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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編

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四面楚歌

「魔物の群れがこの町に迫っている」


 開口一番ファイリがそう言い放った。

 ライトやイリアンヌ、ロッディゲルスも予想していた事態のようで落ち着いているが、他の面子は動揺の色が隠せない。


「休む間もなく呼び出して悪かったな。緊急事態だから許してくれ。今、冒険者ギルドから伝令が来てな、大群が徐々に首都を包囲しているそうだ。規模の詳細は冒険者ギルドで詳しい説明があるらしい」


「この展開を予想はしていましたが、思ったより行動が早いですね。しかし、包囲ですか。ということは、かなり近くまで魔物の群れが来ているということですよね。何故、そこまで気付かなかったのでしょうか」


 ライトの素朴な疑問に何人か同じことを考えていたらしく、軽く頷くと視線をファイリへと向ける。


「詳しくは知らんのだが、南は海から現れ、東と西は突如街道に出現したそうだ。北は森林の中に魔物が隠れていると見張りからの報告があったらしい」


「集団転移系の魔法でしょうか。敵の正確な戦力がわからないので何とも言えませんが、かなりの規模の集団転移ですよね。そんなことが可能なのか、もし可能なのであれば並の実力者では……と焦らす意味もないですか。上位悪魔の仕業でしょうね」


「タイミングから考えて、まあ、そうだろうな。とまあ、こんな場所で憶測を飛ばし合っていても建設的ではないだろう。冒険者ギルドへ向かうとするか」


 ライトたちは休む暇もないままに、再び冒険者ギルドへと舞い戻ることになった。

 




 冒険者ギルドへ近づくにつれ人通りが激しくなっていく。

 魔物に関しては兵士たちへ箝口令かんこうれいが敷かれているはずなのだが、道行く住民は取る物も取り敢えず慌てて壁際から離れている。人波に逆らい壁際へと向かっているのは好奇心旺盛な野次馬か兵士、冒険者ぐらいだろう。

 冒険者ギルドの入り口は人で溢れ返っていて、入り口付近で冒険者ギルドの職員が大声を張り上げ、指示を出している。


「申し訳ありませんが、ギルド内へ入ることが許されているのはBランク以上となっています! Cランク以下の方はギルドの裏手にある訓練場へ回ってください! そこで、説明がありますので! Bランク以上の方はこちらからお入りください!」


 その説明を受け納得して裏へと移動する冒険者が大半なのだが、魔物と命のやり取りを経験している特殊な職業柄、血気盛んな若者が多いので何人かは職員に突っかかっているようだ。


「あんたら、気持ちはわかるが道を開けてくれないか。俺たちが通れないからな」


「そうですよ。職員の対応に不満があるのなら、口ではなく結果で示せばよいだけです」


「そうよぉ。Bランク以上が羨ましいのはわかるけど、おいたしちゃダメだぞぉ~めっ」


「ほんますんません。こいつら最近ランク上がってから、調子のってもうて。あとでちゃんと注意しときますから。ほんま、かんにんな」


 全身鎧を着た大柄な男が冒険者を掻き分け、前へ前へと進んでいる。後ろから、眼鏡を掛けた魔術師らしき男と、法衣を着た小柄な女性が周囲へ愛嬌を振りまきながら続いていく。最後尾につく耳の長さが特徴的なエルフの青年が、何度も頭を下げながら共にギルド本部内へと消えていく。


「どこかで見たことのある後姿だったような」


 ロッディゲルスが四人組の冒険者に何処か引っかかっているようだ。


「さて、俺たちも中へ入りたいのだが、まだ人が多いな。通り抜けるのにも一苦労しそうだ」


「あ、それなら大丈夫よ。はーい、注目! 今からライトアンロック御一行が通りまーす!」


 ファイリが怪訝な顔をして自信満々なイリアンヌを見るが、振り返った冒険者たちが何も言わずに一斉に両端へと分かれ、道が開かれるのを見て納得している。

 騒いでいた冒険者たちは黙り込むと、目の前を通っていくライト一行から目を逸らし、息を呑んで見守っている。


「あれが噂のライトアンロック。死者の聖者と呼ばれる男か」


「迫力が半端ねえな。噂では死者の街を壊滅させたらしいぞ」


「マジか。俺は死者すら蘇らせ下僕にできると聞いたが」


 何人かの囁く声がライトに届くが、特に気にした様子もない。突拍子もない噂など言われ慣れているので今更といった感じだ。仲間は何か言いたそうな顔をしているが、黙って付いてきている。

