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第四十八話 俺、参上!

 飛んでいた。


 それが飛翔でなく跳躍であることを、俺は理解している。

 しかし、スキルを用いたステータスの底上げを行った、全力全開での俺の跳躍は、ほとんど飛翔と区別がつかない。


 王城・・を見下ろせるほどの高度と、長い滞空時間を考えれば、むしろ飛翔と言って差し支えないのかもしれない。

 ……そんなことはおいといて。


「うぎゃああああぁぁぁぁああ!!!」

 俺の背で、ヨージョが絶叫していた。


 それはまぁ、仕方ないのかもしれない。

 何故ならば……


 今現在の俺たちは。

 果てない高さから。

 弾丸の如き速さで。

 

 まっすぐに王城へと突っ込んでいるのだから。



 城壁が壊れる大きな破砕音が耳を劈く。

 王城の天井を突き破り、周囲の人間が驚きに目を見開く中、俺たちは無事に着地をした。

 ――ヨージョごと包み込むように、魔法を用いて体の周囲に不可視のバリアを張っていたため、俺たちに怪我はなかったのだ。


 周囲を見ても、崩れた天井の破片の下敷きになっている人間はいない。


 俺が突入した際に、砕け散った破片は重力魔法を使って周囲に浮かせている。

 今現在も破片がぷかぷか宙を浮かんでいる状態なので、ちょびっとシュールだ。だがまぁ、そのおかげで怪我を負った人間はいないのだ。


 怯えたようにこちらを見る、騎士の格好をした間抜け面を浮かべた人間のことは気にせずに、重力魔法で浮かせていた天井の破片を、邪魔にならないように部屋の隅の方へと移動させ、置いていった。


 その作業が終わってから、俺は一息を吐いた。


「ふぅー、無事に到着だな!」

「アホかお前は!」


 先程まで無言で、でも息をとてつもなく乱していたヨージョが、急に怒鳴った。


「いや、いきなりアホってそりゃねーよ」

「ないのはお前の行動の方だ! 確かに、急いではいたが……どうして突然飛び上がり、城を壊してまで突入をした!? 普通に入り口から、堂々と入ればよかろう!? あーもうめちゃくちゃだよ!」

「あ、悪い。どうせならと思って、ちょっと気合を入れすぎちゃった」

 てへへ、と俺は小さく舌を出して思い出す。



 俺はヨージョを背負いながら走っていた。

 そして、そんなに長い時間がかからない内に国境付近まで移動していた。

 そこを誰にも見つからないように飛び越えてから、俺は一つ思いついた。

 俺は王城へ案内なしで行くのが初めてだったため、道順が正しいのか少々不安だったのだが、それならば陸路ではなく、空から行ったら分かりやすいのではないか? と。なんといっても、王城は大きく、そして目立つのだから。


 次の瞬間、俺は迷うことなく跳躍をしていた。


 空から大地を見渡せば、この国で最も立派な建物である王城の位置はすぐに分かった。

 魔法で足場を構築してから、そこに着地。

 間髪入れずに王城目掛けて俺は再び跳躍したのだ。そして……ど派手に着地までしてみせた。


「ところで、ここはどんな部屋なんだ? なんだか、一応人もいるみたいだけど?」

「お前がめちゃくちゃにしたせいで、妾にもここがどこだかわからんわ!」

 ヨージョが両手で顔を覆いながら嘆いている。……今日はリアクションが大きくて、なんだかおもしろい。


「適当なところで着地してから、この王城へと入り込めば良かっただろうが!? そうしたら、こんなことにはならなかったのだぞ!」

 俺がニヤニヤしていると、再度ヨージョが怒鳴ってきた。


 ヨージョはちょっと涙目だった。

 もしかしなくても、怖かったのだろう。


「うーん、ランナーズハイってやつかな? テンションが上がってて、全然気にしてなかった」

 俺は悪びれもなくそう言った。

 その態度に、ヨージョはまたしても刺激を受けたようだったが、今回は口をぱくつかせるに留め、怒鳴り声をあげるようなことは無かった。

 ……とても不服そうにはしていたが。


 俺はちょっとだけ気まずくなって、ヨージョから目を逸らした。

 すると、俺の視界に入ったのは、周囲の騎士たちだった。


「か、かかか、か……〈神語り〉!」

「間違いない、あの黒髪黒目の少女は、〈神語り〉だ!」

「う、うわああぁぁぁあ!? なんで急に現れやがったんだ!?」

「そ、そんなことは今はどうでも良い。早く大臣たちに報告を……。はやく、撤退するぞ!」

 周囲の人間が、混乱したように叫んでいた。

 その男たちに俺は意識を向ける。

 一様に団服をきっちりと着たその男たちは、唇をわなわなと振るわえながらこちらを見ている。

 俺がここに現れたのって、そんなにびっくりすることだろうか? ……びっくりするかもなぁ。


 数人の騎士たちは、泡を食って逃げ出したのであった。

 その背を見るのは、なんとなく悲しい気持ちになった。


「そこまで避けなくてもいいやんけ……」

 俺は悲しみのあまり関西弁で呟いていた。


「凹んでいる場合ではない。すぐに移動するぞ」

 ヨージョの厳しい一言。

 俺は姿勢を正し、彼女へと向き直る。


「そりゃ、そうだな。だが、何処へ向かう? 兵が足止めをしてきたら、中々に厄介だぞ? ……負ける気は全くしないが」

「王のいるべき場所。そこに行けば、大臣たちも勝手に現れてくれるだろう」


 先程まで頬を朱く染め、涙を目尻に浮かべていたヨージョだが、今は自信満々に笑っていた。

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