第三十九話 俺、キャッキャウフフ……ウフフフフフ!
俺はしばらく人気のない森で悶え続けた後、しれっとした表情で獣人の居住区へと戻った。
オイナガ宅の前まで戻るつもりだったが、それよりも手前のところにヨージョとフィノがいるのを見つけて、俺は二人の元へと微妙な心境で歩んでいった。
「……ここで、俺の帰りを二人して待っていてくれたのか?」
俺の問い掛けに、まずヨージョが反応した。
「おまえのかえりをまつというよりも、じゅうじんたちのしせんがうっとおしいからな……。ここなら、そうめだたないだろう」
ドライな意見だった。
俺は期待を込めてフィノを見た。
「この幼女が万が一にも逃げ出さにゃいように、見張っていただけにゃ」
……やはりドライな意見だった。
「ええー、お姉さんがた。ドライすぎるんじゃないっすか? こんなかわいこちゃんを前に、そんな態度はないでしょー」
俺は、不満を露わにするため、頬を大きく膨らませながらムスっとした表情で言った。
「自業自得にゃ。いくら可愛らしい笑顔を浮かべても、グッとくるポーズを取ったとしても! 僕の心は動かにゃい!」
と、フィノは俺の頭をよしよしと撫でながら、とろけそうな表情でそう言ったのだった。
そんなフィノを、ヨージョは無言のまま半眼で見ている。
……目は口ほどにものを言う、とはこのことだろう。
「……めっちゃ通じてますやんか」
頭をなでるフィノの手に、多少のくすぐったさを覚えつつも、呆れながらも俺はそう言った。
その言葉に、フィノは素早く反応し、撫でる手を止めた。そして、プイッとそっぽを向いた後に、
「う、うるさいにゃ! 今のは、不慮の事故だから、仕方にゃいのにゃ!」
と頬を赤く染めながら、誤魔化すように叫んだ。
愛くるしい表情とわなわなと震える唇。
……イッツソーキュート。
とてもとても可愛らしい彼女の姿を見て、俺は奮い立つ。
今度はこちらがフィノの猫耳をモフモフする番だった。
ふわふわした毛に包まれたピンと立った猫耳をモフモフと撫でると、驚いたようにフィノの肩が跳ねる。
「こ、こんにゃところで、にゃにをするにゃ!」
「そこに猫耳があるから……猫耳だから!」
俺はそう言って、今度は背中側に手を回し、出来る限りいやらしくない触り方で彼女の尻尾をモフモフする。
心地よい感触。上目遣いにこちらを見るフィノ。
……完全にヘヴン状態だった。
「にゃ、にゃ、にゃにをするにゃっ!?」
大慌ての様子で、フィノが俺に言う。
俺はフィノの猫耳と尻尾をモフモフと楽しみながら、
「そこに尻尾があるから……尻尾があるから!」
と答えた。
「い、意味が分からにゃいにゃ!? ……でも、そっちがその気にゃら、僕も手加減しにゃいにゃっ!」
そう言って、フィノは俺の脇をくすぐってきた。
「わ、ちょ……待って! くすぐったいから! それ駄目だからぁっ!」
「〈根源の巨竜〉を退けた〈神語り〉が、情けにゃいことを言うにゃ!」
「む、むー。それとこれとは、話が別だっての!」
俺も、フィノの尻尾から、触る場所を内腿へと変えた。
……い、今は女の子同士だからセーフ! 安心安全であるはずだ! やましい気持ちがあっても、ちんぽがなければセーフなんだからねっ!
「にゃにゃにゃ! そ、そこは駄目にゃ……」
フィノは身を捩って、真っ赤になって抵抗をした。
小さく「あっ」とか、「やぁ……」とか言ってて、とてもエッチだと思いました。……実物はなくとも、僕の心のちんぽは天を仰いでいたのです!
