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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
71/145

孤児院

「おっちゃんおっちゃん、肩車してー」


「何言ってんだよ、おれが先だからなっ」


「わたし、高い高いがいいー」


「はいはい、順番に並んでください。私の手は生憎二本しかありませんので。それと、おっちゃんではなく、お兄さんですよ。わかりましたか」


「「「「「はーい」」」」」


 ライトアンロックは現在、子守り中である。

 今いる場所は、首都の北西に位置する貧民街の孤児院で、すぐ隣と裏には首都を守る巨大な壁がそそり立っている。

 首都の壁付近は時間帯によっては陽当りも悪く、滅多にないのだが魔物が壁を乗り越えてくる危険性もある為、かなり土地が安い。そういった場所なので治安も悪く、貧しいものが身を寄せ合い、何とか日々を過ごしている。

 そんな地域の片隅に立つ、古びてはいるが立派な平屋の建物がライトのいる孤児院である。ここに来たのには理由があり、その理由というのがロジックからの頼み事だった。





 ギルドマスターとの話し合いを終え、ファイリが極秘裡に関係者と連絡を取る為に、一旦ライトと別れることになった。万が一の危険を考えロッディゲルスが陰から護衛をすることになり、ライトは期せずして一人となった。

 情報収集は二人に任せ、自分は別の得意分野で力になろうと考えたのだが、特に妙案が思いつかない。

 だからといって、何もしないで待っている気分にもならず、取り敢えず町に出没するという噂の魔物と遭遇しないかと、彷徨っていた。


『ライト君。暇なら一つ頼まれてはくれないだろうか』


 冒険者ギルド内での会話を聴かせる為に、背負ったままにしていたメイスからロジックの声が響いてくる。


「内容にもよりますが」


『僕が生前世話になっていた孤児院を訪ねて欲しい。虚無の大穴に向かう際に、貯金の大半を渡してきたから、かなり余裕のある暮らしができているとは思うのだけど……やはり、心配でね。一度確認しておきたかったのだよ。頼めるかな』


「ええ、それぐらいならお安い御用です」


『ありがとう。恩に着るよ』


 ロジックの指示に従い、狭い路地を抜け何とかたどり着いたのが、日が落ちる寸前の夕飯時だった。


「ここで間違いありませんか?」


 視線の先には、ライトの腰までの高さしかない塀に囲まれた年季の入った建造物がある。赤錆が浮かんだ鍵もかかっていない両開きの扉を開くと、建物よりも面積が広い庭があった。


『ああ、懐かしいな。僕が最後に訪れた時と変わってない……あれ? 改築費用も渡したはずなのだけど。何か、本当に変わっていないような』


 メイス内部からよく見えるように、メイスを右手に持ち前へ突き出したまま、庭へと入っていく。夕飯時なので庭には誰の姿も見えず、建物の方から楽しそうな子供の騒ぎ声が聞こえてくる。


「さて、どうします。玄関に回って声を掛けましょうか?」


『そうだね。僕の存在はばらさないで、知り合いってことにし』


「あーーっ! 庭に変なヤツがいるぞおおおっ! みんな戦闘準備だー!」


 突然、子供の大声が響くと庭に面している大きな窓が開き、わらわらと子供が出てくる。

 下は二歳ぐらいから、上は十代半ばだろうか。大勢の子供が手に武器代わりの何かを持ち、ライトを半円状に取り囲む。

 合計二十人以上の子供の手には長い棒や木剣、包丁やハサミ等の刃物。小さな子は紙の丸めた物やフォークやスプーンを持っている。


「穏やかではありませんね。皆さん誤解しないでいただけますか。私は見ての通り、ただの聖職者ですよ」


「「「「「嘘だっ!」」」」」


 子供たちの声が見事なまでに重なる。

 否定の言葉を口にした子供たちの中から、一番年上と思われる十代半ばの女の子が歩み出てくる。生地は古そうだが、綺麗に洗われた飾り気のない素朴なワンピースを着て、眼鏡をかけた利発そうな顔には警戒の色が浮かんでいる。


