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第十三話 俺、久しぶりに日本のアニメを思い出す。

 まんまと騙された俺は、フィノの目的を推察することにした。


 といっても、先程フィノ自身が言っていたことを思い返してみれば、それは明白だった

『戦が始まる前に偵察にきたのだろう? お前のようにゃか弱い女ならば、万が一見つかっても今のような言い訳ができると考えて!』


 ……もろだ。まんまだ。

 フィノのような可愛らしい女の子なら、悪意はないという言い訳が通じるかもしれない。


 俺と話しているとき、不安そうに周辺をきょろきょろと見渡していたのも、地面を移動せずに木々を飛び回っていたのも、きっと、人間に見つからないようにと思ってのことだろう。


 フィノは、偵察に来て国境警備にあたる王国騎士の戦力を確認しようとしていたのだろう。

 それを見逃そうとは、思わない。

 ……フィノが見つかってしまえば、もしかしたらひどいことになるかもしれないからだ。

 騙された俺に、心配する義理などないのだが、それでも思うのだ。


 やはり、可愛いは正義。猫耳娘は、心のちんぽを刺激する。

 王国騎士に捕まり、エロ同人みたいなことになる前に、俺がフィノを止めなければ!

 

 そうと決まれば、俺は一つのスキルを発動させる。


 それは、生命力を察知する〈追跡〉のスキル。一度会った生き物なら、その者が何らかの対処――例えば魔法で自らの生命力を察知させなくするようなこと――をしなければ、大まかな位置を感覚的に知ることができるというものだ。


〈追跡〉を発動。……フィノが今どこにいるのかは、大体わかった。

 俺はフィノの進行方向に向かって、魔法で作った足場から、大きく跳躍した。


 体全体を包む、浮遊感。空を飛ぶのがどういうことかは分からないが、きっとそれは今自分が感じているような、心地よさがあるのだろう。

 そんな風に数秒、何物にもとらわれない自由をかみしめていたが、飛翔から落下に運動が変化する。


 刻々と、視界を森の緑が埋め尽くしていった。

 そして、木々の間を通り抜けて――着地。魔法で着地の衝撃を相殺したため、大きな音が出ることは無かった。


 今度は意識を集中させる。

 常時発動型スキル〈第六感〉により研ぎ澄まされた、説明できない感覚によりフィノの【存在】を探る。

 

 ……見つけた。

 

 数秒後、丁度真上をフィノが通るだろう。俺はそれを狙い、両足を曲げて力をため込む。


 残り、6,5,4,3――。

 一気に力を解放し、跳躍。そして――

「へ?」

 目の前で呆けた声を出すフィノを抱きかかえ、取り押さえることに成功した。



「にゃ、にゃにゃにゃ!?」

 フィノを抱いたまま着地すると、動揺した声が聞こえる。


「い、一体全体、これはどういうことだにゃ?」

「それは、こっちのセリフだ。おまえ、俺のことをだましていたな!」

「へ、お前は……さっきの〈神語り〉!」

「ミコちゃんだ!」


 今気づきました、という様子のフィノに、俺はもう一度名乗った。

「だ、だました? 何の事だか、わからにゃいにゃ」

 下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとするフィノ。……分かりやすいやつだ。


「国境超えたの、お前じゃねぇか。こっちは、東側。人間側の領土だ」


「……くっそー! 流石にいつまでも騙せなかったにゃ! ていうか一瞬でもだませたのが奇跡だったにゃぁー! 最初に僕の言葉を信じた時は、すんごい馬鹿で助かったって思ったくらいだったニャー!」


