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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
105/145

敵陣へ

 まだ夜も明けきらぬ早朝、薄暗い中ライトたちは宿場町を出た。

 町から腐食の大地までは青々と茂った草木が豊富で、自然あふれる風景が広がっている。そこをしばらく進むと巨大な森があり、中を突っ切るように作られた獣道を少し舗装した程度の道を抜けると、腐食の大地が待ち構えている。

 ライトたちは足早に森の中を進んでいる最中なのだが、先頭に立つライトの斜め後ろで『神眼』を光らせているファイリが渋い表情をして、唸っている。


「どうかしましたか、ファイリ」


「ライト、この先について二つ報告がある。良い方と悪い方どっちから聞きたい?」


「お、その言い回し、英雄の冒険譚や小説で見たことありますよ。こういう時は、悪い方から聞くのが定番ですよね」


 ファイリもこの台詞を言えたことが少し嬉しいようで、にやりと口元を緩めている。


「じゃあ、悪い方から。この先の腐食の大地に魔物がわんさか待ち構えているぞ。その数は数えるのも面倒なぐらい。森を抜けて少し進めば見える筈だから、その目で確かめてみればいいさ」


「これも、光の神が考えた、お遊びの一環なのでしょうね。強さは?」


「大半がEDランク。次に多いのがCでそれ以上は全体の一割にも満たないみたいだ。SやA上位はいないように見える」


「それぐらいなら一気に蹴散らして、敵中突破もありかもしれませんが、最後の戦いまで出来るだけ消耗は避けたいところですね」


「ライト、それだけではなく、もし敵を見逃せば、我らがいた宿場町や近隣の村が危険なのではないか?」


 ロッディゲルスの指摘はもっともで、魔物たちがその場から動かずにいるという保証など無く、むしろ、魔物の群れが進軍すると考えた方がいい。


「これは、面倒なことをしてくれました。その対策は、もう一つの報告を聞いてからにしましょうか」


「良い方は、この先に大勢の冒険者や騎士、兵士が待っているようだ。敵の進軍についての問題はこれで帳消しになるかも知れねえな」


 神との戦いに参加しようとする無謀な者が、ライトたち以外にもいたことに驚くと同時に、同じ人として共に戦う意志のある彼らの様な存在が、心から嬉しく思えるライトたちだった。





 森を抜け、視界が開けた先に頼もしい人々の背が見える。

 その数はざっと三千といったところだろう。冒険者もいれば、白銀の鎧に身を包んだ騎士や、その配下の兵士。イナドナミカイ教の聖騎士、神官戦士、助祭や神官の姿も見受けられる。

 森から出てきたライトをいち早く発見した冒険者チームが、ライトの元へと駆け寄ってくる。


「おおっ、ライトさんではないか! 待っていたぞ」


「あっ、ライトはんや。ワイらとの縁は切れへんようやな」


「キャアアアッ! ライト様ぁぁぁっ! はああああっん!」


「くそっ、縄から抜け出した! こうなったら拘束魔法で!」


 全身鎧男に訛りのきつい方言で話すエルフ。上半身を荒縄で雁字搦めにされ、それでもライトへ突進してきた、小柄な女性聖職者。それに、重力系魔法を発動させ何とか抑え込んだ眼鏡を掛けた魔法使い、計四人組の冒険者がそこにいた。

 ライトには見慣れた冒険者たちで、死の峡谷で出会い、虚無の大穴を共に潜った面子である。


「すんません。騒がしゅうしてもうて。何かライトはんに会ってなかったせいで、ライト成分が足りないとか言いだして、この始末ですわ。姿見える前から「匂いがする! ライト様の香りがあああっ」と暴れ出したんで、拘束しとったんですが」


 エルフの青年が申し訳なさそうに、何度も頭を下げるのをライトは、いつもの笑みを浮かべながら「気にしないでください」と返している。


「彼女はともかく、皆さんと他の方々がどうしてここに?」


「僕らと同じく冒険者は、ライトさんが最終決戦に向かうと聞いて何か力になれないかと駆けつけたメンバーです。首都防衛戦に間に合わなかった人も結構いるようで、ギルドマスターや知り合いの仇討ちの為に参加する者も多いようです」


