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第四十一話 俺、ココロオドル

 美味い料理に舌鼓をうち、酒をがぶがぶと飲んでいて俺は気付いたことがあった。


 全然酔わないんだけど……。


 そう、俺は先程から果実酒を呑み続けているというのに、全く酔う気配がないのだ。

 多分これ、パッシブなスキルである〈自動回復〉、アルコールを毒物と判断し、解毒しちゃってるからだよね。

 転生前は高校生であり、アルコールを飲んだことのない俺は、一度酔っぱらうという経験をしてみたかったのだが……それは叶わなさそうで、残念である。

 

「おまえ、本当に酒に強いにゃ! 僕、びっくりしたにゃ!」

 完全に出来上がった状態のフィノが、俺にすり寄り、満面の笑顔で告げた。


 ……やばい、やっぱめっちゃフィノ可愛い。


 酔っぱらって紅潮した頬。

 とろんと潤んだ瞳で、上目遣いされると、心のちんぽが噴火しちゃいそうになりゅぅぅぅぅううう!!


 好きだ! 結婚してくれ!

 俺がフィノにそう言おうとしたとき。


「なんだ? なにかはじまるのか?」

 俺の隣のヨージョが、怪訝そうに眉を顰めながら呟いた。


 俺はその言葉を聞いて現実に戻った。

 

 ……だよな、結婚だなんて、はやまりすぎだった。まずは、肉体関係からだよな……。


 自らの早まった考えを頭から振り払い、目前を見てみる。

 すると、ヨージョの言葉がどういった意味だったのかが分かった。


「……確かに、さっきまで食って呑んでしていた獣人が急に立ち上がってるな。……お開きってムードでもなさそうだし、どうしたんだろうな?」

 料理が盛られた器や、酒の入った杯を置いてから、獣人たちは立ち上がって炎のすぐそばまで歩み寄っていた。


「あれは、歓迎の挨拶にゃ」

 フィノの言葉の後に、俺の耳に届いたのは音楽だった。

 見れば、数人の獣人が楽器を持って演奏していた……いつの間に用意していたのだろう? 全然気づけなかった。


 太鼓によく似た打楽器、ウクレレのような弦楽器、他にも管楽器や現代では見たこともないような形の楽器を用いて、にぎやかな音を奏でていた。


 そして、その楽しいリズムに合わせて、火の周囲にいた獣人たちが踊り始めていた。

 皆一様に笑顔で、陽気に踊っている。


「……なんなのだ、これは?」

 疑問の声を出したのは、ヨージョだった。

 

「なんでもいいにゃ!」

 その声に応えたのは、既にべろべろに出来上がっているフィノだった。


「僕たちも踊るにゃ!」

 そう言ってフィノは俺とヨージョの手を引いて立ち上がった。

「お、踊り!? 俺、そんなのできないぜ!?」

「テキトーで良いにゃ。楽しければそれで、OKにゃ!」

「な、なぜわらわがおどらないといけないのだ!?」

「一緒に踊れば楽しいからにゃ! ほら!」

 抵抗する俺とヨージョだったが、フィノは無理矢理に引きずり、そして火の周囲まで引っ張っていった。


「今日の宴の主役を連れてきたにゃ! 皆で、踊るにゃ!」

 フィノが獣人たちに告げる。

 俺とヨージョはうろたえつつ、周囲の反応を見る。


「おう、お嬢ちゃんたち!」

「今日は楽しむぜ~」

「がはは! 踊れ踊れぇ~い!」

 

