第五十四話 俺たち、アイドル活動始めます
俺は、それからたっぷりと時間を使って説明した。
現代日本という、科学が発展して魔法や亜人などがいない世界で、学校という教育機関に通っていた。
その時は、いじめられっ子で、人に誇れるようなことなんて何もない人間だったこと。
そして、女神を名乗る女に、手違いで殺されてしまったこと。
その女神から特典をもらって、この世界に転生させてもらったこと。……その時に、性別が逆転したことも、勿論話した。
そんなこと、言ってもどうしようもないことだが。彼女たちにとっても聞きたくなかったことだろうが、それでももう、隠し事をするのは嫌だったから。
俺はそのことも話していた。
そして、この世界に来てからはご存知の通り。女神からもらった特典――高ステータスや、数多くのスキル――を用いて、好き勝手に暴れまわった事。
それなのに、自分よりも強い〈根源の巨竜〉からは、一度逃げ出してしまったこと。
俺の話は、ほとんど懺悔と言っても良い内容だったかもしれない。
話をしている間、誰もが黙って俺の言葉に耳を傾けていた。
「……ここまで話したら、もうわかってくれたと思う。俺自身には、何もないんだ。この可愛らしい外見や、誰にも負けない強さは、女神から与えられたものであり、俺が苦労や努力をして勝ち得たものでは無いんだ」
俺は、俯きながら告げた。
……彼女たちの顔がを見ることができない。
「ありがとう、ミコ」
「……は!?」
俺は、想定外の言葉に顔を上げた。
すると、そこには優しく微笑むロゼがいた。
「ありがとう、って。どういうことだよ?」
「力を持って、誰かのために行動をする。簡単なようで、それは難しいことなんだ。……きっと、それは急に力を持った人間ならば、尚の事だと思う。自らの力に酔い、驕り、悪逆を行うものも、出てくることだろう。でも、貴女はそうならなかった。それどころか……」
「それどころか、お前は人間と獣人のために行動を起こしたにゃ」
ロゼの言葉を引き継ぎ、フィノが言う。ロゼはフィノの言葉に、深く頷いていた。
そして今度は、それをヨージョが引き継いだ。
「お前は、妾のようなハリボテの王とは違う。例え力を手に入れたのが、偶然だったとしても、その力で人間と獣人の力になろうとしたのは、間違いなくお前の意思だったのだろう?」
「……それに、いくら大きな力を手に入れたとしても。〈根源の巨竜〉と相対したのは、ミコ自身。……恐怖を感じて逃げ出した後に立ち向かう、それはすごいことなんじゃないかな」
シーナの言葉が、俺の耳に届く。
「……なんだよ、お前ら。なんでみんな、そんなに良い奴なんだよっ……!」
俺の目じりからは、思わず涙がこぼれていた。
俺は、こんなにダメダメな奴なのに。
肩空宗男君(身長165センチ体重98キロ好きな食べ物はママの作ったミートパイ)の豊満が過ぎるお乳様を揉みしだいていた頃から、きっとなにも成長をしていないままの、ただのガキなのに。
なんで、そんなに優しくしてくれるんだよ……っ。
「……ただ、ミコちゃんが男の子だったという事は。もしかして私たち、Hな目で見られていたのかしら? それならちょっと、オ・シ・オ・キ、しなくちゃ、ね?」
ディアナが熱っぽい視線をこちらに向けながら言う。
……なんだろう、興奮する。お仕置きされたいな(はぁと)。
「て、いうか。今更だけど、こんな荒唐無稽な話をみんな、信じてくれるのか?」
正直、立場が逆ならば「は、何言ってんのこいつ? 電波入ってる?」とちょっと引くところだが、彼女たちはみな俺の話を信じて聞いてくれた。
「まぁ、貴女のことは、普通でないと思っていたから。このくらいの理由があると、逆に納得できるほどだ」
ロゼの言葉に、みんなが一様に頷いていた。
「それくらい、お前がこれまでやってきたことはすごかったということにゃ」
フィノの続けた言葉にも、皆が納得した様子を見せている。
「なんだよ、そりゃ」
あはは、と。俺の口からは乾いた笑いが零れた。
……でも、これなら話が早くて助かる。
「今度は、これからのことを、みんなに聞いてもらいたい」
俺に、みんなの視線が集中するのが分かった。
「これから俺たちが、人間と獣人のためになにをするのか。今の俺なら、人間を暴力で支配するのは、不可能ではない」
「そう、なのだろうな。……だが、それでは血が流れてしまう。罪のない兵や民が、無用に傷つくのは、嫌だな」
ヨージョが、ぼそりと呟く。
「そうだな。俺も、多くの人間をケガさせないように戦い、そのうえで制圧ができる、なんてことは思っていない。〈根源の巨竜〉と協力しても、そんなことはできないだろう。……だから、戦わずして俺たちを、そして獣人と人間、互いを認めさせるんだ」