 眼鏡魔法使いの説明を聞き、ライトが四人組の冒険者に続いて駆け寄ってきた、冒険者らしき集団の顔を確認すると、確かに首都防衛戦に参加していなかった者が多数見受けられる。


「ちょっと、通してもらえないか。ライト殿、やはりこられましたか」


 ライトたちを取り囲むように集まっていた、冒険者たちの人垣をかき分け姿を現したのは、イナドナミカイ教団の聖騎士の証でもある、白銀の鎧を身に纏ったサンクロスだった。


「我々、イナドナミカイ教団の聖騎士三百、後衛担当の助祭、司祭、二百。計五百ではありますが、皆様の力に少しでもなればと、馳せ参じました」


 その場に膝を突き、恭しく頭を下げるサンクロスにライトは歩み寄ると、その肩に手を添える。


「ご助力感謝します。ですが、そのような態度はおやめください。私はもう、教団の一員ではありません。それに、頭を下げなければならないのは、私の方です。シェイコム君の――」


「ライト殿! 我々は教団を代表して来たのではなく、個人の意志でやってまいりました。死ぬことになろうとも、それは誰のせいでもなく、ましては神の意志でもありません。我々が望み、その結果散ることになってもそれは、我々の責任なのです。ここにシェイコムがいれば、きっと同じことを言う筈です」


 ライトが謝罪しようとしたのを察し、遮るように大声を張り上げサンクロスは胸を張り、堂々と言い切ると、ほんの一瞬だが遠い目をした。


「ありがとうございます。皆さん、期待させてもらいますよ」


「「「「「はい!」」」」」


 力強い声に背を押され、ライトは前へ前へと進む。

 自然と密集していた人員が二つに分かれていき道ができる。

 ライトは堂々と胸を張り、強い意志を秘めた瞳を輝かせ、戸惑いも躊躇いも微塵も感じさせぬ足取りで道を進み、集まった群衆の前へと進み出る。


「お待ちしておりました、ライト殿」


 群衆の先頭にいたのは、浅い傷が無数に付き、至る個所の装飾が剥がれてはいるが、高価な造りをしている鎧に身を包んだ、人将軍だった。


「西軍での戦い以来ですね」


「ええ、その節はお世話になりました。こうして生き延びることができ、ライト殿と再び、戦場で共に戦えることを光栄に思います」


 相変わらずの好青年ぶりを見せつける人将軍なのだが、首都西での攻防を経験し、ひと皮むけたようで、絶望的な状況だというのに、その横顔には落ち着きが見える。


「敵が何者であるのかご存知でしょうか?」


「はい。今までの私なら、荒唐無稽な作り話だと鼻で笑っていたのでしょうが、それを口にしたのがライト殿だと知り、私は信じることに決めました」


「かなり無謀な戦いですよ。それにこれは神に弓を引く行為です。本当によろしいのでしょうか?」


「ええ、ここにいる私も含めて、計二千名の者たちは、全て承知の上で参加しています。無神論者もいますが、殆どが大切な人と神を天秤にかけ、その答えを出した者です。ご安心ください」


