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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
55/145

欲望

 十年以上の月日が流れた村は一部を除き、綺麗に保たれていた。

 全く傷もない民家も何件か存在するが、それ以外の民家は何処かしら破損している。

 家の破損具合は様々で、一番多いのは大人が通れそうな大穴が空いている壁だろう。その穴は直線上に並ぶ家の壁や窓にも空いている。


「おっきな何かが貫通したみたいだな。何だろな兄ちゃん」


「何でしょうね」


 心当たりがあるどころか、犯人なのだが取り敢えずしらばっくれる。


「この村の道歩きにくくない? すっごい凸凹しているから、箱が揺れるんだけど」


「十年以上誰も住んでいませんから、荒れ果ててしまっているのですね」


 どう見ても、何かの衝撃により陥没した地面なのだが、これも心当たりはある。


「ねえねえ、何でこの村、廃村になったんだ? 兄ちゃんはここの出身なんだろ。何があった」


「おや、あれは」


 マースの言葉を遮ったライトの少し驚くような声に、マースも話すことをやめ、思わず視線を同じ方向へと向ける。

 誰もいない村の広場に、馬車の幌がかかった荷台だけが置いてある。真新しいという感じではないが、丁寧に使い込まれている荷台に見える。


「あれは……もっと近くに寄って! たぶん、うちの荷台だ!」


 興奮状態のマースを箱ごとナイトシェードが引っ張り、馬車の荷台脇へと止める。


「うんうん、この傷、この形間違いないよ! 父ちゃんが乗っていった荷台だ! 繋いでいる二頭は何処だ? ナイトシェード号!」


 名を呼ばれたナイトシェードは鼻を高く掲げ、周囲の匂いを探っているようだが何も感じ取ることができなかったようだ。

 マースも同様に鼻をひくつかせているが何もわからなかった。


「ちょっと荷台内部も調べてみますので、何かあったら大声を出して教えてください」


 ライトは御者台から内部を覗き見る。食料品が詰まっていると思われる荷箱が隅に置いてあり、あとは腰掛けられるように備え付けの椅子が取り付けられている。

 定員は六名といったところだろうか。現在内部には誰もいない。念の為に荷箱を開けるが中身は何も入っていなかった。床も調べてみたが、血の跡のようなものも見当たらない。


「どうだった兄ちゃん! 何かわかった!? 父ちゃんや、お客さんが何処いったかわかった!?」


「残念ながら。誰もいませんし、荷物も中身が全て無くなっています。情報として得られるような痕跡もないようです」


 荷台から出てきたライトを見て、透明の壁にへばり付き質問を投げかけてくるマースへ、ゆっくりと丁寧に答えている。


「そ、そっか。そうだよな、ごめん」


 マースは取り乱していた自分を恥じて、再び布団の中へと潜っていく。


「マースさんそのままで良いので聞いてください。ここから先に目を逸らしたくなるような現実が待っているかもしれません。そうなったら目を背けて構いません。無理して直視なんてしなくて結構です。逃げてもいいじゃないですか。それをちゃんと受け止められる時が来るまでずっと逃げてもいいと思っています」


 その言葉を聞いて、布団から少しだけ顔を出したマースがライトを見つめている。


「兄ちゃん。怖いんだ……母ちゃんも死んで、父ちゃんまで死んだら独りぼっちになるんだよ。そしてら、俺どうしていいか……怖くて怖くて仕方ないんだ」


「私は両親に捨てられ、育ての親も死にました。でも、何とかなるものですよ。独りというのは確かに寂しいかもしれませんが、その分、自由があります。まあ、行動に責任も伴ってきますが。もし最悪の結末が待っていた時には首都へ行ってみてはどうですか。あそこなら私も顔が利きますし、ナイトシェード号がいるのですから、運送業をやってみるのもアリだと思いますよ」


