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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
外伝
122/145

争奪戦5 思惑とパートナー

 このくじ引きで決定されるパートナーの能力が今後の勝敗に大きく影響される。そんなことは言われるまでもなく全員が理解していた。


「追記ですが、最終的に生き残った一組の方は最後に二人で戦ってもらいます。そして勝利を収めた方を優勝者とし、付き合う権利が発生します。そこでライトアンロックが受け入れ成立した場合。残りの一名には、何か一つだけ頼みごとができるという権利が発生します。初めに告白した方が拒絶された場合は、負けた方に付き合う権利が移行されます。両者ともに振られた場合、頼みごとの権利は残りますのでご安心ください」


 死を司る神の説明を聞き、ファイリは考える。


(最大のライバルである、イリアンヌ、ロッディゲルスの能力は把握している。幾度となく共に戦ってきた彼女たちと組めば、このトーナメントを勝ち抜ける確率が格段に上がるだろう。メイド長は能力的に少し劣るが、私との連携は一番だろうな。最終的に厄介なことになりそうだが、まずは優勝することが最優先だ)


 ファイリが心の中で名を上げた三名も同じ事を考えていたようで、視線が絡み合うと笑みを浮かべ頷く。

 イリアンヌは思う。


(ファイリ、ロッディと組むのが最良よね。母さんには悪いけど、能力としてはかなり劣るから、組むよりかは対戦相手になってもらった方がいいわね。相手の足を引っ張ってもらえそうだし)


 ロッディゲルスは思案する。


(二人と組むのが最適なのは考えるまでもない。能力的にはファイニーや、あの白い少女からも計り知れない力を感じる。それにだ、あの仮面コート……おそらくは)


 ロッディゲルスが訝しげに仮面コートへ視線を向けているのだが、イリアンヌ、ファイリも同様に謎の人物を注目している。

 メイド長は悩んでいた。


(どなたと組んでも私には有利。それは間違いありません。ですが、優勝者同士での戦いで勝てる見込みは無い……でしょう。となれば、ライト様と付き合う権利を欲していない方で、御三方に匹敵する力の持ち主。エクス様、ミミカ様が条件に当てはまりますが、ミミカ様はファイリ様を優勝させる気でしょうし、エクス様はただの腕試しと言っていましたが、言動に怪しいところが。そうなると、ギルドマスターを引き当てるしか)


 不利な状況だからこそ、メイド長は脳をフル回転させ最高の一手を導き出そうと、思考の海へと深く沈んでいった。

 ライトに最も近い存在だと思われている四名の思惑は様々だが、もちろんそれ以外の本選出場者にも思うところがある。

 ナイトシェイド号に跨りながら、マースは周囲を見渡し、鼻をひくつかせていた。


(まあ、あれだよな。あの四人と組みたいところだけど、最後に勝てないし。『神嗅』で探ってみた感じでは怪しい臭いさせているのが、仮面コート、白くてちまっこいの、ギルドマスター……それにゴーレム? あれからは臭いが全くしない、鉱石だから仕方ないのかな)


 小首を傾げ唸っているマースを、横目で何度も確かめながら呆けた表情をしているシェイコムがいる。


(ああやって、悩んでいる姿も可愛いなぁ。できれば、マースさんと組みたいけど、そうなると、マースさんをライトさんとくっつける為に僕は戦うことに……アアアアアッ! 僕は一体どうすればっ!)


 頭を抱え地面をのた打ち回っているシェイコムを、観客を含めた人々が心配そうに眺めている。

 真面目に今後の展開を考えている者もいるのだが、あまり深く考えていない者も少なくない。

 イリアンヌの母であるマリアンヌは娘を優勝させることしか考えていないので、娘の敵に回った場合、味方の足を引っ張る気満々である。

 ミミカもマリアンヌとほぼ同じ思いであるが、一つだけ気になることがあった。エクスが何故、この場にいるかということだ。


(アイツなんで参加しているのよ。権利を誰かに売る気……いや、もしかして、まさか……アイツ、あっちの気があるのっ!? 何かキャサリンと仲良くしているし……だから、私に手を出さないの、えっ、いや! 何言っているの、私は!)


