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第九話 俺、ハーレム作っちゃった。

 わぁっ! と俺達の戦いを遠巻きに見ていた野次馬たちの間から、歓声が上がった。

 

 見目麗しい超絶美少女(俺)がS級冒険者とかいうむさ苦しい大男を一方的にぼこぼこにしたことに、とても驚いたのだろう。


 口々に、俺をほめたたえる声があちこちから沸き起こった。

 熱狂止まない周囲を無視し、


「……すごいな。本当に貴女は何者なんだ?」

 倒れるバルバロスを見下ろす俺に近寄るロゼが、真剣な表情で問いかけてくる。


「さぁ、記憶喪失だから分からないよ。だけど、ちょっとやりすぎちゃったかな?」

 俺の言葉に、ロゼはキョトンとした表情を見せた後、柔らかな笑みを浮かべた。


「大丈夫だろう。その男、体だけは頑丈そうだから」

 倒れるバルバロスに、ロゼも視線を落とした。


 未だ動かないのがちょっと心配になったため、俺はバルバロスの大きな体をやや乱暴にすさぶる。

「おーい、大丈夫か? 死んでないか?」


 しばらく声を掛け続けていると、

「……う、ううん。……てん……、じゃなくてちびっこ!」

 バルバロスは目覚めた。


 どうでもいいのだが、目を開いた瞬間に俺を見て、何と言いかけていたのだろうか? 


 そして、これはどうでもよくないのだが……何故こいつは俺を見て頬を赤らめているのだろうか?


「おう、起きたんならとりあえずロゼに生意気言ったことを謝るんだな。もう一回吹っ飛ばされる前にな」


 俺の言葉に、もじもじと指先をいじっていたバルバロスが、顔をロゼに向けた。


 やや不満そうな視線を送っていたが、ややあってため息を吐いた。

「分かった。マイエンジェ……ちびっこがそういうなら、したがおう」


 ……今こいつ、俺の事なんて呼ぼうとした? い、いいや。考えるのはよそう。


「神槍。先程の非礼を詫びる。この通りだ」

 そういって、バルバロスは大人しく頭を下げた。


「……構わん、気にしていない」

 ロゼはバルバロスを見下ろしつつ、一言だけ答えた。


「おう、んじゃ俺も気にしねぇ」

 バルバロスのその声に、ロゼがイラッとしたのが伝わる。だが、これ以上事を大きくするつもりはなさそうだった。


「さて、俺は勝負に負けちまった敗者だ。だから、俺を女神の相棒にしてくれ」

 バルバロスは、俺に向かって恭しく頭を下げた。


「ごめん。俺はお前が何を言っているのかが全く分からない」

〈言語理解〉のスキルに不具合が起こってしまったのか? 第一、女神とは誰のことを言っているのだろう?

 やはり異世界。現代日本で育ったゆとり高校生には、異世界ファンタジーに住む人間の言葉は難しい。


「俺はこれまでソロでクエストをこなしてきた。というのも、自分よりも弱いやつと組む気がなかったからだ。しかし、女神とならば、俺はきっと今よりもさらに上の冒険者になれるはずだ! もしも組むのが嫌だというのならば仕方ない。俺を奴隷にでもして傍においてはくれないか?」

「嫌だよ。何が嫌ってさっきまでの高圧的な態度が鳴りを潜め、あまつさえ奴隷にしてくれてもいいから俺の傍にいたいとかいうその圧倒的なまでの卑屈さが嫌だよ」


 本当に気持ち悪い。


「ヒューッ! 出たぜバルバロスのスキル。惚れた女にはめっぽう弱い、が!」

「ばっか、あれはスキルじゃねえ。どっちかといえば、性癖さ」

 がはは、と野次馬たちから下卑た笑い声が上がった。


「とっとと失せろ、馬鹿どもが」

 その野次馬に対し、バルバロスは鬼の形相で叫ぶと、人だかりは蜘蛛の子を散らしたかのように霧散した。


「ったく、あの馬鹿どもが……さて、と。んじゃ、そろそろ俺を奴隷にしてください」

 お願いします、とバルバロスは頭を下げてきた。


「しねぇよ、馬鹿じゃねぇの? 奴隷になりたいならば、メアリさん位美人になってから言えよ。それが当然の礼儀だろ?」


 誰が好き好んでむさ苦しい男を奴隷にするもんか。するならば、今こちらを呆然と見つめるメアリさんのように美人な奴隷が欲しい。

 ……え? 今のきかれちゃってた?


