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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
外伝
139/145

お母さん会議

 死者の街のとある有名料理店の一角で光の届かない客席があった。

 店内は明るすぎるぐらいで、照明の魔道具は正常に動いている。だというのに、そこだけ暗闇と化しているのは、そこに座る客の誰かが闇魔法を発動して外部から見えないように闇のカーテンを発動しているからだ。

 その席に座っているのは四人。その四人は暗闇のカーテンの奥で顔を合わせ、穏やかに微笑み合う。


「皆さん、ようこそ、おいでくださいました。では、堅苦しい挨拶は無しにして、乾杯しましょうか」


 黒のドレスを身にまとった白髪の妖艶な美女の音頭に合わせ、全員が酒の注がれた杯を掲げる。


「第一回お母さん会議の開催を祝って乾杯!」


「「「かんぱーい」」」


 死を司る神、ファイニー、マリアンヌ、ギルドマスターが笑顔で杯を打ち合わせ、その中身を一気に飲み干した。


「かーっ、美味ぇな。やっぱ、酒は始めの一杯が最高だ。もう一杯いくか」


「初めから飛ばし過ぎないでくださいね。今日の目的は会議なのですから」


 まだ少ししか減っていないワインの瓶を掴むと、自ら杯へと注ぐギルドマスターに、死を司る神が釘を刺す。


「それなんだが、子供なんかいないぞ? お母さんになった覚えは全くないんだが」


「私も子供を産んだ覚えはありませんね」


 ギルドマスターの疑問に乗る形でファイニーも口を挟む。


「いいのよ。ギルドマスターは多くの冒険者を見守り続けた冒険者にとってお母さんみたいなものだし、ファイニーさんは言うまでもないけど、血は繋がっていなくても沢山の子供がいるでしょ」


「そいうもんかね」


「そう言われればそうですね」


 二人はその言葉に納得したようだった。


「飲み会気分でやってきたのだけど、この会議には何か議題があるのでしょうか?」


「そこよ、そこ!」


 マリアンヌにびしっと指を突き付け、残りの手をぐっと握りしめている死を司る神の姿がそこにあった。


「今回の議題は、いい歳して結婚する気のない息子を、どうしたら結婚できるかの相談にのってもらいたいのです!」


 覇気を漲らせ息巻いている死を司る神に視線を向けられ、三人の目が伏せられる。


「無理だろあれは……」


「うちのロジックよりも、難しいのではないでしょうか……」


「イリアンヌと結婚してくれれば、こちらとしても、ありがたいのだけれど……」


 言葉は違うが三人の意見は同じのようだ。


「ライトは何で、結婚をしないのでしょうか。それどころか今まで恋人の一人もいなかったようですし。もう二十半ばを超えているというのにぃ」


 何処からか取り出したハンカチを噛みしめ、引き千切る勢いで引っ張っている。


「初めて出会ったのはあいつが十五、六だったか。知る限りではあの頃から既に、女や恋愛に対して年齢の割に達観していた気がするな」


 ギルドマスターは豪快に酒を流し込みながら、昔のライトを思い出してみた。





「おいおい、お前みたいな田舎者のガキが来ていい場所じゃねえんだよ!」


「ったく、うるさいね」


 二階にある自分の部屋に、足元から野太い怒声が響いてくる。


「また、ホールの方で揉め事かい。あの声は……イグルガかね。まったく、また酔っぱらって騒ぎを起こしているのかい」


 Bランクになってからというもの、粗暴な行為が目立つようになった冒険者の一人を思い出し憂鬱な気分になる。

 たちの悪いことにこの男は状況を確認し、冒険者ギルドのホール内に自分以上の猛者が少ない時を見計らって問題を起こすのだ。


「あの馬鹿、私がいるときに騒ぎを起こすことなんて無かったんだが……ああ、そういうことか」


 壁に張り付けてあった今月の予定表が目に入り、ギルドマスターは得心がいった。今日は朝から隣町の冒険者ギルドに顔を出す予定になっていたからだ。


「ワインの飲み過ぎで寝坊したのが役に立つこともあるもんだね」


 足元に転がる無数の空になったワインを避けるようにして、ギルドマスターは自室を出る。格好は寝起きのままで着替えてもないのだが、寝巻きにも着替えずそのまま寝たので問題は無い。

 階段を下り始めたところで、一際大きな破壊音と振動が足元から伝わってくる。

 あまりの衝撃にギルド本部の建物が小刻みに上下に揺れ続けていた。


「なっ! 馬鹿野郎が。これはBランクかそれ以上だろっ」


 あの破壊された音は建物の床板が砕けた音に間違いないと、ギルドマスターは判断した。

 冒険者ギルドの建物は首都にある建物の中でトップクラスの頑丈さを誇る。一般市民より肉体的に優れた者が多くやってくる。その上、魔物殺すのが日課の様な連中だ。荒くれ者も自然と多くなってしまう。

