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爆天砕地ダテカイザー  作者: 相羽マオ
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第1話 誕生!正義の味方ダテカイザー

 カイの生まれて初めての記憶は、水槽の中から外の世界を見ていた記憶。ひどく歪んで見えた。同時に、使命感に駆られた。    

      そうだ、俺が――――

         正義の、味方だ。


 現在、世界は2つの巨大国家と数多の国家によって成り立っている。

 

 巨大国家はそれぞれ聖アサキメス王国とMD連邦である。聖アサキメス王国は他国から見れば退廃的とも思える貴族制が未だに存在しており、世界最大の王政国家として君臨している。

 

 MD連邦は普遍的な近代国家ではあるが、平和主義を掲げている為ここまでの大きさを誇ることが出来ている。平和の名の下に多数の国々が集結したのだ。

 しかし最近ではテロが横行している少数の国家に武力を用いての介入を行い、平和主義はお飾りであるかの如く軍備の増強を行っている。連邦からの脱退を所望している国家も多数あり、MD連邦の中枢国家であるイエストを除き瓦解状態にあった。

 しかし、その流れを断ち切ったのは、15代アサキメス王が開始した『侵略行為』だ。

 最終的に元連邦の国家は、イエストからの経済圧迫、アサキメスからの侵攻の板挟みとなり、イエストの支配下に置かれるしか存続する道はなかった。MD連邦は意識的には乖離、事実的にはより強固な繋がりとなった。

 こうして、アサキメスとイエストの対立構図が出来上がり、巨大二国家間の戦争が始まった。残りの小国は、その流れに飲み込まれていた…。

 

 これが、14年前から慢性化した。

 「退廃国家」聖アサキメス王国、「意識的瓦解の」イエスト、そして残りの国家。戦火の拡大は、誰の目にも明らかだった。

 新たな人型兵器もそれに油を注いだ。ロボット―――強大な悪と戦う訳でもなく、怪物の退治をする訳でもない。

 それはただの殺人兵器だ。

 


 小国ダレストア、研究センター。

 ダレストアはMD連邦の一員であり、連邦の最東に位置している。先進的な技術を有しているわけでもなく、いたって普遍な国家である。

すなわち、それは連邦の中でも最もアサキメスに近いということである。

侵攻に晒されたダレストアは、―――こういうと陳腐ではあるが――――

非人道的な実験を行った。兵士の育成。人型兵器の操縦に特化した子供達。

 今日、とうとう実戦に1人が投入される。最近鳴りを潜めていた侵攻が、再び活性化したのだ。


 カイは目を覚ました。


 マスクの男がカイを薄暗い格納庫へと連れ出した。目の前に青いロボットが佇んでいる。コックピットが開いており、昇降用の電動レールのロープが垂れている。

「急げ。敵はすぐそこまで来ている」

「こいつに乗るのか?」

「いや…」言葉を濁した。

その瞬間、カイは青い機体の元へ駆け出していた。

「おい、待て!」

ロープにしがみつく。重さを感知して巻き上がった。コックピットの横で止まる。マスクの男達が銃をこちらに向けている。

「被験体、その場を動くな」

「そう言われたら…」

動くしかないだろ。

 ロープから飛び、コックピットへ勢いよく転がり込む。すぐにハッチを閉めた。

(…いつもやってきたはずだ。レバーを引いて、起動…!)

しかし、動かない。よく見ると、いつもとは違う。レバーの本数も、スイッチの場所も、何もかも訓練で乗った機体とは違った。

 そうしているうちに、格納庫の天井が破られた。爆発によってだ。


 

 アサキメスのロボットは目立つ。これでもかというほど『高貴(ロイヤル)』を振り撒いているからだ。というのも、機体が金で縁取られており、さながら燕尾服のようであるからだ。

 瓦礫の中、突っ立ったままのカイの乗っているロボットは、ようやく視界が晴れた。コックピットを開ける。そこには、燕尾服が4機。

一方的に街を蹂躙している。得物で建造物を破壊し、銃弾の雨を降らせる。その下には、人々がいる。

 

 カイは怒った。頭に血が上るのを感じる。今すぐその蛮行を止めてやろうと思った。だが、やはりロボットは動かない。このままでは人が死ぬ。レバーを何度も押したり引いたりしたが、動かない。手に汗が滲む。気持ち悪い。