 ……べろべろに出来上がっているのは、フィノだけではない。

 他の獣人も、呂律が回らないまま、楽しそうに騒いでいる。


「というわけにゃ! お前らも、踊るにゃ!」

 俺とヨージョの手を引いて、陽気なステップを踏み始めるフィノ。


「わ、わ、わ……」

 突然のことに驚きの表情をみせながらも、しっかりとフィノの踊りに付き合うヨージョ。さすがは王族。踊りも身に着けているのだろう。


「わ、わ、わ~!?」

 突然のことに驚き、そのまま不細工な踊りを続ける俺。……尻もちをつかないだけ、マシだったかもしれない。


「にゃはは、初めてにしては二人とも上出来にゃ。それ、もっと早く踊るにゃ~」

 フィノは楽しそうに笑いながら、俺とヨージョの手を引いて踊る。

 ヨージョは、戸惑いの表情を浮かべているが、一応付き合っていた。もしかしたら、ほんのちょっとだけ、心を開き始めているのかもしれない。

 

 周囲の獣人たちは、何やら楽しげに、俺たちの踊りをはやし立てている。ノリの良い奴らだな……と、ちぐはぐなステップを踏みながら俺は思った。


 だけど……。

 リズムに乗り切れなくても。

 下手くそなステップだったとしても。

 俺はこの時、獣人たちと陽気に踊ることを、単純に楽しんでいた。



☆☆☆



 あれから、結構な時間が経っていたと思う。

 それでも、獣人たちは踊るのを止めていなかった。

 俺は、疲れ切って眠ってしまったヨージョに膝枕をしながら、燃え盛る火を囲んで踊り続ける獣人を少し離れたところで見ていた。


「むむむ、もうお前らは踊らにゃいのか?」

 そんな俺達に、フィノが踊りの輪から離れ、声を掛けてきた。

「ああ、十分楽しませてもらったよ。ありがとう」

「そうか……それにゃら、良いんだけど」

 フィノは、俺の言葉を聞いて寂しそうな笑顔を浮かべた。

 もっと、一緒に踊りたかったのかもしれないな。


 しゅんとしたフィノを見ていると……先程、彼女がが一人で、寂しげな表情を浮かべながら踊っていたことを思い出した。

 

「なぁ、さっきの踊り」

 俺はさっきのフィノの踊りを思い出しながら問いかけていた。

「んにゃ? さっきの踊りは、僕達のお祝いの時や、嬉しいとき、あと、なんでもなくても楽しい時に踊るのにゃ!」

「つまり、いつものように踊っているという事ですね。……そうじゃなくって、さ」

 俺が言うと、フィノは少しだけ寂しそうな表情になった。

「……覗き見していたあれかにゃ?」

 フィノの返答は、酔っているとは思えない、明瞭な声だった。

「ああ、それだ。すっげぇ綺麗だった。でも、すっげぇ悲しそうだった」

 俺は、素直に感じたことを口にしていた。


「……うん」

 少しの間が空いてから、返ってきた一言。

「あれは、今踊っているのとは違う意味を持つにゃ。……死者を悼み、弔うための踊りにゃ。悲しく見えたのは、そのせいにゃ」

「なんで、フィノはそんな踊りを?」

「……今は、秘密にゃ」

 フィノは、これまでとは違う、神秘的とすら言える微笑みで告げた。


 ……めっちゃ可愛い。ていうか、とても美しい。フィノたんマジ女神。

 俺はちょっと戸惑った。照れ隠しのため、膝枕をしているヨージョの髪の毛を、軽く梳いた。

 ヨージョはそれに反応して、少しだけ体を動かしたものの、起きる気配は無かった。


 ……あの時のフィノの踊りは、俺の心に強烈な印象を残していた。

 かつて見た、アイドルたちのダンスとは、全く違う意味を持っているのだろう。

 ただ、誰かに笑顔になってもらいたい。その一心で踊る彼女たちとは違い、何か別の覚悟を背負って踊るフィノ。

 ……でも、どんな意味があるのかなんて知らないけど。

 フィノの踊りは、人の心を掴んで離さない、とても素敵なものだった。

 

 だからだろうか? 俺は既に踊り続けている獣人たちに目線を向けなおしたフィノの横顔を見ながら、問いかけていたのは。



「もし、フィノさえ良ければ。俺にも、踊りを教えてくれないだろうか?」

 俺の言葉に、フィノは振り返る。

 そして、柔らかな笑顔で俺に答えた。


「気が向いたら、にゃ」

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