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第三十六話 俺、幼女、猫耳美少女!

 フィノが冷酷な言葉を放ち、ヨージョの喉元を掴む手に力を込めた。

「やめるんだ、フィノ!」

 俺は素早くフィノとの距離を詰めてから、腕に手を置いて彼女に呼びかけた。


 しかし、それくらいでは止まらない。

 

 ……こんなことをしたくはないが、俺も実力行使に出るか? そんなことを思った時。 


「た、たすけてくれ……」

 ヨージョが助けを乞い、苦しげにもがいた。


 小さな女の子のそのような痛々しい姿を見て、今のフィノにもわずかばかりの逡巡が生まれた。

 しかし、フィノは頭を左右に振り、もう一度ヨージョを睨みつけた。

 このままだと、本当に殺してしまいかねない。


 俺は焦り、腕を握る手に力を込める。


「落ち着いてくれ、フィノ……。お願いだ」

 

 その言葉に、フィノは反応を示した。

 見開かれる目。その目の奥に、何が秘められているのか。

 今の俺に察することはできなかった。


「……んにゃぁっ!」


 フィノは俺にヨージョを投げつけてから、乱暴に手を離した。

 俺はヨージョの華奢な体を抱きとめ、背を擦る。


「大丈夫か?」

 俺の言葉に、ヨージョは首を横に振って応える。

 弱々しく全身を震わせ、目の端からは涙が零れ落ちていた。

 俺は、そんな彼女を不憫に思い、優しく後ろから抱きとめた。


「大丈夫だ。心配するな」

 俺の言葉が、今度こそ届いたのか。

 ヨージョはゆっくりと深呼吸し、そして小さく頷いた。

 俺は彼女の顔を覗き込んで、指で涙を掬い取った。


「よし。それじゃ……フィノに謝れ」

 俺の言葉に、ヨージョ、そしてフィノが驚きの表情を浮かべた。


「な、なぜわらわがあやまらなければならぬ!? ころされかけたのは、わらわだぞ!」

 ヨージョの言葉に、フィノは少し不服そうにしているが、何も言うことは無かった。


「そらそうだな。だけど、フィノを侮辱しただろ?」

「ぶじょく? なんのことだ」

 きょとん、とした表情で俺に問いかけるヨージョ。

 もしかしたら、ヨージョはその言葉にどれだけの悪意が込められているのか、分からなかったのかもしれない。


 だから、俺はフィノに向かって、謝った。

「悪かったな、フィノ。……嫌な思いをさせてしまった」


 俺の言葉に、今度はフィノが驚きを浮かべた。

 しかし、すぐにその表情は硬くなった。


「お前が謝ることじゃにゃい。あまり、余計な気をつかうにゃ」

「いったい、なんのことだ?」

 俺とフィノの会話に、ヨージョが割り込んだ。

 フィノは、キツい視線をヨージョに向けた。


「〈人もどき〉……獣人にとって、その言葉はとんでもない侮蔑が込められているんだよ」

 俺の言葉に反応して、フィノは眉を潜めた。


 事情や由来は分からないが、見ていればその言葉が獣人にとってまずいこと位は分かった。

 最初に出会った時に聞かされた言葉を思い出す。


『ほとんどの人間は僕達獣人族をとある蔑称で呼ぶ。それを用いていたら、僕はお前を殺していたにゃ。自分の無知に感謝することだにゃ』


 そう言っていたはずだ。

 

 つまりは、〈人もどき〉という呼称がそれだろう。


「そ、そんなこと……しらない! しろのだれもがそんなことをわらわにはおしえてくれなかった! しろにいるみんなひともど――じゅうじんをそんなふうによんでいるのだぞ!? だから!」

 俺の言葉を聞いて、ヨージョが必死の形相で反論する。

 フィノは苛立ったように、ヨージョを見ていた。


 俺は、尚も言い訳を並べるヨージョに、軽くデコピンをした。

「いたーい!」

 おでこを抑えて涙目になるヨージョ。ちょっとかわいいかも、なんて思ったが、今は萌えている時ではない。


「二つ、言う事がある」

 俺は人差し指と中指を立てて、ヨージョに見せた。

「まず一つ。相手のことを知ろうともせずに、分からないままなのに、相手の悪いところばかりを否定しようとするから、こんなふうに誤解が生まれるんだ。人間と獣人。お互いがお互いをもっと良く知っていくべきなんじゃないのか?」


 俺の言葉に、ヨージョがばつが悪そうに目を伏せた。

 そして、何気なく見やったフィノの方も、少しばかり居心地が悪そうにしていた。


「もう一つ。悪いことしたら、ごめんなさいを言おうな」


 俺は、膝を曲げてヨージョと目線の高さを合わせた。

 彼女の瞳には、大粒の涙が溜まっていた。……いきなり敵対種族の拠点へと連れてこられて、いきなり殺されかけるなんて、ハードすぎると思う。

 俺は流石に罪悪感を覚えた。


「……ごめんなさい」


 しかし、ヨージョはそんな俺の想いとは関係なく、フィノの頭を下げて謝ったのだった。

 生意気な態度は問題だが、根は素直なのかもしれない。

 あるいは、周囲の人間の悪影響もあるのだろう。


「……僕こそ、やりすぎたにゃ。悪かったにゃ」

 フィノも、小さく呟いていた。


 俺はそれをみて、うんうんと頷いた。


「……さっきの話が、お前の目的にゃんだにゃ」

 フィノが、ヨージョに向けていた視線を、俺に向けてきた。

 俺はその視線を正面から受けてから、


「ああ。俺は、獣人のことを、もっと知りたいんだ。だからここに来た。暫く、一緒に過ごさせてくれ」

 

 と宣言した。


「そこのガキにも、僕たち獣人のことを理解させるために、ここまで連れてきたんだにゃ?」

 フィノは難しい顔をしてから、ヨージョを指さして言った。


「……ヨージョを連れてきたのは、ちょっとしたノリだ!」

 

 元気いっぱいに答えた俺に、フィノは白目を剥き、


「なんじゃそりゃぁー!」

 と、ヨージョが嘆いていました。

ご一読ありがとうございます。

活動報告でもお知らせしますが、ネット小説大賞応募用の新作を連載しますので、こちらの更新ペースが遅くなると思います。

楽しみにしてくださっている方、申し訳ありません。

エタらせる気は毛頭ありませんので、そこについてはご安心を!

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