第十九話 俺、え、あ、あれ? ちょっと待って! これもしかして死亡イベント!?
目前の巨竜を睨み思案している最中の俺に、声を掛ける者がいた。
「ミコ。何故ここにあなたがいるのかは聞かない。だけど、力を貸してくれるというのなら教えて欲しい。周囲のことは気にせずに、戦ったとしたら。何分ほどあの巨竜を留められる?」
その声の持ち主は、美しい金髪の女騎士だった。
「ロゼ、か。」
俺は隣に立つロゼを見る。
「いいからさっさと答えるにゃ。相手はいつまでも待ってはくれにゃいぞ」
そして、同じようにそばに立っていた獣人族の少女、フィノも俺に話しかけていた。
確かに、今はこちらの様子を伺っているだけの巨竜だが、いつまでもそのままでいるわけがないだろう。
……彼女たちが何を企んでいるのかはわからない。しかし、俺一人で竜を倒しきるのも難しい。
ならば、巨竜を倒すために、ロゼたちの力を借りるべきだ。
先ほどの質問に、どんな意図があったかは分からない。だけど、何か考えがあってのことなのは、二人の諦めていない表情を見ればわかる。
だから俺は、必要とされていた情報を簡潔に伝えた。
「10分はいける。……それ以上は、ちょっと自信ないな」
俺の言葉に、緊張した状態だったフィノとロゼの表情が驚きに変わり、そして呆れたような笑い顔を浮かべた。
「な、なんだよ?」
俺は、その笑みの意味を問いかける。
「いや、お前それ本気で言ってるにゃ? ……言っているんだろうにゃぁ。本当に、すごいやつだと思っただけにゃ」
「ああ。10分とは、頼もしい限りだ。それは、ありがたいが。3分あったら十分だ。存分に暴れて時間を稼いでくれ」
二人は俺に向かって、感心したように呟いた。
「……でもさ、周囲のことを気にしないと言ってもさ、それだと地上でまだ生きている奴らに被害が及ぶぞ?」
俺は一つの懸念材料があるのを忘れてはいない。
それは、ロゼにだってわかっているだろう。まさか、見捨てるなんてことは彼女に限って言わないだろう。
その対応はどうするつもりなのかを尋ねた。
「僕たちに任せるにゃ。お前は、にゃにも考えずに、暴れればいいのにゃ」
「そういうことだ。それに、シーナとディアナもいる。三分程度なら、任せられるだろ?」
その言葉に、ロゼたちの背後を見る。
そこには、大きな魔力を全身から迸らせているシーナとディアナの姿があった。
すごい集中力だった。
三分、そのくらいの時間ならばあの二人に任せても大丈夫だろうと思った。
「……勝算があるってこと、だよな?」
「もちろん」
「信じられにゃいか?」
俺の問い掛けに、二人は即座に自信満々の表情で返してきた。
「普通は信じられないと思うぞ。……でも、俺はその勝算を信じてみようと思う」
俺は二人に告げて、跳んだ。
そして、自らが空中を自由に飛びまわる姿をイメージすると、そのまま滞空することができた。
空を飛ぶというのは、何だか不思議な感覚だったが、すぐに慣れるだろう。
「あ、そうだ!」
俺は、思い出したようにロゼとフィノへと振り返る。
「どうしたんだ?」
ロゼが、疑問の表情を浮かべていた。
「時間を稼ぐのは良いんだけどさ――別に〈根源の巨竜を倒してしまっても構わないよな?」
俺は一度は言ってみたかったかっこいい台詞を、この場面で吐いた。
「無茶するにゃよー。本当、時間稼ぎで十分にゃんだからー」
俺の言葉に答えるのは、フィノの陽気な声だった。
……思っていたよりも締まらないけれど。まぁ、良いか。
俺はその場で方向転換し、巨竜の目前へと迫った。
そして、翼を広げる巨竜に向かって、宣言する。
「待たせたな」
『これで、心置きなく本気を出せるのだろう? がっかりさせてくれるなよ』
楽しげに響く巨竜の声。
「ああ。こっから先は、掛け値なしの俺の全力だ!」
ロゼ達にも策はあるのだろうが、それに頼ってばかりもいられない。
俺も、本気で倒すつもりで戦ってやる。幸い、周囲のことを気にしなくても済みそうだしな。
この数分でHPも、MPも余力を残さずに使い尽くしてやる!
そして……目の前のこいつに勝つ!
俺はイメージする。余波で与える被害のことは、何も考えない。今は、ロゼたちの言葉を信じてみよう。
だから、余計なことは考えず、自らの勝利だけを想像する。
空中に展開される十を超える魔法陣。
そこから現れるのは巨大な〈炎の鳥〉と〈氷の虎〉だ。
「こっからが、俺の本気だ!」
俺の言葉に反応し、巨竜は楽しげに咆哮した。




