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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
65/145

メイスと迷宮

 今後の方針を定めるために、ライトたちは車座になって相談を始める。円の中心には柄を地面に突き刺したメイスがある。


「今後なのですが。我々も永遠の迷宮に潜り、双子悪魔をどうにかするべきだと思うのですが、皆さんはどう思いますか」


 ライトはそう問いかけると、右手の方向にいるファイリに横目で視線を飛ばす。


「俺もその意見には賛成だ。先行している奴等に追いつくには、今すぐにでも行動に移すべきだと思う」


「ああ、我もそう思う。上手くいけば迷宮内部の敵と戦っているところを、挟撃できるやもしれぬ」


 即決即断が売りのファイリとロッディゲルスは同意見のようだ。

 ライトは無言を貫いているイリアンヌにも意見を求めようと、話を振ろうとしたのだが、当人は相談事などそっちのけでメイスをじっと見つめている。


「どうしたのですか、イリアンヌ。珍しく真剣な顔をしていますが」


「珍しくは余計よ。いやさ、永遠の迷宮に潜るなら、コレの意見聞いたほうが早いんじゃないの? 確か、百階まで突破したんでしょ自称三英雄は。この中では一番詳しそうだし。ほら、聞こえているんでしょ、何か言いなさいよ」


 イリアンヌは足元に転がっている小石を拾い、メイスの先端に向けて何度も投げつけている。


『おい、こら、やめろ! こっちからだと巨大な岩石が飛んできているように見えるんだぞ! 痛くはないが迫力がありすぎる! ライトも見てないで何か言ってやってくれ』


 黙って眺めていたライトは小さく息を吐くと、見るからに面倒臭そうな表情を浮かべ、イリアンヌへ苦言を呈す。


「石を投げつけるのはやめてください。中の人はどうでもいいのですが、メイスは私の大切な相棒なのですから」


『そっちかよ! ああ、くそっ。性悪野郎に助けを求めたのが間違いだったぜ。で、何だったっけ。あー、永遠の迷宮か。あいつらが永遠の迷宮に潜っているなら、慌てなくてもいいはずだ。一階ごとに一匹居座っているボスを倒さねえと、次の階には進めねえから、いくら強かろうが攻略には時間がかかるぜ』


「だったら、それは俺たちにも言えるだろ。俺たちもボスを倒していかなければ追いつかないんだろ? だったら悩む時間が勿体ねえ」


 ファイリが考える時間も惜しいとばかりに強行を主張するが、ライトが頭を振りその意見を否定する。


「落ち着いてください。ファイリは知らないでしょうが、あの迷宮は一度潜った階層なら入口から飛べるようになっているのですよ。あそこは一階一階が異様な大きさなので、双子悪魔が順調に進んだところで、半日程度では十階まで行けるかどうか。私はもっと深くまで潜っていますので、皆さんを連れて先回りが可能ですよ」


「なんだ、それを先に言えよ。じゃあ、慌てる必要はないな……お、そうだ。ライト、お前は何階まで行ったんだ? さっきの話だと、三英雄は百階まで行ったそうだが」


『お、丁度いい。俺もそれが知りたかったんだ。何処まで行ったか教えろよ。まあ、俺たちの走破階数を聞いてからじゃ言いにくいのはわかるが』


『そうだね。でも、僕たちに負けたからといって恥じることはないよ。僕たち三人が凄すぎるだけなんだから』


『百階突破って、死者の街、現役ランキングトップだったし。あ、自慢じゃないのよ。ただ、これを機会にファイリはもう少し、お姉ちゃんを敬い優しくしてくれても良いと思うの』


