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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
外伝
119/145

争奪戦2 予選1

 迷いながらも大半の参加者が扉を選びその中へと姿を消していく。すると、一つの扉が赤に染まり始める。その扉に入ろうとしていた参加者が慌てて飛びのくと、両開きの扉は静かに閉じていった。


「皆様方、ご覧下さい。一つのエリアが定員の上限に達したようです。このように、既定の人数に達しますと自然に閉じる仕様になっていますので、まだ思案中である参加者の皆様注意してくださいね」


 悩んでいた参加者たちが一斉に動き出す。残っていた面子は扉に入っていった敵を観察し、一番楽そうな場所を選ぶつもりだったようだが、このままでは先に良いエリアを取られてしまうと、次々に扉へと跳び込んでいった。


「全部のエリアが埋まったようです。参加者も一人残らず扉の向こうへ進まれました。では、これより、ライトアンロック争奪戦の予選を開始します!」


 死を司る神の宣言と同時に、各扉の上に映像が浮かび上がる。


「皆様方に楽しんでもらう為、各エリア内での映像を扉上部へと投射しております。そして、闘技場中心部の上空には、私が選んだ各エリアの映像をピックアップしてお送りします」


 その言葉を証明するかのように、闘技場の中心部に巨大な透明の球体が浮かび上がり、その球体にエリア内の映像が次々と入れ替わり、映し出されていく。


「各エリアの映像を集中して観るもよし、中心部の映像を眺めるもよし、皆様のお好きなように楽しんでくださいね」


 至れり尽くせりな状況に観客から歓声が上がる。

 遠くの映像を魔法で映し出すというのは、実際に使用されている魔法なのだが、これ程までに大がかりな魔法による投射――それも迫力のある巨大な映像。

 今までにない鑑賞方法に観客は釘づけになっている。


「では、第一エリア、平原エリアを観てみましょう」


 死を司る神が手を振ると、中央の巨大な球の映像が入れ替わった。





「ふはははははは! 俺の邪魔をする奴は消し炭にしてくれる!」


「ちょっと、ファイリ。貴方怖いわよ」


 足首までの長さしかない草が生え、それ以外には何もないだだっ広い草原で二人の姉妹が、魔法を乱発していた。

 『聖光弾』が降り注ぐ大地で、懸命になって逃げ惑う参加者たち。

 当初は美しい女性の二人組を、楽な獲物と見ていた参加者たちが、予選開始の合図を聞き襲い掛かった――のが運の尽きだった。

 一人は虚無の大穴で魔王と死闘を繰り広げ、その後も死者となり鍛錬を続けている。もう一人は聖職者の頂点である教皇の座につき、ライトアンロックと共に何度も死線を越えてきた。

 そんな姉妹に少々腕に覚えがある程度の輩が敵うわけもなく、無残に排除されていく。

 近づこうにも通る隙間の無い光る球による弾幕に加え、その発射速度も目で追える速さではなかった。

 ならば、一、二発なら耐えてみせると耐久力に自信のある全身鎧の男が突っ込んでいったのだが、一発でその胸に風穴を開けられ消滅する。


「ふっ、俺の改良版『聖光弾』をそこいらの威力と一緒にするなよ」


 数、速さ、威力、全てを兼ね備えた弾幕の嵐に、殆どの者が近寄るどころか逃げるので精一杯という状況だ。

 だが、このエリアに参加していた者の中には、Sランク相当の実力の持ち主も交じっていたようで、聖光弾を魔力の宿った盾で弾き、受け止め、前に進む猛者がいる。

 その者は左手には大きな盾。右手には先が三つに分かれた槍を構え、勢いを落すことなくファイリへ突っ込んできた。


「貰ったぞ、その首!」


 槍の間合いに入り、躊躇わずに突き出された穂先がファイリの喉元を捉えたように見えたが、その穂先はファイリに届くことは無く、光り輝く壁によって防がれてしまう。


「いい男だから手加減してあげたいんだけど、可愛い妹の為なのごめんね」


 姉であるミミカがいつの間にか発動していた『聖域』の壁に阻まれ、男の動きが止まったところに顔面へ『聖光弾』がめり込んだ。

 攻撃はファイリが担当し、防御はミミカに任せる。

 攻守の分担が完璧にこなされ、姉妹の連携には何も問題が無いどころか、息の合った動きに付け入る隙など何処にもなかった。

 そしてそのまま、蹂躙と呼ぶにふさわしい圧倒的な光景が流れ続け、平原エリアの勝者が二名決まった。

 




