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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
110/145

最終決戦

「恐れ多くも神々の戦いに参戦させていただくのです。今日ばかりは正々堂々いきます」


 ライトは声高に宣言すると、邪悪な笑みを浮かべている光の神へ、飛ぶように駆け寄る。

 一歩踏み込むごとに、大地がひび割れ陥没し、大気が暴れ狂う。

 正面から間合いへ踏み込んだライトは、一番得意な形である上段の構えからメイスを、光の神の頭頂部へ叩きつける。


「うはーっ、怖いな」


 光の神は左半身を後ろに引くことにより、メイスの先端部である鉄塊を紙一重で躱すと、振り下ろした状態で無防備になっている筈のライトへ、攻撃を加えようとする。

 が、攻撃を仕掛けてきたライトの姿は正面にはなく、左右をすばやく確認するがそこにもライトはいない。


「まさか、上!?」


 慌てて頭上を見上げた光の神の目に映るのは、叩きつけたメイスの勢いに逆らわずに先端を支点とし、そのまま前転の要領で跳び上がっていたライトだった。


『神光弾』


 目が合ったライトは口元を笑みの形に歪めると、メイスの柄を握っていた両手を放す。そして、両手で『神光弾』を発動させ同時に射出する。


「おっと!」


 光の神は慌てず頭上に強固な障壁を張り、『神光弾』を受け止める。魔力の激突により爆風が吹き荒れ、その勢いでライトが大きく飛ばされるが『神翼』を操り、問題なく着地した。


「ライト君は流石に戦い慣れているね。ちゃっかり手放したメイスも回収しているし」


 地面に片膝を突くライトの右手には、黒い巨大なメイスがしっかりと握られている。

 ライトが今、光と闇の神よりも優れている点は、戦いの駆け引きと技。二神はその圧倒的な力により相手をねじ伏せてきたので、そもそも自らの戦いに駆け引きや技など必要がなかった。

 己を傷つける可能性がある相手は対立する神だけという状態で、技や駆け引きを必要とされたことが今までに無かったのだ。

 ライトは違う。戦いの場へ常に身を置き、自分より強い者と戦い、頭を捻り奇策を用い、鍛錬を怠らず技を磨く。

 身体的能力は『神人』となり光の神に近づいたとはいえ、まだまだ劣る身だが、それを今までの経験で補い、まともに戦うことが可能となっている。

 それを二神は今の攻防だけで見抜いていた。


「それが人としての強さか。長く生きているだけで学ぶことのなかった我らには、少しばかり目に毒じゃのう」


「まあね。色々戦いは見てきたけど、実際に動くとなると勝手が違うみたいだ。耳の痛い話だよ」


 同時に苦笑いを浮かべる神。ライトは初撃が未遂に終わり、少し離れた場所で警戒を続けながらも、今度は二神の出方を待っている。


「わらわも良いところを見せておくか」


 闇の神が無造作に腕を横に振るうと、腕が残像となり無数の腕が横に並んでいるように見える。その残像は消えることなく握られていた拳を開き、何本もの腕が手の平に闇の魔力を集中させる。

 全ての手から円錐状の闇の弾丸が放出され、直線ではなく曲線の軌道を描きながら、光の神へと迫る。


「障壁ばかりで防ぐのも芸がないしね」


 光の神は両腕に魔力を集めると、腕が白銀の光を放ち始める。

 光を放出し続ける腕で迫りくる闇の弾丸を、蝿を払う様な動作で次々と撃ち落していく。闇の神は魔力の放出を止めずに、弾丸を撃ち出し続けるが、その全てを払われ叩き落とされている。

 防御に徹してその場から動かない光の神の後ろへ回り込んだライトは、脚に魔力を集中し『神速』を生かした最速の移動で、瞬時に背後を取り、横薙ぎの一撃を胴体へと打ち込む。


「いけるっ!」


 速さ、鋭さ、威力共に今まで最高の一撃が光の神の脇腹へ触れる直前、その姿が掻き消える。ライトの攻撃は空振り、闇の神の魔力弾は的を失い、その先にいるライトへ着弾してしまう。