「考えとく……兄ちゃん、ありがとう」


 顔を赤く染め、慌てて布団の海へと沈んでいく。

 マースの父が生きていれば何の問題もないのだが、ライトはその可能性は無に等しいと考えている。むしろ、生きていない方が幸せではないかとまで考えている。

 今までの展開を考えると、負の感情を引き出す為に拷問をされていても不思議ではない。もしくは闇属性の魔物を作るための実験体にされているか、どちらに転んでも不幸な結末しか見えてこない。


「何者かは知りませんが、待ち構えているとしたら、あの場所でしょうね」


 ライトは村の中心部に建つ教会だった跡地へ目を向ける。

 あの日まで、そこには村には不釣り合いな立派な協会が建っていた。建物の規模といい外観や内装の豪華さはどう考えても、この小さな資源も何もない村には相応しくない。

 そんな村唯一の自慢でもある教会だったが、今は所々基礎が剥き出しになり更地に近い状態になっている。壁が何箇所か残っている程度で天井は完全に失われている。


「さて、私は今から行くところがありますので、マースさんとナイトシェード号はここで待っていてもらえますか。危険を感じたら逃げてもらって構いませんので」


 ライトは連れて行くかどうかの判断に悩んでいたが、最終的には待ってもらうことに決めた。理由は幾つかあるのだが、自分が経験したような人の醜さを見せたくはないと思ったのが一番大きい。


「ここで駄々を捏ねるつもりはないよ。うん、わかった。大人しく待ってるよ。兄ちゃんは無理したらダメだからな。危なくなったら逃げるんだぞ」


「はい、その件に関しましては前向きに善処する所存であります」


「だから、説得力がないって……」


 呆れ顔のマースに背を向け、手を振りながら去っていく。

 徐々に小さくなるライトの背に向け「兄ちゃんは死なないで」とマースは小さく呟く。





 教会の跡地前に着くと、そこには首を切断された二頭のワイルドホースの死骸が転がっている。

 マースを置いてきて正解だったなと、安堵の息を吐き周辺をざっと見回すが、その他には何も見つからなかった。

 元々は教会の扉があった場所には、扉の形状を維持したままの枠だけが残っており、手を触れると、その枠は崩れ落ちた。

 ライトは教会の中心まで歩いていく。そして一度だけ床のある箇所をジッと見つめると、視線を上げる。


「そろそろ出てきては如何でしょうか。隠れんぼをする年でもないでしょう」


 辛うじて残っている壁の裏側から、フード付きの灰色のローブを着た人々が歩み出る。

 全身を覆うローブに深く下ろしたフードにより、相手の顔もわからないが、身長と体格に統一性は全くない。

 五十人を超えるローブを着た不審者が、ライトから距離を空け取り囲む。


「では、定番ではありますが、何者ですか。本命は邪教徒なのですがどうでしょうか」


 ライトを取り囲む人垣の一角が割れると、そこから周囲と比べて背の低い何者かが前に出てくる。


「ふむ、残念ながら違うのう。大きゅうなったものじゃ。見違えたぞ、悪魔の子よ」


 その呼び名にライトの表情が豹変する。薄らと笑みを浮かべていた顔から表情が消え、相手を射殺しそうな鋭い視線をフードの奥にある顔へと向ける。


「相変わらず恐ろしい殺気を放ちおるわ。元老体には堪えるのお」


 そう言って、フードをずらし晒された顔は、ライトの想像していた顔とは似ても似つかぬ顔をしていた。


「村長では……ない?」


「いや、間違いなく村長じゃよ。少々若返ってはおるがな」


 口調や声はライトの知っている、この村の村長なのだが、顔がライトと同年代か少し若く見える青年であった。


「主に殺された我らの魂を、とある方が拾ってくださってな。闇属性を付与され新たな生を手に入れたと言う訳じゃ。我らが憧れていた魔族へと転生させてくださったのじゃよ。永遠の若さと不死。我々は人を越えた存在へと登り詰めた」