 ミミカはとんでもない誤解から危ない方向へ妄想が広がる。頭に思い描いた光景が恥ずかしかったのだろう。顔を手で覆い、激しく頭を左右に振っている。

 その隣で同じように妄想の世界に入り込み、身もだえしているキャサリンと、現在進行形で地面を転がっているシェイコムの三名を、誰もが見ない振りをしている。

 ミミカの心配の種であるエクスはというと、キャサリンを優勝させるという目的があったにも関わらず、今その胸中に渦巻いている思いは別のものだった。


(くうううぅ、強え奴ばかりじゃえねえか。これは本選でも楽しめそうだな)


 元々、強者との戦いを望み、己を鍛えることに執着していたエクスは、本来の目的を完全に忘れている。今はただ、己の力を存分に発揮し、戦うことしか頭にない。

 残りの本選出場者である、白の少女、女騎士ショウルは表情を一切変えずに佇んでいる。ゴーレム、仮面コートは変化が無い。

 ファイニーは子供を見守るような優しい目で、黙って見守っている。

 多種多様な反応を見せる本選出場者を眺めていた死を司る神は、そろそろいいだろうと、大きく息を吸い進行を始める。


「それではくじ引きを開始します。こちらで勝手に決めさせてもらった順に引いてもらいますので、ご理解ください。引いた方は自分で確認した後に係員へ返してください。その度にこのトーナメント表に記載されていきますので、皆様ご注目を!」


 死を司る神が腕を振り上げると、会場の八つの扉は全て消え失せる。

 中心部に浮かんでいる巨大な球はそのまま残り、何も映していない透明の球だったものが、今はトーナメント表を映し出していた。


「では、ファイリさんからどうぞ!」


 呼ばれたファイリは本選出場者の列から前に進み出ると、箱の中に手を突っ込みかき回す。その目は真剣で金色に輝いている。


「ちなみに、あらゆる魔法を防ぐ結界が張っていますので、魔法や能力で中を覗き見ることはできませんよ」


 死を司る神の忠告に、ファイリは一瞬だけ口元を歪めると、くじを掴んだ手を大きく振り上げた。

 そして、番号を確認し係員へ手渡す。


「では、記念すべき一人目、ファイリさんの番号は4番です!」


 トーナメント表には1から8までが左から並んでいるので、4番は第二試合ということになる。


「では、続いていきましょう」


 イリアンヌ 6番。


 ロッディゲルス 5番。


 メイド長 2番。


 奇しくもライトの本命と言われている四名は別の番号を引いた。一回戦で当たることが決定した、ロッディゲルスとイリアンヌの視線が正面からぶつかり、熱い火花を散らしているかのように見える。


 続いて、ミミカ 3番。


 マリアンヌ 7番。


 ギルドマスター 8番。


 ファイニー 8番となる。


 ここで初めて番号が重なり、ギルドマスターとファイニーのコンビが決定する。


「よろしく頼むぜ」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 いち早くパートナーが決まった二人は握手を交わす。二人の間に距離感もないようで、良いコンビになりそうだと本選出場者たちは警戒する。

 くじ引きはどんどん進み、残り全ても発表された。


 マース 1番。


 シェイコム 1番。


 それを聞いたマースが微妙な表情を浮かべ、シェイコムは小さくガッツポーズをしている。


 エクス 5番。


 同じ番号となったロッディゲルスは、戦力的には申し分ないのだが、どうも嫌な予感がしてならないようで、半眼でエクスを観察している。

 当のエクスは、パートナーよりも対戦相手が気になるようで、イリアンヌともう一人のパートナー発表を心待ちにしている。


 キャサリン 4番。


 キャサリンが嬉しそうにパートナーであるファイリに手を振っているが、ファイリは苦笑いのまま虚空を見つめている。


 ショウル 2番。


 同じ番号となった女騎士ショウルの元にメイド長が歩み寄る。


「お久しゅうございます、ショウル様」


「やはり、メイド長であったか。久しいな」


 二人は顔見知りであるようで、穏やかな空気を漂わせ談笑を始めだした。


 ホワイティー 3番。


 ミミカは組むことになった、ホワイティーと呼ばれた白髪の少女を一瞥する。

ミミカの『神眼』を以てしても、その力を見抜けない存在に畏怖を覚えるが、そんなことは表情に微塵も出さず話しかけた。


「よろしくね、ホワイティーちゃん」


「ちゃんはいらない」


 顔すら向けずに、そう言い放ったホワイティーに若干怯みそうになるが、ミミカは感情を押し殺し、話題を振るのだが「ああ」「そうか」という素っ気ない返事しかなかった。


 ゴウレイム 7番。


「私やっていけるのかしら……」


 マリアンヌはゴーレムと組むことになり、その隣に並ぶのだが陶器のような肌と、その巨体の威圧感にどう話しかけていいのか、躊躇うばかりだった。

 それに、このゴーレムが娘と戦う場合、どうやって足を引っ張っていいのか見当もつかないようだ。


 レフト 6番。


 仮面コートはレフトという名のようで、番号が発表された瞬間、組むことになったイリアンヌは思わず「やったー!」と声を出して喜び、ファイリ、ロッディゲルス、メイド長は唇を噛みしめ、恨みがましい視線をイリアンヌに突き刺している。

