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第三話 俺、やっぱり天国にきちゃった?


「さて、水浴びも済ませたことだし……。待たせたな、これから貴女を現在の我ら王国軍の拠点に案内する」


 濡れた体をタオルで拭い、麻布の服を着なおしたロゼは、俺を現在の拠点に案内すると言った。


「王国軍? 君が?」

「ああ、私はこう見えて、王国一の槍の遣い手。この辺りは魔物や魔獣も多いが、心配することは無いさ」 

 大きな胸をさらに強調するように張るロゼ。俺は王国軍や魔物に魔獣。聞きなれない話が多く、ロゼの話を手放しに信じることができず、冷ややかな視線を向けるのだが、彼女は気にせずに森の中を進んでいった。


 仕方がない。黙ってロゼの後ろについて獣道を歩いていく。


 すると、数分したところで道を遮る何ものかが現れた。


 見たことがない、初めて目にする奇妙な生き物。成人男性よりも少し低い身長に、太く大きく隆起した筋肉。

 パッと見は人間に近いが、あの濁り切った目を見れば、本質的に違う異形の化物であることが理解できる。

 その化物が、今俺達の目の前にいるのだ。


「え、と。何あれ?」

「魔物、オークだ。……それも忘れてしまったんだな」

 憐れむような視線を俺に向けるロゼ。それは構わないんだけど、目の前にとびきりの化物がいる状態なのに、なぜそこまで余裕の表情なの?


「ああ、慌てる必要はない。先程も言ったが、私は王国一の槍の遣い手。一匹の魔物如きに、遅れを取ったりはしない」

 まーた何か言ってるよ、と俺は驚愕する。


 いい加減にその設定止めようぜ、さっさと逃げよう。

 どうせお前、ここで負けちゃって「くっ、殺せ……」なんていう羽目になるんだから。

 そう提案しようとしたが、目の前で信じられない光景を目の当たりにし、続きを口にするのが憚られた。


「闇を切り裂く聖槍よ。我が祈りに呼応し、その姿顕現せよ」

 彼女の呼びかけに応じるように、その手に現れたのは、光に包まれた【槍】だった。

 ……何あれ、超絶スタイリッシュな中二病?


 俺がぼけっとしている間に、異形の化物がこちらに向かって突進をしてきていた。あの筋肉だるまが勢いそのままに突っ込んでくるとなると、結果を考えるだけ恐ろしくなる。


 だが、ロゼは自らに向かうオークを見ても、悠然と構えているのみである。


「に、逃げろって!」

 俺は被害を受けないように木の陰に一時避難し、ロゼに呼びかけるものの、彼女は応じなかった。

 ロゼは猛スピードで迫るオークの突進を、風を受けてたなびく柳の如き軽快さで受け流した。

 

 そして、すれ違い様に軽く腕を振る。……ロゼがしたのは、ただそれだけだった。

 

 訪れたのは耳を劈く断末魔の絶叫。

 オークが叫び、そして数瞬後には倒れて地に伏せる。いつの間にか地面は血によって真っ赤に染まっている。

 見れば、オークの開きが出来上がっている。臓物を撒き散らし、血の海に沈むその姿はとても現実感が無かった。


 オークの死体に目を奪われていると、

「怖い思いをさせたか? 済まないな」

 そう言ってから、ロゼは槍を持たない左手で、俺の頭を撫でた。


 それから、死体の隣にしゃがみ込んだ。ロゼは握りしめた左こぶしを胸に当て、次にその拳を額に添えた。そして一礼し、厳かに呟いた。


「慈悲深き神よ。今貴方の元へ一つの魂が旅発ちました。どうか、安らかな眠りを」

 

今の一連の所作は、神に対する祈り、だったのだろう。どうやら、この世界にも宗教は有るらしい。 ていうかあれだな。薄々気づいてはいたけど、なにこのファンタジーな世界。

 俺アイドルになりたかったって言ったよね? なのに、なんすか光の槍って。


「いずれお前も土に還り新たな命の芽吹きの糧となるだろう。悪いが、このままにさせてもらう」

 ロゼは死体に一言断ってから、立ち上がった。

「本当に強いんだな。ありがとう、多分俺一人だったらここで死んでたわ」


 俺は素直に思っていたことを口にし、礼を述べた。

 こんなか弱い女の子の姿になって――男のままでもわからないが――化物がうじゃうじゃいる森の中に一人で放置されていたら、泣きわめいていた自身がある。


 ……あのあほ女神は、俺に何か恨みでもあったんですかね!?


「礼には及ばないさ。私たち騎士は、民を守るためにいるのだから」

 そう微笑んだロゼは、再度前を向いて歩み始めた。


 しばらくの間、獣道を進み、二度目のオークとの戦闘(一方的な殺戮だったが)を済ませ、とうとうロゼ達の拠点にたどり着いた。


 森を抜けたが周囲にあるのは、彼女たちが拠点としているテント、物資の搬入をするための馬車等、つまりはこの騎士たちが持ち込んだもの以外は何もないところだった。

 ただ、この世界にもオークみたいな化物だけでなく、馬という現実世界で慣れ親しんだ生き物がいることに、少しほっとした。まぁ、人間がいるんだから馬がいてもおかしくは無いか。