 その言葉が合図になっていたかのように、周囲を取り囲んでいた者たちが一斉にフードを外す。

 大半の顔はライトの記憶にある村人の顔と一致するが、記憶と当てはまらない顔も何処かしら知っている村人の特徴が残っている。


「やれやれ、闇属性で若返りですか。これが知られたら闇属性が見直されそうですね。デメリットがなければですが」


 皮肉交じりにライトが言い放つが、村人はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべているだけだった。


「まあ、全くないとは言えんのう。じゃが、それは簡単に補えるものじゃから特に困ってはおらんな。定期的に闇属性の魔力を得ればいいだけの話じゃからな。ここは闇の魔素が充満しておるから何の心配もいらん。それでも、良質な闇の魔素が欲しくなったら、人間から新鮮な負の感情と共に魔力を貰えばいい話じゃ。最近も良い食材が手に入ってのう。昨日まで丁寧に料理し提供してもらっていたのじゃが、壊れてしもうたから新たな食材を探さねばならん」


 その味を思い出し、舌なめずりをする村長へライトは問いかける。


「その人たちは、どうなったのですか」


「おかしなことを聞くヤツじゃ。食べ残った食材は処分する以外に何か使い道があるというのかのお。おや、もしやお主も味わってみたかったのか。泣き叫ぶ声と共に味わう良質なしょ」


 村長は、その言葉を最後まで話すことは叶わなかった。瞬時に踏み込んだライトが手甲に覆われた腕を伸ばし、村長の頭を粉砕する。


「汚い言葉を吐き続けるので、環境汚染が心配になり、ついやってしまいました」


「お主は敵ごと自然を破壊する方じゃろうが」


 頭を破壊され地面に仰向けに倒れていた、首のない村長の体が起き上がる。そして周囲に漂っていた薄い霧状の闇が、頭があった部分へと集まり再び村長の頭を形成する。


「無駄じゃよ。我らは闇の魔素が溢れているここにいる限り不死じゃ。何をしようと死ぬこ」


 またも話の途中でライトは村長の股間を蹴り上げる。脚甲が村長の体を両断し、割れた体が左右に倒れる。


「無駄じゃと言うてるのがわからんのか」


 分断された体がバラバラに立ち上がると、切断面を合わせまたも全身が修復されていく。耐久力が思ったより低いことを理解したライトは、再生途中の村長の体を今度は加減をして横へと払う。

 ゴム球のように軽々と吹き飛ばされた村長がライトを取り囲んでいた、村人へと激突し巻き込まれた村人と共に霧散する。


「人の話を聞かぬのう。何をしようが無駄なのじゃよ。痛みを感じぬ不死の体に怖いものなど何もない。何度やろうがお主には一生勝てぬのだよ」


 ライトは霧状のまま話す村長に一切反応せず、脚甲で守られている足のつま先で地面を叩いている。


「やれやれ、言うてもわからんものは体に教えるしかないかのう。皆の者、恨みを存分に果たすが良い。だが、決して殺してはならぬぞ。我らの新しい食材になってもらわねばならぬのじゃから」


 一斉に襲い掛かる村人たちをライトは冷静に処理をしていく。

 掴みかかってくる村人はその腕を掴み、振り回し周辺の敵をなぎ倒す武器として利用する。武器で攻撃を仕掛けてくる相手には手甲で受け流し、相手の急所へ的確な突きを放つ。

 全てが一撃で処理されていく為、次々と村人が霧散するのだが、その体は黒い霧が集まり直ぐに修復される。


「強うなっとるようじゃが、所詮は無駄な足掻き。何処まで耐えられるかのう」


 少し離れた場所から高みの見物と洒落込もうと村長は瓦礫に腰掛け、余裕の笑みを浮かべ戦いを眺めている。


 五分が経過する。未だ無傷のライトが疲れた様子も見せずに村人を捌いている。


 十分が経過する。相変わらず、無傷のライトが平然と村人を粉砕している。


 二十分が経過する。村人の動きを完全に見切ったライトが胸のポケットから取り出した単行本を片手に読書を始め、片腕と足捌きのみで適当に村人をあしらっている。


「何をやっておるのじゃキサマら! 人を超える力を得た我らに倒せぬ敵などおらぬはずじゃ!」


 馬鹿にされているのを自覚している村人は、怒りに歪んだ顔で攻撃を仕掛けてくるのだが、その全てを迎え撃ち、ライトに触れることなく一撃で粉砕されていく。

 ライトは本を読み終えたらしく、単行本を内ポケットに戻す。本格的に反撃を開始するかと村人たちは身構えたのだが、胸元から取り出した手には一本の万年筆と何枚かの用紙が握られていた。

