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独りが好きな回復職  作者: 昼熊
本編
100/145

正しい戦い方

「とまあ、盛り上げてみたが実際どうするよ」


 ライトを真似るように肩に大剣を担ぎ、エクスが仲間を庇うように前へと進みでる。


「強さは本来と同様と考えて間違いないだろうね。本人の意識下なのだから」


「問題はライトさんのあの独特の戦い方をやってくるのか、それとも正統派なのか。そこが重要よね」


 ロジックは杖を掲げ、ミミカは胸の前で手を合わせ魔法の詠唱を始める。二人の実力であれば無詠唱で発動は可能なのだが、ライト相手なので少しでも魔法の威力を高める為に、余裕のある初めの一撃は詠唱をするようだ。


「じゃあ、私は防御と牽制メインでいくわ。鎧も防御型にしといて良かったわ」


 顔以外をピンク色の鎧に包み込まれているキャサリンが両手に盾を構える。

 土塊は相も変わらず無表情で言葉を一切話さず、楽器の調子を確かめている。

 ミミカの威力を高めた支援魔法が全員へと行き渡り、準備万端のエクスたちへライトは無造作に飛び込んでいく。

 上半身を仰け反らせ、右手に掴まれた巨大なメイスが後方へ大きく逸れる。

見るからに隙だらけな攻撃への予備動作なのだが、ライトの狡猾さを知っている一同はそれすらも何かの罠でないかと疑ってしまい、仕掛けられずにいる。

 踏み込みの速さも威力へと加算され、上半身を戻す勢いごとエクスの頭上に鉄塊が降ってくる。

 その一撃の威力を百も承知なエクスはまともに受けることはせずに、大剣の腹を体に当てるように構え、切っ先を地面へと着けメイスの一撃を刃部分で滑らせ、威力を受け流す。


「それでも、おめえええええっ!」


 威力の殆どを逸らしているというのに、エクスの体を叩きつけるような衝撃が襲い、両足が少し地面へとめり込んでいる。

 メイスの先端が地面へと到達すると同時に、大地が弾け飛び爆風に煽られたエクスが地面を転がるようにして、その場から退避する。


「防御の無意味さを思い知らされるな」


「……両手盾止めようかしら」


 前衛を担当している二人の口からは、諦めにも似た愚痴しかこぼれてこない。


「大丈夫よ、エクス! 痛覚無いから、怖いのは一瞬!」


「もう死んでいるのだから、いけるいける!」


 後衛の二人から適当な励ましの言葉が飛んでくる。

 土塊の奏でる曲が、戦場には似合わない南国の風景を想像させる、陽気なリズムへと変化している。


「おまえらも、この恐怖味わってみろ!」


「死んでいても怖いのは怖いのよ!」


 前衛から不満や非難が返ってくる。全員が余裕のあるようなノリで発言をしているが、その目は真剣で状況の深刻さは嫌というほどに痛感している。

 防御に回っていてはいつか破砕されると、意識を切り替え今度はエクスたちが攻勢に転じる。

 ライトは攻撃に比べて耐久力が劣っているのを承知しているロジックが、威力よりも数を重視した無数の電撃の矢を発生させる。


「百もの雷の矢。避けられるものなら、避けて見せてくれるかなっ! 『雷矢』」


 稲光を発する矢がロジックの頭上に並んで発生し、それは光り輝く一枚の壁のようにも見える。それが豪雨の様にライト目掛け降り注いでいく。


「馬鹿野郎っ! 俺たちまだいるんだぞっ」


 エクスは背後に迫る途方もない魔力を感じ、慌ててその場から離れる。キャサリンはロジックの口上を聞いた時点で危機を察し、既に離れている。

 ライトもわざわざ食らってやる義理もないので、後方へと大きく飛び退る。誰もいない地面へと突き刺さると思われた雷の矢は、地面すれすれで急旋回し地を這う様な軌道で、退いたライトの後を追っていく。


「この魔法は自動追尾機能が付いているよ。更に、こうやって自分の意思で動かすことも可能だっ」


 ロジックが指を鳴らすと、ライトの正面から迫っていた無数の雷が左右と上へわかれ、更に速度を上げライトの逃げ道を塞ぐ。


「決まったね」


 ライトへ無数の雷の矢が突き刺さり、針鼠のようになる光景を想像したのだが、矢の全てが光の壁に激突し霧散していく。


「最近使ってなかったから忘れそうになっていたけど、まあそうだよね」


 ライトが発動させた『聖域』に全弾を防がれたのだが、予定の範囲内の様でロジックは軽く肩をすくめるだけで、それ程悔しそうには見えない。


「光属性の攻撃魔法って人にはあまり効き目がないのよね。やっぱり私は支援メインかな……はっ、ライトさんなら効き目あるかも! 人間離れしているしっ!」


 ミミカは失礼なことを口走りながらも、味方への支援といつでも防御魔法を発動できるように意識を集中し、魔法への精神統一が乱れることは無い。


「でも、不幸中の幸いというべきなのかしら。ライトちゃん『神体』はないみたいね」


「ライトが気を失う前までしか認識できていないからだろうな」


 前衛二人は警戒レベルを最上位に設定したまま、ライトに攻撃する暇を与えぬように、果敢に攻め続けている。

 キャサリンは防御を投げ捨てたようで、特殊な操作をすると簡単に脱衣が可能になっている鎧を脱ぎ、盾も手放し、今は頑丈さを極めた細身の剣を取り出して手数で勝負している。

