灰色の髪の女の子
期末テスト?
……はて、何の事やら……。
き、気分転換です(汗)
王都に入った俺達はとりあえず『黒狼の牙』の討伐証明をしようと言うことになり、今は冒険者ギルドに向かっている最中だ。
「坊主、お前らはこれからどうするんだ?」
「そうですね……」
街中なのでビルドさん達と一緒に馬車の荷台に乗りながら進んでいると、ビルドさんから今後の予定を聞かれた。
どうしようか……。とりあえず必需品をもう少し買ってから父さんに会わないといけないからギルドの登録は後だし……。
「とりあえず討伐証明が終わった後は買い物をしてから王都に住んでいる父さんに会いに行く予定ですね……」
「そうか、俺はお前らの根性の据わった所が気に入ってな。確か冒険者になるんだろ?そん時は色々教えてやるよ‼」
それは嬉しい相談だ。
そうして道中にも聞いていた冒険者の心得の続きを聞きくこと10分。冒険者ギルドに着いたようだ。
冒険者ギルドの外見は意外と綺麗で、そしてでかい。学校の体育館位あるかないかの大きさだ。
俺が冒険者ギルドに圧倒されていると、
「よし、お前らも着いてこい」
そう言われて俺達もビルドさん達についていく。
建物と同じくこれまた大きい扉をビルドさんが開けると、俺が予想していたような酒場から煩いくらいの声が聞こえてくるなんて事は無く、ギルド内は結構静かだった。
まぁ、当たり前か、昼間から酒場が賑わっているようならこの国の冒険者の質を疑ってしまう。
そんな事を考えている間にもビルドさん達はカウンターと思わしき所へとずんずんと歩いていく。
俺が慌てて着いていくと、ビルドさんがカウンターの受付で何やら手続きを行っている。
……どの受付嬢も美人だ。
……あれ?ヘリスが俺を睨んでいるような……気にしないでおこう。
「……それと、これなんだが、昨日の夕方に盗賊の『黒狼の牙』と交戦した。……これが討伐証明だ。」
ビルドさんがその話を切り出すが声が小さい。
まぁ、『黒狼の牙』って有名らしいしあんまりむやみに周りを混乱させる必要も無いしな。
受付嬢も初めはびっくりしていたようだが、直ぐに元に戻りその盗賊達の中指の入った袋を持ってカウンターの奥の扉へと引っ込んでしまった。
しばらくすると、受付嬢が息を切らせながら戻ってきて、
「確かに確認しました。出来ればギルドマスターに会って頂きたいのですが……」
「ああ、分かった。だがその前に討伐報酬の半分を先にこの坊主に渡しといてくれ。こいつらは急ぎの用があるからな」
「分かりました!!直ぐに持ってきます‼」
ああ、ギルドマスターに会ってみたかったけど確かに父さんに会う前に買い物をしておきたいからな。……それよりも報酬って何だ?
「あの……報酬の半分って、俺達何もしていないんですけど?」
「バカ野郎。あの盗賊の半分を倒したのはお前達だろ?」
「……あれは相手が自爆したからで」
俺はあの時確かにそういったはずだ。
「お前に教えといてやる。魔力で自爆……魔力暴発って言うんだが、それが起きるのは自分の身の丈に合わない魔法を行使したときや何らかの要因で使えない環境で無理矢理発動させた時になるもんだ。
しかも二つとも希にしか起こらねぇ。
お前ら相手に、向こうはいきなり慣れない魔法を行使したのか?
それとも魔法が使えない環境にでもなったのか?
