第六話 俺、タイトル回収しちゃった……。
ギルドの中に入ると、沢山の視線がこちらを向いた。
肩に斧を担いでいたり、腰に剣を帯びていたりする屈強そうな男達が多いが、中にはローブに身を包んだ魔法使いのような華奢な男や、快活に笑っている女もいた。
「気にするな」
ロゼはそう言って、視線の中を 悠然と進んで行く。
俺もその後をついて歩きながら、ギルドの内装をキョロキョロと見て確認。
冒険者の多くは、用意されたテーブルの前で談笑しながら酒をあおっている。
左手側をみれば、バーカウンターのようなものも用意されており、そこでこそこそと話をしている者もいた。あれは、何らかの情報交換が行われている、のかもしれないな。
そして、そのバーカウンターの反対側、右手側には、大きな掲示板があり、幾つかの紙が貼り付けられている。きっとあれは、このギルドで募集している依頼について書かれたものだろう。その奥には、階段があり上階に登れるようになっている。
また、進行方向には受付があり、数人の女性が冒険者と会話を行っている。
何人かが順番待ちをしているため、俺とロゼもそれの後に並んだ。
「見ろよ、神槍の麗嬢だ」
「王国一の槍の使い手が、なぜギルドに……?」
「それにあのちっこいの、神語りじゃねぇか?」
「っか、珍し客だぜ。こいつは興味深いねぇ」
ふと、男達が囁く、低い声が耳に届く。
神語りは俺のことだから、神槍の麗嬢っていうのは、ロゼのことだろうか?
「……有名人なんだな」
俺がロゼに向かってぼそりと呟くと、
「うっとおしくて、仕方がないがな」
有名人であることは否定しないのであった。
「次の方、どうぞこちらへ」
先ほどまで並んでいた先約は、全て用を済ませ、とうとう俺たちの順番になった。
俺とロゼは受付嬢の前まで向かった。
「こんにちは。本日はどう言ったご用件でしょうか、冒険者様?」
清潔な白いシャツと、スラックスに身を包んだショートカットの茶髪の女性。
きっと、俺やロゼよりも年齢は少し上だろう。
そこそこに大きい胸、キュッとくびれた腰の持ち主であることは、服の上からでも分かる。
うむ、この世界の女性は、美人が多くて、けっこうけっこう。
「冒険者登録を行ってもらいたい者がいる」
俺が目の前の美人に視線が釘付けになっているなか、ロゼは簡潔に用件を伝えていた。
「はい、了解しました。そちらの可愛らしいお嬢さんですね」
そう言って、受付嬢が柔和な笑顔を浮かべて俺を見てくる。
「そ、そうだ。よろしく頼む!」
俺はその視線にドキリとする。
こんな美人なお姉さんに微笑まれたら、男子高校生は基本いちころだっぜ!
「それじゃ、こちらの用紙に名前をお書きください。ギルドカードを発行しますので」
聞きなれない言葉に、俺は用紙を受けとってから固まる。
「ギルドカード? って、えーと……?」
「ん? ……ああ、申し遅れてしまいましたね。私はメアリと申します。以後、お見知り置きを」
俺の視線の意味に気付いてくれた受付嬢のメアリさんが名乗ってくれた。
「よろしく。それで、メアリさん。そのギルドカードってのは何のことだ?」
俺の言葉に、メアリさんの表情が美しい彫像のように固まった。
……これも、この世界では常識のことなのな、と。
この反応を見慣れた俺は冷静に思っていた。
「済まないメアリ殿。この少女は一時的な記憶喪失なのだ」
ロゼがメアリにフォローをしてくれる。
全く、いい奴だ。
俺にチンポがついたままであれば、ビンビンになっていたであろうことは想像に難くない。
「そうだったのですね、失礼しました。では、回答をさせていただきます。ギルドカードとはギルドで冒険者登録をした者が手に入れる、特典がついたステータスカードの事を言います。最も重要な機能は、言うまでもなくステータスの表示、です」
「ステータス?」
俺の疑問に、メアリさんは丁寧に答える。
「ステータスとは、冒険者様の身体能力や魔法力を数値化したもの、そしてスキルやクラス、レベルの確認を行える物なのです」
「ちなみに、私たち王国騎士団も、その最も重要な機能だけが搭載されたステータスカードを持っている」
そう言って、ロゼはスカートのポケットから一枚のスマートフォンサイズのカードを取り出し、俺に見せる。
そのカードが淡く発光したかと思うと、次の瞬間にぽつぽつと文字が浮かび上がってきた。
名前 ロゼ
レベル 非表示
クラス 聖騎士
スキル 神器召喚
HP ???/???
MP ???/???
力 ??
技 ??
速度 ??
知能 ??
幸運 ??