 扉を開け冒険者ギルドに足を踏み入れると、ホール内にいた冒険者たちが一斉に振り返る。黒の法衣を身に纏い巨大なメイスを背負ったライトを見て、一度目の騒めきがホールを満たす。

 次にライトの背後から現れた、三人の美女を目にして男女問わず感嘆の声が響き渡る。

 冒険者たちがどよめく中をライトは進んでいく。流石にBランクを超えた冒険者ともなるとライトの事を知っているらしく、皆が大人しくライトに道を譲る。

 一階ホールは百人収容できる広さがあるのだが、そこに今、六十人程度の冒険者が集まっている。その冒険者たちの注目を一身に浴び、ライト一行は受付前で集まった人々の顔を確認しているギルドマスターの前に歩み出る。


「すまんな、すぐに呼び出してしまって。事が事だけに勘弁してくれ。よっし、これで目ぼしい奴らは集まったようだ。今から説明に入る! 耳の穴かっぽじって良く聞くように!」


 仁王立ちで一同の顔を見回すと、隣に立つ職員から書類を受け取りギルドマスターが説明を始める。


「今から三時間前に東と西の街道に魔物の大群が現れたとの報告があった。目撃談はどちらも乗合馬車の御者と乗客からなのだが、東の魔物の群れは道を埋め尽くし大群の最後尾が見えない程の数だそうだ」


 冒険者から驚きの声が漏れる。これ程の規模とまでは思ってもいなかったのだろう。

 騒めきが収まらない中、ギルドマスターは気を高めると一気に周囲へ発散させる。その闘気に触れた冒険者たちは一斉に無駄口を止める。


「このランクになると、こういった方法がやりやすくていい。取り敢えず、黙って続きを聞け。驚くのはまだ早いぞ。更にだ、遅れて一時間後に南の海から魔物が現れたとの連絡があった。これは海沿いに住む漁師から届けられた。こうなると、報告はなかったが北も来るのが定番だろうと調べさせたら……案の定、森の中に魔物の群れが潜んでいやがった」


 四方を魔物の大群に囲まれている。詳しい状況も知らずに集まっていた者たちは、驚愕を隠しきれず顔色が明らかに悪くなっている。


「ギルドマスター質問してもよろしいでしょうか」


 すっと手を挙げ質問を口にするライトに、冒険者たちの視線が集中する。


「ああ、何だライト」


「四方の敵のおよその数と魔物の種類というのは調べがついているのでしょうか」


「急いで調べさせたから正確なものではないが、一応はな。まず、東の街道を進んできている魔物は獣型が主流のようだ。殆どがワイルドシリーズの魔物が闇化したタイプらしい。つまり獣型魔物の闇属性だな。数はざっと二万」


 今度は声を上げるものが一人もいなかったのだが、その代わりに唾を飲み込む音がそこら中から聞こえる。


「次に西からだが、CからAという高位ランクの闇属性の魔物ばかりのようだ。東とは対照的に人の部位を持つ魔物ばかりらしい。B以下が大半で数が千にも満たないのがせめてもの救いだ」


 投げやりな口調でギルドマスターが話しているが、そう言いたくなるのも無理はない。

 基本、魔物を一匹倒すには、同ランクの冒険者が五人必要だと言われている。ワンランク下の魔物と戦う場合でも、一対一でギリギリどうかというところだろう。

ここにいる冒険者が仮に全員Aランク以上だったとしても、西に全員向かわせたところで返り討ちに遭う可能性が極めて高い。


「更にだ、南からは海岸に幽霊船が何隻も乗り上げ、中からスケルトンやゾンビやゴースト系が無数に湧いてきている。不死属性祭りだなこりゃ。その数は、数千らしいぞ」


 肩をすくめ、やれやれといった感じで両掌を上に向け、頭を左右に振っている。その顔には苦笑いを浮かべている。あまりに絶望的な状況に笑うしかない、といった感じだ。


「おまけに、ダメ押しの北からは、外壁の上から目の利く者に調べさせたのだが、森にかなりの数が隠れているらしいとのことだ。数は確認できないので何とも言えんが、まあ千単位じゃないか。だが、そっち側は外壁からの遠距離攻撃で何とかなる可能性が高い。事前に敵の出鼻を挫いてくれた者がいてな、まあ、心配はいらん。こちらも色々と手を打つ算段が付いている」