「黒い法衣を着て、そんなでっかい武器を持った聖職者なんて見たことない! どうせ、ここを買い取ろうとしているアイツの仲間なんでしょ! そのハンマーみたいなので家を壊させないんだからね!」


 子供たちの怯えた視線がメイスに向いているのを理解すると、ライトはメイスをそっと地面に下ろし両手を挙げる。


「話を聞いてもらえないでしょうか。私はロジックさんの知り合いでして、以前ここの話を聞いていたのを思い出しまして、近くまで来たので寄ってみたのですが」


 武器を手放しても警戒を解こうとしない子供たちに、ライトは優しく語りかける。

 お得意の笑みを浮かべるのだが、夕日を背後に薄い笑みを貼り付けた黒い法衣の男というのが、かなり恐ろしい姿に見えたらしく、気の弱い子供たちが泣き出し始める。


「や、やっぱり、お、お前は、悪いヤツだ! こ、怖くなんてないんだかかかね!」


 恐怖を押し殺し、健気にもライトに立ち向かう子供の姿に、どうしていいか思案中のライトは身動きが取れずにいた。

 小さな子ども達は完全に怯えているようで、手にしていた武器を取り落とすと、一固まりになり全員が抱き合っている。それを庇うように、年長の子供たちが前に並んでライトを威嚇している。


「あなたたち、何をしているの! そんな物騒な物、下ろしなさい」


 子供たちを背後から叱咤し、その行動を制したのは一人の美しい女性だった。

 両手に赤子を抱え、濃い青色の地味な色彩のエプロンドレスを着た金髪の女性が、頬を膨らませ子供たちを叱っている。

 言動はまさにお母さんといった感じなのだが、見た目が幼く見えるので姉が妹や弟に怒っていると表現したほうが合いそうだ。


『変わらないな、母さんは』


 メイスから漏れるロジックの声に、ライトが眉根を寄せ小声で尋ねる。


「ロジックさん。失礼ですが、妹では。お母さんと呼ぶには無理がある年齢に見えるのですが」


 ライトから見て二十歳にも達していないように見える。下手したら年長の子供達と同年代なのではないかと一瞬そう感じた。だが、子供たちの扱いに貫禄が見えるので、思っているより年上なのかと疑ってはいる


『ああ、うん。若く見えるよな。実はあれでも五十歳は軽く超えているんだよ。僕が物心ついた頃から、見た目変わってないから』


 ロジックの言葉に、改めてまじまじと女性を観察するが、やはりどう見ても二十代前半以下にしか見えない。


「長寿で有名なエルフの混血だとか」


『本人曰く、普通の人間らしいよ』


 首を傾げたまま唸っているライトに、その女性が話しかけたのは子供たちを叱り終わった後の事だった。


「すみません、お待たせしまして。この子達にはちゃんと言い聞かせておきましたので、ご無礼をお許し下さい」


 腕に抱えていた赤子を他の子供に託し、先頭に立ちライトを警戒していた女の子の頭を鷲掴みにすると、自分と同様に深々と頭を下げさせる。


「母さん、痛い痛い! 指がめり込んでる! わかった、わかったから、ごめんなさい!」


「おほほほ。このように反省していますので、子供のやったことですので何卒大目に見てもらえませんか」


 仕草は妙齢の女性っぽいのだが、見た目の幼さとのギャップに違和感を覚える。感情を表に出すことが滅多にないライトでも、戸惑いが顔に出ている。


「ええ、大丈夫ですよ。お互い怪我もありませんし。ここまで警戒をしているのにも理由がありそうですからね」


「それは……あら、すみません。こんなところで立ち話も何ですし、ささ、中へ入ってください。ロジックの知り合いなのですよね。歓迎しますわ」


 断る理由もないので、ライトは促されるまま孤児院へと足を踏み入れる。

 間口の広い玄関には壁際に巨大な靴箱があり、名札付きの靴入れに、一足ずつ靴が入っている。ざっと見る限りでも五十足以上の靴が入りそうだ。


『僕の靴箱は、まだあるのか。そっか』


 ライトは靴箱の個別に仕切られた棚の左隅にロジックと書かれた名札を発見する。その周りにも名札はあるが靴が一足も入れられていない棚が幾つもある。


「その空いている場所は、ここを卒業した子たちの靴入れなのですよ。ああ、そこはロジックのですね。あの子は一番の出世頭でして、うちの子たちも憧れている子が多いのですよ。ライトさん、後でロジックの話を聞かせてもらってもいいですか?」