……まぁ、何か理由があるんだろ。あの爆音は中級魔法でも出せねぇ代物だからな。これ以上は詮索しねぇよ。」
バレていたのか。
「……すいません」
「なあに、気にするな。冒険者には一つや二つ位の秘密がねえと食っていけねえからな」
なんともありがたい気遣いだ。
しばらくして受付嬢が戻って来て報酬を貰ったのだが、金額が凄かった。
金貨8枚。80万リグだ。
「これは多いような……」
「仮にも人殺しだからな。これくらいなけりゃ誰も引き受けねぇ。しかも今回は『黒狼の牙』だからな。」
そういう意味じゃあ無いんだけど……。
「ありがとうございます。そろそろ俺達も行きますね」
「おう。じゃあな。」
「ヘリスちゃん、色々と頑張るのよ!!」
「また今度あの時の魔法について聞かせてくださいね」
こうしてビルドさん、ミラさん、バズさんに見送られながら俺達は冒険者者ギルドを後にする。
今から父さんの所に向かうわけだが多分夕方頃に門の前で待っているだろう。
アクシデントのせいで予定よりも早く着いてしまったからな。
「とりあえず収入も入ったわけだし何か買いに行こうか。
ヘリスは金貨10枚持っておいて。ミューナはお小遣いとして銀貨1枚な?」
まぁ、銀貨1枚でも結構な大金だろう。
「私とミューナは服を買いたいのですが……」
下着とかもあるだろうから俺が行くのはちょっとな……。
「よし、待ち合わせ場所は冒険者ギルド。時間は3時にしようか」
そうして俺達はヘリス、ミューナ組と俺一人に別れて各自で行動することになった。
まず俺が行きたいのは鍛冶屋だ。男のロマンだろう。
もう俺にはヘリスがくれた殆ど最強と言っても過言ではない武器があるわけだが、それとこれとは別だ。
それに、ヘリスとミューナには防具を買ってやりたいと思っている。あいつらには怪我なんてしてほしく無いからな。
しかし、俺に装備の良し悪しが分かる分けも無く、ひたすら鑑定を使ってどの店が良いかを探していく。どれも同じような品質だが、たまに品質の良いものがある店がある。……ドワーフとか居るんだろうか?
だが、俺はたまにある良い品じゃ諦めない。俺は妥協しない男なのだ。
そうして歩いているうちに、路地裏の方にまで入り込んでしまう。
路地裏は思ったより長そうだがここを抜ければまた違う通りに抜けるのでそこでまた鍛冶屋を探そうと思い歩きだす。
「おい嬢ちゃん、ちょっと俺達に着いて来てくんねぇかなぁ?」
そんな声が曲がり角から聞こえたのでこっそり覗いてみると、俺と同じ位の年の、フードを被った女の子に男が4人がかりで詰め寄っている。
(あいつらはロリコンなのか?この世界は特殊な性癖を持った奴が多いのか?)
と思い、男を鑑定してみて納得した。こいつら全員、奴隷商の人間だった。
よく見ると女の子は髪の色は灰色で、もの凄くクール美人だった。この世界は美人の質が格段に地球より高いのかもしれない。
「何か答えてくれよぉ……こっちだって暇じゃ無いんだよね」
「早く答えねぇと女の子でも容赦しないぜ?」
「……消えて。邪魔」
「あぁ?んだとてめぇ!!ブッ飛ばすぞっ!!」
何か向こうは女の子がいらんことを言ったらしく男達が一斉に女の子を殴ろうとしていた。
(……あ、ヤバい)
あることに気づいた俺は体を原初魔法で覆ってそちらに走る。
そして、女の子の前に立ち、初めに一番前にいた奴の足を折れないように注意しながらおもいっきり払う。
次に転んだ男を見て気が動転している残りの男達に順番に制圧していくが、最後の一人が気を取り直して殴ってきたので、その勢いを殺さずにそのまま背負い投げをする。初めてやったが力に物言わせて形だけでもやり遂げた。
「……勝手に助けないで」
一人で背負い投げに自己満足していると後ろにいた少女に辛辣な言葉を投げかけられる。いつもならここで心に深い傷をおっていたが今回はそう言われると思っていた。
なので先程気づいたことを述べてみる。
「ごめんごめん。でも邪魔しなかったら殺されていたでしょ?