 唯一の明るい話題に場の空気がほんの少しだけ和む。だがそれは一瞬のことで、この場にいる全員が絶望的な現状を知り、一部を除き強張った表情を浮かべている。


「今から、国のお偉いさんや宗教家共と話し合いをせねばならんのだが、普通ならば立て籠もり周囲からの援軍を待つべきなのだが……そうはいかんだろうな。東を国の兵士が担当し、南をイナドナミカイ教が担当するという流れになるはずだ。北はこちらで何とか手を打つ。Cランク以下は東南北に割り振ることになるだろう。それでだ、お前たちの担当は、おそらく――西だな」


 その言葉に場の空気が一気に引き締まる。熟練の冒険者は顔色一つ変えず平然と構えているが、Bランクの才能は溢れているが、まだ若い冒険者たちは一様にせわしなく体を揺らし、動揺を隠しきれていない。


「まあ、ちょいと部屋でお偉いさんと通信してくるから待っていてくれ。その間に友好でも深めておいておけ。命を預ける仲間なのだからな。それから、敵の進行速度は思ったより遅いようだ、準備があるなら今のうちに頼むぞ」


 ギルドマスターが階上に消えると、冒険者たちは姿勢を崩し仲間同士で集まり相談事を始めている。


「これやばいだろ。西なんて死にに行くようなもんだぜ。Bランクの俺らに死ねと言っているようなものだ」


「いや、Aランクでも厳しいどころか……無理だろうな」


「いっその事逃げるか?」


「無理だ。転送系の魔法は全て使用不可になっているらしい。周囲の町や他の国への通信も妨害されているそうだ。首都は完全に隔離されてしまった」


 悲観的な意見ばかりが飛び交い、戦う前から敗戦の色が濃くなっていく。

 そんな中、ライトたちはというと取り乱すこともなくテーブルの一つを借り、何故か付いてきたメイド長が淹れたお茶を楽しんでいる。


「ライトアンロック殿。こんなことをしていて良いのでしょうか」


 サンクロスが周囲から完全に浮いている状況に、落ち着かない様子で身を縮めている。


「と言われましてもすることがないですからね。敵の進行が遅いのは恐怖を首都中に浸透させる為でしょうから、焦る必要もありませんよ。それに何もしていないわけではありませんので」


 テーブルを囲むように座っているのは、ライト、シェイコム、サンクロスのみでいつの間にか、女性陣の姿が消えている。

 イリアンヌには敵の詳細な情報収集を。

 ファイリはギルドマスターと一緒に上層部との話し合いに。

 ロッディゲルスは念の為にファイリの護衛についてもらっている。


「ライトさん! 何故、立て籠もらないのでしょうか。魔物からの侵攻となれば近隣の都市からの援軍や冒険者も駆けつけてくれる筈です! 迎え撃たずに待ち構えるのが常套手段ではありませんか!」


 テーブルに身を乗り出し、鼻息も荒くライトに顔を近づけ熱弁をふるうシェイコムをライトは手で制す。


「確かにその通りなのですが」


 この町は地下にとんでもないものを抱え込んでいますから。と口にするわけにはいかなかった。機密事項をここで口にすれば一気に国中へ広まる懸念がある。

 地下に眠る邪神の欠片。この存在を国王やイナドナミカイ教の枢機卿あたりは知っているとライトは睨んでいる。ファイリが知らされていなかったのは、教皇とは名ばかりのお飾りだった為だろう。

 立て籠もり長期戦になり、徐々に疲弊していき戦意が薄れる兵や不満が溜まる国民。そういった負の感情や死んでいく魂が魔力となるのを極力避けたいと考え、どうせ死ぬなら少しでも町から離れた場所で死んでもらおう。等という馬鹿な事を上の――特にイナドナミカイ教のお偉いさんは平気で考えそうだなと、ライトは半ば本気で思っている。