 三英雄が自慢を織り交ぜながら、突破階数の公表を迫ってくる。

 ライトは視線を宙に彷徨わせ、頬を人差し指で掻いている。言い淀むような仕草を見て三英雄はますます調子に乗り、更に強く要求してくる。

 周囲に視線を這わすと女性陣三名が期待の眼差しをライトに注いでいた。

 ライトは諦めたようにため息を吐くと、ゆっくり口を開く。


「二百階層まで降りていますよ」


 何気ない一言で喧騒が止んだ。

 あれ程までに騒ぎ煽り立てていた三英雄は完全に沈黙し、メイスからは悲劇を演じるシーンでよく使われる哀愁漂う曲が流れる。


「あー、勘違いしないでくださいよ? 一人で潜ったわけではありませんから。少し前に街を去った『天と地』覚えていますか。あのチームに参加させてもらった結果です」


『あ、ああ、だよな! あのオッサンたちのチームに交ざっていたのか。なら納得だぜ。そうかそうか、そうだよな』


 勢いを取り戻したエクスの声が、少し五月蝿いぐらいの音量で響いてくる。


『あのチームは超人だらけだったからね。二百階突破は噂で知っていたから、納得だよ』


『一人で私たちの記録を抜かれたのかと思って、驚きのあまり心臓が止まるかと思ったわ』


『ミミカちゃん、私たち心臓止まってる、止まってる』


 安心している三人に突っ込みを入れているキャサリンの声を聞き、一人でも百階より先に進んでいたことは口に出さない方がいいなと、ライトは自重する。


「話を戻しますよ。二百階までは一瞬にして移動できるので慌てる必要はないのですが、問題は相手が現在どの階層にいるのかが、わからないということです。二百階層に移動して待っていた場合、いつ相手が来るかわかりませんし、かと言って低めに設定すると、追い抜かれていたらシャレになりませんからね」


 全員で対応策を考えてはみるのだが、これといって良い策が思い浮かばず、取り敢えず迷宮の入口に向かうということで、一旦話がついた。

 現在、死者の街中心部にいるため、街の北東部に位置する永遠の迷宮まで結構距離がある。

 警戒は解かずに移動をしている最中なのだが、ライトの嗅覚、イリアンヌの聴覚、ファイリの視覚を活用しているので、近づくものが入れば即座に反応できる布陣になっている。


「我だけ手持ち無沙汰なのだが」


 神力を使用している三人と比べると索敵能力では一歩劣るロッディゲルスが、少し寂しそうに呟く。


『じゃあ、私と恋バナでもしましょうか!』


 その声を拾ったキャサリンがメイスの中から話しかけてくる。

 特にすることがないロッディゲルスは話に乗ることにした。


「恋愛話に興味はないが、一つ尋ねたいことがある。そのメイスの中身はどうなっているのだ。魂として漂っている感じなのだろうか」


 ロッディゲルスの素朴な疑問はライトたちも興味があるようで、口は挟まないが全員が耳をそばだてている。


『そんなイメージなのね。全然違うわよ。私たちはちゃんと体が存在しているし、ここは大きな屋敷みたいな感じかしら。一人に一つ部屋も用意されていて、結構大きいのよ。五メートル四方はあるわね。設備もトイレ風呂完備よ。ベッドもあるし快適な居住空間になっているわ』


 自分の利用している宿屋より格段に良い部屋を提供されていることに、ライトは表情には出さないが内心でかなり驚いている。


『壁も床も白が基調となっているせいで、少々目が痛いが、そこを除けば快適だな』


 キャサリンの説明に乱入してきたのはエクスのようだ。


『ちょっと、私がお話中なんだから邪魔しないで。あと、この屋敷? には鍛冶場も備え付けられているから、ライトちゃんの手甲や脚甲も修理できるわよ』


『どうやって、渡せばいいのですか?』


 そこは口を出さずにはいられなかったようで、顔をメイスの先端へと向ける。


『ライトちゃんの収納袋に入れてくれたらいいわよ~。神さまが、ライトちゃんの収納袋とここの空間繋げてくれたの。部屋の一つがライトちゃんの収納袋内部と同化しているわ。あ、心配しないでね。勝手に荷物を漁ったり――』


『おーい、酒を入れてくれねえか。食物は大量にあるんだが、肝心の酒が全くねえぞ。お前の持ち物、面白みがないな。エロい本ぐらい入れておけよ。って、すっげえ金貨持ってんな! 二三十枚ちょろまかしてもいけるだろこれ』


