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side 一撃

 今回もミコ視点ではありません!

 突如現れたミコに、四人の少女は言葉を失っていた。


根源の巨竜オリジンドラゴン〉の最大攻撃力を有するスキル〈竜の息吹ドラゴンブレス〉の一撃から逃れたばかりであった。


 展開される魔法障壁の範囲は広く、戦いの余波を受けても、ものともしないことから相当の強度だと思われた。


「すごい……」


 感嘆の声を漏らしたのは、ディアナだった。

 彼女は、自らが魔術師だからわかるのだろう。高位の魔術媒介を使用したとしても、自分はこれほどの魔法を発動できるか? 答えは、もちろん否だった。


 ディアナは自らが持つ魔術媒介――魔道書に目を落とした。

 この魔道書に魔力を注ぎ、強くイメージをすることにより魔法が発動する。人によっては、イメージを強固にするためのルーチンとして詠唱を行うものもいるのだが、ディアナはそのような効率の悪い方法はとっていない。


 この魔道書も、これまで自らが開発してきた魔法を刻み込んできた、自慢の魔道書だったのだが、巨竜に通用する攻撃魔法は一つもなかった。

 この場で役に立つのは、防御魔法と回復魔法。そして、他者のステータスを底上げさせる補助魔法のみだった。

 

(――だけど、もしかしたら)


 ディアナは隣に立つロゼに問いかけてる。


「ロゼ、奥の手はまだ使えるのよね?」


 ロゼはその声に振り返り、答えた。


「ああ。だが、ミコと巨竜の戦いを見ていると、どこまで通用するか……」

「大丈夫よ、きっと」


 そういって、ディアナは腰に付けたポーチから一つの薬品を取り出す。

 瓶詰めされた赤色の液体は、MPの自然回復速度をあげる高価な薬品だ。

 その蓋を開け、ディアナは一口で飲み干した。

 

「私の魔法で、ロゼのステータスを底上げさせるわ。あなたはゆっくりと魔力をねって、最高の一撃を打てるように集中して」

 ディアナはそう言って、目を閉じてその場に座る。少しでも体を休め、MPの回復に努めているのだ。


「……ディアナとロゼが準備をしている間は、私と友達が、二人を守る」

 額に汗をかくシーナが、ロゼとディアナに向かって言った。

 ロゼは大きく頷いていた。


「何を企んでいるにゃ?」

 そんな三人を見ていたフィノの声は、対照的に硬いものだった。

「貴女にも、手伝って欲しい」

 そう前置きしてから、ロゼはフィノに作戦を伝えた。



 フィノはその話を聞いて、驚いたような表情をみせた。

「そうか、お前が〈神槍の麗嬢〉だったのか。……賭けてみる価値はありそうだにゃ。だけど、変な動きをすればあの巨竜の的になると思うにゃ」


 フィノの視線の先では、ミコが自らの張ったバリアと巨竜の前足に挟まれているところだった。

 体中を強力な魔法障壁で覆っているのがわかる。

 だから、ロゼたちにはが彼女であることを確信していた。

 

(――あの巨竜と、一対一の状況で戦えるなど、ただの人間でないことが明白ではあるが、それを追求するのは今でなくてもいいだろう)


 甲高い破砕音が耳に届いた。見れば、巨竜がミコの張ったバリアを壊しているところだった。

 その後、大きな爆発音が響いた。ミコの放った魔法だろう。

 それを嫌がり、巨竜は再び上空へと飛んでいた。


「……私たちは、ここで準備をしておく。行ってきて」

 シーナは告げる。

 ロゼは無言で頷き、ミコに向かって歩き始めた。 


「僕も行くにゃ」

 歩み始めたロゼに、フィノは言ってついていった。


 ボロボロの体で天に佇む巨竜を睨みつけるミコ。

 ロゼは、彼女に声を賭けた。 


「ミコ。何故ここにあなたがいるのかは聞かない。だけど、力を貸してくれるというのなら教えて欲しい。周囲のことは気にせずに、戦ったとしたら。何分ほどあの巨竜を留められる?」