 以前、虚無の大穴から帰還した後に色々やり合った過去があるので、教団がどれ程腐っているか実感しているライトは上を全く信用していなかった。


「ライト様ああああああっ!」


 シェイコムをどうやって丸め込もうか考えていたライトの思考を邪魔したのは、女性の甲高い声だった。

 瞳を輝かせ本気の走りで駆け寄ってくる法衣を着た小柄な女性。そして、その後ろから仲間の三人が歩み寄ってきている。


「おや、皆さんも虚無の大穴以来ですね。お互い縁があるようです」


 虚無の大穴偵察隊の一員であった四人組の冒険者と、またも顔を合わせることになった。


「はい! ライト様と私はやはり運命の赤い糸で結ばれているのですねっ!」


「ないない、あったとしても、あんさんが無理やり結んだどす黒い糸や」


 早口で捲し立てる見た目は少女聖職者の背後で、エルフの青年が突っ込みを入れる。

 全員が虚無の大穴で散々目にした光景なので、誰も驚くことなく苦笑いを浮かべている。


「ライトさんがいてくれるだけで、凄く安心感がありますよ」


「確かに。大抵のことは鼻歌交じりにやってのけそうだ!」


「買い被りすぎですよ。私にそんな力はありません」


 眼鏡と全身鎧は全幅の信頼をライトに寄せているようで、口だけではなく表情からも信頼が読み取れた。エルフの青年と小柄な聖職者も同じ意見らしく、ライトの活躍を疑っていない。それは、サンクロスとシェイコムにも言える事なのだが。

 ライトは自分を過剰に称賛する人に囲まれるという、羞恥心を刺激される状況から早く逃げ出したかった。使用人や取り巻きに褒め称えられている貴族や、金持ちの息子というのは実は精神が強いのではないのだろうかと思わずにはいられない。


「皆さん早く戻ってきませんかね」


 本心からの呟きだった。





 首都から街道を東に馬車で五時間ほど進んだ距離に魔物の大群が居座っている。

 一見、統一性のない獣の群れに見えるのだが、獣の体躯は通常より一回り以上大きい。だが、それ以外に異様な点がある。魔物の背から人間の手足が何本も突き出ているのだ。それも手足の全てがうねうねと怪しく蠢いている。

 整備されている街道からはみ出し大きく横に広がった獣型魔物の群れは、首都への道を遮断している。

 群れの最後尾から少し離れた場所に一体の悪魔が佇んでいる。

 全長三メートルはある長身に筋肉質の体。そんな体に似合わぬ灰色の燕尾服を着ているのだが、その服はサイズが小さすぎるようで、今にもはじけ飛びそうなぐらいに肌へ密着している。

 服装や身体つきも異様なのだが、最も目を引くのは首から上だろう。

 身体は異様に筋肉が隆起しているとはいえ人型なのだが、顔がまるで違う。灰色の見事なたてがみを備えた獅子の顔が乗っているのだ。それだけではなく、頭から二本の大きな角が突き出ている。

 この世界には獣人と呼ばれる種族がいるのだが、角さえなければ悪魔というよりは獅子の獣人にしか見えない容貌をしている。


「ふああああぁー、暇だ。約束の時まで、あと半日か。恐怖を浸透させる為とか何とか意味不明なことを言っていたが、そんなもの力を見せつければ勝手に怯えるだろうが」


 顎が外れそうな程の欠伸をし、涙の浮かんだ目を擦ると道端に寝転ぶ。

 たてがみに覆われた頭をぼりぼりと掻き、目を閉じると同時に馬鹿でかいイビキが街道に響き渡る。

 近くに控えていた頭がワニの獣人型悪魔が、大きく息を吐くと呆れたように頭を振っている。





 首都の南に位置する漁村は既に壊滅していた。

 突如、沖から現れた海に浮かんでいるのが不思議なぐらい朽ち果てた巨大な幽霊船が三隻岸辺に上陸すると、船の甲板かんぱんから紐を垂らし無数の骸骨が滑り降りてくる。骨だけだというのに機敏な動きで陸へと降り立ち、規則正しく整列する。

 他にも船首部分が生き物の口のように真っ二つに割れ、船内から緩慢な動きの腐った死体――ゾンビが連なるように流れ出ている。虚ろな表情を浮かべ口からは「あー、あああぁ」と耳障りな音が漏れている。スケルトンと違い動きに規則性はなく、ただ前へ前へと進んでいるだけだ。

