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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
112/145

エピローグ2 独りが好きな回復職

 全力疾走で死者の街を駆け抜けたナイトシェイド号は、目的地前に着くと足を止め満足そうに嘶く。


「久しぶりに本気で走って気持ち良かったみたいだ。お客さんも楽しかったかい?」


 四人組は返事をする余裕もなく、到着と同時に荷台から滑り落ち、道の端の方で背を丸め、荒い呼吸を繰り返している。


「お、もう降りたのか。せっかちだなー。じゃあ、折角だからここからは歩いていこうか。ナイトシェイド号はちょっと待っててな」


 マースがナイトシェイド号の背を撫で説明すると、わかったと答えるかのように鼻を鳴らし、首を大きく縦に振った。

 後ろを確認せず歩き出したマースに、何とか復活した四人がおぼつかない足取りで後を追う。

 どうやら死者の街に僅かに残っていた高台の上に何かを建造しているらしく、絶壁に沿うように作られた急な勾配の階段を、一行は登っていく。


「ごめんな。本当は登りやすいように、緩やかな階段も設置する予定なんだけど、先に建物作れって煩い人たちがいてさ、急ピッチでまず建物の完成を急いでいるんだよ。でもまあ、運が良かったね。今日が完成予定日だから、今仕上げしているところじゃないかな……って、見えてきた! ほら、急いで急いで」


 最後を一気に駆け上ったマースに手招きされ、登り切った一行が高台の上に見た物は――飾り気はないが純白で清潔感がある、教会だった。


「えっ教会? 何で、死者の街に教会があるのよ」


 死者の街が光の神と対立していたことを知っている四人組は、教会がこの街に存在していることが信じられないでいる。


「やっぱ、意外だった? 初めは兄ちゃんも建てる気が無かったんだけど、面倒な人たちに急かされて作ることになったんだってさ。まあ、いずれは私も利用するからいいんだけどね」


 教会自体は完成しているようだが、教会前の花壇や周辺の建物がまだ完成していないらしく、現在も作業中のようだ。

 作業を一旦中断し、話し込んでいる人々の姿を見て、四人組の冒険者は誰ともなく涙を流していた。もう二度と会うことが無いと思っていた人物を見つけ、知らぬ間に涙が頬を伝い流れ落ちている。


「あ、やっぱりここにいたんだ、ライト兄ちゃん!」


 マースの目には最早ライトしか映っていないらしく、涙で濡れた四人組の顔を確認することもなく、ライト目掛け突入していく。





「皆さん、もう少しですのでキビキビ働いてください」


 まさに、山のように積み重なった木材を軽々と抱え上げ、ライトは周辺で作業している者たちへ指示を出している。


「なあ、なあ、ライトよ」


「何ですか、口を動かしている暇があったら手を動かしてください、エクスさん」


 教会周辺の花壇の整備をしていたエクスが、手にしていたじょうろを置き疲れた口調でライトに話しかけている。


「俺たちさ、本来なら消え去って成仏していた筈だよな。それをお前が引き留めた時、何て言ったか覚えているか?」


「はて、何でしたか」


 エクスの問いかけに、ライトは小首を傾げとぼけている。


「ライト君が覚えていなくても、僕は記憶力に自信があってね、しっかり一言一句違えずに覚えているよ。確か「本来なら消える定めでしたが、私が発動時に『神声』を使い唱えたことにより、その制限も消えました。死を求めていた貴方たちにとっては、屈辱であったかもしれません。ですが、私はそれでも、皆さんに恨まれても、消えないでいて欲しいのです。私と共に笑い、悩み、同じ時間を過ごしてほしい。私の身勝手な望みですが叶えては頂けませんか?」だったよね」


