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第五十二話 俺、叫ぶ


 巨大な竜の咆哮が止んだ。

『吾輩を呼んだな、ミコ』

 そして、彼の言葉が脳裏・・に響く。


「……ああ、久しぶりだな」

『久しぶりでもなかろう。ほんの一時離れていただけだ』

〈根源の巨竜〉は、永き時を生きる。

 たとえこの再会が10年ぶりだったとしても、同じように告げたのだろう。


『ところでミコよ、吾輩は貴様に1つ聞いておかぬばならない』

 重苦しい口調で告げる〈根源の巨竜〉。聞いておかなければならないこと……俺がここに彼を召喚した理由・とかだろうか? もし下らない理由だったら、やっぱり怒るのだろうか?

 果たして、俺は彼の満足のいく答えを出すことが出来るのだろうか?


『何故、何故……』

 巨竜は、もったいぶったように言う。

 俺は、今彼の浮かべている表情が一体どのような物なのか、判断ができないでいる。もしかしたら……気安くこの場に呼び出され、怒りに燃えているのかもしれない。

 そう思っていると、再び脳裏の声が響く。


『何故! 吾輩を名前で呼んでくれないのだ!? 〈根源の巨竜〉、だなんて他人行儀が過ぎるではないか!』

 

 ウオォオォォォオオォォォォ!!!

 と、地鳴りのような叫びが……いいや、嘆きが轟いた。


 ……〈根源の巨竜〉ことボブは、凶暴そうな瞳に涙を浮かべていた。

 そうだった、こいつは意外にも、こういう頭のおかしなキャラだったのだ。

 

 俺は落ち着くために、一つ大きな深呼吸をして、こういった。


「だってほら……、みんなの前でお互いに名前呼びだなんて、破廉恥でしょ?」

 

 上目遣いかつ媚び媚びな声音をつくって俺が言うと、


『ミコミコ萌へ~!』

 と、ボブ氏が大興奮した様子で叫んだ。

 よかった、誤魔化せたようだ。……でも、こいつ色々とだめじゃね?


「き、き、き、き、きしゃま~、一体これは、ど、ど、、どういうことにゃのだ!」

 俺とボブ氏が戯れていると、大臣が金切声で叫ぶ。

「わ、私にも説明をしてもらえないか? 何故ここに〈根源の巨竜〉が?」

 ロゼも戸惑いつつ俺に問いかけてくる。


 そして民衆はというと、

「うわぁぁぁぁ、〈根源の巨竜〉だ!」

「こ、こ、こ、こ殺さないでくれぇぇぇい!!!!」

「嫌だぁ、嫌だ……まだ死にたくないいいい!」

「この子だけは、この子だけは助けてくださいお願いしますから!」

「魔女のせいで、こんなことに……絶対に許さない」

「呪われろ呪われろ呪われろ呪われ……」



 ……阿鼻叫喚の図である。

 恐慌状態の民衆たちは、皆腰が抜けて動けないのか、その場で泣き叫び喚き、命乞いをするもの、俺や世界に対する怨嗟の言葉を呟き始めていた。

 ここでパニックになってしまえば、もしかしたら人死にが出ていたかもしれない。腰が抜けて皆がみんなその場から身動きが取れない状態は、幸運だと言えた。

 てか怖い、怖い怖いよ、その、殺したりなんかしませんよ落ち着いてくださいよ。

 

 俺はロゼや大臣、民衆の反応を見て深く思った。


 あれれ~、これ選択肢間違えちゃったかな、俺……?


「わ、わかったぞ! 〈根源の巨竜〉が起こした騒動、全て貴様が仕組んだことだな!」

 大臣が狼狽える俺に叫んだ。

 いや、別に大臣が図星をついたから狼狽えたわけじゃない。自らの考えの浅はかさに、俺は狼狽えただけなのである。


「貴様は自らの召喚獣である〈根源の巨竜〉を操り〈イアナッコの森〉にて騎士たちを襲わせた。……そうして、多くの犠牲者が出た後、自らが救世主として現れる。ギリギリの勝負を演出し、勝利を手に入れる。そんな都合の良い物語も、魔法で他の戦士を助けることで、貴様が救世主だという事を疑うものはいなくなる。……よくできたストーリーだな、この魔女め!」

 大臣が唾を飛ばしながら熱弁する。


「え、いや……ちが、うって」

 俺のもごもごした呟きは、当然誰の耳にも届かない。

 ここで必死になって否定すれば、


 ……だよね、そう思われても仕方ないよねチクショウっ! ああ、くそ、俺ってほんと、バカ!