 ライトはメイスでは捌ききれないと判断して、メイスは既に手元になく両手の手甲で何とか二人の攻撃を弾き、受け止め、躱していく。


「何気にいつの間にか、身体向上魔法発動させているわよね。ライトちゃんってば、油断も隙もあったものじゃないんだからっ」


 仄かに光を放つライトの正拳右突きが右頬すれすれを通り過ぎ、冷汗が風圧により吹き散らされながら、キャサリンは顔を歪める。


「ライトの無手の攻撃って威力どんなもんなんだ? キャサリン試しに顔面で受けてみてくれっ!」


「嫌よっ! 私のプリティーフェイスが陥没しちゃうじゃないのっ!」


「いいじゃねえかっ! 逆に美形になるかも知れんぞ!」


 軽口を叩きながらも手は休めず、速さを重視した鋭い攻撃を加えているのだが、ライトは掠る程度の攻撃は無視して、動きに支障が出る傷は負わないように対応しているので、未だにライトへの手ごたえのある一撃は与えられずにいる。

 攻撃魔法で援護しようにも、三人の距離が近すぎて手が出せない状態のようだ。


「エクス、キャサリン、一旦引いて! 大きいのいくよ!」


「了解!」


「わかったわ!」


 二人は全力で突きを放ち、それをライトに受け止めさせると、足元が光り輝き始めたのを確認して左右へと分かれて離れる。

 ライトも一瞬迷うがキャサリンの動きが鈍いと感じ、キャサリンを追うように動こうとする。だが、その足は光を放つ地面から離れず固定されたままだった。

 ライトを中心として直径三メートルの範囲が円状に光り輝いていたのだが、今はその光は右足と左足の下に分かれて二つの小さな円となり、その足を地面へと貼り付けさせている。


「どうよ『罪の足枷』は魔力により地面へ固定される魔法。どれだけ怪力であろうと、振り払うことは不可能っ! 拘束時間は短いけど今はそれで十分なはず!」


 その魔法にかなり自信があるようで、ミミカが自慢げに胸を反らしている。その姿を目視したライトは大きくため息を一つ吐くと、脚へ力を込める。


「だから、無駄だって言っているで……し……ロジック早くっ!」


 ライトの脚は光る円から離れることは無いのだが――光る円は足の裏から離れぬまま、地面と一緒に大地からもぎ取られた。まるで岩を靴の裏に張り付けているかのような格好で、ライトが両足を土ごと地表から引き抜く。

 そして、足の裏についてきた土の塊の分だけ背が高くなった状態で走ってきた。


「おおおっ、何だあれ! 怖えっ! ロジック早くしろ」


「ちょっと! ロジックちゃん、早くぅぅ!」


「よ、よーし! 準備万端、行くぞっ! 『魔牙流砂双』」


 慌てふためく二人に急かされながらも、発動までこぎつけたロジックが杖を地面に突き刺す。

 荒れ果てた大地から砂が天へと巻き上がり二本の竜巻と化す。円錐状の形となった竜巻の尖った先端がライトを挟み込むように突き刺さる。

 衝突時に吹き荒れた砂塵によって視界が妨げられ、状況が掴めないがあれでライトがやられると楽観視する人など、ここには誰もいない。


「からのー。こっちが本命だっ! 『重陣力』」


 二段構えで発動させた重力操作魔法がライトを中心とした広範囲を巻き込む。

 ミシッという空間が軋む音が聞こえたかと思うと、ライトがその場に膝をついた。ライトの足元や周りの地面も陥没し、地面がすり鉢状に凹む。


「どうだ。我が重力魔法の威力は。出力を最大限にまで上げたこの魔法。ライト君のいる位置は体に感じる重さが十倍に跳ね上がっている。そう、まるで十人のライト君を背負っているのと同じだよ!」


