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第四十二話 俺、溺れる。

「そう言えばフィノ」

「ん、どうしたのにゃ~?」

 問いかける俺に、未だ酔いが醒めないのか、フィノがニコニコした笑顔で反応した。


「俺たちは今日からフィノの部屋に一緒に住むことになるのか!?」

 宴会が終わり、今度こそ岐路に着く俺とフィノとヨージョ(ヨージョはやはり、疲れからか俺の腕の中ですやすやと眠っていた)。


 今晩の寝床がどこになるか、未だ確認していなかったのだが……普通に考えたら、面倒を見ると宣言していたフィノが責任を持って用意してくれるのだろう。

 ということは、きっとフィノと同じ部屋でおねんねするに違いない!

 つまり今夜はパジャマパーティだ、ひゃっほー!

 ……俺、フィノの寝顔を見たら性欲を抑えきれる自信がないぜっ!


 そんな風に考えていたのですが。


「え~、それは嫌にゃ」

 フィノはアルコールの影響だろう、朗らかに笑いつつも断固たる口調でそう言った。

 あまりにもさらっと言っていたので、俺は自らの耳と正気を疑った。

「おいおい、今嫌だと言ったのか? 女の子同士なんだから、断る理由なんてないだろうに。……もう一回聞くけど、おんなじ部屋で寝ていいんだよね?」

「え~、だから嫌だって」

 答えるフィノは、先程と全く同じく朗らかに笑っていた。……わ、笑っているんだよね?


「なんでっ!?」

 俺の心からの叫びに、フィノが一言答えた。

「だって、絶対お前は僕に変にゃ事をするし……」

 あからさまに頬を赤らめているフィノ。アルコールの影響と、照れがあるのだろう。その様は死ぬほどかわいかった。


「いやいやいや! さっきあれだけキャッキャウフフしてただろうに、今更そんなことを言っちゃうの!?」

「さっきのあれは、ノリで……なんとなく?」

「そんな股の緩いJKが行ずりの男に抱かれる時に言うような軽い理由で!?」

「ちょっとお前がにゃにを言いたいのかは分からにゃいけど……ただ、さっきよりももっと変にゃ事だって、お前ならしかねにゃいからにゃぁ」

 とろんとした瞳。憂いを帯びた表情のフィノに、俺はどきっとする。


 一体、フィノは俺にどんな変なことをされると恐れているのだろうか?

 ……なんだか興奮するな、このままでは今晩悶々としてしまい眠れなくなってしまうこと間違いなし! 


 だから、何を考えていたのかを聞いてみよう。


「俺、そんな変なことしないっての! フィノは、一体何をされると思っているんだよ!?」

「……脇の皺を数えられるとおもったにゃ」

「そそそ、そんなことするわけないだろう!?」

「本当に……?」

「本当に決まってるだろ! なんなんだ、フィノは俺のことを変態だとでも思っているのか!? 心外だな……」

「ふーん、そうだったのにゃ。もし、お前が僕の脇の皺を数えたいと言っていたら、別にそれでも良いと思っていたけど、その必要はにゃいってことだったんだにゃ?」

 安心したように、大きく息を吐きだしながらフィノは言った。

 俺はやれやれ、と首を振ってから、


「嘘です、脇の皺を数えさせてください!」


 勢いよく頭を垂れ、その場で膝をついて、フィノに向かって叫んでいた。


「さ、流石に気持ち悪すぎるにゃ……」

 フィノはドン引きだった。もしかしたら酔いも醒めているのかもしれない。


 

「とりあえず、やっぱりお前は危険にゃ。だから一緒の部屋では眠れにゃいにゃ」

「お、おいおい……ちょっと待ってくれよ! それじゃあ!?」

「まぁ、スキルを使ってそこらへんに雨風を凌げるのを作れば良いにゃ。僕はもう寝るにゃ。それじゃ、お休みにゃ」

 そう言って手を振るフィノを俺は呼び止め、告げる。


「寝床は創れても! フィノの脇は創れないんだよぉ……」

「き、気持ち悪すぎるにゃ! 本当に気持ち悪いから、勘弁してほしいにゃ!」

 フィノは顔を真っ赤にして、俺の首を軽く締めつつ、体を激しく揺さぶってきた。

 

「好きなものを好きと言えないのなら、それは世界の方が間違っている!」

「間違っているのは、間違いにゃくお前の性癖にゃ……」

 フィノは可哀想な物を見る目で俺を見下していた。


 ……もしかしたら、俺は酔っぱらっていたのかもしれない。だから、こんな訳の分からないことを言ってしまったのだろう。

 ちょっとだけ、見たいという気持ちはあるが、素面の状態だったならば、紳士さに定評がある俺が女性の脇の皺を数えたいという変態的な宣言をするわけがない。


 なんだ、〈自動回復〉のスキルも、知らぬうちに無効化されていたんだな。全く、気を付けないといけないな、がははー!


