第三十四話 俺、猫耳美少女と再会する。
白目を剥いて叫んだあと、重大なショックを受けてしまったためか気絶したヨージョを抱きかかえたまま走っていた。
俺は〈追跡〉のスキルを使い、とある人物の居場所を探る。
「ん、近いな」
俺は身に覚えのある生命力をすぐに感知。
彼女の居場所に向かって、再度駆けだす。
生い茂る木々。
踏み鳴らされていない獣道を走り、時折現れる魔物や魔獣を片手間にデストロイし、とうとう目的の人物の元へと辿り着いた。
どうやら彼女は今、一人きりのようだ。
何をしているんだろう? そう思いフィノを見ていると。
踊っていた。
木々の間からわずかに漏れる陽光が、スポットライトのようにフィノを照らす。
軽やかにステップを踏む。華奢で小さな体が大きく見えるように、大きく身振り手振りを加えている。
ほぅ、っと息が詰まった。
とても、美しい踊りだからだ。
森の中、自然のスポットライトに照らされた猫耳の美少女。物語の中にでも出てきそうな、幻想的な画だ。
フィノの踊りが終わる。
だけど、俺は声を掛けられないでいた。
あまりに素晴らしい踊りだったから、声を出すことすら忘れて見入っていた。
それも、もちろんある。
だけど、それ以上に。
フィノが、とても辛そうな表情で踊っていたから。
俺は、こうして声がかけられないでいるのだ。
「覗き見をするにゃんて、趣味が悪いにゃ。一体、だれにゃ?」
不意に、静寂を破る声が聞こえた。
俺は、フィノの言葉に我に返り、そのまま姿を見せることにした。
「悪い。そんなつもりじゃなかったんだけどな」
俺が言いながら姿を見せると、フィノは最初驚いたように目を見開き、その次に不審ながるように俺に視線を向ける。
「久しぶりっ!」
俺は、警戒心を持たれないように超絶キュートなミコちゃんスマイルを浮かべて、手を上げた。
フィノは、一度頬を赤く染めた後、
「……にゃんでお前がここにいるのにゃ?」
と、憮然とした表情で言った。
「にゃんでも、何も。フィノに会いたかったから来たんだよ」
「ここがどこだか、わかっていにゃいのか?」
「分かってるよ。獣人側のテリトリー、だろ?」
あっけらかんと答える俺の言葉に、フィノは呆れたように深く息を吐き、片手で眉間をもみほぐした。
「あー、分かったにゃ。お前がとんでもない馬鹿だという事が! ここに来たことは、誰にも言わにゃいにゃ。だから、すぐに立ち去るにゃ」
「いやいや、そう言わないでくれよ。俺は、お前ら獣人ともっと仲良くなりたいだけなんだよ!」
フィノは、呆れたように大袈裟な仕草をして、天を仰いだ。
そして、もう一度俺に向き直ってから言う。
「お前は本当に馬鹿にゃ! 良いか、確かにお前は他の人間とは違うけど、だからと言って僕達獣人とは、根本的にちがう種族にゃ! ……考えたくにゃいが、もしかしたらお前が人間側のスパイである可能性も、捨てきれにゃいにゃ」
目を伏せて、フィノは言った。
「あ~、その心配ならしなくても大丈夫」
「根拠があるのかにゃ?」
「ああ、もちろんだぜ!」
そう言って、俺は腕に抱えたヨージョをフィノに見せる。
「気になっていたけど、そいつ、何者にゃ?」
不思議そうに問いかけるフィノに、俺は胸を張ってこたえる。
「聞いて驚け! なんとこいつは、この人間側の頂点に位置する、やんごとなき御方なのだ! そう、女王陛下ヨージョとは、こいつのことを言う!」
「つまり、にゃにか? 女王陛下を僕達獣人に差し出すつもりだと?」
「いやいや、そこまで物騒な話じゃねぇよ」
俺の言葉を聞いてから……
「信じられるわけにゃい、そんな話は」
酷く冷めた目を俺に向けてきた。
……そ、そうなりますよねー。
俺は、警戒するフィノから視線をそらして、深く溜息を吐いたのだった。