 最後の一人が発表されたことにより、トーナメント表が完全に埋まり、結果を確認した死を司る神が声を張り上げる。


「皆様、ご覧の通りパートナー対戦相手が決定しました! ここでおさらいも兼ねて、本選出場者の簡単な紹介をさせていただきます!」


 歓声を上げていた観客もその声に静まり、死を司る神の言葉に耳を傾けている。


「一番を引いた出場者はこの二人! 使い魔ナイトシェイド号を操る、元気活発娘! ライトアンロックを思う気持ちなら誰にも負けない妹キャラ――マース!」


 ナイトシェイドが大きく一歩前に踏み出すと、天へ向けて嘶く。

 巨大な馬体の迫力と威圧感に会場が思わず息を呑んだ。

 背に跨るマースは満面の笑みを浮かべ、観客へ手を振っている。


「もう一人は、真面目、誠実、理想的な聖騎士であり、無敵の肉体と強い意志を兼ね備えた好青年! 色々葛藤しそうな状況だけど頑張って――シェイコム!」


 名を呼ばれ、恥ずかしそうに小さく右手を振りながら、もう片方の手は頭を掻いている。


「マース、シェイコムチームの対戦相手となるのは、この二人だ! どんな時でもメイド姿。この服を脱がす権利があるのは、ライト様だけです。家事は万全! 礼儀作法も万全! 参加者の中で最も女子力の高い女――メイド長!」


 スカートの端を摘み上げ、メイド長は優雅に一礼をしている。

 その洗練された動作に、観客席の貴族やそのメイドたちは見惚れているようだ。


「その相棒を務めるのは、彼女がいる限り姫に触れることは叶わない。腕も一流、人気も一流、男女問わず求婚相手は数知れず、神聖イナドナミカイ王国の守り手――ショウル!」


 細剣を鞘から抜き、軽く素振りをしてすっと鞘に納める。

 それだけの動作で、会場から黄色い声が飛び交う。どうやら彼女は男性よりも女性の熱心なファンが多いようだ。


「続きまして、二回戦の第一チームはこの方! 三英雄の一人として名高く、元教皇であるファイリの実の姉。その実力は妹すら超えると噂されている、伝説の聖女――ミミカ!」


 相変わらず、体のラインが浮き出る体に貼り付くような法衣を着こみ、深く裂けたスリットから、その美脚を惜しげもなく晒しているミミカに、男性からの熱い視線と歓声が注がれる。


「そんなミミカさんとは対照的とも言える、純白の小さな乙女。その経歴、出身はトップシークレット! 小さな体に秘めた力はどれ程のものか! 少女でも色々大丈夫なのか――ホワイティー!」


 人形のように一切反応せず、身動き一つしないホワイティーの反応を暫く待っていたのだが、これは無理だと判断したようで次に移った。


「美女、美少女チームと戦うことになるのは、元教皇でありながら、ライトの為にその職を蹴ったと言われている聖女の中の聖女! 運命の悪戯なのか、姉妹対決が決定した薄幸の美女――ファイリ!」


 慈愛溢れる笑みを浮かべ、穏やかに手を振る姿に会場のイナドナミカイ関係者から、大地を震わす重低音の歓声が上がる。

 どうやら、聖騎士、神官戦士が大量に見物しているようで、その男たちの野太い声援だったらしい。


「体は男、心は乙女。武器防具職人としては超一流! でも、恋愛に関しては奥手なの(本人談)そんな鋼の肉体に包まれた、か弱い女性が戦場を駆け抜ける! 邪魔する奴は武器防具作って上げないんだから。魅惑の漢女おとめ――キャサリン」


 ウィンクをしながら、投げキッスを会場へ向けて飛ばしているキャサリンの姿に、会場がどよめいている。


「前半戦四チームの紹介が終わりました。次からは後半戦となります。では、五チーム目と参りましょう。見目麗しい尊顔に男女問わずファンの多い、白の貴公子! あの鎖で縛って欲しいと望む愚民が続出! いつもクールな中性的美人――ロッディゲルス!」