 闇の魔力が爆散し、辺り一帯に爆風が吹き荒れ、闇の弾丸に触れた地面が無数に穿たれる。


「瞬間移動か……ライトアンロック、無事か」


「ええまあ、何とか」


 咄嗟に発動させた『聖域』に守られ、何とか無傷のライトが砂塵の中から姿を現す。

 ライトは意識を集中して『神感』を研ぎ澄まし、姿が消えた光の神を探知する。


「周囲上空一キロ範囲内に光の神を感じられない。逃げるわけはありませんよね、となると……そこから離れてください!」


 闇の神に注意を促すと同時に、ライトはその場から飛び去る。

 ライトと闇の神がさっきまで居た地点の足元が赤銅色に変化すると、地面を突き破り吹き出した光の柱が二本、上空の雲を吹き飛ばし天まで伸びた。


「ちぇー、不意打ち上手くいったと思ったのに」


 地下から伸びる二本の光柱が立つ中心部の地面から、首から上だけを突き出し、頬を膨らませ拗ねている光の神がいる。

 地面から頭だけが出ているという光景は結構不気味なものがあるのだが、ライトはそんな感想を抱くよりも早く、動き出していた。

 側頭部から駆け寄ってきたライトは、左足を軸足にして踏ん張り、思いっきり右足を光の神の頭めがけ蹴り込んだ。


「神の顔を足蹴にするなんて、聖職者としてどうなんだい」


「丁度いい位置にあったので、つい。それに私は元聖職者なので」


 顔と同様に地面から湧き出てきた手に脚を掴まれ、顔面ギリギリのところで足の爪先が止まっている。

 光の神の握力により、いとも簡単に破壊された脚甲を犠牲に足を引き抜くと、ライトは再び距離を取る。


「しかし、ライト君の正々堂々という定義はどうなっているのかな。不意打ちとか普通にしているじゃないか」


 地面から全身を抜きだした光の神は、法衣が一切汚れていないにも関わらず、砂埃を払う仕草をしながら、ライトを非難する。


「意見の相違がみられる様ですが、私の正々堂々とは。己の持ちうる全ての能力を出しきり、相手と戦う。それには作戦、嘘、心理戦も含まれているだけです。大体、貴方の瞬間移動ですか? それに比べたら、可愛い物じゃないですか」


「まあ、確かに。瞬間移動を使えばどんな窮地に陥っても、回避できるから、ライト君の折角考えた策が無駄になっちゃうね」


 瞬間移動。それが瞬時に無条件で発動できるというのであれば、まさにお手上げ状態だろう。罠にはめて動きを止めたとしても、それが一瞬で無意味になってしまうのだから。


「困ったものですね。それの発動条件がなければ、本当に終わりかもしれませんが」


 ライトは一縷の望みを託し、闇の神へ視線を向ける。


「発動条件は特にない。飛ぶことを意識すれば、どんなタイミングでも瞬時に目の届く範囲なら任意の場所に飛ぶことができる。神のみが使える力。無論、わらわも使えるからな」