 麦わら帽子を被った、見るからに貧弱そうな身体つきのロジックが、作業の手を止め立ち上がると、腰を叩きながらライトの口調を真似ている。


「その言葉にほだされて、私たちは残ることを決断したのに……実際は雑用係じゃないの! この街に来てからずーーーっと復興作業させられているわ!」


 つばの長い帽子に、作業用の簡素な格好が妙に似合っているミミカが文句を口にする。


「ですから、共に悩み笑い同じ時間を過ごしているではありませんか」


 悪びれもせずライトは平然と言葉を返す。


「ライトちゃん。あたし、本業は武器防具職人であって、建築技師じゃないのよ?」


 スキンヘッドにサングラス、図面を片手に詳細のチェックをしているキャサリンの姿は、デザイン関係が本職だと言われても信じてしまいそうだ。


「仕方ないじゃないですか。キャサリンさんは器用ですし、色々と細かい点も知っていますからね。馬車や建物の設計の経験もある、有効活用しなくてどうするのです」


「なあ、ライト。今までずっとはぐらかされてきたが、怒らないから、俺たちの事をどうして引き留めたのか、正直に本心を教えてくれないか」


 真剣な眼差しの仲間たちに促され、ライトはため息を吐くと薄い笑みを浮かべ、こう言い放った。


「私は最終決戦前から今後の事をずっと考えていました。そして、いつか死者の街を復興させようと決めたその日に、もう一つ決めたことがあるのです。皆さんの行く末についてです。闇の魔素さえあれば、不眠不休でも問題が無い。そんな便利で貴重な作業員を手放すわけないじゃないですか……何てこと考えていませんよ。冗談です冗談。ははははは」


 棒読みの乾いた笑いを響かせるライトを睨みつけていた三英雄たちは、一斉に顔を伏せて、俯いたまま収納袋に手を入れてまさぐり、愛用の武器を引き抜く。

 教会前のベンチで休憩していた土塊は、場の空気を読んで弦楽器を取り出すと、激しい戦いを彷彿させるような曲を演奏し始める。


「おや、皆さん穏やかではありませんね。争いは何も生み出しませんよ。人と人は手を取りあい、愛し愛される存在でなければいけません。さあ、無益な争いはやめるのです」


 ライトは抱えていた荷物を脇に置くと、胸の前で手を組み、背中から『神翼』を出すと静かに羽ばたかせ、光の粒子を纏いながらゆっくりと空へ舞い上がっていく。

 教会を背後に純白の羽を生やした元聖職者が宙に浮かぶ姿は幻想的で、何も知らなければ見とれてしまいそうだが、彼らはそんなことで誤魔化される程、純粋でも甘くもない。


「そんな言葉に騙される訳ないだろ! こいつ逃げる気だ。みんな叩き落とせ!」


「よっし、僕の出番だね! 最近開発した高威力魔法ぶちかますよ!」


「久々に『神の槍』放つわ!」


「エクスちゃん手伝って! 投擲用の槍いっぱい出すから、じゃんじゃん使っちゃっていいわよ!」


 四人から容赦のない遠距離攻撃に晒されたライトだったが、その全てを躱し、弾き、『神体』で強化された体で受け止める。

 三英雄たちをからかうように教会の上空で旋回していたライトだったが、あれ程激しかった攻撃が急に止み、不審に思いながら下の様子を覗き見た瞬間、両手両足に黒鎖が巻き付き地上へと引きずり戻される。


「何やってんだお前ら。折角作った教会が壊れたらどうする気だ。俺とライトが永遠の愛を誓う場所だぞ!」


「そうだぞ、ライト。ここが壊れたら我らの挙式何処でするつもりだ」


「二人とも、どさくさに紛れて変なこと言わないでよ。ここは私とライトが結婚式を挙げる場所でしょ?」


「御三方、妄想を声に出してはいけませんよ。あ、そうでした。皆さま引き出物は何が宜しいでしょうか? ああ、ここでライト様と一緒にウエディングロードを歩くのですね」


 黒鎖で地面に貼りつけられ、更に上から束縛系の最上級魔法を重ねられたライトは、仰向けの状態で周囲を取り囲むようにして立つ、見慣れ過ぎた四人の女性の顔を順番に見回している。


「皆さん何を仰っているのですか? 私は三年前きっぱりと断った筈ですよね。それに、再開した永遠の迷宮の実地調査に行っていたのでは?」


「ああ、そっちは終わったぞ。軽く二十階ほど降りてきたが問題はなかった。明日からでも一般に公開して大丈夫だろう。まあ、そんなことより。丁度良かった、ライト、話があるんだ」


 ファイリが今日の割り当てられた仕事が終わったことを事もなげに告げ、あえて前半部分を無視して話を進めると、地面に寝そべるライトを見て、凄みのある笑みを浮かべた。

 その瞬間、ライトの背筋に悪寒が走り、『神感』が今まで感じたことが無いレベルの危機を予知した。この先を相手に言わせてはならない。幾つもの強敵との戦いを潜り抜けてきた、戦士としての勘がそう叫んでいる。


「あ、実は用事があ――」


 この場から立ち去る為の詭弁を口にしようとした矢先に、開いたライトの口の中に何かが放り込まれた。


「ライト様、新作の菓子を作ったのですが、お口に合いましたでしょうか」


 ライトの直ぐ隣に座り込み微笑むメイド長の手には、一口サイズのドーナツが摘ままれている。


「ええ、甘さも丁度良くて美味しいのですが、それよりも話を――」


 メイド長は笑顔を絶やさず、手にしたドーナツを更に追加で口の中にねじ込む。一つ目のドーナツで口の水分をかなり持っていかれた状態で、二個目が投入されライトの口は封じられる。