 両腕を掲げ、その手から飛び出した黒鎖が上空に黒いバラを編み上げる。その光景に見とれ感嘆の溜息を漏らす女性が続出している。

 余談ではあるが、この日を境に女騎士ショウル派とロッディゲルス派のファン同士の諍いが増殖することとなった。


「彼女をエスコートするのは、三英雄の一人として名を馳せ、剣聖と名高い大剣使い! 死後も死者の街で腕を磨き続け、強さは留まるところを知らず! 富と栄光を手に入れたが、女っ気だけは微塵もない。独身街道まっしぐら。女に飢えた野獣! ロッディちゃん、変なことされたら、ちゃんと訴えるのよ?――エクス!」


「いや、俺の説明だけおかしいだろ!」


 司会者に向かって文句を口にしているが、取りあってもらえないようだ。


「美女と野獣チームに対するのは! まさに疾風。本気になった彼女の姿を捉えることは誰にもできない! 黒き風となり戦場を吹き抜けるかっ! 足も速けりゃ、手も早い。好きなものはお金とライト! 勝利すれば両方手に入るかも――イリアンヌ!」


「おかしいわよね! 説明に飽きてきているでしょ!」


 イリアンヌからも苦情が上がるが、完全に無視している。


「黒い仮面に隠された素顔は美男、美女、それとも――性別不明! 出身不明! 年齢不明! 全てが秘密。彼、彼女、もうどっちでもいいや! 他に説明することが無いのでどうしようもない――レフト!」


 前の二人と同じぐらいにいい加減な説明なのだが、特に問題もないようで黒仮面コートはその場で静かに手を挙げた。


「やっと、最後の対戦枠だ! 早く終わらせて、風呂に浸かって眠りたいわ!」


 いい加減、説明に疲れてきたようで、どうでもいい自分の欲望を暴露し始めている。


「鉱石の体にピュアな乙女回路搭載! 生まれて間もない、魔力で動く魔法人形。自慢は光り輝く陶器の様な肌! 私より強い旦那様をゲットしに来ました! ある意味魔法少女――ゴウレイム!」


 力こぶを作るように両腕を掲げ、アピールするゴウレイムの迫力に、前の三名の微妙な説明のおかげで、変な空気になっていた会場の活気が戻っていく。


「意思の疎通は大丈夫なのかと心配になる重要なパートナーは、紅蓮流暗殺術の頂点に君臨する凄腕の暗殺者であり、イリアンヌの母親! 婚期の遅れている娘の為に一肌脱ぎます! 同じ母としてその気持ち良くわかります――マリアンヌ!」


 会場の観客全員に向けて何度も頭を下げ、最後に死を司る神の姿を確認すると、正面に向き直り深々と頭を下げた。


「異色のコンビに相対するのは、生涯独身を貫いた冒険者ギルドの貢献者! 何故かメイド服を着こんだ妙齢の美女! その拳は天を切り裂き、海を吹き飛ばす! 俺より強い奴もぶち殺す! 武闘家の中の武闘家――ギルドマスター!」


 大衆の目に晒されるのには慣れているギルドマスターは、拳を振り上げ歓声に応えている。


「さあ、とうとう最後となりました! 見た目は十代、実年齢はヒミツ! 穏やかな微笑と割烹着姿! 家事の合間にちょっと参加しました! 孤児院を一人で切り盛りする、肝っ玉母さん――ファイニー!」


 微笑みを絶やさず、ゆっくりと手を振る姿に、故郷の母を思い出した物が続出したようで、望郷の念に駆られ鼻をすする者まで現れている。


「これにて、全出場選手の紹介が終わりました! 本選は明日の午前からの開始となります。急増のコンビを組むことになった皆様は、明日まで友好を深めるもよし、作戦を練るもよし、ご自由にお過ごしください。それでは、ご観覧の皆様、また明日お会いしましょう!」


 会場が震えているのではと錯覚するほどの歓声と拍手の嵐に包まれ、ライトアンロック争奪戦の予選は終了した。

わかりやすく結果を記載しておきます。


マース、シェイコム   VS メイド長、女騎士ショウル

ミミカ、ホワイティー  VS ファイリ、キャサリン

ロッディゲルス、エクス VS イリアンヌ、レフト

ゴウレイム、マリアンヌ VS ギルドマスター、ファイニー


どのチームが勝つのでしょうか。

まだ決めていなかったりします。

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