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第十話 俺、運命を感じる。

「いつまでそうしているつもりだ? はやくメアリ殿のところまで行こう」

 呆然と立ち尽くしたままだった俺の手を握り、ロゼが引っ張ってくる。

 俺はその手に導かれ、ギルドの中を歩く。


 やはり先程目立ってしまったせいか、多くの人間の視線を感じる。まぁ、気にしても仕方ないか。

 すぐに受付カウンターに着いた。メアリさんがこちらに手を振っていたので、すぐに目前に移動した。


「早速ですが、ご主人様にS級クエストの説明をさせていただきます。今回の依頼内容は、《ドラゴン》の生態調査です」

「ドラゴンだと? ……逃げ出した竜騎士の始末、とかではなく、野生のドラゴンの生態調査という事か?」

 メアリさんの言葉に、真っ先にロゼが反応した。


「どうしたんだ?」

「……ドラゴンは、幻獣・魔獣・聖獣等、すべての種の頂点に君臨する、最強の存在だ。神話によれば、上級種のドラゴンは、唯一神に対抗することが可能な生物とされている。しかし、人類が管理・育成をしている、小型の騎竜以外は個体数が非常に少なく、野生で見つかることは稀なのだ」

 ロゼが丁寧に説明をしてくれる。


「はい、ロゼ様。野生しているドラゴンの生態調査を依頼しております。町外れの森で、奇妙な報告がありました。魔獣の群れの死体。それも、喰い散らかしたかのような。成体のドラゴンが長き眠りから目覚め、行動を開始している可能性が高いのです」


「なぜ、他の魔獣ではなくドラゴンだと言い切れる?」


「既に数名のA級冒険者様に魔獣の群れの死体について、原因の解明を依頼していたのですが、一人を残して死亡若しくは行方不明です。唯一生還した冒険者様の話によれば、『森のはずれで大きな竜に襲われた、自分が生きているのは、幸運以外の何物でもない』だそうです。手練れのA級冒険者様ですらこの有様ですので、S級若しくはそれ以上の実力のある方に依頼したかったのです」


 確定、ではないにしろ。強大な危険が近くにいるから、その調査と報告をしてくれというのが今回のクエストらしい。


「よし、受けるぜ。そのクエスト」

「!? ちょっと待つんだ、ミコ」

 俺の言葉に答えたのは、メアリさんではなく、ロゼだった。


「良いかい、いくら貴女がバルバロスよりも強いとはいえ、ドラゴンが相手では危険も十分に考えられる。じっくりと考えた方がよい」

 ロゼが慌てた様子で俺に告げる。


「大丈夫さ、何もドラゴンを見つけてぶっ殺せ、と言われているわけではないんだ。適当に遠くからドラゴンをのぞき見して、やばいと思えば退却してギルドに報告するだけの、簡単な仕事だろ?」


 黙ったまま話を聞くメアリさんに、俺は尋ねた。


「はい、その通りです。前金が100,000イェント。週に一度のギルドに対する報告の際に、有益な情報提供を行っていただければ、300,000イェント以上をその都度お支払いします。それが、成功報酬です」


「お、マジか! そいつは景気が良いな!」


「既に死人が出ているクエストですので。報酬が高いという事は、それだけ危険度が高いという事ですので、くれぐれもお気を付けください」


「そうだ。ミコ、無茶は厳禁だ」


 ロゼとメアリさんの二人から釘を刺され、俺は不承不承頷いた。

「あ、そうだ。ちなみに希少なドラゴンをぶっ殺したら、何か罰則とかあるわけ?」


「……竜殺しですか。罰則はございませんよ。特に、今回は既に被害が発生している状態です。現在、竜の詳細を知らない状況ですので正確なことはお話しできませんが、竜の討伐に成功した場合は、10,000,000イェント以上の報酬をお約束しましょう」


 メアリさんが、1本の指を立てている。


「10,000,000! これは良い儲け話だ。……あ、大丈夫、無茶はしないさ。だから、そのクエスト受けさせてくれ、メアリさん」


 不満そうに眉を潜めて俺を見てきたロゼに弁明してから、メアリさんに依頼を受ける意思を伝えた。


「ありがとうございます。それでは、ギルドカードをお渡しください。カードに魔力を込めてくだされば、クエスト内容と、把握している《ドラゴン》の情報について閲覧ができますので」