現地の文字で書かれたステータスを見て、俺はゲームみたいだなぁ、と考えていた。
「詳細なデータ表示をせずに済まないな。こういったカードがあるのは、非常に便利なのだ。戦の際には、HP(生命力)とMP(魔力量)の残量によって戦い方を考えられる。ちなみに、HPの残量が0になると、死ぬからな」
ロゼが解説をしてくれる。
「ダンジョンや戦地にて、冒険者様は様々な危険に見舞われます。リスク管理を行うために、ギルドカードはお役に立ちますよ」
メアリさんも補足説明をした。
「なるほど、それは便利そうだ。そんじゃ早速……」
俺はメアリさんから受け取っていた用紙に現地の文字で名前を書いて、それを手渡した。
用紙を受け取ったメアリさんは、俺の名前を確認した後、受付カウンターの下からビー玉のような何かを取り出して言った。
「それではミコ様。こちらの魔力水晶に魔力を注いでください。今後の本人確認のために使用する、魔力認識の水晶です。それで冒険者登録手続きは終了です」
……魔力を注いでと言われても、どないすりゃええねん。
俺は引きつった笑顔を浮かべる。
「ミコ、魔力をコントロールするのに大事なのは、イメージ力だ。この水晶に手を触れてごらん」
ロゼが俺の手を水晶にあてがう。
彼女の体温をもっと感じたいところだが、今はやめておこう。
「よし、それではイメージだ。この水晶に触れている指先から繋がり、そしてやがて血が通う。その様子を、思い描くんだ」
何言ってんだこいつ、と思わないでもないが、妄想は童貞の十八番だ。
このビー玉に血が通うイメージなど、容易にできる。
冷たかった水晶に、俺の体温が伝わり、そして血が通い、生命が宿る。その様を、俺は強く思い描いた。
すると、体から意思を持った力が溢れ出たのを感じた。目を開けると、先ほどロゼが見せてくれたステータスカードのように、淡く魔力水晶が発光していた。
「もう結構ですよ、ミコ様。登録が完了しました」
メアリさんが俺に告げ、一枚のスマホサイズのカードを手渡す。
俺はそれを受け取る。
「おお、これがギルドカードか。あ、そう言えばこのカードを持つことで特典があるんだったな。それ、なんだ?」
先程言っていた特典とやらの解説を求める。
「ギルドカードを持っている冒険者の身分証明証です。また、クエストを受けて成功報酬を得ることができます。また、ギルドはこの国の酒場や宿屋と提携しており、ギルドカードを提示することで現金決済をすることなく支払いを済ませられます。ギルドに借金をする形になるので、ご利用は計画的に」
……どこの消費者金融なんですかね?
というか、この国でも貨幣が流通しているんだな。勉強になった。
「それでは、最後に一つ。クラスの登録を行います。ギルドカードにクラスを表示してから、提示してください」
「先程と同じ要領で出来る。カードに、クラス以外が表示されないようにイメージするんだ」
メアリさんの言葉の後に、ロゼがアドバイスをくれる。
「了解、っと。そんじゃやりますか」
俺は両手の平でカードを包み、そしてギルドカードに俺のステータスが表示される姿をイメージする。
手の中に熱が宿るのを感じ、俺は目を開けた。
そして、ギルドカードに表示された内容を見て……驚く。
【名前 ミコ
クラス 偶像
スキル 偶像 神語り 魅了 神器召喚 第六感 詠唱破棄 言霊
環境適応 言語理解 物質創造 自動回復 痛覚遮断 etc……
HP 99,999/99,999(MAX)
MP 99,999/99,999(MAX)
力 99,999(MAX)
技 99,999(MAX)
速さ 99,999(MAX)
知力 123 (笑)
幸運 99,999(MAX)】
……色々と言いたいことはあるが、うん。
何か全般的に数字の値がおかしいとか、スキルが多すぎて表示されきっていないとかあるけど、俺が一番ムカつくのはさ。
知力なんだよね。
なんで俺笑われてんの!?
って、いうかこれ……。
「ん、どうしたミコ? すまないが、少し覗かせてもらうぞ……。っ!?」
俺のギルドカードを見たロゼが、驚きの表情を見せる。まぁ、無理もないか。だってこれ……。
「メアリ殿。このギルドカードは初期不良品だ。見たこともない文字が表示されている」
そう、このカードに記載されているのは現地の文字ではなく、日本語なのだ。
「申し訳ありません。少々確認させてください」
手元のギルドカードを覗き込むメアリさん。
「……確かに、不具合を起こしているようです。すぐに代わりの物を用意します」
「いや、その必要はないよ。これ、俺には読めるし」
メアリさんの申し出を、俺は断る。代わりのカードを用意してもらっても、きっと同じことが起こる。問題なのは、カードでなく俺の意識の方だろう。
「へ……?」
俺の言葉に、メアリさんは目をぱちくりとさせている。
「斜め上の発想なんですけど……」
がっくりと肩を落とし、俺は呟く。
そして、カードに書かれているクラスの欄に目を落とし、思案する。
あのへぼ女神、意味深な表情をしていたかと思えばこういう事かよ。
偶像。それは芸能関係のアイドルの語源となった言葉。
その本来の意味は、神や仏などの存在をかたどって作られる像で、崇拝の対象となるような物。
そして、知能以外カンストしたステータスと、数多くあるスキル。これらから導き出される結論。
……俺は神の力を宿した、偶像としての役割を手にしたということだろう。
「異世界でアイドル? そんなの聞いてないっ!」
頭を抱え、俺は叫んだ。
何事? と驚いた表情で俺に視線を向けてくるロゼとメアリさん。
それを無視して、俺はゆっくりと息を吐く。
OK。落ち着け、俺。
一旦頭の中を整理しよう。俺がこれからしなければならないこと、それは何だ?
深い思考の結果、俺は一つの答えにたどり着いた。
「とりあえず俺、異世界【アイドル】活動、始めます!」
早速タイトル回収しましたが、もちろん最終回ではないです!
以降の話も、執筆しております!