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第四十七話 俺、帰る!

『現在、女王陛下が〈神語りの少女〉に攫われた、という情報が国に流されています。……本来ならば、国の面子もかかっているために秘匿するべき情報ではあると思うのですが、欲に塗れた大臣たちはこれを利用することに決定したのです』

 メアリさんが告げた言葉に、俺はいまいち納得ができずに問いかける。


『ちょっと待ってくれよ。どうしてヨージョが俺に攫われたことが、獣人たちとの戦争に繋がるんだ?』

『〈根源の巨竜オリジンドラゴン〉を退治した〈神語りの少女〉は、実は獣人たちの仲間であった。王城への突然の襲来、騎士団を卑劣な手段を用いて打倒し、ついには我らが女王陛下を攫い、人間に混乱をもたらした』

 それが彼らのシナリオです、とメアリさんは言う。


『なるほど、女王陛下の救出という大義名分を得るために、俺の名前を使われたわけだ。俺が騎士団を倒して、ヨージョを攫って獣人族とともに過ごしているというのは事実なわけだし』

『そういうことです。大臣のその知らせにより、〈根源の巨竜〉を退治した稀代の英雄〈神語りの少女〉は、いまやお尋ね者なのです。……それにしても、本当に獣人とともにいたのですね、流石に少し驚きました』

 メアリさんは全く驚いていないような口調で言った。


『まぁ、女王陛下に社会勉強をしてもらっただけだよ。……それなら、早いところ誤解を解いておかないとな。今日明日にでも、ヨージョを王城へ帰すようにするよ』

『お言葉ですが、ご主人様』

 メアリさんが、鋭い口調で言う。


『ん? どうしたの?』

『現在、人間側こちらがわは一触即発の状態です。たとえ女王陛下がお戻りになったとしても、その帰還を隠蔽した上での侵攻が予測されます』

『それじゃ、本気で戦争をおっぱじめようとしているってことか!?』

 今さらながらに、驚く。

 条約や開戦宣言のルールのない世界だ、このようなことも予測してしかるべきだったはずなのに、俺は全く気にもしていなかった。

 なんて、間抜けだったんだ俺は。


『ですが、この戦争を確実に止める方法が一つ残されています』

 自身の軽はずみな行動を反省する俺に、メアリさんが魅力的な宣言をする。

『そ、それはどういった方法なんだ?』

『簡単なことです。ご主人様は、お強い。この世界の誰よりも。ですので、ご主人様が人間と獣人を力で押さえつけ、支配すればよいのです』

 ……俺は唖然とした。

『そんな物騒な真似できるかっ!?』

『冗談ですよ。半分ほどは』

 と、メアリさんは笑いながら言った。

 ……半分は本気だったんだ、と俺は戦慄する。


『それが冗談だったとしても、俺の軽はずみな行動の責任は、取らないといけないと思っている。だから、このまま聞かないふりをせずに、もう一度直接大臣たちと話をするよ』

『そうですか。……私は、それで良いと思います』

『……情報をくれてありがとう、メアリさん』

『お安い御用です。なにかお困りのことがあれば、すぐに申してください。あなたのメアリがすぐに駆け付けます』

 メアリさんが頼もしいことを言ってくれる。

 それならば、と俺は早速お言葉に甘えることにした。


『さっきの呼び出しの時に頭に響いた『ごしゅじんさますき』っていうのには、一体どんな意味があったんだ?』

 俺は問いかける。

『そんな、恥ずかしいですご主人様……』

 メアリさんは、恥ずかしそうに答えた。……一体何を恥ずかしがっているのかは定かではない。


『そ、そっか。それじゃ、一旦念話を切るよ』

『はい。それでは、ご主人様に幸多からん事を』

 メアリさんが、以前もシーナやディアナが言ってくれた、グッドラック的なことを言ってくれる。

『うん、メアリさんも』

 俺は一言返してから、ギルドカードに対する魔力供給を止めた。

 すると、ギルドカードの淡い発光はなくなり、頭の中にメアリさんの声が響くこともなくなった。

 

