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第四十四話 俺、湿っぽいのは苦手だな。

今回から、ヨージョちゃんのセリフのひらがな表記をやめました!

舌っ足らずな幼女であると脳内補完しながら読んでいただけると嬉しいです。


 ヨージョを【ゲッツ】してから、数日が経過していた。

 この間、フィノや他の獣人と共に、狩りや木の実・山菜などの採集を行いつつ、コミュニケーションを図っていた。

 

 ヨージョも既に、獣人と普通に会話ができるようになっている。

 怯えや険悪感を示すようなことはなく、上手いこと付き合えているのではないかと感じる。

 何やこの幼女、昨今のラノベヒロイン並みにちょろいやんけ! と早速思っていました。


 ……しかし、一つだけ気になることもある。

 ヨージョが獣人と話すとき、どことなく寂しそうな表情をするのだ。

 そろそろホームシックなのだろうか?

 あの大きなお城が恋しくなっているのだろうか?

 それとも、他の理由があるのだろうか?

 

 どんなことを思っているのか、結局は分からないでいた。


☆☆☆


 日は沈み、周囲はすっかり暗くなっている。

 夕食を食べ終え、後は眠るだけ、なのだが。

「ちょっといいか?」

 俺は既に寝ぼけ眼だったヨージョに告げる。

 すると、ヨージョは先程まで寝ころんでいたのだが、身体を起こした。どうやら、話を聞いてくれる気はあるようだ。

 そうして、プレハブ小屋の中、ベッドに腰掛けた俺たちはお互いに見つめ合う。


「なぁ、ヨージョちゃんや。ホームシックか何かかな?」

 考えても分からない、というわけで、俺はヨージョに直接尋ねていた。

「はぁ? 何を言っておるのだ?」

 ホント、いい加減にしてよねこの童貞……、とでも言いたげな表情のヨージョ。やめてくれ、いくら幼女とはいえそんな表情で蔑まれると、俺の心のちんぽが大噴火しちまうだろうがっ!

「本当に、何を言っているのだ?」

 再び問いかけるヨージョ。


「獣人と話しているとき、たまに寂しそうな、思いつめたような表情をしていたからさ。もしかして、城に帰りたいんじゃないか、と思ってさ」

 俺が言うと、ヨージョは「ああ…」と小さく呻いてから、

「別にそういうわけではない。お前が気にすることもない」

「今も。そんな表情しているぞ」

 ヨージョは慌てて、自分の顔を両手で覆った。……その仕草、キュートです!

 先程も、俺と話しているときのヨージョは件の表情を浮かべていた。

「なんかあるならさ、聞かせてくれよ」

 俺が話しかけると、ヨージョはちらっと俺を指の隙間から覗き見る。……やっぱりその姿はキュートです!


「たった数日だが、妾は気付いたのだ」

 顔を隠すのは止めたものの、俯いたままのヨージョが言った。

「気付いたって……何にだ?」

「妾は誤解をしていた……いや、そう思い違うように、教育されていたのだろうな。獣人は、仲間を愛し、先祖に深い敬意を持つ者たちだ。邪悪な性根を持たず、人間に積極的に害を為すような存在ではないという事など、こうして共に過ごせすぐに分かった」

「ああ、そうだよな」

 俺は答える。どうやらヨージョは、すでに獣人に対する悪意を持っていないようだった。

 まだ小さな子供だからだろうか、その適応能力はすさまじいものだと言えよう。


 だが、なぜそれに気づいているのに暗い表情を浮かべるのかが不明だった。

「だからこそ、人間と獣人は争うのだ」

 真剣な表情で、ヨージョは言う。

「なんでそうなるんだよ!?」

 分からない。

 互いの誤解が解けたのなら、争う必要などないはずだろう?

 俺の問い掛けを聞いたヨージョは、ゆっくりと首を振った。


「……人と獣人は、信じるものが違うのだ」

「信じる、もの?」

「そうだ。人は唯一絶対の女神【トゥーレ】様を信奉している。そして、獣人は死した先祖たち、【英霊】と共にある」

 宗教による、考え方・文化の違い。それは、俺が生きていた現代でもあったことだ。……デリケートな問題でもあると思う。しかし、だ。

「その【トゥーレ】様ってのは、異教徒はぶち殺せって説いているのか?」

 俺の言葉に、ヨージョは鋭い目つきで睨んできた。

「……別に、お前らの宗教を悪く言うつもりはねぇ。ただ、宗教の違いで、分かり合えないってのはなんでなんだ?」

 ヨージョは、しばらくしてから息を深く吐いて、落ち着いた表情で言う。


「【トゥーレ】様はそのようなことを説いてはいない。ただ、欲深い人間が、それを理由にするのだ。信心深い【トゥーレ教徒】に、異教徒の排除を唆す。獣人も、【英霊】信仰を捨てるわけがない。となれば、戦いを受けて立つほかない」

 戦争になって美味しい思いをする、欲深い人間ってのは、あの城にいた大臣やその取り巻き連中のような、糞みたいな奴らの事だろう。

 顔を思い出し、無性に腹が立った。


「そんな単純な話には、ならないんじゃねぇか?」

 俺は、救いを求めるように尋ねた。

 しかし、ヨージョの答えは俺の希望的観測を裏切るものだった。


「なる。過去に遡ってみれば、お互いを奴隷として扱った歴史がある。小さな諍いは、長いこと繰り返されている。そういった背景があるから、今も戦争に向かって、緊張状態が続いているではないか。こうしている今だって、いつ戦争が起ころうと不思議はない」

 語るヨージョの瞳には、諦観の色が浮かんでいた。

「なんだよ、お前は女王陛下なんだろ? だったら……」

「止められぬよ、妾には。そう、ただのお飾りの女王陛下様には、な」

 ヨージョの表情は暗い。

 彼女の言葉は冷たかった。


「じゃあお前は、戦う必要のない二つの種族が戦争をするのを、黙って見ているしかないと言うんだな?」

「……ああ。担がれただけの妾には、どうすることもできない」

 俯いた表情は、時折見せる寂しそうな横顔だった。

 

 きっと、ヨージョは戦争なんてもう望んでいないのだ。

 それなのに、女王なんていうご立派な役割を持っているにも関わらず、何もできない自分の無力が悔しいのだろう。

 ……そしてきっと、それは俺の想像が及ばないほどに辛いものなのだろう。

 

「なぁ、ヨージョ」

 俺は、俯くヨージョに声を掛ける。

「なんだ? 妾を軽蔑でもするか?」

 顔を上げたヨージョは、自嘲気味に笑っていた。

 俺は首を振ってそれを否定してから言う。


「俺に何が出来るかは、まだ分かんねぇけど。頑張ってみる」

 俺の言葉に、ヨージョはキョトンとした表情になる。

 そして、「くすくす」と小さく笑ってから、

「こればっかりは、どれだけ腕が立ったとしても頑張ってどうこうなるわけではないと思うが〈根源の巨竜オリジン・ドラゴン〉を退けたお前が言うと、気休めにはなるな。……ちょっとだけ、期待はしておいてやろう」

 と、いつもの偉そうな表情で言った。

 ヨージョは俺に、本気で期待をしているわけではないだろう。


 それでも、俺は彼女のその言葉に応えようと、固く決意したのだ。

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