「へぇ、そいつは便利だ。それじゃ、頼んだ」

 そう言って、俺はメアリさんにギルドカードを手渡した。


 ギルドカードを受け取ったメアリさんは、その上に魔力水晶を置いて、魔力を注ぐ。薄い水色の光に包まれ、数秒が経って光は消えた。


「どうぞ、ご主人様。クエストの詳細を確認してください」

 言われて、俺はギルドカードを受け取り、それに軽く魔力を注ぐ。


 数秒後、ゆっくりと文字が浮かび上がり、それに目を落とす。今回は、現地の文字が浮かび上がるか、意識をしてみた。


クエスト ・ドラゴンの生態調査

目的   ・魔獣の群れを襲う《ドラゴン》の調査。また、可能であるなら討伐或は捕縛。

報酬   ・情報の有益性に応じる。また、討伐の際は、実際のドラゴンの脅威度に応じる。


 ギルドカードに記されているのは、現地の文字だった。それにしても、随分とざっくりとした内容だな。


 しかし、記載された文字列に指を触れると、表示されている内容が切り替わった。

 ……スマートフォンみたいだな、これ。


 そして、現在把握されている情報が見えるようになった。

 ドラゴンは、体長約7メータル級の中型竜。メータルってのは、現代のメートルの事か。


 つがいではなく、一匹で行動をしているとのこと。現在までにその姿を確認できたのは一か所のみだが、魔獣の死体の群れがその一か所を中心に半径10ケーメータル以内で複数確認されている。


 つまりは、その中心である箇所を巣にしている可能性があるのだろう。


「7メータル級、か。確かに、A級冒険者では相手にならないだろうな」

 俺のカードを横から覗き見ていたロゼが、苦々しい表情で呟いた。


「ちなみに、ロゼはドラゴンと戦ったことあるか?」


「あるぞ。修行のために山籠もりをした時、たまたま出くわしてしまって。あの時は、10メータル級のドラゴンだった。何とか倒すことはできたが、私のHPとMPの残量は、2桁にまで減らされていた。……瀕死の重傷を負って、ようやく倒すことができた」


 ロゼは懐かしむように言うのだが、


「10メータル級を一人で、ですか!? S級冒険者でも、5人以上のパーティで挑むのが常識ですが……さすがは神槍とうたわれる王国最強の一角ですね」


 メアリさんは驚愕の表情を浮かべている。


 ……ロゼも、この世界では超強い有名人なんだよな。


「……参考までに、バルバロス様は9メータル級を討伐されたことがございます。ロゼ様には見劣りしますが、十二分に凄まじいです。彼に勝ちましたご主人様が万全の状態であるならば、7メータル級の中型種に遅れをとることは無いでしょう」


 にっこりと、華やかな笑顔を浮かべるメアリさんに俺も顔で応える。


「それじゃ、早速前金をください!」

 金だよね、結局は!


「はい、少々お待ちを……。こちらが、前金の100,000イェントです、お受け取りください。一応、確認ですが、前金を受け取りながらもクエストを行わなかった際は、処罰の対象となることに留意してください」


「はいはーい、分かってるよ。だから、また来週、報告にくるわー」


「はい。お待ちしております。ご主人様」

 恭しく頭を下げるメアリさんに、またねー、と手を振った。


 ギルドを出てすぐ、通行人を視界に入れながら、ロゼが問いかけてきた。


「そうだ! 肝心のドラゴンの出現ポイントがどこか、分かっているのか?」


 ああ、そう言えば確認をするの、忘れていたな。


 俺はまたカードの表面に触れ、情報を切り替える。


 そこに浮かび上がった、ドラゴンがいるとされる場所の名前を見て、俺とロゼは思わず顔を見合わせていた。


〈イアナッコの森〉


「……とりあえず、一緒に森に戻ろうか」


〈イアナッコの森〉は、俺とロゼが出会った森だ。結構いい感じに別れの挨拶とかしたけど、別に悪いことではない。


 これは、あれだ。良い風に言うなら……う、運命? うん、そうだ。


 運命を感じるよね。


「うん」

 俺は、一言答えて目を伏せた。


 べ、別に気まずくなんて、ないんだからねっ!




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