―――男達が」
そういうと少女は俺にばれたのがびっくりしたのか眉を少ししかめる。無表情なので分かりにくい。
そう、この少女はさっき男達が殴りかかってきた時、男達を確実に殺そうとしていた。
俺はこの世界で体を鍛え始めたとき、書斎にあった本で自分なりに武術も少しやっていた。残念ながらスキルは習得出来なかったが。
だから、彼女が身構えたときに俺ならあの構えは人を殺す時に使うと思ったので少女が何をしようとしたのかが分かったのだ。
「……何者?」
それを聞いた少女は俺を警戒してきた。
「そんなに警戒しなくても別に何か特殊な組織に入っていたとかは無いよ?しいて言えば最近田舎から来たただのおのぼりさんかな?」
そう言いながらも俺も少し少女を警戒している。何故かこの少女には鑑定が効かないのだ。
しかも、高レベルの相手にはステータスの中身が見れないが、この少女には鑑定その物が効かない。多分何か特殊なアイテムを装備しているのだろう。
「……おのぼりさんは何をしにここへ?」
おお……コミュニケーションをしてくれるようだ。
「いや、腕の良い鍛冶屋を探していてな。それで偶然現場に居合わせたわけだ」
「……一応恩は返す。来て」
「え?あ、ちょっと!!」
女の子は突然スタスタと歩き去っていく。着いて来てと言われたので放置では無いようだが。因みに男達にはアイテムボックスに入っていたミューナと前一緒に取った花があったのでそれを1輪供えておいた。別に死んではいないが。
そして、俺も女の子に追いついたので少し話をしてみる。
「名前は?」
「……リオ」
「リオはここに住んでるの?」
「……ん。…………着いた」
そう言ってリオがある建物の前に止まった。
見た感じボロいが、建物の造りはとても頑丈そうだ。
リオが建物の中に入っていったので俺も続いて中に入ると、何故か武器や防具が見当たらない。すると、カウンターの奥の扉が開いて、そこからドワーフのおっさんが出てきた。
「おう、リオじゃねえか。……そこの坊主は?」
「アルギウスと言います。今日リオと知り合ったんですけどおすすめの鍛冶屋を教えてもらえる事になったので着いてきました」
「そうか……リオが連れてきた奴なら大丈夫そうだな」
「……アルギウスは強い」
「そうかそうか。俺はゴルバドって言うもんだ。よし!何を造って欲しいんだ?」
「えぇっと……ナイフ6本でその内、剥ぎ取り用が3本。後は仲間の防具2組です」
「仲間の分は採寸しねえと分からねぇから今は無理だがお前の分に関しては明日にでも取りに来い。因みに明日ならいつでも良いぞ」
良い人じゃないか。
因みにゴルバドさんは俺のこのコートが防具だと言うことを見抜いていると思う。凄さまでは分からなかったんだろうけど。
「だいたい、いくら位かかりますかね?」
「金貨8枚。と言いたいんだが少し坊主に頼みがあってな。それを聞いてくれたら半額で良いぜ」
「高!?……て言うか半額!?……ち、因みにどう言った頼みで?」
40万リグ分の頼みって怖いな。
「ああ、それは向こうの部屋で話す。ついでにお前の手の形を見るぞ」
おおっ!ナイフ一本造るのにわざわざ手の採寸までしてくれるとは。どうやらここは完全オーダーメイドの店らしい。
「……私は帰る」
リオはもう帰るらしい。
「そっか、今日はありがとう」
「……恩を返しただけ」
そう言ってリオは帰ってしまった。
そして俺は先に行ってしまったゴルバドさんを追って奥の部屋に入る。
部屋は意外に広くシンプルな造りだが、どうやらここで鍛冶をするわけでは無く、また違う部屋があるっぽい。
「おう、来たか……リオは帰ったのか?」
「はい。直ぐに行ってしまいました」
「そうか……。さっき頼み事があるって言っただろ?あれなんだが……リオを守ってやって欲しいんだ」
「え?」
リオを守る?あの子大分強いんだけどぶっちゃけ守り要らなくね?
「リオは結構強いですよ?」
「そう言うんじゃねぇ。
あいつは初めて俺の所に来たときに俺の事をどんな目で見ていたと思う?まるでそこら辺にある石ころを見ているような目だったんだぜ?
今はあんなだが昔は俺にたいしての認識もただの武器や防具を造らせる為の道具にしか見えてなかったんだろうな……」
そんな事があったのか……。
確かに前世でもコンビニに行ったときとかあまり店員さんを気にしていなかったけど、リオの場合はそういうのじゃなくてもっとこう……、人っていう認識もしていなかったんだろうな。
「あいつは今も俺以外の人間にはそんな目を向けていてな、リオがお前を連れてきたときはビックリしたぜ。だからお前ならリオの心をなんとかしてくれると思ってな」
「ああ、そういうことなら引き受けますよ。あんまり会えないかもしれませんが……」
「一週間に一回位会ってくれりゃあ上出来ってところだ……」
それくらいなら冒険者稼業の合間にもいけるだろう。それに何か気になるしな。
だが、次の言葉を聞いて俺の思考は止まってしまう。
「……後、最後にだが、リオはよくナイフやら針何かを注文にくる事と俺の独自の情報網からだが、
―――――グラスニア帝国の暗部のもんかもしんねぇ」
……ホワッツ?