「誰…?」女の声だ。

コックピットには自分以外いないはずだ。視線をメーターの上へと向ける。平べったい円柱の何かがあった。その上にいたのは、―――小さな少女だった。

 小さな少女とはどういうことかというと、年齢的ではない。物理的な方で小さいのだ。15cmほどだろうか。手をかざす。すり抜ける。質量がないらしい。平べったい円柱は、どうやら彼女のお立ち台のようだ。

「そ、外!外の世界!!」

コックピットから外を見た少女は小躍りした。ジャンプもした。カイの存在を思い出して、頬を赤くする。

「こほん…」

「…というか、あなたホントにパイロット?」

「そんなことどうでもいいだろ!」

そう。今やらなきゃいけないのは、目の前の戦いを止めることだ。


「こいつの動かし方を教えてくれ!」

「ちょ、ちょっと!」

「なんだよ?」

「あなたホントにパイロットなのね?」

「それでいいから操縦方法を教えろよ!」

「パイロットなのに知らないの?!」

少女はキャラメル色の髪を腰まで伸ばしていた。双眸は髪と同じキャラメル色。その周りの虹彩はそれを少し薄くした色だ。


「…仕方ないわね。まずレバー2つを横に倒して!」

「こうか!」倒した。

「次は自分の方にレバーを思い切り倒して!」

「こうだな!」倒した。

「あとはハンドル部分を前に捻る!」

「おらぁぁっ!!」捻った。

「叫ばなくていいのよ!!」


起動音が鳴る。ロボットの外装の線に合わせ緑の光が走っていく。カイは頭の中に何かが流れ込んでくるような感覚がした。

「動いた…!」

「はぁ…世話焼ける…」

カイは直感でスイッチを押す。頭の側面のライトがチカチカと光っただけだ。

「スピーカーは?」

「その下!」

円形のボタンを押した。ハウリングが起きた。

「聞けぃ!悪の手先ども!正義の味方、えーっと…」

「TS-5、シルバークローバーよ!」

「ダサいなそれは…」

アサキメス兵は唖然としていた。急に見たこともないロボットが動き出し、何か喋っている。

「なんなんだあいつ…」


「お前、名前は?俺はカイだ!」

円柱の側面に英字が出る。『Daten』

「だ、だて…なんて読むんだ…」

「デイトンよ!それがどうし…」

「よし!俺とお前、2人合わせてダテカイザーだ!!」

「は、はぁぁぁぁ?!?!」


呆気にとられていたアサキメス兵は、はっとして青いロボット―――ダテカイザーに攻撃を仕掛ける。燕尾服が4機、さながら舞踏会のようだ。

「指揮を」

「円形を崩さずに前進、銃で集中砲火ののち爆雷を使用せよ」

「はっ!」


 銃弾が飛んでくる。ダテカイザーは胸を張り、見得を切る。正義の味方をイメージしてるようで、右手を開き、前方へ突きだしている。

「掌からビームは?」

「出ないわよ!」


 ダテカイザーは白を基調としたボディに各所が海のような青色で彩られており、その顔には長方形のスコープが張り付いている。さらに側頭部には左右双方に丸いダイヤルのようなものがある。頭の右側からはアンテナが伸びており、背面にはバックパックが装着されている。


「喰らえ!ダテ…パンチ!!」

円形陣の先頭に思い切りパンチを喰らわせる。燕尾服の顔にめり込む。まるで人間が殴っているかのような滑らかな動作だ。

「やらせるか!」

燕尾服が銃を取り出し、ダテカイザーへと発砲した。跳ね返る音だけが聞こえる。銃弾は装甲に弾かれたらしい。

「ダテ…キック!!」

飛び上がったダテカイザーが、腰を捻り、右足を思い切り横に回転させる。飛び蹴りだ。燕尾服の太股に激突し、真横へ吹っ飛んだ。


「…前部の2体が戦闘不能です。生きてはいます。」

複数のモニターを目の前に金髪金眼の男が椅子に座っている。長身痩躯で、足を組んでいる。

「これは驚いた。端々の国にも我々の兵器に対抗できるものがあるとはね」

「どうします?」

「ニーア、やられた2人を回収して撤退してもらえるかな?」

「了解しました」

通信を切ると、男は息を吐き、足を組み替えた。

(ダテカイザー、か…)