「はい、包み隠さず何でもお話しましょう」


『少しは、包んでくれてもいいんだよ……』


 メイスから何か聞こえた気がしたが、あえて無視をするライトだった。

 ライトが廊下を進むたびに、ギシギシと床板が軋む。今にも床が抜けそうな程、足元の床板が湾曲している。


「あらあら。うちは古いですが、頑丈な造りをしている筈なのに」


「これは失礼しました。このメイスが重すぎるせいですね」


 ライトは背負っていたメイスを収納袋へ入れる。ロジックに孤児院の様子を見せてあげたかったのだが、床を破壊してしまっては元も子もない。


「よろしければ、一緒にご飯を食べていかれませんか。ちょうど、晩御飯を食べていたところなので」


 それは図々しいのではと、ライトは断りかけたのだが食堂にいる子供たちに手を引かれ、席に座るように促されると、言葉を呑み込み大人しく従った。


「おっちゃんのシチューよそってきてあげるー」


「じゃあ、ボクはスプーンもってくるねー」


 三歳児ぐらいの子供たちが率先して手伝いをしている。

 ざっと食堂を見回すと、下は乳幼児から上は十五、六歳まで幅広い年代の子供が、行儀よく並んで楽しそうに食事をしている。

 二歳以下の子供には最年長組の子供がついて一緒に食事をし、その他の年代の子供たちの役割も能力に応じて分担されているらしく、皆がテキパキと効率よく動いているように見える。


「躾をしっかりなされていますね」


「ええ、大人は私だけですので、子供たちに助けてもらっていますよ。卒業した子たちも、ちょくちょく顔を見せに来ますし」


「おっちゃんごはん、もってきたよー」


「ボクもスプーンもってきたー」


 笑顔でシチューの入った大皿とスプーンを渡してくる子供から受け取ると、ライトは「ありがとうございます」と言って頭を撫でた。


「それでは、遠慮なくいただきます――お、これは美味しいですね」


 孤児院に着くまでに結構な距離を歩いてきたので、かなり空腹だったライトはシチューをあっという間に平らげる。


「ごちそうさまでした。さてと、食後に不躾な質問で申し訳ないのですが、私に対してあれ程警戒していたのは、何か理由があるのですか」


「ええ、実はですね――」


「金持ちのおっさんが、最近嫌がらせしてくるんだよ!」


 孤児院の母の言葉を遮り、割り込んできたのは、庭でライトに突っかかってきたワンピースを着た眼鏡の女の子だった。


「こら、ローリエ。お母さんが話しているところでしょ」


「だって母さん迷惑かけたらダメだからって、正直に話さないでしょ。それに何でここが狙われているか、わかっていないみたいだし」


 ローリエの言葉に小首を傾げて悩んでいる姿が可愛らしく、とても五十歳以上には見えない。


「あのね、一ヶ月ぐらい前から何度も来る、ゴーリオンっていう太ったおっさんが、ここの土地を売ってくれってしつこいんだよ。母さんが何度も断っているのに、何度も何度もやってきて、それでも断っていたら、最近は怖い人たちが来るようになって。黒いお兄さんは、あんな大きなメイス持っているんだから強いんだよね! ロジックさんの知り合いだって言うし。お願いします。ここを守ってもらえませんかっ」


