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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
9/145

冒険者ギルド 死者の街支店

「まず、冒険者ギルドに行きましょうか。永遠の迷宮関連の依頼があれば、受けておいてもいいですし」


 ライトはイリアンヌとキャサリンと共に宿を出て、街の東へ向かう。


「そういや、私こっち側行ったことないわ。この宿屋も入口から近いし……でも変ね。なんで行こうと思わなかったのかな。死者の街なんて珍しい場所に来たら、まず街の見学するものなのに。あれ? 何で私は、それを今まで疑問にも思わなかったのよ」


 首をかしげ唸るイリアンヌ。


「あー、それはそういう結界が張っているからですよ。外から来たものは、無意識にこちら側を避けるように誘導されています。今は私と一緒なので大丈夫ですが」


 この街へ来た部外者は街の浅い部分しか知らない。入口の門から徒歩で十分程の距離までしか、入ることを許可されていない――死を司る神の見えざる手により。


「じゃあ、この街に来た人は街の全容を知らないわけ?」


「そうですね。皆さんが見たのはこの街のほんの一部ですよ。人口……と言っていいのか難しいですが、住人は確か五万人以上いるそうです」


「えええええええええっ! そんなに大きかったのこの街!」


 両手を大きく広げ体を仰け反らして驚いているイリアンヌ。


「いいリアクションするわね、この子」


「ええ、本当に。キョロキョロしているとぶつかりますよ。そろそろ冒険者ギルドにつきます。ほら、あそこに見えるでしょう」


 その言葉に辺りを物珍しく見回していたイリアンヌは、足を止め正面に目を向けた。

 そこには周囲の建物とは造りの違う、三階建ての石造りの建物が堂々とその姿を現していた。


「おっきいわね……私が拠点にしている街の冒険者ギルドより立派」


「まあ、この街の冒険者は多いですから。冒険者という職業は心残りがある方が多いようで、急な死に心が対応できないようです」


 冒険者ギルドに出入りしている冒険者たちを、ライトは悲しげな瞳で見つめていた。


「んもう、辛気臭い顔しないの。みんな心残りはあるけど、今が楽しくないわけじゃないのよ。私なんて生前より今の方が充実してるわ」


 ライトの肩に手を置き、キャサリンは片目をつぶってみせる。


「そう、ですね。こんなところに、つっ立っていても迷惑でしょうから、入りましょうか」


 呆けた顔で建物を見上げているイリアンヌの背を押し、入口の扉を開けた。




 一階は大きなホールになっており、奥の壁際にはカウンターがあり、数名の受付が冒険者の対応をしている。

 入り口左手には大きな一枚板で作られた掲示板があり、無数の依頼書や冒険者の言伝が書かれた用紙が貼り付けられている。

 ライトは何枚かの用紙に目を通した。


 運命の人を探してください。隻眼で頬に十字の傷があるイケメンです。それが無理なら、メガネを掛けたショタっ子でも可。


「……厄介な心残りですね」


 軽く頭を振り次々と他の用紙へ視線を移す。


 仲間を探しています。女戦士で露出度高めの装備を好む人だと、なお良し。

 初心者です! 強い人手伝ってください! あとお金ないので恵んでください。

 最近もう魔物でもいいかなって思っています。

 材料は購入しておいた、あとで○○○に連絡してくれ。

 

 欲望剥き出しの要請や、ただのメモがきや愚痴を見て、ライトは大きくため息をついた。


「ねえねえ、ライト。なにこの依頼書。正気とは思えない内容が書いてあったりするんだけど」


 イリアンヌは掲示板から目を逸らさずに、ライトの服の袖を引っ張ってくる。


「ここに貼られているのは、受付で断られた依頼だったり、冒険者同士の意見交流を主としているそうですよ。亡くなって様々な束縛から解放された人が多いので、欲望剥き出しなものも多いですね。正直ろくなものはないです。大人しく受付で尋ねましょうか」