 ここにいる兵士の全てが首都防衛戦に参加していた面子らしく、死地を経験した彼らの顔つきは精悍で、過度の心配は失礼にあたるとライトは考え、それ以上の口出しは控えた。


「では、建設的な話へと移行しましょう。この先にいる魔物の群れはご承知で?」


「はい、既に何名かの斥候を情報収集に当たらせ、およその数と敵戦力を弾き出しています。これをご覧ください」


 手渡された書類に目を通すとそこには、数、二万。全て闇属性の魔物。戦力EDランク主体。CBも多数存在する。Aランクは目視できた限りではあるが、十前後とみられる。

 と、書いてあった。敵の配置図も添付されており、前衛はランクの低い魔物で揃え、後方に高ランクの魔物は配置しているようだ。


「三千対二万。単純に計算するのであれば、とても勝ち目はないのですが。問題はこちらの質ですね」


 そう呟くと、ライトの斜め後ろで控えていたファイリへと視線を向ける。ファイリは小さく頷くとライトの隣へ歩み寄り、『神眼』で調べた自軍の戦力を口にした。


「冒険者は、選りすぐりの精鋭を集めてきたようで、殆どがBランク以上だ。首都防衛戦に間に合わなかったSランクのチームも二組参加しているようだ。教団は後衛の聖職者は回復と支援を担当させる。神官戦士は前回の戦いで疲弊しているのと、この戦いの厳しさを理解した上で、置いてきたそうだぞ」


「それは賢明な判断ですね。彼らにはこの先、まだ長い人生が残っています。若い命を危険にさらすことはありませんよ」


 戦力としては、一人でも多く欲しいところなのだが、死と隣り合わせの現場を担当するのは、大人の役目だとライトは思っている。


「続けるぞ。聖騎士は冒険者ランクで言うところの、C以上なのは確かだな。事務ではなく現場で戦うことが多い面子だから、殆どBランクかそれ以上と考えてもらっていい」


 教皇の座を降りたとはいえ、教団の猛者たちの存在が誇らしいようで、ファイリは無意識の内に、自慢げな表情を浮かべていた。


「なるほど、把握いたしました。では、こちらの戦力ですね。殆どの騎士、兵士が先の戦いを経験した者です。あの戦いを生き残り、この戦いの参戦を決めた者たちの実力はお墨付きです。決して皆様の足を引っ張ることはありません」


 あの戦いを生き延びた実力に裏付けされた自信は、揺るぐことが無いようで、良い意味で吹っ切れているようだ。


「頼もしい味方が増えて助かります。戦場において我々の行動はあまり意識しないでください。連携はあまり得意ではありませんし、個々の実力で押し切る方針ですので」


「承知しています。我々の目的は雑魚の掃討と、貴方たちの邪魔をしないことです。我々の事は気にせず、自由に行動してください」


「それを聞いて安心しました。では、私たちはここから別行動に入ります。ご武運を」


「はっ、ライト殿に神の――いえ、無事神を粉砕されることを、お祈り申し上げます。ライト殿最後に一つ宜しいでしょうか。我々に何か呼び名をいただけませんか。同じ志を抱き集った者たちです。国の軍隊でもありませんので、私がつけるのも問題がありますので」


「そうですね……混合軍。いや、安易ですが解放軍というのはどうですか。光の神を解放するのではなく、光の神から解放される。その為に集まった面々ですから」


「解放軍。皮肉が効いていていいですね。では、我々は解放軍と名乗ることで、相違ありませんか?」


「ああ、構わねえぜ。後で他の奴らに説明しておくぜ」


「こちらも問題ありません」


 ライトの後から付いてきていた、四人組の冒険者とサンクロスが同意し、この瞬間から彼らは解放軍を名乗ることになった。





 解放軍から離れ、一帯が見渡せる高台に登ったライトたちは眼下に広がる、解放軍と魔物の軍団を観察している。


「進行速度は歩行程度だが、徐々にこちらへと迫ってきているな。このまま解放軍が動かなければ、二時間もすれば接触しそうだ」


 ファイリが鋭い視線を飛ばす先には、腐食の大地を埋め尽くす魔物の群れがいる。数では圧倒的に不利な解放軍だが、戦力で考えるなら勝てない相手ではない。被害を度外視して考えるならば。