 夕暮れ空はすっかりと暗くなり、星が瞬き月明かりが辺りを照らしていた。

 ロゼは隊長だか騎士長だか知らないが、拠点にある大きなテントの中にいる偉い人に俺のことを話しているらしい。


 そうして、その間俺はそのテントの外でただ茫然と夜空を見上げていた。


「うっわ、月が二つもあるじゃん」


 夜空を仰ぎ見ると、半身が重なり合うように二つの「紫色に光る月」が浮かんでいる。

 引力か斥力かは知らないが、そういう法則は俺が生前に住んでいたところとは大きく違うんだな、と思い知らされた。


 ……女騎士がいて、魔物がいて。完全な異世界に、俺はやってきてしまったんだな。


「待たせたな」

 月を仰ぎ見ている俺に、隣から声がかけられた。ロゼだった。


「いや、いいさ。それで、どんな話だったんだ?」

「明日の朝に貴女をしっかり送り届けるように、ということだった」

「そうか。悪いな世話になる」

「一晩くらい、構わないさ。ついてきてくれ、私たちの寝床に案内をしよう」

 そう言ってロゼは歩を進める。


 おいていかれないように俺はその後ろをついていく。そうしていると、周囲にいる屈強な男たちから声を掛けられる。

「おう、随分と小さい女をさらってきたな、ロゼ。男に靡かねぇと思ったら、やっぱりそっちの趣味なのかい?」

「違いねぇ。おい、ロゼ。その娘っ子、お前の後でいいから貸してくれよ。最近たまってんだよ、へへ……」


 お下劣で低俗な視線と言葉が俺とロゼに掛けられる。その視線が自分に向かっていることに、背筋が寒くなる。髭モジャのマッチョに手籠めにされるなんて、絶対に嫌だった。


初めては、好きな人とが良いな……。


好きどころかムカつく相手である神に、セックスをさせてくれと高らかに宣言した俺はそう思ったのだった。



「……次にその汚い口から卑猥な言葉を発したら去勢をする。心得ておけ」

 立ち止まることなく、ロゼの口から恐ろしい言葉が聞こえてきた。

 生前ならば金玉がヒュン、としていたところだが、不幸中の幸い。今の俺に玉はありませんでした。


「なーに、俺たちなりの挨拶だ。お前さんだってわかっているんだろ、ロゼちゃんよ? 訳は知らねぇが、とりあえず歓迎するぜ、神語りのお嬢ちゃん!」


 口々にわめく男たち。好意的な言葉を放ち、手にした盃を掲げた。あれにはアルコールでも入っているのかもしれない。皆一様に顔が赤かった。


「ふぅ、済まないな。不快な思いをさせてしまった」

「いや、気にしてねぇよ。だけど、ロゼのようないかにもな騎士ばかりかと思いきや、あんな傭兵もどきもいるんだな」

 俺の言葉に、ロゼは眉を潜めてため息を吐いた。

「そうなのだ。奴等の言動にはあまりにも品がない。まぁ、ああ見えて悪い奴らではないのだがな。……頭と顔以外は」

「結構苦労してそうだな」

「まぁな。……よし、着いた。ここだ」

 そう言って、彼女は一つのテントの前に立ち止まり、その中へと入った。俺もそれに倣い、中に入る。 


 天井の低さから多少の息苦しさはあるものの、広さ自体はそこそこそこだ。

 そして、他に目につくのは……。

「お帰り、ロ、ゼ……? わ、何かしらそのかわいこちゃんは! どこからさらってきたのよ?」

「……返してきなさい」


 ロゼと同じように、ゆったりとしたシルエットの麻布の服を着た二人の女が、次々に声を掛けてくる。二人とも、俺やロゼとそう年齢が変わら無さそうだった。

「奴らばかりか、お前たちまで私を貶めるか。私は、そんなのではないのに……」

 ロゼが悲しそうに目を伏せている。

 俺はそんなしおらしい彼女を見て驚く。まさかのガチ凹みですか?


「はいはい、とりあえず、本当にその子は何なのかしら?」

 水色の長髪の女の子が問いかける。

「先程水浴びをしに湖に向かった際、ほとりで出遭ったのだ。話を聞いたところ、記憶の一部を失い、行く当てがないとのことで、一時的に保護をすることになった」


 先程の落ち込んだ姿からケロッとして、説明を始めたロゼ。

「ああ、そういうわけで少し世話になる。俺の名前はミコ。よろ……」

「かわいい!」

 俺が最後まで言い終わらない内に、二人はこちらに詰め寄り、体を触ってきたり、頬をつねったり、髪の毛を撫でたり、くんかくんかすーはーをしてきた。


揉みくちゃにされて、俺が羽織っていたボロ布が脱げる。

露わになる、俺の肢体。


「こんなに可愛い上に、痴女!?」


興奮した様子の女を見て、ロゼは呆れた表情を浮かべた。


「すまない、ミコ。気がつかなかった」


ロゼは自らの荷物から、1着の麻布の服を取り出して、俺に手渡す。

それを受け取り、

「ありがとう、助かる」

と告げて、着替えた。


そして、着替え終わった俺に、再び二人の女が襲い掛かった!


なすすべなくくんかくんかすーはーされる俺の耳に、艶やかな囁き声が届く。


「この髪、すごいさらさらね。口に含んでから深呼吸をしたいくらいよ」

「……食べごろ?」

 

若い二人の女。しかもとびきりの美少女が、俺の体を求めてやまない。

 なんかちょっと危ない感じの変態っぽいけど、顔が良ければそれすらもプラス要因であると言える……よね?


 まぁ、俺的にはプラス要因だと言えるのでとても興奮してしまいます。

 ここ、もしかして天国かな?

 そう言えば俺一度死んでるし、ああそうか。やはりここが天国か。


 とりあえず俺は一心不乱に深呼吸をしていました。

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