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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編

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過去編 日記

 今日から毎日とはいかないかもしれませんが、定期的に日記をつけていこうと思います。私が地上へ戻れなかった場合、ここでの情報を誰かに伝える手段が必要だと感じましたので。



 穴に落ちて二日目。


 上を目指しひたすら登り続けていました。

 時折、穴の奥から飛行能力を持った魔物が飛んできますが、こちらには目もくれません。この道には魔物が一切現れず、やはり飛行能力を持たない魔物は地道にこの道を上がってきている可能性が高いと思われます。

 睡眠時間と休憩時間を除いて歩き続けましたが、風景に代わり映えがないため自分が同じところを、ぐるぐると回らせられているのではないかと不安になります。



 穴に落ちて三日目


 透明の箱部屋で起床。カーテンの切れ端やボロ切れで造った布団の寝心地が悪くなく、熟睡できたようです。この状況で熟睡できる自分の神経の図太さに少し呆れてしまいます。

 見上げた空がとても遠くに見え、先の長さにうんざりしてしまいます。

 大きな穴の中なので、太陽が真上にくる正午付近は、直接陽の光を浴びることも可能なのですが、それ以外の時間は昼間であれ自分の手足がかろうじて見えるぐらいの薄暗さです。

 夜は言うまでもないですが、完全な闇になります。

 飛行型魔物を見た限り、闇や不死属性ばかりでした。この二属性は夜になると活動的になるので、夜間の移動は控えることにします。

 初日は空が曇っていたので、ほぼ暗闇でしたが天気のいい日は明かりがなくても、何とか行動ができそうです。



 穴に落ちて五日目。


 四日目は三日目と変わりがなかったので、省略しました。

 五日目にして異変が起こりました。なんと、道が途切れていたのです。

 土砂崩れや、道が破損して崖になっていたとかではなく、道を大きな壁が遮っていたのです。それは穴の壁面や道と同じ土や岩ではなく、赤黒い光沢のある鉄製のように見える壁です。

 それが道いっぱいに広がっているため、そこから先へ進むことができません。その壁の中央に両開きの巨大な扉があったので、調べてみたのですが……押そうが引こうがビクともしません。

 まさか、地上へと進む予定がこんなものに邪魔をされることになるとは。

 ここに拠点をおいて、この壁と扉を超える方法を調べないといけないようです。



 穴に落ちて六日目。


 扉の様子が窺える位置で、近すぎずそれでいて遠すぎない位置の地面に、透明の箱部屋を埋めました。砂をかけよく見ても地面にしか見えないようにしておきます。我ながら上手くやれたのは良いのですが、自分もわからなくなって小一時間、部屋の場所を探したのは秘密です。

 これなら魔物が近づいても、気づかれることなく安全にやり過ごせる……と思いたいです。

 扉の方なのですが、自分が渾身の力を込めても凹むこともなく、どうやら物理的な力ではどうしようもない魔法関係の何かが働いているのではないかと思われます。

 こうなると、私には打つ手がありません。



 穴に落ちて十四日目。


 あれから状況に進展もなく早めに寝たのですが、夜中に振動で目が覚めました。

 箱が揺さぶられる感覚に慌てて目を開けると、頭上を大量の何かが通っているようで、無数の足音と時折、箱部屋の表面をひっかくような音が聞こえてきます。

 耳を澄ましてみるのですが、上部の砂ごと箱部屋を踏みしめる音で他の音が聞き取れません。恐らく、この上を魔物の大群が通過しているのでしょう。

 ここで初めて気がついたのですが、この箱部屋、防音性が極めて低いです。むしろ、通常より外部の音が良く聞こえます。鑑賞している人間の命令が聞こえやすくなるように、作られているのかもしれません。

 バレたら一巻の終わりですが、焦ったところでどうしようもないので、息を潜めておくことにします。

 魔物の移動速度で大穴の底からここまで二週間といったところですか。

 なんにせよ、この大群が通り過ぎるまでできることはないようです。

 暇つぶしに本を読みたいので聖光弾で明かりが欲しいところですが、そんな無謀なことをするほど馬鹿ではないので、大人しく寝て待ちます。



 穴に落ちて十五日目。


 振動も足音も止み、念の為に半日待ってそっと上部の扉を開け、周囲の様子を観察しました。

 外は薄暗いですが、昼を少し過ぎたぐらいなのでしょう。移動するには問題ない明るさは確保できています。

 魔物の気配もなく、そっと外に出て歩き始めたのですが、地面が魔物たちに踏み荒らされ少し歩きづらくなっていました。

 扉に近寄ると、壁と同色で赤黒かった扉が、今は赤い光を発しています。何か意味があるのでしょうか。

 その時、調べるのに夢中になりすぎて背後から襲いかかってきた魔物の存在に気づくのが遅れ、危うく一撃喰らうところでしたが、なんとか撃退に成功しました。

 敵は動く骸骨――スケルトンだったのですが、自分が知っているスケルトンはもっと弱かったはずなのに、そのスケルトンの動きは鍛え上げられた戦士のようでした。

 日記を書いている時に気づいたのですが、穴に落ちてからの初戦闘だったようです。

 今までと空気が変わったような感覚がするので、一帯を見回ると、何体ものスケルトンに襲われる羽目になりました。倒せたのはいいのですが……どうやら、平和だった日々は昨日で終わりのようです。