 俺は手の中にあるギルドカードを一瞥してから、再びポケットの中にしまい、獣人たちと共に楽しそうに歌を歌うヨージョへと視線を向けていた。



「そうか……。今、人間側ではそのような事態になっているのだな」

 未だ皆が宴会騒ぎをしている中、俺はヨージョに声を掛け、プレハブ小屋の中へと二人で向かった。

 今、俺とヨージョは互いのベッドに腰掛けて向かい合っていた。

 そして、先程メアリさんから伝えられていた事柄をヨージョにも伝えたのだ。

 彼女は表情を暗くし、俯いた。そして……。


「せっかく、獣人たちと仲良くなれたと思ったのだが、随分と呑気なことをしていたのだな。妾は女王、国民が傷つく戦争へと無為に赴こうとしているのならば、それを止める責務がある。……帰ろう、我が国へ」

 力強く、ヨージョは宣言した。

 顔を上げた彼女の表情には、決意が浮かんでいた。


「ああ、そうだな。それじゃ、今日のところは早めに休んで……」

「いや、妾を気遣う必要はない。悠長に構えている場合でもないのだ、これからすぐに発とう」

 ヨージョは断言した。

 確かに、これから睡眠をとってから王城へと向かうとなると、大きな時間のロスとなる。

 開戦の準備がどこまで整っているか分からない今、出来る限り早く到着した方が良いだろう。

 俺は頷く。そして、一言ヨージョに言う。


「最後に、世話になった獣人に挨拶だけでもしていこう」

「ああ、無論だ」

 ヨージョは、微かに笑って答えた。


 俺は彼女とともに、プレハブ小屋を出る。すると、

「……行くのかにゃ?」

 声を掛けられた。

 見ると、出入口付近で壁にもたれかかっていたフィノがいた。


「ああ。……聞いていたのか?」

「いいや、立ち聞きにゃんて野暮にゃ真似はしにゃいにゃ。ただ、お前らの顔を見ていたら、にゃんとにゃくそうかにゃ、って思っただけにゃ」

 フィノは柔らかに笑って言った。


「フィノ……世話になった。妾は、其方にとても感謝している」

 ヨージョが、フィノに対して礼を口にした。


 フィノはそれを受けて、ヨージョを抱きしめることで応えた。


「僕も、ヨージョと会えて良かった。……また、会おうにゃ」

「ああ、必ず」

 そう言って、体を離して互いに見つめ合っていた。

 ……二人だけの世界、置いてけぼりを喰らった俺は、何だか面白くないのです。

 そんな、恨めし気な視線に気づいたのか、フィノは俺に右手で拳を作って差し出してきた。


「ミコも。また会おうにゃ」

 俺は、フィノの顔と拳を交互に見てから、

「……もちろんだ!」

 自らの拳を、彼女の拳にぶつけた。



 そして、ヨージョと共に獣人たちへと別れを告げた。

 ……俺が思っていたよりもずっと、別れを惜しんでくれる奴がいて。俺とヨージョは、2人して困惑してしまった。


「けっこー飛ばしているが、ちゃんとつかまってろよ」

「頼むぞ」

 ヨージョを背負った俺は、絶賛夜の森を駆けている最中だ。

 俺のステータスならば、人間側の国境を誰にも気づかれずに越えることができるし、何よりヨージョの歩みに合わせるよりもずっと早く到着することができる。

 だから、こうして彼女を背負って走っているのだ。


「そう言えば」

 俺の背を力強く握るヨージョが、不意に呟いた。

「なんだ?」

「ミコにも、感謝をしているぞ」

 全く予想していない一言だった。なぜこのタイミングでそんなことを言ったのかは、分からない。だが、何か勘繰るわけでもなく、俺はただ一言だけ答えた。



「ああ」


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