 その行動の意味がわからず躊躇していた村人だったが、ライトは一番近くにいた村人の前に瞬時に移動すると抵抗する隙も与えず、足を引っ掛け地面へと転ばす。

 うつ伏せに転がった村人の上に、元は壁だっただろう板状の大きな破片を乗せると用紙を置き、何かを書き始める。


「初めまして、ライトアンロックと申します。この度、作者様の作品を手に取り読ませていただきました。あまりの面白さに最後まで一気に読んでしまい」


 声に出しながら文章を書き進め、時折、文章に詰まり万年筆のキャップで頭を掻いている。どうやらファンレターを書いているようだ。


「ふ、ふ、ふざけるなっ! 我らを何処まで愚弄する気だ! 魔族である我らをっ!」


 ライトは筆を止めると、強者であるというプライドを粉々に破壊され、気が狂ったかのように叫ぶ村長へ顔を向ける。


「魔族ですか。冗談を言わないでください。貴方たちはただの魔物ですよ。再生力が高い闇属性の魔物です。ランクもBに届くかどうかといった程度ですよ。そもそも、ただの村人が魔族になんて成れる訳がないでしょう。白昼夢でも見たのではないですか。ふっ」


 ライトが村人を見下し鼻で笑う。


「な、何を言っている。我々は魔族と取引をし、この地に眠る邪神の一部の封印を解くことを条件に魔族へと生まれ変わったのだ! 永遠の若さと命を得るために、守り手の使命を捨て我らは闇へと下ったのだぞ!」


 唾をまき散らしながら怒鳴りつける村長を、ライトは冷めた目で見ている。


「成る程、だいたいは予想通りでしたね。心に闇を植えつけられ相手の思惑通りに誘導されたにも関わらず、自分の意志だと信じきっているといったところですか。哀れを通り越して滑稽としか言いようがないですよ」


「き、き、き、キサマっ! もう、絶対に許さんぞっ!」


 激昂する村長へと黒い霧が集まり、顎が外れ大口を開けた口内へと吸い込まれる。村人たちも黒い霧状と化し、周囲に漂う闇の霧と同化し村長へと流れていく。

 村長の体からミシミシと軋む音がし、空気が入れられていく風船のように膨張していく。体を覆っていたローブは引き千切れ、五メートルは軽く超える大きさへと変貌を遂げた。

 それは巨大な漆黒に染まる人型をし、人間の頭髪にあたる部分は長く胴体が伸びた、村人が植え込まれている。


『どうだ、これが人を超え魔族となった我らの真実の姿よ!』


「これは立派な化物になりましたね。どこが魔族なのか詳しく説明して欲しいぐらいですよ『聖光弾』」


 試しに直径三メートルの大きさに調整した聖光弾を村人の集合体へと投げつける。

 己の力を慢心している集合体は腕を交差させ、聖光弾を正面から防御する。闇の腕と光の弾が接触し、大規模な爆発が起きる。

 爆風により舞い上がった粉塵が風に流されると、そこには両腕を失った集合体がいた。


『たかが聖光弾の一撃で我の腕を吹き飛ばすとは、少々侮っていたようだ。だがこの程度の損傷、瞬時に回復してくれる』


 肩から先が少しだけ残っている腕を上空へと掲げ、闇を集めようとするが闇が集まらず、失われた腕が再生することもない。


『どうなっている!? 我が体は無限の再生能力を有しているのではないのかっ!』


「やはり、闇属性の定番である聖属性には弱いようですね。再生も何も今の聖光弾の爆発により周辺の闇は祓われていますよ。体の一部となる闇の魔素という部品がないのに、どうやって体を作るのですか。暫く経てば闇の魔素も戻ってくるでしょうが、私がそれを待つほど優しい人間に見えます?」


