第二十八話 俺、マッチョなタフガイと再戦する。
俺は〈クサナギ〉を構えながら、バルバロスの持つ魔剣・〈ダーインスレイヴ〉を見る。
全身に鳥肌が立つ。とても禍々しく、強力な力を感じる。
「……とんでもねえ武器を手に入れたみたいだな」
俺は、バルバロスと対峙したまま告げる。
「ああ。ご主人様に一太刀入れるために、俺は苦労の末にこの武器を手に入れたのさ。こいつはすげぇぞ、一度抜けば、生血を吸わぬ限り鞘には収まらない。そして、この剣でつけられた傷は、いわば呪いだ。普通の方法では治癒が出来ねぇ」
得意気に言うバルバロス。
「……え、何? お前、俺のこと殺すつもりなの?」
俺はバルバロスの得意気な解説に、思いっきり引いていた。
バルバロスは俺のツッコみに、
「あ、やっべ」
と呟いた。
……やっぱ馬鹿みたいだ、こいつは。
「いいや、ご主人様には、殺すつもりで立ち向かわなければ、相手にもならねぇ! つまり、そういう事だ!」
首を勢い良く左右に振ってから、バルバロスは魔剣の切っ先を向けてきた。
「何のフォローにもないっての」
俺は頭を抱える。
こんな馬鹿でも、最強の冒険者と言われており、その戦闘力は折り紙付きだ。
先程の一戦、この馬鹿は王国騎士たちを圧倒した。それも、スキルも使わずに、だ。
とてつもない実力差があったことは明白だ。
「さぁて……」
バルバロスは、好戦的な笑みを浮かべて、呟く、
「先手はもらうぞ、ご主人様!」
そして、一息の間に距離が詰められた。
上段からの斬り下ろしが、襲い掛かる。
俺はそれを見て、目の前に魔法障壁を創りだす。しかし……。
「甘えぇ!」
ガラスが割れる様な音が、耳に届いた。
それは、バルバロスの一太刀により魔法障壁が砕かれた音だった。
「やるじゃないの……!」
俺は振り下ろされる魔剣の一撃を、身を反らして躱した。
そのまま後ずさり、数歩分の距離を置く。
以前戦った時は、魔法障壁によって攻撃を弾いていた。
バルバロスの修行の成果……というよりかは、あの手にした魔剣の力が大きいか。
俺が数多く持つスキルの内の一つ。武器の持つ固有の能力を見破る力、スキル〈武器鑑定〉を発動する。 魔剣・〈ダーインスレイヴ〉は力・技・速度のステータスの値を1・4倍まで引き上げるようだ。
生血がどうこうとかいう、なんだかややこしいデメリットがあるにはあるが……こいつは、とんでもなく強力な武器だな。
「やはり、まだ足りないか……それなら!」
そう言った、バルバロスが目を閉じた。
「スキル〈超越〉!」
バルバロスは自らのスキルを発動させる。
これで、さらにステータスの底上げがなされた。
「これまでにねぇ程の高揚感……それに、力が体のそこから溢れてくる感覚。悪いな、ご主人様。死なねぇように気を付けてくれよ!」
バルバロスの声が届いたと同時に、俺の目前へと奴の巨体が迫った。
剣の動きを見る。
横薙ぎの一閃。斬り下ろしの一撃。そして切り上げの攻撃。
その三つの攻撃が、全くの同時に繰り出せれていた。
「おいおい、マジかよ」
俺はその攻撃を見て、本気を出す。
三つの剣戟の合間を縫って、それらすべてを躱す。
その後に、一歩踏み込み、バルバロスの胴体へ手にした〈クサナギ〉でみねうちをして攻撃した。
「っぐ、ふ!」
バルバロスが苦しそうに呻いた。
俺はそのまま手に力を込めて、腕を振りぬいた。
バルバロスは〈クサナギ〉に弾かれ、吹っ飛ばされていった。
ギャラリーを派手に巻き込みながら転げまわるバルバロス。
これが他の相手ならば、既に終わりだと確信を持てるのだが……。
「おいおい、ご主人様。こんなもんじゃねぇよな?」
ギャラリーを蹴飛ばしながら立ち上がるバルバロス。
文句をぶつけられているが、全く取り合っていない。
「めんどくさいぞ、お前……」
俺はため息交じりに呟く。
「ふふふ。俺様の修行の成果、どうだ! ……とはいえ、このままでは俺が一撃を与えるのも難しい、か」
バルバロスは、馬鹿なりに気付いたようだ。
自らと俺との格の違いに。
バルバロスは、とてつもなく強い。
だけど、俺ほどではない。
それを、先程の攻防で理解したのだろう。
「なんだ。諦めてくれたのか?」
俺は軽い調子でバルバロスに問いかけた。
「まさか。諦めてなんていねぇ。ただ、気付いたぜ」
「? 何をだよ?」
「長引かせたって無理なら、話は早え。次の一撃に、俺の全身全霊を賭けるぜ」
不敵な笑みを浮かべた後に、バルバロスは構えなおした。
「……んじゃ、俺も次の一撃は本気で行くぜ」
〈超越〉をはじめとしたステータスアップのスキルを発動。流石に、今の時点では〈底力〉・〈英雄〉・〈覚醒〉は使えないものの、人間を相手にしているのならば十分だろう。
ギャラリーも戦いを静かに見守っていた。
俺とバルバロスは、互いに見つめ合った。
そして、一拍の後。
うおぉぉぉぉおおおおぉぉ!
バルバロスの雄叫びが耳に届いた。
目にも留まらぬ速さで距離が詰められた。
そして、振り下ろされる魔剣・〈ダーインスレイブ〉。
瞬きすら許さぬ、神速の一撃。俺は目を見開き、それを見た。
刹那の中、俺は動く。
バルバロスの攻撃は、確かに速い。
しかし、それは直線的な速さだ。
俺は僅かに身を反らし、それを躱す。
バルバロスは、自らの渾身の一撃が空ぶったことに驚愕し、目を見開いた。
奴の目に映っているのは、化物の如き強さをもつ、可憐な美少女だ。
俺は、指を丸めて力を込める。
「お終いだよ、ストーカー野郎」
そして、ため込んでいた力をバルバロスの額に向けて解き放った。
俺の行った攻撃は、デコピンだ。
しかし、それはただのデコピンではない。ステータスカンスト、スキルでドーピングまでした神に等しき者が放った全力のデコピンだ。
「ぢゅべしっ!」
バルバロスはよく分からない叫びを上げつつ、吹っ飛んでいった。
ここで頭が吹っ飛んで死ななかったところを見ると、やはりバルバロスも人間としては破格の実力者だ。
だけど、〈根源の巨竜〉を倒した俺の相手を務めるのは、やはり実力不足だった。
「ストーキングもほどほどに、な」
俺はスキルを全て解除してから、地面で伸びているバルバロスに一言告げた。