 ゾンビを全て吐き出した幽霊船は沖へと戻っていき海中へと沈んでいった。

 海へと消えた幽霊船と入れ違うように、半透明な体を持つゴーストが海中から現れる。老若男女問わず、様々な個体のゴーストがゆらゆらと水面を漂い、陸に上がってからもふらふらと辺りを彷徨っている。


 全ての魔物が陸に上がると、漁村周辺をかなりの揺れが襲う。海面が大きく泡立つと、一条の線を描くように海水が吹き上がる。海が二つに割れ剥き出しの海底の上を一人の女が歩いている。

 身長よりも長い黒髪を引きずり、くちゃくちゃと粘着質な音を立てながら歩いてくる。服装は灰色のワンピースを着ているのだが、水分を含み体に貼り付いていて動き辛そうだ。

 黒い布に包まれた何かを胸元で大事そうに抱えて、時折視線をその布包みに向けているのだが、長い前髪に顔が隠れているので表情は窺えない。


「ふふふ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。みんな死んでしまえ」


 ぶつぶつと呪いの言葉を呟き、布包みを愛おしそうに撫でると、滑るように浜辺へと上がった。整列していた骸骨が二手に分かれ道を開けると、長い黒髪の女は呟きを止めることなくスケルトンの間を歩み続ける。


「蹂躙しろ、食い荒らせ、人など生きる価値はない。人は死んで初めて幸せになれるの。さあ、可愛い子たち、お友達をいっぱい作っておいで」


 女の言葉を聞きスケルトンが一斉に北へと進軍を始める。周辺に散らばっていたゾンビとゴーストもスケルトンの後を追うように、北へと向かっていく。





 西の街道には一般人やランクの低い冒険者が見たこともないような凶悪な闇属性の魔物が、ずらりと並んでいる。

 上半身剥き出しの屈強な体に無数の刃物が突き刺さっている、ブラッドマウス。

 ゴブリンやオーガといった魔物の頭と体に人間の腕が八本蜘蛛のように生えた、ヘッドハンド。

 様々な武器を構えた褐色の骸骨、ハードスケルトン。

 人肉を好みうろこ状の皮膚を持つ、グール。

 他にも様々な高ランクの闇属性魔物が集まっているのだが、その魔物の殆どとライトは戦闘経験がある。死の峡谷で毎日のように戦っていた常連の敵が多く、闇属性の魔物に関してはライト以上に経験を積んだ者は存在しないだろう。

 魔物たちは微動だにせず、街道に直立不動のまま整列している。この場所に突如現れてから同じ体勢を維持している。

 そんな軍団の中で唯一動きがあるのは、巨大な白い骨でできた馬に乗り、白銀の全身鎧を着た悪魔だった。聖騎士が好んで着る白銀の全身鎧に酷似しているのだが、肩や肘のパーツに異様に鋭い円錐状の突起物が付いている点が異なっている。

 頭全体を覆う兜を被っているので、顔も表情も全く分からないのだが、その兜は牛の角を捻じったような形をしており、穴は一切開いてなく視界どころか人間であれば呼吸すら困難な造りをしている。

 手にはハルバートと呼ばれる槍の穂先に巨大な斧の刃が付いた長柄武器が握られている。その全長は五メートル以上あり、ただでさえ扱いが難しいと言われているハルバートで、五メートル級の得物を自在に振り回すことができるというのなら、それだけでこの悪魔の技量が窺い知れる。


「長きに渡り繁栄を続けてきた聖イナドナミカイ王国も……これまでか」


 兜から流れてくるくぐもった声は男女とも区別がつかない声色をしているが、声の響きに少しだけ哀愁が漂っているように聞こえた。





 聖イナドナミカイ王国の首都に逃れられない破滅が押し寄せてきている。

 圧倒的な戦力を前に人々は生き残ることができるのか。それとも――

 その鍵を握るのは自称ただの聖職者。彼の行動により戦況は大きく傾くことになるだろう。

 何を決断し、何を優先するか。

 彼の名が大陸中へと知れ渡る戦いが、今始まろうとしている。



ライトをどの方角に行かせるか悩んでいます。

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