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第十八話 俺、すげーTUEEEドラゴンと戦っちゃってる!

 眼下にいる人々を、俺は見下ろした。

 全員が、ボロボロの有様。

 髪の毛や皮膚、皮や金属の防具や装備が焼け焦げた、酷い臭いが鼻を突く。


 もぞもぞと苦しげに体を動かす様子に、眉をしかめる。

 一体、何人が死んでいて、そして何人が生きている状態なのか、わからない。


 不幸中の幸い、と言えるのだろうか。

 竜の目前にいたロゼやフィノ、焦燥してはいるもののシーナとディアナも大きな怪我はなさそうだ。


 周囲の様子を見ていた俺に、巨竜が声をかける。


『弱き少女よ。意外だったぞ。まさか今になって貴様が吾輩の前に立つとはな。だが、勝ち目があるとでも、思っているのか?』


 巨竜の言葉に、俺は何も言い返せない。

 勝ち目があるとは思っていない。

 先程、巨竜の顎を殴りつけた攻撃を思い返す。


 あれは、俺の物理攻撃の限界に達した、最大級の威力を持つ一撃だ。

〈超越〉を初めとした、様々なステータスUPのスキルを重ねに重ね、俺の能力値は全体的に2.5倍ほどの数値となっている。

 

 にもかかわらず、目の前の巨竜はケロリとした様子だ。

 それを見れば、力の差は明白。まともにぶつかって、勝てる相手ではない。


 ……だが、それでも。何もせずに逃げたくはない。

 力を持っても逃げ出してしまえば、俺は自分が生きている価値を見出せない。ただ、それだけの安っぽい理由で、俺はここに立っているのだった。


「思っちゃいねえ。だけど、何もせずに逃げ回ろうとも、もう思わねぇ!」


 俺は宣言して、イメージをする。

 これから始まる戦いの余波で傷つくものがいないように。

 地上を覆う、巨大で強固なバリアを張った。


『ふむ、なるほど。本気のようだな。それでは、我輩も相手をするとしよう。その力を見れば、貴様がたたものではないことが分かるぞ』


 巨竜が嘶いた。

 圧倒的な存在感に、またしても腰が抜けそうになったが、歯を食いしばって堪える。

 

 真正面から、巨竜が突風を伴って突撃してきた。

 俺は一直線に突進してくる巨竜の進行方向から身をそらす。

 既に至近距離まで迫っていた巨竜は、俺が方向転換をしたことを見据えて、その先に〈火球〉を放った。


 その〈火球〉に対抗するため、俺は強くイメージする。背後には、複数の魔法陣が展開されていた。

〈火球〉を迎え撃つのは、展開された魔法陣から射出された、生き物のように唸りを上げる莫大な水の塊。


 炎と水。相反する二つの力が衝突し……爆発が巻き起こった。


 水蒸気が飛び散り、濃ゆい霧が周囲を漂うった。

 視界不良のなか、巨竜の翼がそれを切り裂く。


『そうだ、これ位はしてもらわぬとな!』

 巨竜が喜びの声をあげた。


 翼を羽ばたかせる巨竜の眼前に現れる、幾何学模様の魔法陣。

 そこから生まれるのは暴風、〈トルネード〉だった。


 これは……魔法!?

