ステリアのコックピットを撃ち抜いた。
「リークス様!」
ニーアは叫んだ。あのリークス・ダントが、死んだのか?アサキメス王の取り巻きの中でもNo.5の、あのリークスが?
(一体、どうしてあんな行動を―――)
もしかすると。私がダテカイザーに感じているあれと同じものなのか。
「感情は、人を殺す…」
リークスは、感情に殺されたのか。ならば、私もいずれ…。
「人が…死んだ」
グレイが力なく呟いた。覚悟は出来ていたはずだ。なのに、どうして手が震える?両親と重ねてしまったのか?
「私は…私は…!」
「ミューエル、大丈夫だったか」
「うん…それよりムーア、声が震えてる」
「…嘘だろ、おい…」
「あれ、おかしいぜ…なんか、おかしい…!」
ムーアが嗚咽を漏らした。確かに、自分が殺したのだ。
「覚悟はあったはずなのによ…でも、やっぱりよ…」
「…わかってる。イエストの傀儡になってるのは、あと少しだけさ」
「すまねぇな、こんな情けないところを見せちまって…」
「マークがいなくてよかったね」
ミューエルが映像越しに笑いかけた。
「ホント…だな」
ムーアもそれに笑い返した。
「…了解、一時撤退する」
リリドが攻撃を止めた。
「お、おい!まだ戦闘中だぞ!また逃げんのかよ!」
そう言われて、マークは通信を繋いだ。カイが承認をする。
「リークス・ダントが死んだ」
「な…」
「さっき白衣のおっさんが言ってた…アサキメスの…」
カイもデイトンも衝撃を受けた。時間が止まったような空白の後、カイがようやく口を開いた。リリドはまだ居た。
「誰が、やったんだ」
「…知らない」
そう言うとリリドは飛び去っていってしまった。
「クソ…また人が死んだのかよ…!」
「どうして…みんな殺したくないはずなのに…!」
太陽は山にすっかり隠れてしまい、辺り一面は藍色と黒に覆われていた。
「…命、か」
エラント支部での戦いは、アサキメスのNo.5、リークス・ダントの死により終結した。この戦いによる被害は、アサキメスの補給船3隻、その中に収容されていた高貴約180機。
この戦いから、変革の道が拓かれるのか、まだ誰も知らない。
そして、それはこの男にも知り得なかった。
「陛下、リークスが戦死しました」
「彼の魂もあの宇宙へ導かれることだろう」
長い白髪に、紫と金の燕尾服。ビスクドールのような肌は、齢を推測させてくれない。10代にも、30代にも見えた。長身で、線の細い体だ。
「とうとう変革の時が来たんだね…僕は、真の皇帝になる」
聖アサキメス王国第15代―――『皇帝』
アサストル・アサキメス。
閲覧していただきありがとうございます。
こんなノリでやっていくのでお願いします。
同じ型番のロボットとかの共通機構が好きです。