「まだまだ、ありますので遠慮なくどうぞ」


 目だけが笑ってない笑顔を向けられ、これは口を挟むなということかと、ドーナツを頬張りながら半ば抵抗を諦めているライトだった。


「ライトさあ、あんたも察しているんでしょ、今から何を言われるのか」


「ここから先の話は我々全員で相談した上での話だ。覚悟を決めるのだな」


 イリアンヌとロッディゲルスから釘を刺され、ライトは大人しく――逃げる為の道筋を頭の中で模索する。

 三英雄たちの怒りは完全に消え失せたようで、遠巻きにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、ライトたちを生暖かく見守っている。


「ライト、神との戦いが終わって早三年だ。あの日、俺たちが告白した時、お前は、体液が毒素を含む自分は女性と深い関係になることは一生ないでしょう。そんな自分が恋人を作るわけにはいかないのです。と言って断り、俺たちは全員振られた」


 その時の事を思い出したのだろう、ファイリ、イリアンヌ、ロッディゲルス、メイド長、四人の顔が苦渋に歪む。

 三年前、ライトが光の神を倒し、皆の前に戻った時、四人の女性はライトに結婚を前提とした付き合いを求めた。選ばれなくても絶対に恨まないと宣言されたライトだったが、誰を選ぶこともなく全員を振ったのだ。

 ライトは自分の行いがどれ程、男として最低なのか自覚した上での決断だった。相手の想いを知っていながら、鈍感な振りをし続け、命がけの戦いに身を投じさせて、挙句の果てに誰の想いにも応えず捨てた。恨まれ、罵倒され、殺されても全て受け入れるつもりでいた。

 自分の想いを殺し、彼女たちの幸せを願っての発言だったのだが、それをライトが口にすることは無い。


「それでも、俺たちはお前の力になりたいから、傍にいさせてくれと言った……お前は渋々ながらも頷いてくれた。それから三年……俺たちはずっと、この日を待ち続けていたんだ!」


 拳を握りしめ熱弁を振るうファイリを傍目に、身動きの取れない状況で全身に脂汗を掻いているライトは、忙しなく視線を走らせ周辺の様子を探っている。

 イリアンヌとロッディゲルスとメイド長は同意するように大きく頷いている。

 他の野次馬たちも相変わらず意地の悪い笑みを浮かべ、ライトが逃げ出さないように見張っているようだ。


「ライト、式場も無事完成した」


「三年待ったんだ。今度こそ本当の気持ちを、我々に聞かせてくれ」


「あんたも、いい加減諦めたらどう?」


「ライト様が私たちを気遣い、嘘を仰ったのは――『神触』を使い知っております」


 彼女たちの穏やかな声ながらも、反論を許さないという意気込みがライトに伝わってくる。


「ですが、前も言いました通り、私の体液は毒素が濃すぎるのです。触れ合う程度なら、問題はないでしょう。ですが、想いが高まった時、それ以上の行為が実行できないというのは、恋人としても夫婦としても、関係が長く成り立つとは思えないのです」


 そういった欲望が無いように見えるライトも、男だ。そういった行為に興味もあれば、生殖本能も当たり前にある。彼女たちを抱きたいと思う気持ちが、恋人同士の関係になった時、欲望を抑えられる自信がもてないでいる。


「ライト様、血液に毒を帯びた体は、常に一定量の毒を摂取し続けなければ体に異変をきたし、下手をすれば命を落としてしまう。故に毒が一生体から消え去ることは無い。そうでしたよね」


 メイド長からの問いかけに、ライトは神妙な顔つきで頷く。


「でもさ、ライト。私たちお義母かあ様から聞いてるんだよ」


 イリアンヌの半眼で冷めた視線が、ライトの顔に突き刺さる。


「『神体』を得た今、毒を常時摂り続ける必要がなくなり、毒素が抜けていっているらしいな。完全に抜け切るように解毒作用のある薬草も料理に取り入れている、と、聞いているぞ」


