第二十一話 俺、やっぱ超TUEEEE!
宣言をした俺に対して、巨竜が言葉を放った。
『ステージ? 何をワケのわからないことを……。ステータスが向上したとはいえ、未だ貴様は満身創痍。自分の立場を、分からせてやろう!』
その言葉のとおり、俺のHPは現在、スキル〈自動回復〉で回復をしてはいるものの、追いついていない状態であり、ほんの僅かなものである。
一撃でも巨竜の攻撃を喰らえば、そのまま死んでしまうだろう。
逡巡した俺に対して巨竜は咆哮し、頭上めがけて複数の〈火球〉を放つ。
〈火球〉一つ一つが7メータル級ドラゴンの〈竜の息吹〉を上回る破壊力を持つ攻撃だ。
「今更そんなもん、効くわけねぇっての!」
だが、今の俺には通用しない。
「行くぜ、〈真名開放〉……薙ぎ払え、〈クサナギ〉!」
俺は手にした神器――〈クサナギ〉の名を呼んだ。
現れたのは、八つの頭と八つの尾を持つ怪物、〈ヤマタノオロチ〉。
それが、迫る〈火球〉の全てを喰らい、勢いそのまま〈根源の巨竜〉へと向かった。
頭上から現れた〈ヤマタノオロチ〉を巨竜の双眸が捉えた。この時、絶対的な強者だった巨竜が、初めて防御の姿勢をみせた。
魔法陣が巨竜の背後に展開され、その巨躯を包み込むような巨大な魔法障壁が現れた。
「構うか! そのままぶちやぶれ!」
俺は叫んで、手に握る〈クサナギ〉に力を込める。
〈ヤマタノオロチ〉は、宣言のとおり真っ直ぐに魔法障壁へとぶつかった。
八つの頭が、障壁に噛み付き、そして砕く。
勢いを削がれたものの、巨竜に対しても同じように襲いかかった。
グガァッァァァア!
巨竜が苦しげに叫ぶ。
全身に噛み付き、食いちぎられる。こんな事態、これまで巨竜は経験したことがないのだろう。
『ぬぉぉ! 舐めるなぁっ!』
幾何学模様の、幾重にも重なった魔法陣が周囲に展開した。そして、高密度の重力球が現れた。
巨竜の体に喰いつく〈ヤマタノオロチ〉は、重力球に巻き込まれ、粉砕していった。
「すげぇな、それ。だけど、お前ももうボロボロじゃねーか」
俺は、巨竜の姿を見る。
片翼は根元からちぎれ、前足は無残に食いちぎられている。
全身、至るところから出血し、硬い鱗も剥がれている。
なのに、巨竜は余裕を見せている。
『これしきの傷、どうということはない』
そう言って、巨竜は大規模な回復魔法を発動させた。
見る間に塞がる傷。剥がれた鱗は元の輝きを放ち、ちぎれた腕と翼も、綺麗に元通りになっている。
まだ魔力の蓄えもあるのだろう。あと数回、もしくはそれ以上の回復魔法を発動させる余力がありそうだった。
巨竜は余裕の表情をしている。
「持久戦は辛いそうだな」
『何、それは杞憂だ。なぜなら、次の一撃で終いだからだ……。さすがの貴様も、こればかりは防げまい』
宣言し、巨竜は俺に向かって重力球を放ってきた。
空間すらも歪める、圧倒的な重力。あたってしまえば、ぺしゃんこに潰され、ひとたまりもないだろう。
「そいつはどうだろうな?」
こちらに向かってくる重力球へと空を駆けて近づいた。
『愚かな。自ら死の淵に飛び込んでくるとはなぁ!』
巨竜の楽しげな笑い声が頭に響く。
しかし、俺は極めて冷静に、周囲を見る。
重力球は5つ。……何も、問題はない。
俺はとあるスキルを発動した。
そして、重力球に触れ……消した。
『……はぁ?』
ポカン、とした様子の巨竜に構わず、俺は次々とスキルによって重力球を消していく。
数秒後には、5つあった重力球の全てが消失した。
「よう、気分はどうだい?」
俺は挑戦的な視線を巨竜に向けた。
呆然とした様子から一転、巨竜は苛立たしげに疑問を口にしていた。
『どういうことだ!? 貴様、一体何をしたというのだ!?』
「スキル〈神の御手〉で、魔法を無効化したんだよ。というわけで、無駄なあがきをせずに、負けを早いところ認めてくれ」
スキル〈神の御手〉は、手で触った魔法もしくはスキルによって発生した現象を無効化する力だ。
なぜこのスキルをこれまで使わなかったかというと……使っても、確実性がなかったからだ。
というのも、このスキルの発動条件が、〈百万分の幸運値の確率で発動する〉だからだ。
せいぜい10%の成功率では、積極的には使えないからな。……俺ですら10%とは、他の人間がこのスキルを持ってたとして。成功することってあるのか?