 

 大臣の言葉に、煽られる民衆たちが、口々に叫ぶ。

「あの戦いで死んだ私の息子は、そいつに殺されたのと同じじゃない!?」

「今度は私たちも殺そうというのか、この魔女は!」

「なんてこと! この人でなし!」

「殺せ! だれかそいつを殺してくれ!」


 民衆は抱いた不信感を叫んでいる。

 ……俺、思いっきり悪者だ。

 でも、それも仕方ない。そう思われても、本当仕方なくて泣けてくる。


「ミコ……」

 ほら、ロゼまでなんか気まずそうに俺見てるし~。

 彼女は瞼を伏せ、そしてまっすぐに俺を見据えてから言うのだ。


「私は、貴女を信じている。それは、今も変わらない。……きっと、こうしたのも、何か考えがあってのことだろう? 先程も言った通り、迷うことは無い。突き進むめ!」

 ロゼは、なんと未だに俺のことを信じてくれているのだ。……まさかの展開に、俺は驚きを隠せない。

 なんで俺を信じてくれるのか、正直理由は分からない。一緒に戦ったからこそ分かることでもある、のだろうか? 

 ……やっぱり理由は分からないけれど、俺はロゼに救われた。


「……ありがとう、俺、覚悟を決めたよ」


 ロゼをまっすぐに見つめて、俺は彼女に告げた。

 彼女はゆっくりと無言で頷き、俺の行動を見守る。


「はい、みんな! こっち注目!」

 俺は挙手をして、民衆に聞こえるように告げた。

 ボブ氏に向けられた視線を、俺の方に向けさせた。

 視線を受けた俺は、彼らに向かって言う。

 

「グダグダうるさいぞ、お前ら! でも、これでわかっただろう? 自分たちが真に立ち向かわないといけない相手が、誰なのかを!」

 俺の言葉に、大臣や民衆が憎しみを込めた視線を向けてくる。


「お前たちが獣人と小競り合いをしているとき、俺は力を付けた。自分自身とこの〈根源の巨竜〉さえいれば、人間も獣人も、まとめて滅ぼすことができる! ……自分たちの置かれた状況が分かったか!?」

 俺は言い終わると、民衆たちに視線を向けた。この世の終わりのような表情を皆浮かべていた。

 

 俺はそれを満足そうに見渡し、心中で呟くのだ。

 ……はい、もう開き直りです! と。

 

 こじれにこじれてしまったので、もう開き直って俺にヘイトを集める作戦に移行したのだ。ロゼを見ると、その心情を察してくれたのか、うんうんと頷いてくれていた。


『ミコよ、何故また吾輩の名を呼んでくれないのだ……』

「ごめんボブ氏、やっぱり恥ずかしいの! きゃぴぃ!」

『ぶふぉー、萌え萌えでござるよミコミコー!』 

 ボブ氏へのフォローも万全! 色んなものが失われているような気がしなくもないけど、それは主にボブ氏の威厳や尊厳なので……うん、大丈夫! 上手いことなるさ!


「認めおったな、この魔女め!」

 大臣が口汚く俺を罵り始めた。

 国のトップとしてそれはどうよ? と思うようなことまでヒートアップしておっしゃり始めております。

 俺はそれを聞き流し、宣言する。


「……と、というわけでだ! 獣人と戦う暇があるのなら、もっと俺に対して危機感を抱け! あ、なんなら獣人と手を組んででも、俺を倒しに来いこのボンクラウンチども!」

 俺は捨て台詞のようにそう言ってから、

「ボブ氏、俺とロゼを乗せてくれ!」

 とんずらです。もうここまで言っちゃったら、逃げるしかない!


『ふむ、ミコよ。貴様は吾輩に乗りたいと言っておるのだな……全く、はしたない女だ』

「ボブ氏ちょっとお前、お調子に乗りすぎじゃない!?」 

 俺はロゼを抱きかかえて跳躍し、セクハラマンことボブ氏の背中に飛び乗った。

 ロゼは俺の腕のなかで、ほんのりと頬を朱に染めていたような気もする。見間違いだった可能性も低くない。


「あ~ばよ、くそったれのボンクラ人間どもよ! ヒーハァー!!!」

 俺は、純度百%の捨て台詞と、開き直ったテンション特有の雑魚っぽい高笑いを残した。

 ボブ氏は巨大な翼を広げ、天高くへと飛び上がった。



 最後にみた大臣と、民衆の憎しみ、不安、そして恐怖の眼差しを、俺は忘れてはいけないのだろう、と思いつつ。


「……大変なことになったな」

 しみじみと遠い目をして呟くロゼに、


「ご、ごめんなさい」

 俺は小さな声で応えるのがやっとでした。


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