俺の言葉に、シーナが真っ先に反応する。
「……口で言うのは容易い。けど……実際は、困難を極める。……考えは、あるの?」
「ああ。そのためには、みんなの力が必要なんだ」
「私たちの、力? それってどういうことなのかしらん?」
ディアナが不思議そうに首を傾げて言う。
「俺が前いた世界には、人を笑顔に、幸せにさせる職業があったんだ。……俺も、随分と彼女たちには助けられた。だから、今度は俺がその存在になって、みんなを幸せな気持ちにさせてあげたいな、と思うんだ」
「……そんな立派な職業が、お前のいた世界にはあったのか。それで、その職業というのは、何なのだ?」
ヨージョの問い掛けに、俺は深呼吸を一つしてから答える。
「【アイドル】。……それが、俺が救われて、そして俺がここでなりたいと思う、存在だ」
俺の言葉に、周囲がそれぞれの反応を返す。
「【ウイィドゥー】、聞き覚えがあるな」
「……初耳」
「聞き慣れないわね、やっぱり」
「妾の知らぬ言葉だ」
ロゼ、シーナ、ディアナ、ヨージョが呟く、。
「その、【アイ●ス】というのは、一体どういうことをするのにゃ?」
フィノの問い掛けに、俺は言葉が詰まる。
もうね、肩がビクゥッ、って跳ねちゃったよ。【アイ●ス】にもいろいろあって、俺はスマホをポチポチするのをやっていたな、とか思い出しちゃったね。
「……あ、【アイドル】というのは、演技やトーク、お笑いとかをする人もいるんだけど。俺が好きで憧れていたのは、【歌って踊るアイドル】だった」
俺の言葉に、みんなが目を丸くしていた。
当然の事だろう。この世界では、〈歌〉にも〈踊り〉にも、特別な意味がある。
「人間にとっての歌は、神様に捧げるもの。獣人にとっての踊りは、先祖を悼むためのもの。だから、特別な意味合いがある。思い入れが強いから、当然誰かの心を、強く動かすことも、出来る」
俺は思い出していた。
フィノが見せた、あの儚く、悲しげな、とても美しい踊りを。
ヨージョが聴かせてくれた、心に響く歌声を。
「神様のためでなく、誰かのために歌ってみたら。死者のためでなく、生者を想って踊ったら。……きっと、それは人の心を強烈に動かす事が出来る! 不思議なもので、歌も踊りも、大きな魅力がある。こじれてしまった人間と獣人の関係が、簡単に良くなるとは思っていないが、それでも……」
自分でも、滅茶苦茶言っているのは分かる。
そんなバカな、と笑われても仕方がないことだ。
だけど、僅かな可能性に、賭けてみたい。
「俺がそうだったように、誰かの救いとなって。互いが歩み寄るきっかけに、なるんじゃないか、と思うんだ」
俺は、アイドルに救われたのだから。
今度は、誰かの救いになりたいんだ。
「……確かに、ヨージョの歌を聴いて、僕はすごい、って。もっと聴きたい。って、思ったにゃ」
フィノが、何かを思い出すように呟いた。
「妾も。獣人とともに踊ったのは楽しかった。下手に言葉を尽くすよりも、よっぽど心が動かされる」
ヨージョはフィノと視線を合わせて言う。
どうやら、2人は俺の意見を肯定してくれるようだ。
「ヨージョ様とフィノ。2人がそういうのならば……答えは出たようなものだな」
ロゼが頷きつつ、告げる。
「……私たちは、サポート」
「ヨージョ様が、衆目の前で踊るのならば、万全の警護が必要になるものねぇ」
「それも、ミコがいれば必要ないのかもしれないが……、だからと言って、目を離すわけにはいかないからな。…ただ、万全のサポートは約束しよう」
シーナ、ディアナ、ロゼが言う。
どうやら、彼女たち自身はアイドルとしての活動を行うつもりは無いようだった。
6人グループで、とも考えたが、そうなると人間と獣人の比率が偏りすぎるのもまた事実。
3人がサポートに徹するというのなら、それもまた良かったのかもしれない。
「方向性がまとまったな。俺とヨージョとフィノは、【アイドル活動】をして、ロゼとシーナとディアナが、その活動のサポートだ! ……それじゃあ、よろしく頼むぜ、みんな!」
言うと、サムズアップしてみんなが答えた。頼もしいな、と俺は心中で微笑んだ。
「……それじゃ、恥ずかしながら言わせてもらう。俺、歌も踊りもダメダメなんだ。だから、ヨージョとフィノ。俺に、歌と踊りを教えてくれ!」
俺の言葉に、
「もちろんにゃ」
「厳しくいくから、覚悟しておけ」
フィノとヨージョの2人が力強く返答した。
……これから始まる、新しい物語の幕開けに。
不謹慎ながら、俺はワクワクしていたのだった。