『幼女関連のアイテムもないようだ。密かに同志ではないかと期待していたのに』


『同じ法衣が何着もあるわね。あれ、これってもしかして、ライトさんの下着なのかしら、下着も黒色なんだ、ふむふむ勉強になるわね』


 キャサリンの前言を撤回しなければならない台無しな言葉の数々がライトの耳に届く。

 個人の所有物を勝手にいじられる。こういった行為に怒りを覚える人は多いだろう。ライトも個人を尊重するタイプなので、そういう行いに苛立ちを覚える方だ。

 それでもライトは笑顔を崩さず一見冷静に見える。だが、こめかみに薄らと血管が浮き出ているのを隣にいたファイリは見逃さなかった。


「ほう、勝手に人の荷物をあさり、食い散らかしているわけですね……なるほど」


 本人以外には全く聞こえない、囁くような声でライトは呟くと、怒りなど全く感じられない爽やかな笑みを浮かべる。


「あ、メイスの中にいるということは、私が振り回しても大丈夫なのですか? そちら側は揺れたりしません?」


『ああ、大丈夫だぞ。急に動かすと一瞬だけ、軽くふらつくような揺れを感じるが、どういう理屈かはわからんが、それ以降はどれだけ振り回されても揺れは感じないな』


『それはここが切り離された空間だからだろうね。一瞬揺れるのはこうして会話をしたり、こちらから向こう側の映像を見ることにより、少し世界に繋がりが発生しているからじゃないかな。まあ、憶測に過ぎないけど』


 ロジックの補足により何となくだがライトは理解できた。

 つまりは、急に動かすと少しだけ揺れる。それだけわかればライトには充分だった。


「あ、エクスさん。そう言えば、とっておきのお酒がありましたよ。私は飲めないので、ずっと置いていたお酒なのですが。ええと、確か透明な箱の中に入れてあったはずです。赤みがかった色をしている壺の方なので間違えないでください。貴重なお酒なので万全を期して頑丈な箱に入れ保存していたのですよ。それ、良かったら飲んでください」


『えっ、マジでいいのかっ!? 今更、やっぱなしとかダメだかんな! どこだ、どこだ。俺の酒はどこだっ!』


「あ、そうそう。その酒は開けるときにコツがいるので、中身が溢れる可能性がないように箱から出すときも、蓋を決して開けないように慎重にお願いします」


『わーったよ。こりゃ楽しみだな。って、あったあった。慎重に出してと。あー、この荷物がある部屋だと万が一溢れた時に問題か。んじゃ、俺の部屋で開けますか』


『ちょっと待てエクス。一人で飲むなんて許されないからな、僕も参加しよう』


『じゃあ、私も失敗しないか監視しなくちゃ。キャサリンさんはどうする?』


『私はやめておくわ。あなたたち、飲んだらちゃんとライトちゃんに謝りなさいよ』


 ライトは笑みを絶やさず、漏れてくる声だけで状況を把握しようとしている。

 暫く待つと、エクスから声がかかった。


『よっし、ライト準備は万端だ。俺の部屋まで持ってきたから少々溢れても構わんぞ。さあ、開け方を教えてくれ』


 その瞬間、ライトの口元が邪悪に歪んだのをこちら側の女性三人と、キャサリンは目撃してしまう。

 キャサリンは何となく感じていた嫌な気配が当たっていたことを理解した。


「まず、その酒の入った壺を顔より少し上に掲げます。そして、左手を壺の底に移動し片手で壺を支えます。ちょっと不安定になるから気をつけてくださいね。そして、空いた右手で壺の蓋を握り、私の合図と同時に思いっきり素早く蓋を開けてください。いいですね、それでは、三、二、一、はいっ!」


『よっしゃああっ!』


 合図と同時にメイスから掛け声が聞こえ、それと同時にライトは地面に突き刺していたメイスを、容赦なく倒した。


「うわっ、揺れっ、壺がっ割れる! うおおおおおおっ、臭ええええええっ! 鼻が、鼻がもげるっ!」


「何だこの臭いっ! 臭すぎて頭が痛いっ」


「目に目に染みるぅぅぅ」


 内部では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられているであろうメイスを、ライトはそっと収納袋に仕舞った。