俺たちはなりふり構わず、互いの身体のやらかい場所を求め続けた……。
あ、エッチな意味ではないです。
そして、そんな俺たちを冷静な目で見る人物が一人。
「なにをやっているのだ、おまえたちは……」
呆れたように呟くヨージョ。
彼女は俺たちのやり取りを、一歩引いたところで見ているだけだ。
俺とフィノは、一時的に互いの手を止め、ヨージョへと視線を向ける。
ヨージョは今も尚胡乱げな視線を俺たち二人に向けている。
……この状況はまずい。
俺とフィノがイチャイチャしていたら、いつの間にやらヨージョの眼差しに、様々な負の感情が宿っているではないか。
不信・恐怖・怒り・悲しみ。
それらがまぜこぜになった、強い負の感情が見て取れる。
獣人との良好な関係を築くためにここに連れてきたというのに、ヨージョに強い負の感情を宿させてしまったら、意味がないどころか逆効果ではないか!
俺は、無言のままフィノに視線を向けた。
彼女と視線がぶつかると、互いに同じことを考えていることが分かった。
この状況は、お互いにとって決して良くないのではないか? フィノの視線はそう語り掛けているのだ。
俺は無言で頷いてから、ヨージョに襲い掛かった!
「……ふえぇ!?」
俺はヨージョの柔らかいあそこを、躊躇いなく指先で弄った。
指先が蠢くたびに、ヨージョの嬌声が耳に届いた。
「ふにゃぁっ!」
短い悲鳴を上げて、ヨージョは体を強張らせた。
とても、柔らかい。
ふにふに、すべすべとしていて、思わず指を埋めたくなってしまう。
……いつまでも触っていたくなる手触りだ。
「ど、ど……どうしてこうなったのだ!」
歳不相応な艶やかな吐息を漏らしながら、ヨージョは俺に問いかける。
その問いに返答するのは、俺ではなかった。
「もちろん、スキンシップが大切だからにゃ!」
勢いよく答えるフィノは、俺が触っている方とは反対側の柔らかい場所をつつきまわしている。
「ううぅ~、ほほをぷにぷにするのはやめるのだぁ~」
ヨージョが、執拗なまでに頬をぷにぷにしまくる俺とフィノに、熱っぽく懇願する。
「……やめられませんね、これは」
「やめられにゃいにゃ、これは」
俺とフィノはにやにやと笑いながら、ひたすらヨージョの頬をぷにぷにしまくるのだった。
☆☆☆
はぁはぁ、と空気を求めて浅く呼吸を繰り返す声が耳に届く。
俺とフィノとヨージョは、3人して地面に寝転がり、大の字になっていた。
ある時は俺が脇をくすぐられ、ある時はフィノが猫耳と尻尾をモフられ、ある時はヨージョがほっぺたをプニられるという、桃色三角空間でキャッキャウフフをしていたのだが……。
いちゃつきすぎて体力の限界が近くなってしまったため(ヨージョについては大分早い段階で体力の限界が訪れていたようにも思う)に、三人とも息切れをしてしまった。
そうして、誰からともなく(多分というか間違いなくヨージョからだった)、こうして地面に寝転がっていたのだった。
俺は寝返りを打ち、フィノの方を向く。
フィノも、それに気づいたのか同じように寝返りを打って俺の方を見てきた。
視線が交錯する。
……何だか、気恥ずかしい気分だった。
今度は反対側に寝返りを打って、ヨージョの方を向いた。
彼女はさっきのキャッキャウフフで相当に疲れていたのか(白目を剥いているので、そっと瞼を降ろしてあげた)既に寝息を立てていた。
寝顔は可愛らしい幼女そのものであり、生意気な普段とのギャップが激しく、ソーキュートだった。
俺はヨージョの頬をそっと撫でてから、自らの体を起こす。
「さて、そろそろ暗くなってきたし、戻るとしますか」
「そうするかにゃ」
俺の言葉に反応したフィノは、同じように体を起こして答えた。
大きく伸びをするその姿はとても愛らしく、危うく第二次キャッキャウフフ祭が始まるところだった。
俺は自らの自制心を限界まで働かせ、なんとか理性を保った。
そして、未だ眠ったままのヨージョを起こさないように抱えた俺と、フィノは居住区へ向かって歩き始めた。
 