「悪いな、ちょいと酔っぱらってしまって……」

「……そういうことにしておいてやるにゃ」

 ジト目で俺を見るフィノはふぅ、と大きく溜息を吐いた後、続けて言った。

「……とりあえず、ここに寝床を創ればいいにゃ。それまでは、見届けてやるからにゃ」

 「分かった。残念だけど、駄々をこねてばかりじゃいられねぇよな」

 ……ヨージョのことも、今日は早いところちゃんとした寝床で寝かせてやりたい。きっと、環境が急に変わってしまったことで、疲れているだろうからな。


 俺はフィノに指し示された居住区の一角、テキトーなスペースのところをに住居を創ることを決めた。

 

 俺はヨージョをゆっくりと地面に降ろしてから、〈物質創造〉のスキルを発動させた。


 魔法陣が展開される。

 そして、周囲を光が包んだ。

 数秒後、光は収まりそこから現れた・・・



「にゃ、にゃんにゃ、これは! こんな建物、見たこともにゃいぞ!」

 フィノは感嘆の声を上げた。

 驚きに見開いた目は、俺が創造したその住居に向けられている。

 白い長方形型、出入口と窓が一つあるその建物は、二人と言わずに3~4人ほどは生活ができるだろう。

 確かに、この世界では見たこともない建物である。


 ……しかし、実際は現代日本ではよく見かけるただのプレハブ小屋なのです。ここまで驚かれるとは、流石に思っていませんでした。

 

「ん、まぁ、機能性を追及したらこうなったのかもしれないです」

「そうにゃのか!? そうにゃのか!? にゃんかすごいにゃ、カッコいいにゃ!」

 テンションがアゲアゲになるフィノ。

 まさか異世界の簡易な建物ですよ、などとは言えない。……言っても、信じないだろうし。


「中は、中はどうにゃっているにゃ!?」

「入ってみるか?」

 俺は少年のように瞳を輝かせるフィノに、苦笑しつつ言った。

「うん!」

 元気よく頷くフィノ。

 俺は寝かせていたヨージョを抱き上げ、そのプレハブ小屋へと入った。


「おお! なんか、なんかすごいのかすごくにゃいのか……よくわからにゃいにゃ!」

 テンションの上がるフィノ。

 ベッドが三つ、テーブルが一つとイスが三つ。部屋の天井からはランプが吊るされている。

 それ以外、目を引く物は創っていない。

 三つのベッドの一つに、俺はヨージョを寝かしつけた。

 ……気持ちよさそうな表情で、ぐっすりと眠っている。

 やはり、眠っている分には可愛らしい幼女である。俺は少しだけ優しい気持ちになって、ヨージョに布団を被せた。


「にゃあ……一つ良いかにゃ?」

 フィノが、俺に声を掛ける。

「ああ、なんだ?」

「僕も、今日はここに泊まっていっていいかにゃ?」

 上目遣いで、甘えるように告げるフィノ。 


 ……来た!

 別に意図していたわけではないが、こんな簡単においしい展開になるとは。

 ……意図はしていなかったけど、期待はしていました。なんていったって、だからこそベッドを三つ創ったのだか、ら……。

 ん、んぅ? ベッドが、三つ?


「っはぁっ!」

「にゃにゃ!?」

 思わず、俺の口から驚きの叫び声が上がり、同じようにフィノも声を上げていた。


 俺は、一つ大きな過ちを犯してしまったのではないだろうか?

 もしもここでベッドを二つしか用意していなかったとしよう。

 そしたら、どうなるか。


 考えるまでもない。一つのベッドはヨージョが既に占領している。眠っているヨージョを起こさないように、俺とフィノが一つのベッドで眠る……それが、当然の流れになっていたはずだ。

 なのに、人数分のベッドを用意してしまったため、三人別々に眠るという選択肢が取れるようになってしまったのだ。


 策士策に溺れる、とはこのことか……。別に策を弄したつもりはありませんが。


 何も言わずに黙り込んだ俺を、フィノは心配そうにのぞき込んできていた。

 そして、しっとりとした表情で、


「やっぱりダメ、かにゃぁ……?」

 と小さな声で呟いた。

 その様子はとても可愛らしく、庇護欲が刺激されるものであり……つまりは心のちんぽが勃起するようなものであったのだ!


「ああ、勿論構わないさ」

 俺は激渋(自己申告)な声音でそう告げたのだった。


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