 穴に落ちて二十日目。


 定期的に魔物が現れ、闘いの日々が続いています。スケルトンばかりが現れるので何とかなっていますが、時折現れる黒ずんだ骨のスケルトンに手間取ります。一体なら問題はないのですが、ここのスケルトン、複数で現れることが多いので面倒すぎます。

 扉は変わりもなく、現状にしびれを切らした私は変化を求め下へと向かうことにしました。このままでは、食料に不安が出てくる恐れもありますので。水は穴の壁面から湧水が出ているので心配はいらないでしょう。

 意を決してから五日目に、自分が落ちた場所に着きました。ここから先は未開の地です。気を引き締めていかなければ。



 穴に落ちて三十日目。


 スケルトンとの戦いは続いています。骸骨の種類も多様で、小さな子供のような骨格のスケルトンから、動物の形をしたスケルトンまでいます。

 ここに落ちてから戦いっぱなしなので、かなり能力が上がってきているようです。治癒の回復力や聖光弾の威力も増してきて、少し楽に立ち回りができるようになってきました。黒ずんだスケルトンが複数相手でも苦戦することも、なくなってきています。

 ああ、そうだ、そんなことはどうでもいいのです。この日、私は驚くべきものを発見しました。

 そう、あの扉がこちらにもあったのです。どうやら、私のいる場所は道の前と後ろを扉で挟まれているようです。ここから出るには扉をどうにかしなくてはならないのですが、幸か不幸か……そのどうにかする方法がわかってしまいました。


 こちらの扉の前には、大きな魔物がいたからです。その魔物は五メートル以上の巨大な骸骨でした。頭蓋骨の額に大きく突き出た二本の角と、鋭く尖ったノコギリのような歯をしています。

 その魔物は扉を守るかのように正面に居座っています。

 瓦礫に隠れ様子を窺っていたのですが、時折、その魔物が手を地面に着くと、地面から無数の骸骨が湧き出てくるではないですか。

 あれを倒せば、ここ一帯のスケルトンが増殖することもなくなり、あの扉も開くのでしょう。

 明日準備を整えて、巨大なスケルトンでは言いにくいので……鬼スケとでもしますか。鬼スケに挑もうと思います。



 穴に落ちて三十一日目。


 結果を先に言いますが、何とか勝利を収めることができました。

 かなりの強敵で何度も死を覚悟したのですが、相手が不死属性であったのが幸し『聖属性付与』や『聖光弾』が思った以上の威力を発揮しました。戦いの最中で、何度『治癒』を使ったことか。

 なんといっても今回の大きな勝因は『上半身強化』『下半身強化』でしょう。鬼スケとの戦いで能力が開花したようで、今までにない力を発揮することが可能になりました。あれは通常の二倍は力が増していたはずです。体がうっすらと光っていた気もしますし、これからもこの魔法を使い続けていれば、面白いことになるのではないかと期待しています。


 それに今回の戦いで重要な情報を得ることができました。門を守る鬼スケは一定以上門から離れられないようです。一度吹っ飛ばされ動けない状態になり絶体絶命だったのですが、ある一定の距離でぴたりと動きを止めたのです。

 今後同じように門があり強力な魔物が守っていた場合、相手の能力を見極め、危なくなったら直ぐに逃げるのも手ですね。能力を把握し対策を練るのと、初見で戦うのとでは難易度が違いすぎますから。


 あ、そうそう。鬼スケを倒すと赤い光を放っていた扉が、赤ではなく青い光に変わりました。試しに扉を押してみると、あっさりと開きました。

 今日は扉を閉めて、明日から扉の向こうを探索してみようと思います。

何かしらの希望があると良いのですが……。





 穴に落ちて、おそらく九百日目あたり。


 この穴に落ちて約二年半ぐらいでしょうか。一度も人と会っていません。

まあ、腐った人や半透明な人とは会いましたが。

 会話をしていないので、久しぶりに人と会ったら会話できるのか少々不安です。最近、気がついたら独り言を口にしています。

 最近拾った石が形もよく綺麗だったのでプリティーナと名付け、可愛がっていたのですが、我に返り穴に投げ捨てました。

 石が相手とはいえ、話ができたということは、まだ言葉を忘れてはいないようです。


 どれだけ下に降り、何枚の扉をくぐってきたのでしょうか。十は軽く突破したと思いますが、定かではありません。ちゃんとメモしておくべきでした。扉は一度通ると戻ることができず、私は下へ下へと進むしかありません。今思えば、門の前にいる魔物を倒した時点で、そこにいれば無用な戦いをせずに済んだ気もします。

 まあ、食料が尽きて餓死していたでしょうが。不死属性や闇属性の魔物は食べることができないのが困ったものです。普通の魔物ならいざという時に食用にできたものを。

 結局、生き延びるためには、これが正解だったのでしょう。途中で、食料品を扱っている店の瓦礫があったのは本当に助かりました。


 ここで見かける魔物は学校で学んだ魔物とは姿が異なるものが多く、この大穴は一体何なのか想像すらできません。

 上の世界はどうなっているのでしょうか。あの湧き出していった魔物たちに壊滅的な被害を受け、こちらのことなど構っていられない事態なのかもしれません。

 救助が来る気配もありませんし、また新たな扉を解放させ、進んでいくしかないようです。

 人に会いたい……会話がしたい……。



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