 淡々と真実を語る内容に打開策が思い浮かばず、頭を抱えそうになるライトだったが、その話にはまだ続きがあった。


「――ただし、一度使用すると。三十秒ほど間を置かなければならないが」


「なるほど、それだけわかれば充分です。付け入る隙があるというのであれば、何も問題ありませんよ」


 気軽に言い放つライトであったが、楽観視できる事態ではない事は把握している。

 それでも、強気の姿勢を崩すことなく、平常心の仮面を張りつけ笑って見せる。それがライトアンロックという男である。


「いいねー、僕の依代に選ばれただけのことはあるよ。さあ、もっともっと、楽しもうよ。時間は無限にあるのだから!」


「私は有限なのですがっ」


 メイスを振るい、蹴り、殴り、掴み、投げる。

 今まで得てきた戦場での駆け引きの全てを出し、ライトは攻め続けるが、光の神は左手と体捌きのみで、逸らし、躱し、弾く。

 牽制と呼ぶには強大すぎる魔力が込められた援護射撃が、度々、光の神を貫こうと射出されるが、残った右腕に光を纏い、苦も無く防いでいる。


「ライト君、前々から疑問だったことを訊いてもいいかな?」


「今、忙しいので簡単な質問にしていただけますかっ!」


 頭を狙った横薙ぎの一撃を、メイス先端の鉄塊に手を添え攻撃方向をずらし、難なく防ぐと、光の神は反動を抑え切れず上体が泳いでいるライトに声を掛ける。

 隙に攻撃を仕掛けず余裕を見せる光の神に、ライトはメイスから手を放し、両手で無数の突きを繰り出した。


「うん、良い突きだね。そうそう、質問は……ライト君は何故戦っているのだい?」


「決まっているじゃないですか。人々の為ですよ」


 ライトは即答すると、相手が反撃してこないと判断し、ライトは腰を落とし、両肘を折り曲げ、拳を脇腹の横に添える。そして、速度を重視した突きの連打を繰り出す。


「何故だろう。聖職者としてとても素晴らしく当たり前の発言だというのに、ライト君が言うと途端に胡散臭く聞こえる」


 ライトの拳を全て手の平で受けながら、光の神は物珍しい生き物を見る子供の様な目で、ライトの瞳を覗き込んでいる。


「失敬な。私は人々の平和と、愛と勇気と希望と、気に食わない相手を殴る為に戦っているのです。まあ、見知らぬ人の死を悲しめるほど優しくはありませんが、私の知り合いや友人の仇や恨みもありますので」


「ふーん。ライト君なら面白い答えを聞かせてくれるかと期待したのだけど、結局普通の人と変わらないんだね」


「そりゃそうですよ。ごく一般的な普通の元聖職者ですからねっ」


 全ての突きを片手で止められ、最後の一突きは威力を重視して放つが、それも受け止められてしまう。


「くううっ。最後の一撃は痛かったよ。痛みなんて無駄な感覚だと思っていたけど、たまになら悪くないものだね」


「なら、全部の攻撃喰らってみてはどうですか。新しい何かに目覚められるかもしれませんよっ」


 攻撃を防がれたライトは相手の反撃を警戒して、飛びのく際に太ももを狙い、大振りの蹴りを入れたのだが、光の神は体ごと後方へ軽く跳び、容易く躱されてしまう。

 両者が飛びのいたことにより間合いが広がったのだが、ライトは直ぐに距離を詰める気にはなれなかった。

 今までの攻撃でまともに命中したのは初撃のみ。それも、あれはわざと殴られた可能性が高いとライトは見ている。つまり、攻撃は一度も相手を捕えていないのだ。

 戦うことにより力の差を見せつけられている。このまま、長期戦を相手は望んでいるようだが、そうなればライトたちに勝ち目は全くないと考える。

 光の神を封印する為に魔力の大半を失っている闇の神は、攻撃し続けるのには限度があるだろう。それに、ライトがフェイントを織り交ぜて放つ攻撃も、始めの内は結構効き目があったのだが、今は殆どが見切られ軽くいなされている。

 この世界の頂点に立つ存在。学習能力は人と比べるまでもないだろう。ライトの技を学ばれ徐々に対応されている。

 それにまだ本気ではない筈だ。動きと態度に余裕が見える。相手が油断している今、早期に決着をつける。それがライトと闇の神の唯一の勝ち目だと睨んでいた。


「闇の神よ、少しご相談が。失礼します」


 ライトはそう言うと、闇の神に駆け寄りその肩に触れる。口に出せば光の神に策を聞かれてしまう為『神触』を使用し、闇の神へと語り掛ける。


「ほう、いいだろう。情けないことに、わらわの魔力は残りわずかだ。このままでは、勝てぬからな」


 闇の神も不利な状態であることは理解していたので、躊躇いもなくライトの策に乗ることにした。


「おっ、何かやってくれるのかな。殺られないように、気を付けないと」


 ライトが何をしてくるのか楽しみでしょうがないといった感じの光の神が、全身を落ち着きなく揺らし、目を輝かせて注目している。


「ご期待に添えればいいのですがっ」


 ライトは光の神に背を向けると一目散にその場から離れていく。全力疾走で遠ざかるライトの行動に意表を突かれたようで、初めて顔から笑みが消え、目を見開き口元を引くつかせ、間抜けな顔で驚きを表現している。


「え、いや、って、ライト君。何を――」


 この場でライトが逃げれば闇の神だけとなり、光の神の前にいとも簡単に敗れ去るのは火を見るよりも明らかだ。それがわからぬライトではないと思っていた光の神は、益々ライトの逃げた意味が理解できずに、声を上げた。