 ライトは収納袋に手を入れ、今日初めて相棒である巨大なメイスを取り出す。

 飾り気のない無骨な形をしている巨大なメイスには異様な迫力がある。集合体はその武器を一目見ただけで、恐ろしさを理解した。


「己の欲望の為に母を殺した貴方たちが、再び目の前に現れた時の私の気持ちがわかりますか?」


 右手でメイスの柄を握り、巨大な鉄塊がついた先端部分を左手のひらに軽く何度も打ち付けている。


「歓喜のあまり躍り上がりそうになりましたよ。あの日、貴方たちを楽に殺してしまったことをずっと後悔していたのです。苦しみや恐怖を味あわせる事もなく、葬ってしまったことにっ」


 地面へと振り下ろされたメイスが地面へ衝突し、爆音と共に粉砕された床板と基礎が爆風に巻き込まれ舞い上がる。

 吹き抜ける風が砂埃を運び出すと、そこには深さが二メートル近くはある、すり鉢状に陥没した地面があった。

 想像を超える一撃の威力に、集合体は無意識のうちに一歩後ずさっていた。


「再生能力まで持っていてくれるなんて本当に嬉しかったですよ。思う存分殴れたので少しすっきりしました。それに貴方たちへ格の違いも見せつけられましたから『聖属性付与』」


 ライトが手にするメイスが白い光を放つ。


「痛みを知らない。だから恐怖も苦しみもない。そんなことはありませんよ。痛みを持たない者を苦します方法なんて私が一番よく知っていますからね。こんなのはどうですか」


 ライトは収納袋から小さな壺を取り出す。その壺を大きく振りかぶると、目にも止まらぬ速さで集合体へと投げつける。顔をめがけ唸りを上げ迫る壺を咄嗟に腕で庇おうとするが、防ぐべき腕が消失している。

 壺が集合体の顔面で割れ、中から溢れ出した大量の汚物が頭へと降り注ぐ。


『ぐああああっ! 何だこの臭いはっ! 鼻がっ、頭が割れるっ!』


 腐臭を撒き散らす液体を拭い取ろうにも、腕が存在しない今の状態ではどうしようもなく、膝をつき土下座をするような格好で、顔面を地面に擦りつけている。


「溜まりきった汚物壺の一つを処分したかったので、丁度よかったです。さて最後に貴方たちをそそのかした黒幕の正体と目的を教えてもらえますか。もし教えていただけるなら、汚物を消して差し上げます。神の名において誓いましょう」


 魔物となり五感が生前より発達したせいで、悪臭が想像以上に集合体へダメージを与えたようだ。

 人を超えたと自負していた強さは、更に上の力により簡単にねじ伏せられ、戦意を喪失しているところに汚物の追い打ち。彼らの自尊心は崩壊寸前であった。


『わ、わかった。話す、話させてくれ! ヤツは闇を纏った男で……顔も見たはずなのだが全く思い出せんのだ。邪神の忠実なる下僕だと言っておった。この村の地下深くにある邪神の左腕を解放が目的らしいぞ。わしらは代々、この地に眠る何か邪悪なものを呼び起こさぬように、見張り続けることを運命づけられた一族じゃ。それが何かを知らずに過ごしていたが、邪神と聞いて納得がいったわい』


「そうですか。それで、貴方たちへどんな交換条件を突きつけてきたのです」


『この村の封印を維持している、イナドナミカイ教団から送り込まれた聖職者を排除すること。闇の魔力を集めた魔石を、教会が建つ場所にそれを集めて置いておくこと。相手からの望みはそれじゃった。我らはそれを承諾し、代わりに永遠の命を有する魔族への転生を願ったのじゃ』