「まあ、そっちは食べ残しや、料理の失敗作を適当に放り込んだ方なので、まだましでしょう。中でかなり混ざり合って熟成してそうですが。さてと、静かになったことですし皆さん集中して行きましょう」


 以前、ライトの故郷の村で悪魔退治に役立てた汚物入れの一つを利用して、三英雄へお仕置きを実行したライトは、清々しい顔をしている。


「「「あ、はい」」」


 ライトは怒らすと怖い。それを実感した三人は従順な態度で、永遠の迷宮入口付近まで黙って付き従う。





 永遠の迷宮は街外れの小さな丘に入口があるのだが、建物が乱立している街を抜けてからそこまでの道は、木々の間を縫うようにして作られた細い道しかない。

 迷宮の入口が見えてくる範囲にまで近寄ると急に道が開けているのだが、ライトはその目前で大木の後ろに姿を隠す。


「入口に魔物がいるようですね。やはり、ここの衛兵たちも既に倒された後ですか」


 口は悪いが面倒見のいい老兵士の姿は何処にもない。代わりに背中に大きな昆虫の羽が生え、異様に大きい眼で辺りを見回している人型の魔物が二体立っている。


「見張りなのでしょうね。しかし、あまり意味がないような。永遠の迷宮は外部との連絡が一切できませんし。見張りと言うよりは後から追ってくる者の処分担当といったところでしょうか」


「その考えで間違いないはずだ。俺の眼には結構な魔力量が見えているからな。二体とも相当な強さだと考えるべきだ」


「何か曖昧ね。もうちょっとわかりやすい例えできたりしない?」


 イリアンヌは完全に気配を消しているので、ライトの左隣に立っているというのに、その存在が感じられない。声を聞いてようやく認識できる程の見事な隠蔽術だった。


「うーん、そうだな。俺が知る魔物だとブラッドマウスより格上で、虚無の大穴で扉を守っていた魔物より少し下といったところか」


「強さの差が開きすぎではありませんか?」


「仕方ないだろ。教皇やってから事務仕事ばっかだしな。戦いなんて殆ど関わり合いがなかったぜ」


 ファイリの戦闘経験は虚無の大穴関連ばかりである。五年前といい最近仮面をつけて戦っていた事といい、ライトほどではないが暗い場所での戦闘ばかり体験している。


「まあ、大穴の敵程度なら腕試しになりますね。五年前と現在の実力の違いを確かめる良い機会ですよ。他の特別な贈り物スペシャルギフトも馴染ませておかないと」


「我も皆から託された力を試しておくか。向かって左を担当するので、右は任せる」


「了解しました」


 ライトとロッディゲルスは木の陰から歩み出ると、散歩に出かけるような気軽さで入口前の魔物たちへ進んでいく。

 ファイリは忠告する必要性も感じられなかったので、そのまま見送ることにした。

 警戒どころか軽快な足取りでやってくる人間の二人組を、魔物二体がじっと見ている。背中の羽と眼以外は人と変わりがなかったのだが、両腕を軽く振ると、肘から先が鞭のような形状に変化した。


「では、行きましょうか」


 ライトたちが飛び出すと同時に、相手にも動きがあった。

 敵も連携を取るのではなく、各個撃破を狙っているようで、ライトたちの目論見通り一対一の戦いが開始される。

 十字の軌跡を描くように、縦の振り下ろしと横薙ぎの一撃が同時に襲いかかってきたのだが、ライトは避けようともせず鞭状の腕を両手でがっしりと掴み取った。


「この腕で縄跳びできそうですね」


 ライトは掴んでいる手に力を込めると、鞭状の腕に指先がめり込んでいく。そして、そのまま自分の方向へ引き寄せるために、一気に腕を引いた。

 魔物もライトの力に負けじと足を踏ん張るのだが、その抵抗は全くの無駄に終わる。重さの概念がないかのように、あっさりと足が地面から離れ、風圧で顔が歪む程の勢いでライトの元へ引っ張られていく。