 ロゼの言葉に振り返ったミコが反応をした。


「ロゼ、か。」

 それだけ言うと、ミコはまた動きをとめていた。

「いいからさっさと答えるにゃ。相手はいつまでも待ってはくれにゃい」

 隣からも、フィノがミコに声を掛けると、ミコは少しだけ考えたあとに、

「10分はいける。それ以上は、ちょっと自信ないな」

 と、簡単に言った。


(10分……!? 私たち騎士団も、獣人たちも、ただの一撃で屠られたというのに! ……だが、これまでの戦いを見れば、それが虚言でないということはわかる)

 ロゼとフィノは、驚きの表情を浮かべて、ミコを見た。


 だが、ミコは二人のその視線を受けても、不思議そうに首をひねるだけだ。


 その自然な様子が、この状況に余りにもそぐわずに……おかしくなって、ロゼとフィノはそろって笑っていた。

「な、なんだよ?」


 ミコの言葉に、フィノは呆れたような口調で言う。

「いや、お前それ本気で言ってるにゃ? ……本当に、すごいやつだと思っただけにゃ」

「ああ。10分とは、頼もしい限りだ。ありがたいが、3分あったら十分だ。存分に時間を稼いでくれ」


「でもさ、周囲のことを気にしないと言ってもさ、それだと地上でまだ生きている奴らに被害が及ぶぞ?」

 不審に眉をひそめたミコに、フィノとロゼが言う。


「僕たちに任せるにゃ。お前は、ニャにも考えずに、暴れればいいのにゃ」

「そういうことだ。それに、シーナとディアナもいる。三分程度なら、任せられるだろ?」

 その言葉に、ミコはロゼたちの背後を見た。

 彼女の視線の先には、大きな魔力を全身から迸らせているシーナとディアナの姿があった。


「……勝算があるってこと、だよな?」

 ミコは、疑わしげな表情で問いかけた。

「もちろん」

「信じられにゃいか?」

 二人は即答した。

 ミコは、一瞬驚きに目を見開いた。そして、

「普通は信じられないと思うぞ。……でも、俺はその勝算に賭けてみるよ」

 宣言したミコは、口はしに挑発的な笑みを浮かべ、空へと跳んだ。


「……すごいな、彼女は」

「ああ。とんでもにゃいやつにゃ」

 ロゼとフィノは呟き、そろって空を見上げていた。


 地上を守っていたバリアは消えていた。

 代わりに、ミコの周囲に展開される魔法陣。そこから現れたのは巨大な〈炎の鳥〉と〈氷の虎〉だった。


「始まるか……」

 ロゼは呟く。

 そして、フィノとともに、シーナとディアナのいる場所へと戻った。


「……準備、Ok」

「私もよ」

 二人の言葉に、フィノとロゼは頷いた。

「さっさと始めるにゃ。……あいつらも、もうすぐにでも派手にやり合うだろうにゃ」

 フィノの視線の先には、対峙するミコと巨竜がいた。


「……そうっぽい。なら、まずは私から」

 