「Sランク冒険者チームが二組もいますから、何とかなるでしょう。我々は皆さんの厚意に感謝し、一足先へ進むことにしましょうか」


 ここで少しでも味方の被害を減らす為に、敵陣を突破するという手もありなのだが、その行いは、この戦いに参戦した彼らの決意や想いを踏みにじる行為である。

それを承知しているライトが、ここでやるべきことは、自分を含めた、ファイリ、イリアンヌ、ロッディゲルス四名を出来るだけ消耗させずに、敵陣を抜けることだ。


「と言っても、腐食の大地は魔物で埋まっている。どこにも抜け道はないぞ。この『神眼』でも見つけられないってことは、無いってことだ」


 腐食の大地と死の峡谷との境界線は、巨大な深淵で区切られている部分と言われている。荒れた大地が広がる先にあるのは、地面を抉り取ったかのような闇よりも深く、黒よりも暗い巨大な深淵が大口を開け待ち構えている。

 そこには人が四人程度までならぎりぎり並んで通れるような石の橋が架けられ、死の峡谷へ繋がる唯一の道となっている。


「入り口の橋の前にも密集していやがるぜ。それもAランクばっかだな、性格悪すぎるだろ光の神さんよ」


 ファイリは神に対し悪態を吐くと、忌々しげに顔を歪める。


「それに関しては、考えがあります。まず、必要なのは……これですねっ」


 収納袋へと手を突っ込み、中から三メートル四方の透明の箱を取り出す。本来は高ランクの魔物を閉じ込め鑑賞する為の、魔道具の一種なのだがライトに拾われてからというもの、寝床、貯金箱、馬車の荷台と大活躍な逸品である。


「こんなものどうする気よ。敵に投げつけるの?」


「惜しいですが、少し違います。更に収納袋から相棒のメイスをっ」


 再び、収納袋に手を突っ込み、抜き出したメイスを、透明の箱上部の入り口を開き、中へそっと入れる。


「このようにします。更に、キャサリンさんに制作依頼を出していた、これを取り出し」


 収納袋から今度は見るからに頑丈そうな鎖が流れ出てくる。太さが人の手首程はある鎖はかなりの長さがあり、全長、百メートルはありそうだ。


「透明の箱をぐるぐる巻きにします。この鎖は私の手甲、脚甲と同じ素材でできていますので、かなり頑丈ですから心配しないでください。念の為に、収納袋も箱に入れておきましょうか」


 ライトは収納袋を取り外すと、透明の箱上部の入口へと投げ込む。狙いを違わず、メイスのすぐ隣に収納袋が落ちた。


「心配? 言っている意味が我にはよくわからないのだが」


 ライトの意図が理解できないロッディゲルスが首を傾げている。ファイリとイリアンヌも同様に訳がわからないようで、眉をひそめライトの奇行を黙って見ている。


「鎖を解けないように巻き付けた後は、この余った部分の鎖を自分の腰へ巻きます。更に――」


 ライトが腰に鎖を巻き付け始めたのを見て、三人は悪い予感が頭を過ぎり、一斉にその場から立ち去ろうと踵を返したところで、ライトに後ろから抱きすくめられる。


「何処に行こうというのですか。貴方たちには特等席を用意しているのですから、ご遠慮なく」


 ライトは三人を掴んだまま『神力開放』すると、透明の箱の上に飛び乗り、開けっ放しになっていた入り口から、三人を放り込んだ。

 固まったまま受け身も取れず、箱の底に落ちた三人だったが、箱にはクッション代わりの布団が敷き詰められていたので、衝撃は殆どなかった。


「飛び出さないように蓋を閉めて。準備は完成です」


「ど、どういうつもりだ! お前がこれを引っ張って敵陣を突破するとか言うのなら、反対だぞ!」


「いえいえ、そんなつもりはありませんよ」


「ライト何を考えているんだ! 理由を話せ!」


「そうよそうよ! 意味がわかんないでしょ!」


『あれ、おい、どうなっているんだ。外に出たと思ったら、ここ何処だ!?』


 憤る三人と、メイスから響いてくる戸惑いの声が箱内に充満する。透明の箱越しに慌てぶりを眺めていたライトは、笑みを絶やさず今後の方針を口にする。


「幸いなことに見た感じ飛行できる魔物はいないようなので、空いている上空を通ろうと思いまして」


 ライトが大空を指さし、釣られて三人とメイスの中の面々がその方向へと視線を向ける。

 そこには登り始めた朝日が照らす、美しくも広大な青空が広がっていた。


「はっ! 呆気にとられている場合じゃないわ。空ってどうやって移動するのよ。飛べる魔法なんて使えないでしょ。あんたができることなんて、怪力で……」


 文句を口にし、空からライトへ視線を移したイリアンヌは、その光景を見て絶句した。

 ライトが白銀の光を全身から放ちながら鎖を握り、その感触を確かめていたのだ。腰を深く下ろし、両足で大地に踏ん張ると、鎖を手繰り寄せ透明の箱から伸びる鎖に弛みができないようにする。