「どんなもんだ、ダテカイザーは!」

退却したアサキメス兵を見て完全に有頂天になっていた。

「それにしても驚いたな。銃弾が全く効かなかった」

「そりゃあそうよ!」デイトンは得意気な顔をした。

「なんてったってシルバークローバーは他のTS機たちと比べても革新的なエネルギー機関と装甲を有しているの!装甲なんてアサキメスの爆雷を戦地でわざわざ回収して命を賭して研究に望んだ研究者たちのまさに言うなれば命の結晶!!エネルギー機関は全身に搭載されている電磁エネルギー捕縛膜の効果で電気が通ってる所だったら有無を言わさずエネルギーを頂戴するの!言うなればWi-Fiのキーを勝手に解除してネットに繋いでるようなものね!だからこんなに秘密裏に開発されて私も日の目を見ずにこうして12年もの年月がたったけれどようやく」



「…で、お前は何のためにここにいるんだよ?」

話を中断されたデイトンは少しムッとした表情になったまま、

「私はデイトン。このシルバークローバーのパイロットのナビゲートや、演算の処理の手伝いをするの」

と言った。


「演算…って?」

「この機体はパイロットと動きを擬似的に共有するの」

話によると、こうらしい。

 パイロットの脳波を読み取り、動作の伝達を即座に行う。だからこそ、直感的な動作が可能なのだ。また、可動域が広めに設けられており、前述の脳波の読み取りと併せると、柔軟な動きが可能となる。その際の脳波の計算を円滑に進めるために行うのが、デイトンがする演算だ。

「…なんかパッとしねぇなぁ」

「これでも革新的なのよ。アサキメスの高貴(ロイヤル)や、イエストのイエスターとかに比べればね」

「さっきの高貴…っていうのか。なんかイメージのままだな」

デイトンはおそらく説明が好きなのだろう。言葉が途切れない。

「イエスターは呼称そのままだけど、高貴は他国からの皮肉った言い方よ」

「ふぅん…」

 

 


「…あなた、さっき戦いの時に言ってたけど、まさか正義の為に戦うなんて言うんじゃないでしょうね…」

「そうよ、そのまさかよ!」満面の笑みだ。

「ダメよ!この機体はダレストアのものなのよ!?」

「でもよ、あいつら絶対悪いことに使おうとしてるぜ」

あいつら、というのはマスクの男達のことだ。

「なにそれ?根も葉もないこと言わないでよ!」

「俺さ、調整を受けてるんだよ。あいつらから。ダレストアから」

調整、というのはダレストアの非人道的な実験のことだ。カイは自分の受けてきたことを語った。薬剤の投与や、ロボットでの訓練…そして、脳への手術。失敗した子供たちは、死んでいった。最後には自分1人になった。だから、命の大切さを知っている。


 

「そ、そんなことが…?」

信じられなかったが、カイの後頭部の手術跡を見て、確信に変わった。岩肌に入った亀裂のような傷が、痛々しい。

「10歳の頃からだから、もう3年になる。でも、俺は意識だってはっきりしてるし、ダレストアの為だけに戦いたいなんて思わなかった。思えなかった」

「…洗脳ってことね」

「さっきも言ったが、あいつらにこいつを使わせたら、ろくなことになんねぇと思うんだ」

「だから、どうせなら正義のために使う」

「それが俺に課せられた『天命』なんじゃないかって」


 そう言い放ったカイが、デイトンには眩しくて、輝いて見えた。調整という鎖から自分を解放しようとしている。薄暗いコックピットだけが世界だったデイトンは、自分が人工的に生まれたのを何度悔やんだか分からない。今だって悔やんでいる。寂しかった。誰かが側にいて、孤独で空いた穴をを埋めてほしかった。

 それが、彼なのか?

「行こうぜ」

「う、うん…」

でも、どこか彼は―――

   寂しそうな目をしていた。




ご拝読ありがとうございます。

こんなめんどくさい説明は1話だけ…だと思います。


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