 そんな彼らが暴れても大丈夫な造りにしなければ、毎日補修工事をするだけでギルドの職員の仕事が終わってしまう。そこを考慮して床板も特殊な建材を使用している。

 魔素が溢れる魔境化した森の木々が床板の材料だ。濃厚な魔素を取り込んだ木々はDEランクの剣士の一撃を弾く樹皮に覆われ、その内部も並大抵の攻撃は吸収してしまう。

 そんな貴重で高価な材木を惜しげもなく使った冒険者ギルドの床板は、ここ数年傷の一つもついていなかった。それが破壊された。


「誰か死んじまったか」


 イグルガは馬鹿だが自分より強い相手には手を出さない。つまり、あいつが暴力を振るう相手はCランク以下ということになる。そんな奴が今の一撃を喰らえばどうなるか、考えるまでもない。

 慌てて階段を駆け下りたギルドマスターの目に飛び込んできたのは――膝下まで覆われた黒のロングコートを着込んだ十代半ばの少年が、気まずそうに頭を掻いている姿だった。


「どう……なっている」


 その足元には半身を床板にめり込ませ、全身を小刻みに痙攣させている大男――イグルガの姿がある。肩口が陥没し、確実に骨が砕けている様に見える。


「お前さんがやったのか」


「あ、すみません。この人が文句を言ってきて暴力を振るってきたので、つい」


 頭を下げる少年をギルドマスターは目を細め観察する。大きめのコートが邪魔で肉体を見ることは出来ないが、体からにじみ出る気は相当なものだ。見る限り武器を所持してないようだ。

 ということは、自分と同じ格闘家か。と判断し、口角を上げ獰猛な笑みを浮かべる。


「この人、このままではやばいかな。一応やっておこう」


 やっておこう。という言葉に反応したギルドマスターが、止めを刺す気なのかと勘違いし止めに入ろうとしたのだが、それは杞憂に終わる。


『治癒』


 少年が突き出した手から温かみのある光が溢れ、見る見るうちに歪に陥没していた肩が再生されていく。

 格闘家だと見当をつけていた少年が実は回復魔法が使えるというのにも驚いたが、その回復力も目を見張るものがある。


「あんた、神官戦士なのかい?」


「いえいえ、まだ見習いでもありません。イナドナミカイ学園に入学して聖職者の道を目指したいと思っています」


 屈託なく笑う少年の笑顔が、この惨事を引き起こした者とは思えず、そのギャップに少々戸惑ってしまうギルドマスターだった。





「そんな感じだったな。ライトの第一印象は」


「子供の頃から凄かったのね」


「あらあら、小さい頃のライトさんに会ってみたかったわ」


 少年時代のライトを知りマリアンヌが感心し、ファイニーが孤児院の子供を思い出したのか優しい笑みを浮かべる。


「それから学園に入学したのよね。そこで何か甘酸っぱい展開とかなかったのかしら。首都って光の神と闇の神が封印されていた場所だから、こっちの目が届かなかったのよ。だから首都で何があったのか殆どわからないのよね」


「ん? それは首都以外のライトは見張って……いや、見守っていたということか」


「ええ。一応神ですから。ライトの動向はずっと見ていましたよ。二神が眠る場所はこちらからの目が届きませんので、首都や、虚無の大穴は無理でしたが、それ以外はつぶさに観察していました」


 胸を張り断言する母親を見て、三人の母は複雑な表情を浮かべる。それは過保護すぎるのではないかな。と思ったが口には出さないでいた。


「あの子が可愛くて大好きだから覗いていたのではないわよ。重い運命を背負っている息子の行く末が心配でね……私のせいであの子には辛い思いをさせてしまったわ」


 遠くを見つめ手を握り締め、瞳を潤わせる死を司る神の姿は、子供の運命を嘆き悲しんでいるように見える。

 が、その手に握りしめている物が、幼少時に照れながら死を司る母の頬にキスをする、ライトとの写真でなければ良かったのだが。


「ライトさんって、もしかして女性に興味が無いとか。親の目から見ても娘のイリアンヌは見た目悪くない筈です。まあ、胸はあれですが。何度も迫っているというのに、反応は殆どないそうですよ」