「何故、村の子供や一部の村人を殺したのです」


 あの日、神力を使い目を覚ました後に、村を見回ったのだが民家の内部には眠るように息を引き取っている子供や老人、女性の姿があった。それは、民家一軒につき最低一人はいた。


『あれは……我らの忠誠心を示す目的と、人の魂により魔力の補充を行えば魔族に早く慣れると教えられ、自分の大切な者の命を差し出したのじゃよ』


「納得がいきましたよ。中々素晴らしい外道ぶりですね『上半身強化』『下半身強化』」


 ライトの全身から吹き出した金色の炎が燃え上がり、周囲に再び集まりつつあった闇の魔素が消滅していく。

 辺りを見回し、集合体が顔を歪め舌打ちをする。どうやら、従う振りをしつつ会話で時間を稼ぎ、闇の魔素が集まるのを待っていたようだ。


『き、キサマ。何をする気じゃ! 約束が違うではないか! この汚物を消す約束じゃろ!』


「ええ、ですから物理的に貴方ごと消滅させてあげますよ」


『神への誓いは嘘だったというのかっ! 聖職者の分際でっ!』


 頭を振り乱し、ライトを罵る集合体に表情も変えずに歩み寄る。そして、汚物を浴び悪臭を放つ集合体の目の前に立った。


「神への誓いなど何の意味も持ちませんよ。そもそも、神が嘘をつかないとでも思っているのですか。しかし、汚物まみれで臭いですね。お似合いの格好ですが」


『キサマっ! 何処まで我々を嘲弄ちょうろうすれば気が済むのだっ!』


 集合体が頭を振り下ろすと、頭に生えた村人たちが胴体を伸ばし、怒りの形相でライトへと掴みかかろうとしている。


「無駄ですよ『聖域』」


 村人たちは突如現れた光の壁に正面衝突し、大きく跳ね飛ばされる。

 膝を曲げ跳躍に必要な力を蓄えると、ライトは両足に力を込め大きく跳び上がる。身長五メートルは超えている集合体の眼前まで跳んだライトは、巨大なメイスを振りかぶる。


「さあ、懺悔なさい。私は欲に負け、畜生以下の存在へ成り果ててしまったと!」


 立ち塞がるものは風であろうが破壊し、唸りを上げる鉄の塊が集合体の顔面に突き刺さる。

 激突した箇所が目も眩むような光の爆発を生み、教会跡地一帯が金色の光に包まれる。

 それは光の渦となり村を覆っていた闇の魔素は光の竜巻に吸い寄せられ、消滅していく。

 ライトが地面へ着地すると、集合体は完全に消え去っており、村中に漂っていた闇の魔素も完全消滅している。


「母さん。これで良かったのでしょうか……」


 ライトの呟きは誰の耳に入ることもなく、吹き抜ける風に運ばれていく。

 もはや原型どころか教会の名残が何処にもない荒地で、ライトは母が亡くなっていた場所に膝をつき手を添えた。

 指先に確かな闇の魔力を感じる。母はこの下に眠る邪神の腕を最後まで守り通そうとしたのだろう。


「さて、掘り進んで、本当にそんなものがあるのか確かめてもいいのですが。まだ隠れているつもりですか」


「ほう、今回は私の存在に気づいていたのか」


 少し離れた場所の空間に縦の線が入る。その線が左右へと広がり裂けた空間から溢れ出す闇が足元に充満していく。闇の絨毯を踏みしめるように、一歩一歩、何処か気品さえ感じる足取りで男が現れる。

 


活動報告にも書いていますが、ざくろ様に素敵な絵を描いていただきました。

アドレスを記載しても良いとの返事をいただきましたので、載せておきます。


http://img.ly/yohQ


ライトが格好良く(口元の笑みがかなり気に入ってます)イリアンヌがまるで、できる人みたいに見えます。口を開かなければ魅力的な女性ですよね……。


ざくろ様、本当にありがとうございました。

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