 身を乗り出しライトに懇願するローリエの肩に、お母さんと呼ばれている女性がそっと手を置いた。


「そこから先はお母さんが話すから。ローリエの言った通り、ここの土地を買いたいとおっしゃる方がいまして。金額は問題ないどころか、破格の値をつけてもらっているのですが、ここは住み慣れた土地ですし、孤児院を旅立った子供たちが羽を休めに戻ってくる大切な場所でもありますので、お断りさせてもらっています。治安の心配をされて新しい住居まで世話してくれるとおっしゃっているのですが、ここの住民が厳しいのはよそ者に対してであって、同じ地区内の住民には皆優しく助け合って生きています」


 生活はお世辞にも裕福とは呼べないようだが、ここの子供たちの顔には笑顔が溢れていて、貧困による辛さや悲しみを全くと言っていい程、感じさせない。


「お子様も立派に育っていますよね。皆とても楽しそうです」


「はい。うちの自慢の子供たちですよ。このまま、この場所でのびのび育てたいので、何度頼まれても断ってきていたのですが、近頃、ゴーリオンさんの態度が急変しまして……脅しを口にしだしまして、それでも断ると今度は、素性の怪しいものが周辺を彷徨くようになってきたのです。つい先日、子供が連れ去られそうになりまして、それで子供たちが警戒しているところに貴方が現れたのです」


「なるほど、そういう訳だったのですね。それは心配でしょう。ご迷惑でなければ、数日の間ですが、ここに滞在させてもらってもよろしいでしょうか。男手が一人いるだけで、相手への牽制にもなりますし、腕っ節にはそれなりに自信もありますので」


「こちらとしては、ありがたい申し出なのですが、ご迷惑では」


「いえ、今は依頼も受けていませんし、仲間たちはそれぞれ用事があって、私一人暇なのですよ。ああ、その代わりと言ってはなんですが、食事代と宿泊代は無料でお願いできますか」