 不甲斐ない娘と興味を示さないライト。その二人に対し、マリアンヌはため息を吐く。


「女に興味が無いか言われてみれば……ファイリやロッディゲルスも他人がうらやむ美貌の持ち主だ。メイド長だって悪くない顔だし、その三人と比べるならスタイルは一番だしな」


 ギルドマスターがライトの女性への対応を思い出す限り、性欲や欲望が垣間見える瞬間もなかったように思えた。


「スタイルで言うならマースさんが一番でしょうね。それに若さもある。選り取り見取りの状況でありながら誰にも手を出さない。意志が強いと褒めるべきかもしれませんが、普通の男性ならとっくの昔に落ちていますよね」


 多くの子供たちを見守り、思春期の葛藤も知っているファイニーからしてみれば、あのライトの態度は異質なものに見える。


「男が好きと言うのは無いと思うわ。もし、そっちだとしてもお母さんは大丈夫だけど! はぁ……あの子が女性不信になったのは村での出来事と、あの子の体質が原因なのよね。それも、私が悪いとはわかっているのだけれど」


 光の神を体内に宿したライトはこれからの人生、多くの者から狙われることになる。それは直接的な攻めだけではない。暗殺への対策も考えなければならない。

 ずっと傍にいて見守ることができない死を司る神は、苦肉の策として毒や薬による暗殺への対策としてライトに微量の毒を摂取させた。それにより、ライトの体液に毒の成分が残ると知っていても。

 死を司る神は急に落ち込み、陰鬱な顔で「ごめんね、ライトぉ。お母さんが馬鹿だったわぁ……ごめんねぇぇ」と後悔の言葉を吐き出し、酒を煽り、テーブルに突っ伏している。


「泣き上戸だったのか」


「愛しい子供に苦難の道を進ませる。その辛さは私にもわかりますよ」


 若干引き気味のギルドマスターとは対照的に、マリアンヌは悲しげな表情で小さく頷いている。自分も幼少の頃から娘のイリアンヌに人殺しの技を叩き込んできた。娘に人を殺せと言い、その技術を教える。それを今も後悔し続けている。


「子供って意外と親を見ているものですよ。親だって人間です。間違いもすれば、悩み、後悔もするでしょう。でも、それが自分を思っての行動ならば、その時は理解できなかったとしても、いつかきっとわかってくれます」


 このメンバーでは見た目が一番若く見えるファイニーだが、育ててきた子供の数は誰よりも多い。経験者の言葉は二人の母親の心に深く染み込んでいき、少しだけ表情が和らいだ。


「母親ってのは色々大変だな。よっし、今日は幾らでも愚痴をこぼしな。聞くことしかできないが、付き合うよ」


 子供を得たことが無いギルドマスターは、ここでの聞き役は自分が相応しいと自ら申し出る。

 それから、三人は子供に対しての愚痴。自慢。教育に関しての後悔。等を思う存分話し合うことになった。

 この日から四人はかなり仲良くなり、この『お母さん会議』も頻繁に行われることとなる。


皆さんのおかげをもちまして、PV1000万を突破しました。

自分の作品が1000万回も開かれた。初投稿した頃を思えば信じられない快挙で、正直我が目を疑うレベルです。

読んでくださっている読者の皆さん、本当にありがとうございます。


ここからは私の心境と余談になりますので、興味のない方は飛ばしてください。




私が小説家になろうを知り、一読者として楽しんでいた頃、ふと思ってしまったのですよ。自分が昔書いたことのある小説(黒歴史)を改変して投稿すれば、見てくれる人がいるのではと。

そんな安易な発想と勢いにより、第一作目『ポリッシャー』を投稿しました。

小説家になろうの定番である、異世界転移ものでしたので、もしかして人気が出るのではないかと淡い期待を抱いていたのですが。結果はポイントギリギリ二桁というところでした。ちなみに内容は、清掃員がポリッシャーとか清掃機器を片手に異世界で活躍する話です。


一作目が人気を得ることなく終わったので、今度は小説家になろうでは人気の出ないであろう作風で挑むことにしました。

『レンタランカー』という作品なのですが、これは大人だけが楽しめる18禁指定の物が全て規制された健全な世界を舞台にした物語です。真面目にバカやっています。

二作目は予想通り一作目より低いポイントという結果に終わり、少し考えました。

自分の書きたいものを書くのは当たり前なのですが、もう少し人の目線を気にして書いてみようと。

そうして作り上げた三作品目が『独りが好きな回復職』です。

そんな作品が今や1000PV。

それどころか、もう少しで夢の3万ポイントに手が届きそうな位置にまできています。

全話に目を通してくださった方

感想を書いてくださった方

お気に入りに入れてくださった方

評価ポイントを入れてくださった方

皆さん本当にありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。


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