 その声が届く寸前にライトは方向転換をすると、今度は光の神へ向かい全力で駆けてくる。上半身を前に倒し、右手にはメイス、左手は『神光弾』を発動させその威力を徐々に高めているようだ。


「逃げる気はやはりないようだね。もう、結構素で驚いちゃったじゃないか」


 段々と近づいてくるライトを迎え撃つ準備を光の神は整え終わり、ライトが飛び込んできたところで、カウンター気味に攻撃を叩き込み戦いを終わらすことに決めた。


「もう、最後の手段みたいだからね。ここは、僕を楽しませ続けてくれたお礼も込めて、一撃で葬って上げるよ」


 ライトが逃げ出した際に、一瞬目を離した隙に闇の神が姿を消しているのが気になってはいるが、神が敵前逃亡することはあり得ないと知っているので、何かしてきても対応できるように警戒を続けている。

 ライトの顔が目視できる距離まで近づき、光の神は舌なめずりをし、懐に獲物が飛び込むのを待ち構えている。

 あと一回瞬きもしないうちに、ライトは射程範囲内に入る。光の神がそう思った瞬間ライトの脇に突如、闇の神が姿を現した。


「何を」


 闇の神が隣を通り過ぎるライトの背に手を当てると、闇の魔力弾をその背に撃ち込んだ。

 ライトの体が魔力弾に包まれ更に加速すると、それは人型の黒い弾丸となり光の神に突撃する。


「うおおおおっ!」


 予想をはるかに上回る速度で突っ込んできたライトに、雄叫びのような声を飛ばし全力で回避に専念する。

 加速された今の状態からの全力の一撃を障壁で防ぐのは不安がある。今から体を捻っても、横へ跳んでも間に合わないと判断した光の神は、油断することなく瞬間移動を発動させ、上空へと転移する。


「あはははは! 焦ったじゃないか! でも今のギリギリの興奮最高だった! 楽しかったよ、ライトアンロック!」


 闇の魔力に包まれ黒の人型と化し、地面へ崩れ落ちるライトへ称賛の声と共に、光の魔力砲を叩き込み消滅させると、続いて闇の神へ視線を向けたところで――光の神の顔から笑みが消え失せた。

 闇の神が両腕を突き出す先に、濃密で膨大な魔力が集約し始めていたからだ。

 その魔力量は光の神の残存する魔力量を超えており、さっきまで枯渇寸前だった闇の神が撃ちだせる筈のない威力が込められた魔力が、そこにあった。


「嘘だっ! 何で、どうして!?」


「答えは、無限の闇の中で考えるがいい。さあ、愚かなる我が半身よ。手向けにわらわの魔力の全て持っていくがいい!」


 限界近くまで絞り出された闇の魔力は、円錐を二つ底で繋げたような形へと変化し、それが螺旋の高速回転を描きながら、光の神を狙い撃つ。


「くそがああああっ!」


 瞬間移動を使ったばかりで逃げることもできず、絶叫を上げ全力で防御用の障壁を発動させる光の神へ、巨大な闇の魔力弾が突き刺さる。

 闇の弾丸が障壁に接触し、その動きは一瞬だけ止められるが、障壁の表面で回転し続ける魔力弾は徐々にめり込んでいくと、障壁を粉々に破壊し光の神の胴体へと突き刺さった。


「うがあああああああああああああっ!」


 両手で魔力弾を抱え込むようにして、何とかその回転を止めようとしているのだが、その手は回転により削られ、純白の法衣は魔力の渦によりズタズタに切り裂かれている。


「馬鹿な、馬鹿な、僕がこんなところでっ! いやだああああっ!」


 残る全ての魔力を両手に込め魔力弾を挟み込み消滅させようと、力を込めた。

 膨大な魔力同士がぶつかり、せめぎ合い、死力を振り絞る光の神の指が、魔力弾にめり込むと反発しあう魔力が爆発を引き起こした。

 爆音が鳴り響き、空間が揺れ、その威力に異空間が崩壊する。

 異空間を覆っていた障壁が崩れ、光の結晶となり降り注ぐ死者の街に佇む、闇の神――と光の神がいた。

 両手は手首の先から消え失せ、片目は潰れ、全身の皮膚は千切れ跳び、それでも神故に血を一滴も流してはいない。

 荒い呼吸を繰り返しながらも、光の神は壮絶な笑みを浮かべ、震える唇を開いた。


「あああ、あはははは、耐えた! 耐え抜いたよ! 闇の神よキミも魔力が尽きて動くのも辛い筈だよね? ここは引き分けかな。僕もこの通りだからさ。でも、結局最後まで、キミが強くなった理由がわからなかったよ」