 シーナは呟きの後に、指先を八重歯で噛む。

 裂けた指先から、滴り落ちる血液を地面に垂らす。……すると、地面が発光し、魔法陣が展開された。


「……来て」

 シーナの言葉に呼応し、魔法陣から姿を現したのは馬に似た姿をした、額の中央に一本の長き角が生えた聖獣――〈ユニコーン〉だ。今の彼女が召喚できる、最高位の聖獣だ。


〈ユニコーン〉は、MP切れで息も絶え絶えになっているシーナへと寄り添い、不安げな表情を浮かべる彼女に頬ずりをした。


「……少しの時間だけ。みんなと、この森を守ってあげて」


 そう言って指差すのは、未だ倒れてうめき声をあげる兵士たちの姿。

 しかし、〈ユニコーン〉は心配そうにシーナを見ている。

 彼らを守れば、今のシーナを守れない、と。その瞳は語っていた。


 その視線に気づいたフィノは、〈ユニコーン〉の前に進み出た。

「こいつのことにゃら、僕に任せるにゃ」

 フィノの言葉に、〈ユニコーン〉は振り返った。

 そして、試すような視線を向けたあとに、大きく身震いした。

〈ユニコーン〉は、シーナの言葉の通りに、倒れた者たちのところへ向かい、結界を発動させた。


 ちょうどその時、上空から巨竜とミコの戦いの余波が迫っていた。

 暴風に巻き込まれる炎の渦。

 折れた巨大な刃が差し迫り、地面へと落ちていくが、それは〈ユニコーン〉の結界に触れた瞬間、消し炭となって消えていった。


「お前も中々、すごいやつだにゃ」

 フィノがシーナに向かって言う。


「……でも、長くは持たない」

「わかってるにゃ。あっちは〈ユニコーン〉が。こっちは僕に……」

 こちらに砕けた刃の一部が降り注いでくる。

 フィノは素早く反応し、それらを尽く弾き返した。

「任せればいいにゃ」

「それなら、後はこっちも頑張らないと、ね」

 ディアナはそう言って、魔術媒介である〈魔本〉に魔力を込める。


 すると、ロゼの足元に魔法陣が展開された。

 ステータスを向上させる魔法が発動し、ロゼは光に包まれる。

「頼んだわよ、ロゼ」

「ああ。ありがとう、ディアナ。これなら、あの巨竜にも通用する一撃を打てる!」

 光に包まれる中で、ロゼは手に握る神槍に意識を集中させる。


 自らの内より湧き出る力。そして、今も巨竜と戦い続けるミコの姿。

 彼女を巻き込むわけには行かない。タイミングを見計らって、全力の一撃を叩き込む。

 それまでは、力を練り上げておくのが、自分に出来ることだ。

 ロゼは、上空で戦うミコの姿を見た。


 牙と刃がぶつかる。

 炎と突風が互いに打ち消しあう。

 魔法の打ち合い、それはこれまで見た戦いのどれよりも激しいものだった。


 ミコが、巨竜が発動した重力魔法に直撃し、地面へと落下した。

 巨竜はそのまま、ミコのもとへと向かおうとする。

 他のことには、脇目も振らずに。


(今だ!)


 ロゼは、自らの魔力を迸らせる。


「私の最大・最速の一撃。……くらえっ!」


 スキル、〈神器召喚〉には、一段階上の攻撃手段がある。

 それは、神器の真の力を開放し、一点の突破力を限界まで高めたもの。

 ……真の力を解放すれば、持ち主も、神器もしばらくは使い物にならないが、その分威力は絶大。

 神器と使い手によれば、〈竜の息吹〉以上の破壊力を有することがある。


 ――そして、ロゼの神器には、間違いなくその破壊力があった。


「〈真名開放〉……かの邪悪を焼き尽くし給え、〈ブリューナク〉!」


 ロゼは自らの神器の名を呼び、巨竜へ向けて投擲した。


 それは、一瞬の出来事だった


 稲光に包まれる、一筋の灼熱。

 それが、瞬きの間に巨竜へと迫り、そして、直撃したのだった。



 グ、ゴォォォォオ!


 巨竜の叫びは、頭に直接響くようなものでなく、ただ苦しげな悲鳴となって耳に届いていた。

 巨竜の片翼。それが、根元から消滅していた。


「な、やったのかにゃ!?」

 驚きの声を上げるのは、フィノだった。

 今の一撃、フィノには知覚できなかった。


 ロゼが言葉を叫んだと思いきや、巨竜の翼がもげて悲鳴をあげていたのだ。


 これほどのダメージ、巨竜も無視できないものだ。

 これで退いてくれれば……。


 ロゼたちは、そう願っていた。

 

 だが……。


『クハハハハっ! 面白いぞ、人間と獣人の少女よ!』

 巨躯を震わせながら、巨竜は嗤う。

 その声には、弱気など微塵も感じられない。

 心底嬉しそうに巨竜は笑っているのだ。


『面白いものを見させてもらった、礼をいう。故に、吾輩も全力で貴様らに死を与えよう!』


 再び、大気が揺れる。

 これは……〈竜の息吹〉。


「……だめ、あの子も、これ以上は……」

 シーナの弱々しい呟き。

〈ユニコーン〉は既に本来あるべき場所へと還っていた。

 

 そして、魔力切れを起こしているディアナは苦々しそうに表情を歪めていた。

 

 現状、〈竜の息吹〉に対する防御手段は何も……なかった。 



 四人の少女の視界を、光が埋め尽くしていた。

 次回は、ミコ視点に戻ります!

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