だがまぁ、ステータスが増大している今は、100%無効化が成功する!
『小癪な……っ! だが、今度こそ! 次の一撃はそんなものでは防げぬぞ!』
巨竜が嘶く。〈第六感〉が告げる。あれが来ると。
「まーたそれか。芸がないな。……だけど、これまで一度もそのスキルは破っていなかったぁ。ここらで一発、汚名返上といきますか!」
『舐めるなよ、人間風情が吾輩の攻撃を防げるとは、思ってくれるな!』
巨竜の口から放たれる光の奔流〈竜の息吹〉を見て、俺は確信する。
圧倒的な破壊の予感が訪れる。こんなもの、普通は防げるはずがない。
そう。普通なら、だ。
今の俺は、普通ではない。〈根源の巨竜〉と同じく、もしくはそれ以上に人智を超えた存在である。
俺は自らに迫る〈竜の息吹〉に、手を伸ばして触れた。
手の内に感じる熱、それを容易く霧散される力……〈神の御手〉を発動させた。
たったそれだけで、視界一杯に広がる光の迸りは一筋も残さずに消え去った。
『えええ……』
巨竜が驚きの表情を浮かべた。ギャグマンガだったら、目玉がぴょーんと飛び出していそうな程コミカルな驚き方をしていた。
巨竜もまさか、これほどまでにあっけなく自らの攻撃が無効化されるとは思っていなかったのだろう。
「うん、やられっぱなしは嫌だしな、これでスッキリした。それじゃ、次はこっちの番だな」
そう言って、未だ呆然と口を開く巨竜に向かって、俺は手を掲げる。
大気に流れる魔力を、自身に集める。
空と地。森、雲、湖。
流れる空気とそこにいる生物、それら全ての魔力を感じ取ることができる。
俺は今まさに、この世界全体の力を行使しようとしている。
……なるほど、この力を使えば、神様だって殺せそうだ。
『ま、まさか……それは!』
驚愕の声が、頭に響く。
「そう。スキル〈竜の息吹〉だ」
それは、俺が持っていなかった数少ないスキルの一つ。
竜種専用の超高威力スキルを、今の俺がなぜ使おうとしているのかというと、やはりそれは所有するスキルのおかげだった。
スキル〈模倣〉。
これも、〈神の御手〉と同じく、ステータスアップがなければ使えなかったスキルだ。
〈百万分の技の確率で、他者の使用したスキルを手に入れることができる〉。というものだ。
やはりこれも通常時の成功確率が低いし、そもそも俺はほとんどのスキルを所持しているから、このスキルを使う機会はないだろうなぁ、と思っていたのだが。
意外と役に立ったものだ。
「ていうか……〈竜の息吹〉と言っても俺、竜じゃないからなぁ」
俺は、自らの前方で収束される力の渦に意識を向けつつ、
「そうだ! 〈偶像の光線〉ってのはどうだ? いや、自分以外にライトを当てちゃダメか……? ま、名前は何でもいいか。とりあえず……」
力を開放し、竜めがけて〈偶像の光線〉を放った。
巨竜は、逃げようともしない。
その光の奔流を見つめて、言った。
『なぜ、〈竜の息吹〉を使える? なぜ、人間如きが吾輩をここまで追い込む? なぜ、貴様はそのボロボロの体で戦える? なぜ、なぜ……なぜ!?』
巨竜は酷く取り乱していた。
なぜ? そう問いかける巨竜に、俺は一言答える。
「そんなもん、みんなの笑顔を守りたいからに決まってんだろ。……それが、アイドルだからだよ!」
俺の言葉に、巨竜が何を思ったのかは分からなかった。
ただ、抵抗なく立ち尽くし、巨竜は光の渦に呑み込まれていったのだった。
間に合いました!
と、いうわけで、明日の更新にも間に合わせたいです。