「引き分けか……強くなった理由なら、ライトアンロックに聞くことだな」


「何を言っているのだい。ライト君は僕が消滅させたじゃないか、そんな下手糞な嘘で騙そうだなんて、ライト君を見習ったらどうだい?」


「神様に教えるなんておこがましくて、とてもとても」


 耳元から聞こえてくる、聞き慣れた声に光の神の表情が産まれて初めて、絶望に歪む。


「なぜだ――」


 振り向いた光の神の瞳に映るのは、法衣を脱ぎ去った上半身剥き出しのライトが、メイスを下から振り上げる光景だった。

 




「最後に……どうやったのか……教えてくれ……ないか……な」


 首から下と顔面の左半分が消滅した光の神の頭が、地面に転がっている。残った頭から光の粒子が天に昇っていくところを見る限り、完全消滅するのも時間の問題だろう。


「いいですよ。まず、私が突っ込み魔力弾を背中に受け、全身が黒い魔力の塊になりましたよね? 覚えていらっしゃいますか」


「あ……ああ」


「その時、私は全身が魔力に包まれると同時に法衣を置き去りにして、闇の神の背後へ瞬間移動したのですよ」


「何故……瞬……間……移動……が」


「話していませんでしたが、特別な贈り物を集めることにより、創造神さまから特別な贈り物をいただきまして『神人』と言うのですが。どうやら、神と同じ存在になってしまったようです。なので、ぶっつけ本番でしたが、神である皆さんと同様に瞬間移動できるのではないかと、試してみたのですよ。作戦を『神触』で伝えた時に、一応闇の神から瞬間移動のやり方は教わりましたので」


「…………」


「その後は、特別な贈り物は所有者に贈与できるという特性を生かして、私の『神人』を闇の神に渡しました。神の力は創造神から直接与えられた力。ということは、二神である貴方たちならば贈与できる筈だろうと。『神人』は所有者の能力を増大させますので、あの威力が出せたというわけです。おや……もう、聞こえないようですね」


 微かに残っていた頭の一部も光となり、天へと舞い上がる。

 光の神はこの世界から完全に消滅し、ライトの短いようで長い旅に終止符が打たれた。


「さて、ようやく、のんびりできますよ。闇の神はこれから、どういったご予定で?」


「わらわは、消耗した体を癒す為に眠りにつこう。済まなかった、ライトアンロックよ。お主には苦難の道を歩ませた挙句、わらわの尻拭いをさせてしもうた」


 謝罪する闇の神にライトは「過ぎたことです、気にしないでください」と笑って答え、その場で大きく伸びをする。


「では、皆さん心配しているでしょうから、私は行きます」


「待て、ライトアンロック。『神人』を返していないぞ」


 完全に存在を忘れていたライトは、手を打ち鳴らし芝居がかった動作で驚いて見せる。


「あー、ありましたね、そんな力。返却は結構ですよ。神と同等の存在なんて面倒事が増えそうですし。私には興味ありませんので。では、縁がありましたら、またお会いしましょう」


 ライトは闇の神に頭を下げると『神翼』を羽ばたかせ、死者の街から飛び立った。

 小さくなっていくライトの背を見つめ、闇の神は小さく呟く。


「死を司る神よ。良い息子を持ったな。わらわの欠片であるというのに、羨ましく感じるぞ」


 そこで初めて表情を崩し、子供に微笑む母のような慈愛溢れる笑みを浮かべた。

 死者の街に一陣の風が吹き抜けると、そこには誰もおらず、平穏で静寂な時が死者の街にようやく訪れたようだ。




ライトアンロックの戦いの日々はこれにて終了となります。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。あと、一話か二話エピローグを追加して。この物語の締めくくりとさせていただきます。

最後までお付き合いの程をよろしくお願いします。

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