「早くも平原エリアの勝者が決まりました! 一人は虚無の大穴で魔王と死闘を繰り広げ、三英雄の一人として名高い聖女、ミミカ!」


 伝説の英雄の名を思わぬところで耳にし、会場が歓声に沸く。

 場内の騒ぎが少し治まるのを待ち、解説に回っている死を司る神が言葉を続ける。


「皆様、ご存知だとは思いますが三英雄であるミミカさんは、魔王との死闘で命を落しました。ですが、死者の街で復活し、この大会へ参加しています」


 この発言を聞き観客から「死者の街の住民は死者だというのは、本当なのか」「見た目は私たちと変わらないのに」等の動揺する声が会場のあちらこちらから響いてくる。


「皆様、ご静粛に。ここは死者の街。未練を残し神に選ばれた魂が住む街。死者がいて何の不思議がありましょうか」


 静かで、それでいて優しい語り口に、会場が波を打ったように静まり返る。


「では、続けてもう一人の予選通過者を発表させてもらいます。聖女ミミカの妹でもあり、元イナドナミカイ教皇――ファイリ!」


 ミミカ程ではないが、再び会場に歓声が沸く。その様子を満足げに眺めながら、死を司る神は手を前に突き出す。


「さて、他のエリアはどうなっているでしょうか! 次は、都市エリアをご覧ください」


 球体に映し出されていた、ファイリとミミカの姿が消え、別の光景が新たに現れた。





 二階建ての住宅が密集している区域の裏路地を男が駆け抜けている。


「ここは本当に異空間なのか! 建物の手触りも本物だし、それに広さも異常だろっ……はぁはぁはぁ、もういい加減、追ってこないだ――」


 息を切らせながら振り向いた男の瞳には、黒装束の男の顔が映っていた。


「えっ?」


 喉から血をほとばしらせ、静かに地面へ崩れ落ちる。

 黒装束の男は相手が光の粒子となり消え去るのを確認すると、男の進路方向からやってきた、似た格好をした男へ視線を向けた。


「一人、排除終了」


「こちらも、三人処分してきたところだ。一度集合場所へ戻ろう」


 黙って二人が頷き、その場から走り去っていく。

 都市エリアでは同じような所業が至る所で実行されていた。黒装束の一団に次々と葬り去られていく参加者たち。

 その行動には容赦がなく、他の参加者同士が戦闘を繰り広げている場面に出くわすと、影から麻痺毒が塗られた飛び道具を当て、両者に毒が回ったところで首を刈り取っている。

 闇に潜み、罠、毒、不意打ち、あらゆる手段を用いて参加者を次々と暗殺していった、黒装束の一団。数刻の後、彼ら以外の参加者が全ていなくなっていた。

 予め設定していた集合場所へ集まった一団の前に三人の人影が姿を現す。

 一人は深緑色の頭巾を被り、頬やあごに髭のある、男性にしては少し小柄な四十代の男。

 その隣には男性より頭一つ高い、無表情な女性。

 そして、もう一人は長い黒髪に、露出度の高く体にフィットした黒の防具。腰には二本の短剣を携帯している、美しい女だった。


「お前ら、最終確認はしただろうな」


「はっ! 我ら以外、このエリアに生存者はございません!」


 髭の生えた男の指摘に、膝を突き、無言で首を垂れていた、一団の代表者らしき男が立ち上がり報告する。


「そうか、ご苦労。じゃあ、お前らもういいぞ」


「はっ! イリアンヌ様の悲願が達成されることをお祈りしております」


 代表者が手を挙げると、一団は全員首元に短剣を当て一気に横へ引く。ここでの死は、本当の死ではなく生き返るとわかっていても、自害を躊躇わずに実行するのは困難な筈だ。

 だが、黒装束の者たちは誰一人、躊躇することなく首を掻っ切ってみせた。


「こいつら全員合格だな。門下生の実力を試すにも良い場所だった」


「ねえ、あなた。別に自害しなくても降参したら、勝手にエリア外に排出されるのよね?」


「まあ、そうなんだが。敵に捕まり重要な情報を相手に漏らさない為に自害する。それができないようじゃ、まだまだ一人前とは言えないからな。この場はそれが確認するにもってこいの場だろ」