 ロッディゲルスの静かでありながらも凄みの感じられる声に、ライトの全身が上から押さえ付けられているような重圧を感じている。

 雲行きが怪しくなってきたライトだったが、今更どうすることもできず、黙って遠くの景色を眺めている。


「あの日から、三年もあれば完全に抜け切るそうだな……」


 ファイリの止めの一言に、ライトは逃げ道が完全になくなったことを悟った。


「さあ、観念して、誰か一人を選んで抱け!」


 一歩踏み出し堂々と言い放ったファイリに同調し、周囲の女性陣が一歩間合いを縮める。

 密かに『神力』を開放してこの場から逃げ去るつもりだったライトなのだが、『神力』を発動させたにも関わらず、その体がピクリとも動かなかった。


「ライトよ無駄な抵抗はやめるのだな」


「お母さん、孫の顔が見たいなー」


 そこには双子の姉妹かと見間違えてしまう程、顔つきの似ている二人の美女がいた。

 二人の違いといえば、白と黒の髪色の違い。それと、露出度の高いドレスと作業服という服装の差だけだ。


「母さんはまだしも、闇の神まで何をしているのですか」


「ふむ、死を司る神はわらわの子供の様なものだ。とすれば、お主は孫。ひ孫の顔が見たくてな、娘に力を貸しておるのじゃ」


 相変わらずの無表情で淡々と語っているのだが、声に少しだけからかう様な響きがあるのを、ライトは感じ取っていた。


「ごめんね、みんな。うちの息子って何だかんだ言って、この歳までまともな恋愛の一つもしてこなかったじゃないの。だから、奥手でね。好意を寄せられても、どう答えていいのか本気でわからないのよ。それに、独りが長すぎて、自分が幸せになることが怖いみたい。いい年して困ったわ」


 自分の恋愛について親に語られる、これ程、恥ずかしいことはないだろう。それが図星かそうでないのかは判断が付かないが、ライトは瞳が虚空を見つめたまま、死んだように身動き一つしていない。


「貴方たちの事は好きだけど、誰か一人を選べない。だけど、ハーレム思考は最低だと、口にしてきた建前上、全員を選ぶなんてことは出来ない……そんな、ダメダメな息子の為にお母さんは考えました! ここに、ライトアンロック争奪戦の開幕を宣言します!」


 宙に浮かぶ黒い闇の塊から、一本のひもが垂れ下がり、それを死を司る神が掴み勢いよく引っ張った。

 闇の塊から巨大な看板が現れると、そこには『ライトアンロック争奪戦』と大きく描かれており、隅の方に優勝賞品ライトアンロックと記載されている。


「ルールは簡単。参加希望者を集め、参加者全員で戦い最後まで立っていた者に、ライトとの結婚を前提としたお付き合いを認めます!」


「「「「おおおおおおっ!」」」」


 ここまでお膳立てしておいて、それでも煮え切らない態度のライトにイラついていた女性陣は、結婚という言葉に目がくらみ歓声が上がる。


「あのですね、私の意思は……」


 気力を振り絞り発言した、ライトのささやかな抵抗は当然無視される。


「ちょっとまって! それって誰でも参加していいのよねっ!?」


 キャサリンが手を挙げ、鼻息も荒く死を司る神に質問を投げかける。


「男女問いません! 参加者は誰でも歓迎するわ。その方が面白――神は寛大なのです。参加者募集期間は今から一か月とします。どうせなら、死者の街も含めた世界中の街に通知出しましょうか! 参加費それなりに取ったら、復興資金も潤うし、一石二鳥ね!」


 ライトの意思など全く関係ないところで、盛り上がる仲間と、悪乗りするとたちが悪い身内を、ぼーっと生気の感じられない瞳で眺めている。


「「はい、はーーい! 私たちも参加します!」」


 慌てて駆け寄ってきたマースと小柄な女性が新たに参戦を決意し、馬鹿騒ぎが治まる気配は全くない。

 この状況にエクスとロジックは男として羨ましいと思う気持ちも少しはあるが、それ以上にライトが哀れ過ぎて完全に同情している。

 二人は盛り上がっている女性陣を尻目にライトへ忍び寄ると、精巧な人形のように微動だにせず、呼吸をしているかも怪しいライトへ声を掛ける。


「まあ、そのなんだ、ご愁傷様」


「年を取った女性はこれだから困るよ。その点、幼女は結婚を求めてこない。理想的な女性像と言っても過言ではないよね!」


 二人からの同情と、おそらく励ましの言葉を聞き、ライトの瞳に生気が戻る。硬直した顔の筋肉を何とか動かし、ぎこちない苦笑いを浮かべる。


「はぁ、自業自得と言われれば、それまでですからね。口を挟む気力も勇気もありませんので、このまま話がまとまるのを待つだけです」


 時の流れに身を任せ、全てを受け入れるような殊勝な態度に見えるライトなのだが、付き合いの長い二人は、薄笑いを貼り付けたライトの表情の裏に、何かあると感じ取っている。