「いらっしゃいませ」


 顔面から突っ込んできた魔物を待っていたのはライトの靴の裏だった。

 鈍い衝突音が響いた現場には、眼と眼の間にブーツがめり込んだ被害魔物がいる。これがブラッドマウス程度の実力であったなら、この一撃で終わっていただろう。しかし、不幸なことにこの魔物は攻撃に耐えうる頑丈さがあった。

 後方に吹き飛ばされながらも、まだ反撃の余力は残っている。着地と同時に体勢を整え、持ちうる全ての魔力を注ぎ込み、最大級の魔法を放つ。そこまで、魔物は考えていたのだが、それが実行されることはなかった。

 吹き飛んでいた筈の体が空中で急停止すると、再びライトの元へと引き寄せられたのだ。

 ライトは相手の腕を放すことなく、再度、力強く腕を引いた。


「おかえりなさいませ」


 魔物の帰りを待っていたのは、自分の体液がこびり付いた足の裏だった。


「酷い……」


 ロッディゲルスがライトの戦闘を横目で確認すると、魔物が何度も宙を舞う姿を目撃してしまう。一見、滑稽にも見える場面ではあるが、相手にしてみれば嬲り殺しに近い状況だろう。


「戦いはもっとスマートにやって欲しいものだ」


 ロッディゲルスの背後には全身を鎖に巻き付かれ、ギリギリと体を圧迫されている魔物の姿がある。

 振り返ることもなく腕を軽く振ると、全身を這う鎖が更に締め付け、大口を開け荒い呼吸を繰り返す事しかできなかった魔物の頭が千切れ飛ぶ。

 ライトの方も戦いが終わったらしく、足元に首から先が失われた魔物の死体が転がっている。


「ざっと、こんなものでしょうか」


 ロッディゲルスは全力を出すことなく、あっさりと魔物を始末し、ライトに至っては強化魔法を使用せず、メイスさえ使わずに倒してみせた。

 二人の実力を垣間見たファイリは頼もしさを覚えると同時に、少し畏怖の念を抱く。特にライトを見ていると、自分の手が届かない遥か遠くに行ってしまうような思いに駆られてしまう。

 神眼の本来の力を手に入れてから、相手の感情の揺れが見えるようになり、嘘などを見抜きやすくなったが相手の心が見えるわけではない。

 ファイリは今だけでいいので、心が見える力が欲しかった。

 ライトは無理をしている。ファイリは故郷の村でライトを見たときから思っていることだ。あの村での惨事を嫌でも思い出させる出来事に、死者の街で仲の良い知り合いに自ら手をかけたこと。

 ライトの心が少しずつ蝕まれている。そう思わずにはいられなかった。

 姉を含めた三英雄やキャサリン、土塊といったライトの仲間が消えていなかったことに喜んでいるのは、ライトの次に自分だと思っている。姉と再び話せる喜びを除いても、ファイリには嬉しかった。このことにより、ライトの心の負担を取り払ってくれるのではないかと期待している。

 だが、それをライトに指摘してもきっと笑って「心配は無用ですよ」と言うのだろう。決して他人には本心を語らない。

 三英雄に実行したお仕置きも度が過ぎるイタズラのようなものだ。無理に自分を偽り盛り上げて、行動したようにしか見えなかった。

 うまく言葉にできないのだが……らしくない。今のライトを見てファイリが感じることだ。


「難しい顔をして考え事ですか? 悩みがあるのであれば聞きますよ。抱え込むのは体に良くありませんからね」


 いつの間にか近寄っていたライトが自分の顔を覗き込み、心配そうに声を掛けてきている。

 ああ、こういうヤツだった。自分のことは顧みず人の心配をするライトに対し、ファイリは苦笑いを浮かべる。


「ったく、らしいよな。いざとなったら、ここには、いい女が三人もいるんだ。何とかなるだろうよ」


「はて……いい女?」


 ファイリは、小首を傾げ唸っているライトの尻を取り敢えず蹴っておいた。



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