「えっ?」

 俺の言葉に反応したのは、たった今罵倒されたバルバロスではなく、いつの間にか近寄ってきていたメアリさんだった。


「……あ、あのこれはその。言葉の綾なので、気にしないでほしいな」

 俺は満面のキュートスマイルを受かべる。それを見たためか、バルバロスが「キュン」と呟いていた。

 いや、お前じゃねぇよ、胸糞悪いな……。


「ああ、やはりそうなのですね。奴隷としては、やはり細くてろくに役に立たなさそうな私よりも、屈強なバルバロス様の方がいいですよね。……いえ、何もがっかりなどしていませんし、ミコ様の奴隷になりたいとも、思っていませんから……そんなには」

 ずーん、とがっかりとした表情でメアリさんは呟いた。


「あ、あの……奴隷とか、そこら辺のことは俺よくわかんないんだけど。ただ、良かったら俺のことは今度からご主人様って呼んでくれたら嬉しいな」

 俺はメアリさんに言う。すると、

「はい、仰せのままに。ご主人様!」

 満面の笑みで応えられた。


 ご主人様だって、はわわぁ~。と、俺が一人悶えていると、服の裾を急に引っ張られた。

「……そういうのは、あまりよくないと私は思うのだが」

 と、頬を赤らめながらちょっと拗ねたように呟いている。

 普段凛とした美しさを持つロゼのその仕草は、ギャップもあってとびきり可愛らしく感じられた。

 何だよ、いきなりのうはうはハーレム状況は!? って思ったが、すぐに原因に心当たりがあった。


 スキル〈魅了〉。ある程度の時間を接した相手に好意を持たれるという能力だ。


 そうか、このせいでみんな、可愛いミコちゃん(俺)にメロメロになっているんだな。 


 ……これ、オンとオフの切り替えできないの? 本当、俺のハーレムにバルバロス君邪魔なんだけど。


「あ、はは。悪フザケが過ぎたよ。それじゃ、メアリさん。戦いの前に約束していたこと、覚えている?」

 俺はメアリさんに水を向ける。

「はい、もちろん覚えていますよ、ご主人様。S級のクエストですよね?」

 ご主人様は継続中のようだ。またしても少しロゼが膨れ面になったが、それを視界の端に入れるだけにして突っ込みはしないままに話を進める。


「そそ。何か、良さそうなのある?」

「はい。S級ですので危険度は高いですが、その分の稼ぎは保証します。それでは、クエストの説明をしますのでギルドの中へどうぞ」

 メアリさんの案内に従い、俺達はギルドの中へ……。

 俺達?


「なぁ、お前はもう俺達と行動を共にしなくてもいいだろう?」

 ロゼの後ろからついてきていたバルバロスに、俺は嘆息しつつ告げた。

「そんなつれないことを言うんじゃねぇよ、ご主人様」

「……いや、ご主人様はやめろ。綺麗な女の人に言われるならともかく、ごっつい大男のお前に言われても嬉しくねぇよ」 

「そんな、ご主人様は俺に去勢しろと?」


 そんなこと言ってねぇよ。

 物欲しそうな顔で、こちらを見てくるバルバロスに心中でツッコむ。


 困ったようにこちらを見つめる様が大型犬みたいで、ちょっとだけ愛嬌があるかもしれない、なんて思ってしまった。


 このままなぁなぁでパーティ加入! なんてことになったら目も当てられない。だから、俺は腰に手を当て、尊大な口調で言ってやる。


「バルバロス。俺の奴隷になりたければ強くなれ。せめて、本気を出した俺に一撃を入れられるくらいにはな!」

「それって、つまりは強くなればご主人様の奴隷になれるってことか……。おっしゃー、がんばるぜぇい! 早速修行だー!」

 うっひょー、と奇怪な叫び声を上げながら、滅茶苦茶爽やかな表情をしたバルバロスは、踵を返して道を走りっだした。

 そしてすぐに肉眼では見えないほど遠くまで行ってしまった。


 あいつが馬鹿で助かった。今度会った時は、知力がいくつなのか聞いてみよう。

 俺が123だから、多分53(哀)とかいうゴミみたいな数字だろうな、間違いない。


 俺はバルバロス(馬鹿)が出て言った両開きの扉を、無言のまま見つめていたのだった。





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