「じゃあ、空の旅へと洒落込みましょうか」


 朝日に映える清々しい笑みを見せたライトは、鎖を握った状態のまま、その場で回転し始める。出だしは箱の大きさと総重量の関係で、底が地面を削っていたがライトが一周を終えると、箱が地面から離れた。


「ちょ、ちょ、ちょっ、馬鹿、待ってええええっ!」


「ラ、ライト、冗談だよな?」


「ここから降ろしてぇぇ!」


『何、何、何が起こっているの!?』


 悲鳴と戸惑う声が、箱の内部から聞こえてくるがライトは意にも介さず、回転速度を徐々に上げていく。


「では快適な空の旅を貴方へ」


 遠心力により透明箱の壁に体が押し付けられているファイリたちに、ライトは笑顔でそう言い放つと――手を放した。


「「「きゃあああああああああっ!」」」


 女性特有の甲高い絶叫が空へと吸い込まれていく。

 ライトの手から放たれた透明の箱は、凄まじい勢いで空を滑空している。箱が飛んでいるということはその鎖で繋がっているライトも、勿論、一緒に空へと飛び立っている。

 鎖が腰に巻き付いているので、腰だけ進行方向に突き出し、上半身下半身が大きく後ろに流れ、三日月のような格好になっているが、ライトは平然と身を任せている。


「うわうわうわっ、飛んでいるぞ、これ!」


「お、驚いたが、中々気持ちのいいものだな。闇魔法でも飛行魔法はあるが、これ程の速さと、高さは不可能だ」


「そ、そうね。放たれる瞬間は体潰れるんじゃないかと思ったけど、今は平気だし。結構楽しいかも」


 余裕が出てきた三人が口々に感想を述べている。元々、度胸のある三人だったので慣れてしまえば、空の旅を楽しめるようだ。

 緩やかに上昇を続けていた透明の箱が頂点に達すると、今度は下降し始める。かなりの速度で墜ちていく感覚はかなり怖いようで、誰ともなく集まり身を寄せ合う。

 その最中、ロッディゲルスは、ふと頭に浮かんだ素朴な疑問をライトに投げかけた。


「ライト、対策は万全だとは思うが、着地はどうする気だ?」


 素朴でありながらも当たり前な質問なのだが、滑空中で風の鳴る音により全く聞き取れないライトが耳に手を当て、聞こえていないことをアピールしている。

 ロッディゲルスは身振り手振りで、箱が落ちる、地面に当たる。ということを、何とかライトへ伝える。

 その動きを見て理解できたようで、何度も頷いたライトは親指を立て、ロッディゲルスに突きつけ大丈夫とアピールする。そして、背中辺りに手を回し、暫く手を動かしていたようだが、首を傾げその動きが止まる。続いて、体中をまさぐるように手を動かした後に、顔から――笑みが消えた。


『無論、考えていましたよ。この時の為に毎夜こっそり縫い合わせていた、伸縮性と頑丈さに定評があるドラゴンの喉元の皮で作られた、落下傘を出しそれを広げて降りる予定だったのですが……収納袋、そっちに入れてしまいました』


 頭を拳で軽く小突き、『神声』を発動させて、申し訳なさそうに返事をするライト。

 透明の箱の中で、三人が驚愕に目を見開いたまま見つめ合い、大きく息を吸う。


「「「ぎゃああああああああああああああああっ!」」」


 二度目の絶叫は、一度目より更に大きな声をしていた。

 


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