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第二十四話 俺、ハーレムはまだ早い!

「おかえりなさいませ、ご主人様」


 ギルドの喧騒の中、メアリさんの澄んだ声が耳に届いた。

 目の前には、いつものように清潔な白いシャツとスラックスに身を包み、柔和な笑顔を浮かべる女性がいた。 


  周囲では酒を片手に談笑する者、熱心にクエスト内容を確認し、仲間たちと話し合っている者など多くの冒険者たちが騒いでいる。


「うん。ただいま、メアリさん」

 

 俺は、S級クエスト〈ドラゴンの生態調査〉の報告にギルドまで足を運んでいたのだった。……それ以上のことをした自覚もあるが、クエストの報告はしっかりとしなければ。


根源の巨竜オリジンドラゴン〉ことボブの襲来から、数日が経過していた。


 あの日、獣人はその場で戦いを起こすことなく、同族の亡骸を引き取り帰っていった。獣人が人間側の領土に侵入したことは、今のところ問題になっていなかった。


 人間側も、大きな被害が出ていた。


 亡くなった人たちの埋葬、戦力の補強。その他もろもろのことで、ここ数日は忙しそうにしていたのだった。


 現在、王国側が一度退けた〈根源の巨竜〉にどう対処しようとしているのかは不明だが、それでも警戒は続いているようだった。


「えーと。早速だけど、S級クエスト〈ドラゴンの生態調査〉で追っていた7メータル級のドラゴンの討伐に成功したから、その報告」


 俺はそう言って、鈍く輝くドラゴンのウロコをポケットから取り出し、カウンターにそれを置いた。

 このウロコは、あの騒動の後に回収したものだった。それ以外にも、牙や骨、革などこの世界で武器などに加工できる素材は一通り回収している。


 それらはかさむため、魔法で創った〈空間が湾曲し、何でも持ち運ぶことができる〉ご都合ポーチを創造し、それに入れていた。……後で素材を取り扱う鍛冶屋とかに売りに行こうと思う。

 メアリさんはカウンター上に置かれたウロコを手に取り、それを確認した。


「はい。これは間違いなくドラゴンのウロコですね。ご主人様がドラゴンの討伐をされたことを、確認いたしました」


 メアリさんはウロコをカウンターの上に置き直し、俺に告げた。


 実際のところ、7メータル級のドラゴンに止めを刺したのはボブなのだが、それはおいておこう。

 そう考えた俺に、メアリさんが再び声をかける。


「……確認、するまでもないことでしたね」

「えーと……?」

 含みのあるその言葉に、俺は戸惑い尋ね返していた。


「〈神語り〉の美少女が、〈根源の巨竜〉を打倒した、という話。……噂になっていますよ」

 ニコニコと柔和な笑顔を浮かべたまま、俺に耳打ちをしていた。

「……あー、うん。それ、俺だー」

 俺は、なんと反応すればわからなかったため、ぼんやりと肯定した。

「ご主人様なら、それも納得です」

 メアリさんは、どこか誇らしげに胸を張って言っていた。


 中々の自己主張をするバストに、目が釘付けになる。


「そこで、ですね。私たちギルドとしましても、7メータル級どころか〈根源の巨竜〉すらも退けるご主人様に冒険者のクラスとしては最低の〈E級〉のままにしておくのは、どうかと話が持ち上がりましてですね」

 うんうん、と頷きつつ俺は話の続きを待つ。


「今回の7メータル級ドラゴン討伐の功績をもって、ご主人さまをS級冒険者とさせていただきます」

 メアリさんからの提案に、俺は驚きつつ答える。

「え、良いの!?」

 なんといっても、最低ランクから最高ランクへ、何階級特進だって話である。


「ドラゴンの討伐という難易度の高いクエストを成功させているので、〈根源の巨竜〉の件がなくとも〈B級〉或いは〈A級〉にはなっていたでしょう。……流石に、一気に〈S級〉までクラスが上がるのは、前例がありませんでしたが」

 メアリさんは、少しタメを作ってから、 

「おめでとうございます。ご主人様は私どものギルドで4人目の〈S級〉冒険者様です。これで、高難易度のクエストで望むままに荒稼ぎができますね」

 と、言葉を続けた。


 にっこりと気持ちの良い笑顔で俺に微笑みかけてくるメアリさんに俺は、


「そっか! 良かったー。俺、〈E級〉でちまちまするの嫌だったから、ちょうど良かったよ。……それで、ついでにお願いがあるんだけど」

「はい、なんでしょうか?」


 俺は、もう一度ポケットの中に手をいれ、そしてあるものを取り出してカウンターの上に置いた。


「ギルドカード。折れちゃったから、もう一度作ってもらっても良い?」


 俺は、ボブとの戦いでへし折れ、焼けてボロボロになったギルドカードに目を落とす。

 ……こうして原型を留めているのはすごいな、とも思ったりする。 


「はい、かしこまりました! と、言いましても、実は既に〈S級〉冒険者仕様の新たなギルドカードを用意していましたので、ちょうど良かったです」


 そう言って、メアリさんはカウンターの下から一枚のカードを取り出した。

 すごい! 準備が良いというか、タイミングがいいというか……。


 俺はその新たに用意されたカードに目を落とし、手にとった。表面はこれまでのカードと何も変わらない。

 そして裏面を見てみると……。


「な、何かな、これ?」

 

 そこには、現地の言葉で〈ご主人様、好き〉と書いていた。多分直筆だ。


「……ご返事を、聞かせてください」

 メアリさんは上目遣いで俺に尋ねてきた。


 唐突に行われた、愛の告白に俺はたじろいだ。

 スキル〈魅了〉。ここまでの効力があるとは恐るべし! そして、メアリさんの謎の行動力も同じくらい恐ろしかった!


 だが、告白されてそれを聞かなかったことなど、俺にはできそうにない。

 高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、俺はメアリさんを見た。


「メアリさんっ! ありがとー!」

 

 俺はそれを受けて、明確な答えを言わぬままにとびきりキュートな笑顔でお礼の言葉だけを告げたのだった。 


「きゅんっ!」


 メアリさんはそう言って、真っ赤になった顔を両手で隠していた。



 可愛いは正義! 急に湧いて出てきた告白イベントも、笑って誤魔化してしまいました、反省!


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