「流石あなた、そこまで考えているなんて……相も変わらず素敵すぎるわ」


 見つめ合い自分たちだけの世界へ旅立った両親を眺め、イリアンヌはため息を吐く。


「父さん、母さん、そういうのは後で誰もいないところでやって。今はそれどころじゃないでしょ」


「あら、あなたいたの?」


「そういや、お前いたな」


 両親のあまりの言いぐさに血が上り、額に血管が浮き出るが、大きく深呼吸を繰り返すことにより何とか冷静さを取り戻す。


「誰の為に、この戦いやったのよ。後はこの三人なんだけど、父さんと母さんどっちが残る?」


 二人は再び見つめ合うと、手を取りあい握りしめる。


「あなた私を殺して……生き返るとわかっていても、あなたを殺すなんて私にはできない……」


「お前に手を掛けるなんて、俺にできるわけがないだろ。世界中の誰よりも愛している、唯一無二の存在である……俺の全てをさ」


「あなたっ!」


「おまえっ!」


 激しく抱き合い、今にも口づけを交わしそうになっている両親を、冷めた目で見つめながら、イリアンヌは父親の背後に回った。

 そして、その背に静かに刃を突き刺す。


「ぐはっ、イリアンヌ、一体何をっ!」


「だって、キリが無いし。それに父さん、前に言っていたでしょ。自分を殺せるようになったらお前は免許皆伝だって」


「実の父を躊躇いもなく、刺すとは……俺たちの娘は立派に成長したようだぞ、母さん」


 背中に短剣を突き刺したまま、その場に膝を突くと、今にも泣きだしそうな顔のイリアンヌの母へ手を伸ばし、頬を撫でる。


「そうね、あなた。この争奪戦で勝てば、紅蓮流も安泰。もう、思い残すことはないわね。だから安心して。あなたが死んだら、私も後を追うわ」


「何を言っているんだ……母さん……俺が死んでも、お前には生きていて欲しい……」


「嫌よ! あなたのいない人生なんて、死ぬよりも辛い、意味のない日々よ!」


「愛しているよ……」


「私も愛してる!」


 血塗れの父を抱き締め、母が大粒の涙を流す。


「うっとうしい」


 イリアンヌが背中の短剣を引き抜くと、父親が光の粒子となり姿を消した。

 物心つく前から何度も見せつけられてきた、両親のラブシーンを強制的に終了させ、イリアンヌは満足げに鼻を鳴らした。

 エリアの外で復活するのを知っていたとしても、父親を殺すという行為を非道だと思う者は多いだろう。だが、親殺しは紅蓮流として当たり前の行為である。

 紅蓮流は代々、跡を継ぐ者が先代を殺すという決まり事がある。そこで初めて実力を認められ、紅蓮流を託される。それは跡を継ぐ者の宿命であり、逃れられぬ定めであった。

 ならばと、イリアンヌはこの状況を利用し父殺しをやってのけたのだ。

 これにより少々強引ではあるが、父が生存した状態で、イリアンヌが正式に跡を継ぐことが認められることになる。





「都市エリアも本選出場者が決まったようです! 二人とも暗殺術として有名な紅蓮流出身であり、なんと母と子であります! 何人もの暗殺者を育成輩出してきた、紅蓮流宗家の母、マリアンヌ! そして、その娘であるイリアンヌ! の両名が本選の出場権を獲得しました!」


 平原エリアの試合後の様な盛り上がりはないが、観客も一風変わった試合展開とその後の妙な展開が面白かったようで、拍手と歓声が上がっている。

 ちなみに、イリアンヌの両親の会話内容は全て会場に音声付きで流れた為、この後、とてつもなく恥ずかしい思いをすることになる。


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