 そう言って笑いかけるライトに「ふふふ、はい、腕を振るわせてもらいますね」と花が咲いたような心安らぐ笑みを返した。


「では、念の為に夜の見張りを置いておきましょうか」


「今は上の子たちが順番に部屋から見張っているようですが」


「いえいえ、子供たちは寝てもらって構いませんよ。この建物は裏と右側面を町の外壁に守られているので、庭に見張りがいれば不審者を即座に見つけられますからね」


 ライトは庭に面している引き戸を開けると庭の中心まで歩いていき、収納袋から取り出したメイスの柄を地面へ突き刺した。


「ロジックさん、この孤児院がゴーリオンという方に狙われているそうです。暫く孤児院に滞在して様子を見ますので、皆さんはここで不審者が来ないか見張り頼めますか」


『なんだって! ああ、もちろんだとも。もし怪しい人影を見かけたら、何とか撃退するよ。無理なようなら大きな音でも立てるから』


「はい、よろしくお願いします。詳しい話はまた明日にでもしますので」


 メイスを突き刺したまま放置すると、ライトは孤児院へ戻っていく。

 そして、子供たちにせがまれた冒険の話や、ロジックの昔話を聞かせるうちに夜が更けていった。

 孤児院の子供たちが寝静まった頃、庭では動きがあった。

 黒に染めた衣類を身に纏い、頭には目元だけ空いたずた袋を被った、見るからに怪しい三人組が庭をゆっくりと横断していた。


「兄貴、大丈夫ですかね、この依頼。やっぱやめといた方が」


「馬鹿言うな。もう前金はもらっちまったからな。それに完全に燃やすわけじゃねえ、ちょっとボヤ騒ぎを起こして、びびらすだけだ」


「でも、子供たちを怖がらせるのはよくない」


「うるせえぞ、お前ら。俺がやるって言ったらやるんだよ。わかったか」


「「へい」」


 耳を澄ませば何とか聞こえるような声で、三人は言葉を交わしている。

 兄貴と呼ばれた男はやる気があるようだが、残りの二名は消極的なようで、何度も止めているようだが強引に押し切られている。


「しっかし、あの時の金貨惜しかったですね。あの透明の箱に入った金貨の山。ひと握りでも持ち帰ることができたら、今頃は豪遊できていたのに」


「確かにな。だが、あの箱を軽々と持ち上げるようなヤツから奪えると思うか? 聖職者のフリをしていたが、あれはきっと魔族か悪魔だぜ」


 彼ら三人組が出会った、黒い法衣を着た聖職者風の悪魔を思い出し、身震いする。

 もう思い出すのも嫌だと、頭を激しく左右に振ると三人は黙って歩を進める。庭の中程まで差し掛かったところで、三人の耳が微かに流れてくる音楽を拾った。


「あ、あ、兄貴なんか、曲が聞こえませんかっ」


「お、お前もか。この音、聞いているだけで、足元から何か冷たいものが這い上がってくるような、嫌な感じがしねえか」


「何だか、寒くなってきている」


 三人は身を寄せると、大きく見開いた目で、辺りをキョロキョロと見回している。

 周囲は暗闇に包まれており、空に輝く月から照らされた微かな月明かりで、何とか動けるような状態だ。そんな中で周りに何があるか判断がつくわけもなく、今になって暗闇の恐怖が彼らの心を蝕んでいた。


「あ、明かりつけやしょう! ちょっとぐらいなら構いませんって」


「ま、まあ、そうだな。少しぐらいなら大丈夫か。おい、魔光灯の明かりを最小出力でつけろ」


「わかりました」


 男の内の一人が、懐から小さな魔石を蓋付きの小瓶に入れたような魔道具を取り出すと、蓋を少しだけ捻った。

 魔道具から微かに光が漏れる。小さな灯りだが、光のもたらす安心感は三人にとってかなり大きかった。


『う……ううううっ……てけ……お……てけ』


 三人は突如聞こえてきた女の泣き声に、体を硬直させる。聞き違いであって欲しいと互の顔を見合わせるが、全員の顔面は蒼白で、口にしなくとも今の声が幻聴ではないことを証明していた。


『ああああ……何処なの……私の……何処なの……』


 三人は完全に全身の力が抜け、地面に尻を付いた状態で強く抱き合いながら、体を激しく震わせている。

 恐怖のあまり握力も失われた男の手から転がり落ちた、明かり用の魔道具がコロコロと地面を転がると、何かにぶつかり動きを止める。

 男たちは魔道具の光に照らし出された、何かの姿を直視してしまう。

 それは、巨大な頭だった。子供が膝を抱えて座っているぐらいの大きさはある、巨大な頭は長い黒髪で覆われ、目も口も見えないが声の発生源は確かにそこだった。


『私の……体は何処……おい……てけ……置いてけ……その体を置いてけえええええええええええええええええっ!』


 闇夜に響く女の絶叫に腰を抜かした三人は、悲鳴を上げることすらできず、その場で気を失う。

 念の為に庭に面した部屋で眠っていたライトが絶叫を聞き、部屋から出てくる。遊び疲れた子供たちは、その程度の音量では起きなかったようで、安堵の胸を撫で下ろす。


「見事に気絶していますね。少々やりすぎでは」


 ライトは庭の中心で叫び声を上げていた巨大な頭に話しかけている。


『つい本気になっちゃった。私ってば女優の才能もあったのね!』


 楽しそうに話している生首の髪の毛を鷲掴みにすると、頭から剥ぎ取った。

 そこには、相棒である巨大なメイスの先端がある。

 巨大な頭と思われていたのは、ライトの所有物である毛糸を利用して作られた、即席のカツラを被されたメイスだった。


『暗闇に巨大な生首。これを怖がらない人はいないわよね』


 ミミカの提案により実行された策だったのだが、これが見事に成功し不審者三名を無傷で捕らえることができた。土塊の恐怖を煽る曲も効果的だったようだ。

 ライトは手際よく三人を縛り上げると、庭の隅にある大木にくくりつけ、そのまま寝ることにした。仲間が助けに来る気配があったら、呼ぶようにと指示をして。

 この日から、この地区で闇夜に叫ぶ巨大な頭の噂が飛び交うようになるのだが、その正体を知る者は、ほんのひと握りの関係者のみとなる。



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