 受付上部にはプレート看板が掛けられている。

 素材鑑定。依頼受付。その他。そのうちの、その他と書かれた受付の誰もいない席へと向かった。

 上下薄緑色の少し大きめの職員用制服を着た、小柄な女性が俯いて忙しそうに手を動かしている。


「すみません、よろしいでしょうか」


 書類の処理をしていたらしく、慌てて顔を上げた職員が営業スマイルを浮かべた。


「失礼しました。冒険者ギルドへようこそ。今日はどういったご要件でしょうか」


「お久しぶりですね、リースさん。今日は永遠の迷宮に行こうと思っているので、許可書の発行と、関連した手頃な依頼があれば教えていただきたいのですが」


 まだ十代半ばに見える、幼さを残した顔をした若い女性はライトの顔を確認すると、営業用ではなく本物の笑顔になった。


「わぁー、ライトさんだ! お久しぶりです! ええと、許可書の発行と依頼の確認ですね。少々お待ちください」


 机の引き出しから何枚か用紙を取り出すと、素早く目を通している。


「許可書は問題ありません。これを持って永遠の迷宮入口の職員へお渡しください」


 手のひらサイズ程度のカードのようなものが手渡される。それは白銀色で特殊な製法で作られた魔法の品らしい。


「確認しておきますが、メンバーは何名になりますか」


「私、ライトアンロックとキャサリンことカーマインさん。それに、こちらのイリアンヌさんが同行します」


 リースはイリアンヌの姿がよく見えないようで、カウンターから身を乗り出すと落ち着きなく周囲を見回しているイリアンヌの姿を確認した。


「ええと、すみませんイリアンヌさん。身分証になるものはありませんか。ギルドカードがあれば手っ取り早いのですが」


「ああ、私? あるわよギルドカード。ちょっとまってね。ええと、はい。これでいいかしら」


 腰に取り付けてあった、小さめの収納袋からギルドカードを取り出しリースへ提示した。


「では確認させていただきます」


 カウンターの隅に置いてあった正方形の箱へカードを差し込むと、箱の上部が青く点滅しカードが出てきた。


「ありがとうございます。カードはお返しておきますね。イリアンヌさんは盗賊で……おー、Aランクなのですね凄い! ライトさんとご一緒するのも納得です」


 ライトはそっとイリアンヌの耳元に顔を近づけると、小声で疑問を口にした。


「盗賊なのですか? 暗殺者で登録してないので」


「……暗殺者で登録なんて出来るわけがないでしょ。非合法な事はしてないけど、世間体も悪いしね。暗殺も裏から依頼されたものだけをしているから、犯罪歴もついてないわよ」


 このギルドカードには、職業、冒険者ランク、所属しているチーム等が記載されている。

 特殊な魔法により書き込まれた情報なので、冒険者ギルドにある魔法道具がなければ、情報を読み取ることができない。対象者が犯罪を行った場合、罪の程度によりギルドカードの利用が止められる場合がある。

 罪といえば殺人を連想されがちだが、冒険者において殺人は珍しいものではない。盗賊の討伐や、命を狙われ返り討ちにした場合など殺人は身近なものだ。それをいちいち罪に咎めていれば、冒険者稼業など誰もやりはしない。

 それ以外にもギルドの依頼として殺人を求められる。それは表立ったものではなく、ギルドの裏の仕事として依頼される。それが非合法であれギルドの上層部が認めれば、それは依頼として受理される。

 冒険者ギルドは正義の組織でもなく一枚岩でもない。そこには裏を取り仕切る幹部も存在する。暗殺は冒険者ギルドの依頼であり、それに伴う殺人は犯罪行為として認識されない。

 ゆえに、イリアンヌは犯罪歴がなく、それが冒険者カードに記載されることもない。


「では、ライトアンロック、カーマイン、イリアンヌの三名で永遠の迷宮への挑戦と。はい、了承です。それと、永遠の迷宮関連の依頼ですが、結構な量がありますので目を通してもらえますか」


 カウンターの上に置かれた一般的な書類一枚分と、同じ大きさのガラス板にはいくつもの文字が浮き上がっている。

 ライトはそれを手馴れた動きで操作している。


「うーん、魔石と素材関連ばかりですね。他には……あれ、護衛依頼がありますよ。カーマ、失礼キャサリンさんの様に護衛を頼むというのは珍しいのですが。おや、この方は」


 依頼主の名前に見覚えがあったため、ライトの視線はそこで止まった。


「ああ、これですか。先ほど依頼されたばかりなので、まだギルド内にいられるのでは。っと、ああ、いました。ミリオンさーーん!」


 リースがカウンターの向こうから大声を張り上げ、懸命に手を振る姿に気づいたようで、ミリオンが駆け寄ってきた。


「なになに、どうしたのリース。もしかして、健康保持食品が欲しくなった?」


 ボーイッシュな服装とは不釣り合いな大きなリボンが、頭上で揺れている。

 背負うタイプの大きな収納袋を地面に下ろして手を突っ込み、商品を探しているようだ。


「違いますよ。ライトさんが依頼に興味があるようなので」


「うわ、ライトさんじゃないの。この依頼受けてくれるんだ、ありがとうー! 凄い顔ぶれだね。あれ、宿屋のウエイトレスさんも戦うの? ま、いっか。依頼受けてくれるならどうでも!」


 かなり嬉しいようで、ライトの片手を両手で包み込むように握り、上下に激しく揺さぶる。


「いえ、まだ決めたわけではないのですが、依頼内容を説明してもらえますか」


「うんいいよ。ええとね、最近鉱石が値上がりしているようだから、それを直接仕入れたいのと、私が作った魔道具の試運転も兼ねてかな」


「そういえば、魔道具技師でもありましたね。キャサリンさんの目的と同じようなものなので、私としては、この依頼受けたいのですが」


「いいわよー。ミリオンちゃんと知らぬ仲じゃないし」


「金が増えるなら問題ないわ」


 二人の同意を得て、ライトは依頼を受けることに決めた。


「では、この書類にサインを――はい、これで結構です。では、お気をつけて」


 席から立ち上がり、リースは深々と頭を下げた。


「それでは、出発しましょうか。リースさん行ってきます」


 魔法が苦手な聖職者。

 心は乙女な武器防具職人。

 暗殺者。

 商人見習いの魔道具技師。

 お世辞にもバランスが取れているとは言い難い臨時パーティーは、永遠の迷宮へと挑むことになった。



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