「お前、まだ懲りずに、よからぬことを考えているだろ」


「いえいえ、何も考えていませんよ」


 いつもの表情を崩さないライトを見て、二人はほぼ同時に、こいつは嘘を言っていると確信した。

 呆れた表情の二人が離れていき、完全に存在を忘れ去られ、当人抜きで盛り上がっている女性たちからライトは離れていく。高台の縁に座り込み、眼下に広がる街並みを見つめている。


「ここの住人も悪乗りが好きですからね。きっと告知される明日から盛り上がることでしょう」


 自分の優柔不断な態度が問題なのは重々承知しているのだが、この歳までまともな恋愛をしてこなかったライトには、重すぎる問題だった。


「とはいえ、この騒ぎが終息した後に、どんな結末であれ答えを出さないといけませんね……私は一生孤独で、独りで生きていくと思っていたのですが」


 面倒事が次々と現れ、騒がしく過ぎる日々を、いつの間にか好ましく思っている自分に気づき、ライトの笑みが深くなる。それは薄っぺらい笑顔や苦笑ではなく、心の底から溢れ出した喜びが抑え切れず、こぼれた笑顔だった。


「おい、ライト! 詳細を詰めるから、ちょっとこっちにこい!」


 少し落ち着きを取り戻した女性陣に呼ばれ、ライトは重い腰を上げると大きく息を吐き、いつもの独り言を呟いた。


「私は、独りが好きなのですが」


 人に拒絶され、人を憎み、人から離れ、独りを好んだ回復職は今、人の輪に囲まれる。

 産まれ落ちてから、常に戦い続けていた男は、終に安息の地を手に入れた。





 光と闇の争いに終止符が打たれた数百年後の世界。

 ライトアンロックは英雄として語られることになるのだが、逸話があまりにも多すぎて、どれが本人のものであるのか確証が取れず、多くの歴史家たちは今も頭を悩ませている。

 謎の多い人生を過ごしたライトアンロックを題材にした書物は世界中に広まり、彼の名を知らぬものはこの世界に存在しないとまで言われ、彼は歴史に名を残す偉大なる人物となった。

 絵本として人々に広まっている心温まる物語もあれば、英雄を夢見る少年が喜ぶ内容の冒険活劇。女性に人気がある色恋沙汰が強調された恋愛話など、多岐に渡る。


 その容姿についても統一されておらず、鬼のような体躯の大男であった。いや、細身の優男だった。と未だに議論が尽きないようだ。

 性格も、聖人のように穏やかで優しく慈愛に満ち溢れている、と記載されている文献もあれば、真逆の、ひねくれていて、ずる賢く、嘘と方便を何よりも好んだと、知人が書いたと思われる日記も残されている。


 そして、最も意見が分かれているのが、ライトアンロックは誰と行動を共にしていたかという点についてだ。

 彼は常に独りで行動していたと書かれている書物が多く見受けられるのだが、庶民に浸透している物語に描かれているライトはそうではない。

 ライトアンロックの傍には、常に四人の女性が寄り添っている姿が描かれている。

 その女性についても様々な意見が飛び交っているのだが、これも確証を得られていない。

 ただ、この世界で最も庶民に好まれ、多く出版された『ライトアンロックの冒険』という書籍にも四人の女性が登場しており、一般に一番浸透しているのがこの説であろう。


 一人は、美しき瞳を持つ聖女。

 一人は、聖女に仕えし、献身的な従者。

 一人は、長い黒髪の暗殺者。

 そして、最後の一人は、男装を好み、闇に身を落しながらも健気に生き、ライトアンロックからの寵愛を最も多く受けたとされている、魔族の美しき女性。


 この物語は作者の好みが反映されているようで、他の三人に比べ最後の女性を贔屓して書かれた文章が目立つ。

 最後に『ライトアンロックの冒険』から、後書きの一部を抜粋しておく。


 ライトアンロックは神を殺し、神を拒絶した人である。

 その人生は波瀾万丈で、特に女難が酷く、最後まで悩まされていた。

 作者の感情移入により特定の女性が持ち上げられているが、事実は読者の想像にお任せすることとしよう。


 作者 ダークロック


最終話となりました。

最後までお付き合い頂いた読者の皆様には、心からの感謝を。

今後不定期ではありますが、過去話やその後の話を外伝として書く予定にしています。

今後の予定や新作については、活動報告に書き込む予定にしています。

作品の質問や外伝の希望等があれば、コメントに書いてもらえれば参考にします。


本当にありがとうございました。

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