 まさか、と思い〈解析〉のスキルを発動。

 巨竜が発動させているのは、スキル〈自己魔術媒介〉だった。


 まさか、ただでさえ手の付けられない化け物なのに、俺と同じ……いや、この規模! 俺以上の魔法を扱えるとは。


 俺は、それに対抗するために、

「薙ぎ払え……っ!」

 叫び、神器を召喚。

 空中に現れた、刀身が妖しく輝く日本刀を握り、構える。


 手に込める力を強くし、トルネードを睨む。

 目の前に迫る、圧倒的な暴力を有した突風を斬り伏せるため、俺は想像する。

 風すら断ずる、真空の刃をだ。


「喰らえっ!」


 乾坤一擲の一刃。

 暴風と刃が衝突した。

 体に重くのしかかる衝撃。しかし、それを真っ向から受け止め、そして刀を振り切った。


 俺は見事、神器の一振りで巻き起こる暴風を両断してみせた。


 竜が嬉しそうに目を細めた。それは、余裕の表れなのだろう。

 奴は、俺がどこまで食い下がれるかを試している。

 ……いいぜ、それなら今度は反撃だ。


 俺は巨竜の頭上を指し示す。そして、スキル〈物質創造〉を発動。

 巨竜の姿に、影が差した。

 その影をさすのは千を超える刀剣、槍、斧といった、原始的な兵器・武器の山だ。


『そのようなもの玩具で、この鱗の守りを破れると思っているのか?』

 巨竜は頭上を見上げてから、皮肉に呟いた。

「なめんなよ、デカブツ。それだけじゃねぇよっ!」

 創造された刀剣類の更に上に、俺は魔法陣を展開させた。


 その力は、先程7メータル級のドラゴンを苦しめた、重力を操る魔法だ。

〈物質創造〉と、魔法の合わせ技。


 これなら、無傷ではいられないだろう……?


 絶大な重力に従い、急下降する幾多もの刃。

 逃れようと翼を羽ばたかせる巨竜だが、奴自身に対しても重力は重くのしかかっている。

 その縛りは、いくら〈根源の巨竜オリジンドラゴン〉といえども軽々と敗れるものではなく、動きは緩慢としていた。


 逃れきれなかった巨竜の体表に、数倍の重力によって降り注ぐ、幾多もの刃が勢いよく突き刺さった。

 出会い頭にお見舞いした顎を狙った打撃の時よりも、巨竜は苦しげに身をよじった。


 この隙にもう一撃食らわせてやる……。


 そう思った直後。

『……面白い。だが、こんなものか?』

 巨竜はその言葉の後に、大きく身を震わせた。


 全身に突き刺ささった刃が、勢いよく弾けて地面へと落ちていく。

 

 それらは、地面にぶつかる前に地上を覆う透明なバリアによって阻まれ、不自然な軌道を描いて離れた場所に着地したため、倒れる者に被害がなかったのは幸いだった。


 今の言動から考えられるのは、巨竜の体には致命的なダメージを与えられなかったということだ。

 事実、ダメージを感じさせない竜の姿が目前にはあった。

 そして、今の動きによって、俺の重力魔法の縛りからも逃れたようだった。重力魔法が有効な時間は、1分に満たなかった。


 --やはり、強い。


 俺は再度、目前の巨竜を睨み、これからどう立ち回るべきか、考える。

 しかし、巨竜の動きは素早く、ゆっくりと考える暇などなかった。


 目の目から消えた、と思った次の瞬間には、頭上から急接近していた。

 そのまま前足を使って、巨竜は俺を捉えていた。


 そして、勢いのまま下降に転じる。

 息をすることすら困難だったが、何とか自分の周囲に防御魔法を展開。

 握りつぶされる事態は避けられたが、安心はできない。


『どこまで耐えられるか?』


 楽しげな巨竜の声。

 数秒後、俺は自らが展開したバリアと、巨竜の前足に挟まれることとなった。


 圧迫感が全身を襲う。

〈痛覚遮断〉のスキルを発動しているはずなのに、それでもキリキリと不愉快な衝動に体が侵される。


『粘るな。だが、これでどうだ?』


 竜は呟き、更に力を込める。

 

 俺は、体を守る魔法障壁に意識を集中させていたためか、地上を守るバリアのイメージを保てなくなっていた。


「しまった!」


 ガラスが砕けるような甲高い音が耳に届いた。

 それは、地上を守るバリアが破れる音だった。

 ついで耳朶を打ったのは、バリアを突き破り、巨大な質量が地面を揺らした爆発音に似た音。


 そして、地面に叩きつけられた俺自身の体中の骨が砕ける音だった。

 バキバキッ! という不気味な音の後、俺の口内に血の味が広がり、不快感に眉を顰める。 


 ――このまま掴まれた状態で居続けるのはやばい。


 俺は、自らの体を巻き込む爆発をイメージ、そして魔法を発動。


 痛みはやはり感じないが、周囲に爆発の熱が満ちるのが分かった。そして、その後に圧迫感からの開放。

 見れば、爆発を嫌がった竜が、俺から離れて空中を飛んでいた。


『ふん、自傷も厭わぬか。……なりふり構っていられない、ということか?』

「聞くまでもないことだろ? くそったれが……」

 竜の言葉に、俺は眉をひそめて答える。


〈自動回復〉のスキルで、体の傷は動ける程度に回復をしていが、HPは未だ回復しきってはいないだろうし、完全な回復はまだ少し時間がかかる。


 この状態で、いつまでもつだろうか? 俺はその場で思案する。

 

 巨大な敵は、今だ翼を広げて佇んでいた。

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