 フィノはにゃあにゃぁと騒いでいる。……俺のことを馬鹿にしながら。


「偵察とか、やめろよ。見つかったらきっと、ひどい目に遭うぜ」

「……ふん。どうやら、目的も分かっているみたいだにゃ。意外と察しの良い奴にゃ」

「いや、お前がさっき自分で言っていたんだろうが」

 俺はフィノの体を離して、向かい合ってからツッコんだ。


「かくにゃる上は! お前を倒して僕は目的を果たすにゃ!」

 後退してから四つん這いになって、力をため込んでいる様子のフィノ。多分、これが獣人が戦闘を行う際の構えなのだろう。

 人というよりも、その姿は獣を連想させる。


「やめろって。俺はお前と戦うつもりはない。つうか、お前が人間に捕まる前に引き留めよ€€€うと思って追っかけてきたんだぞ」

「……そうだったとしても、僕はこの任務を果たして、祖国に情報を持って帰らないといけにゃい。恨みはにゃい。だけど、邪魔をするつもりにゃら……」


 目の前のフィノが、弾丸の如き速度で迫る。


「容赦しにゃいにゃ!」


 瞬時に間合いを詰めたフィノはそう言って、眼にも留まらぬ速度で俺に拳を叩き込んだ。

「にゃにゃ!?」

 しかし、拳を叩き込んだと思っているフィノは、驚愕の声を上げることになった。


「其れは俺の残像だ」

 フィノの背後から、俺は囁く。


「ふにゃ!?」

 即座に、身を翻してから俺との距離を取ったフィノ。反応は上々。


 ……なるほど、一人で敵陣に乗り込むだけあって、中々の手練れらしい。めっちゃ可愛いだけの猫耳少女ではなかった。


 だが、残念ながら、俺とは格が違う。

「今ので、分かっただろう? 俺と戦っても、お前に勝ち目はないよ」

「まだまだにゃ」


 そう言ったフィノは、上空へと跳んだ。木々の間を、縦横無尽に駆け巡る。

 森の地形を生かして立体的に動き続け、俺をかく乱させようとしているのだろう。


「ここは僕達獣人の領域。人間のお前が、この動きに対応できるわけにゃいにゃ!」

 高らかに宣言するフィノ。

「そんなことないんじゃないかな?」

 縦横無尽に移動するフィノの背後にぴったりとくっついて、俺は言う。


「……へっ!?」

 驚いた表情で振り返るフィノ。その驚いた顔が可愛くて、とりあえず耳をモフモフすることにした。


「にゃにゃー!?」

 叫び声をあげたフィノは、そのまま地面にぶつかりそうになった。

 だから、俺は彼女の体を抱きしめて、着地した。


 何が起こったのかわからないフィノが、戦々恐々とした様子で俺に問いかけた。

「お、おまえにゃにものにゃ!? ただの人間ではにゃいにゃ」

 問いかけるフィノに、俺は宣言する。

「何、通りすがりの【アイドル】さ」

「【アイ●ス】? にゃんにゃ、それ?」

 日本語発音は、獣人でも聞き取りづらかったのだろう。異なる意味を持つ言葉を発していた。

 なんなら、本質的には同じ意味を持つ言葉でもある。


「……みんなを笑顔にする存在さ」

「言われても、わかんにゃいにゃ。つまり、にゃんだそりゃ?」

 キョトンとした表情で、フィノは呟いた。


「ま、そりゃいいだろう? ただ、これで分かっただろ? 俺には、敵わないって」

 俺の言葉に、フィノは悔しそうに唇を噛む。

「分かったにゃ。お前は、強い……僕よりも、ずっと。だから……」

「なんだ?」

「もう抵抗しにゃいから、はにゃしてもらえにゃいか?」

 そう言われてしまったら仕方ない。俺はフィノの尻尾をモフモフモフ、と堪能してから体を離した。


「……にゃんでモフモフした?」

「そこに尻尾があったから、さ」


 フィノはまたしても俺に冷たい視線を送ってくる。また俺の心のちんぽが以下略。


「どうして、危険を冒してまで人間側の領域にまで来たんだ? 危険なことは、分かっているだろう?」



 俺の言葉に、フィノは皮肉気に嗤った。

「人間側、か……それが、おかしいのにゃ」

「? 悪い、何が言いたいのかよくわからない」

「この〈イアナッコの森〉は、獣人族の英霊が眠る、僕たちにとってとても大切な場所にゃ。それを我が物顔で奪っていったのが、お前ら人間にゃのにゃ」


 その眼光は鋭く、先程までの可愛らしさはなりを潜めていた。

「英霊、っていうと。死者が眠っているのか?」

 俺の言葉に、フィノは頷いた。

「この森は、僕達獣人の魂が眠る場所。生まれ、やがて還るべき場所。にゃのに、お前ら人間は、自分勝手に奪って、荒らす。それが、許せにゃいんだ」

「事情を知らないのに、踏み込んでしまって済まない……だけど、それじゃ獣人族はどうするつもりなんだ?」


 鋭い視線。俺は、その眼を見て背筋に嫌な汗をかいたのを意識した

「邪魔する奴はぶっ飛ばす。そして、取り返す!」

 フィノの声には、明確な憎しみが込められていた。


「でも、力づくで奪い返したら、また力づくで奪われちまうかもしれない。それを繰り返すつもりなのか?」

「構うものか! 僕は、僕たちはただ、大切な物を取り返したい。それだけにゃ!」

 鼻息荒く興奮するフィノに、俺は尋ねる。


「じゃあ、もう戦うしかないのか?」

「……ミコ。お前は良い奴にゃ。でも、お前が特別なだけにゃ。他の人間は、糞にゃ。だから、こうして話して全てが解決することは、にゃい」

 フィノは、決して俺から目を逸らさない。


「お前とはきっと友達になれた。……生まれる世界が違えば、にゃ」

 フィノは立ち上がり、そして瞬時に飛び上がった。

 木の上に立ち、こちらを見下ろすフィノに、俺は声を掛ける。


「なぁ? 本当に、どうにもならないのか?」

「にゃらにゃいにゃ。今日は退くけど……今度会った時も僕の邪魔をするというのなら、殺す気で行くにゃ。僕は、お前に勝てにゃいだろうけど、それでも、命の限り戦って見せるにゃ」

 そう言い残して、フィノは木から木に飛び移り、すぐに見えなくなった。

 

 追おうと思えば、追いつけるだろう。だけど、そうはしない。



 追いかけたところで、現代日本で平和ボケをしていた俺が、フィノにかけてやる言葉は無いように思ったからだ。

 

 

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