 自信満々で言い切ったロジックに全員が冷めた視線を向けている。周りの反応が予想外だった為にたじろいでいるが、ある事に気づき顔色が青くなっていく。


「ライトさんが十人分って……ライトさんにとって何の問題もないわよね」


 ミミカの呟きを肯定するかのように、一歩一歩、大地を踏みしめながらライトが一行へ向かってくる。脚を踏み出す度に、大地が陥没しひびが入っていく。


「迫力が増しただけじゃねえか! 何か足止めになる物を持ってないかキャサリン!」


「ちょ、ちょっと待って! ええと、これじゃなくて、これでもない、じゃああれは……」


 収納袋に手を突っ込み、中をかき回し使えそうな物を探しているようだが、中々目当ての物が見つからないようだ。何個目かの使えない道具を放り出したキャサリンが最後に取りだしたのは、大きな投網だった。


「馬鹿でかい網だな。えらく頑丈そうだし」


「そりゃそうよ。ドラゴンを捕える網を作れって無茶な注文に応えて作ってあげたのに、重すぎてこんなもの使えるかって返品された物だし」


 巨大な投網の外側の縁には拳大の重りが幾つもついており、普通の人間に扱える代物には見えない。実際、ドラゴンを封じ込めるには、人が容易に扱えない重さが必要となるのは当たり前のことである。


「これは使えそうだ。ミミカ身体強化魔法を最大威力で頼む! キャサリンもこれ投げるの手伝ってくれ!」


「ちょっとぉ。私はライトちゃんが使っているメイスより重い物持ったことないのよっ!」


「充分過ぎるわ! 時間がねえんだよ、一緒にこの網掴め! いっせいのーでっ!」


「「どうりゃあああっ!」」


 体にかかる負荷を楽しんでいるかのように、ゆっくり歩み寄るライトの方向へ目掛け投網を投げつける。


「『重陣力』に触れたら一気に重くなるから、ライト君に届くまでに地面へ叩きつけられるよ!」


 ロジックの焦りを含んだ説明を聞き、エクスは口元を緩める。


「その魔法の範囲ってのは、ライトを真ん中に半球状に効果があるんだろ。だったら、範囲外の上空から網が広がりそのまま落下中に、魔法の影響を受けたらどうなる?」


 エクスが魔法の範囲をそう判断したのには理由がある。それは単純で、戦いの影響により周辺には砂塵が舞っているというのに、ライトの近くには砂塵が見当たらないからだ。

 魔法の範囲内の砂埃は全て重さが増し、地面へといち早く落ちていく為、ライトを中心とした半球状の空間には砂が舞っていない。

 魔法の影響を受けない上空へ飛ばされた投網は、ライトの頭上で大きく広がるとそのまま重力に従い落下し、魔法の影響範囲へ突入後、重さが十倍に跳ね上がり一気に下降した。


「ライトアンロック捕獲完了!」


 投網の縁に付けられている重りが地面へと埋没し、体にのしかかる網にライトは押し潰され、地面へ両膝を突く。


「いくらライトちゃんでも、その網は破れないわよ。ドラゴンでも破られないことを目標に作っているから、とっても頑丈よ」


『神力開放』


 ライトの体から発せられる金色の光が消え、代わりに白銀の光が溢れ出る。

 両膝を突き前屈みになっていたライトは背筋を伸ばすと、投網など存在していないかのように、すくっとその場に立った。


「ぎゃああああっ! 『神力』きちゃったああああああっ! もう無理、絶対に無理よ!」


 投網に絶対の自信を持っていたキャサリンが頭を両手で抱え、激しく左右に振っている。

 仲間も同様の感想を抱いたようで、虚ろな目で口元が引きずっている。


「更に『上半身強化』『下半身強化』です」


 白銀の光が炎となり、全身から立ち昇る。その荒れ狂う白銀の炎は高く舞い上り、まだ距離があるというのに、エクスたちの肌はちりちりと焼けるような感覚に襲われる。


「ああ、終わった……」


 それは誰の呟きだったのだろうか。三英雄とキャサリンの瞳は焦点があっておらず、どこか遠くの方を見ているようだ。

 網をその身に纏いながら、平然と歩き進むライトの姿を見て、彼らは半ば諦めかけていた――土塊とメイド長を除いて。

 鬼気迫る場面には場違いな、弦を弾く音が響き渡る。ライトも含めた全員の視線が音の源へと向けられる。

 そこには、戦場からかなり離れた場所の地面に腰を下ろし、弦楽器を奏でる土塊の姿と、大地に右手を突き、左手は土塊の背中に触れているメイド長がいた。

 全員の注目を浴びていることを理解した土塊は大きく息を吸い込み、声を上げる。


『今日もあの子と目があった。僕が頭を下げると、何故か走って行ってしまった。やっぱり僕は嫌われているのかと思って、母さんに聞いてみたら「あれは、照れているだけよ。あなたの事が好きだから、顔もあわせられないのね」と言って笑っていた。そうか僕はモテるのか』


 エクスたちは土塊が幼い子供のような声を出したことにまず驚き、続いて子供が書いた日記のような内容を突如話しだした土塊の意図がつかめず、何とも言えない表情を顔に浮かべている。

 ゆっくりと歩み続けていたライトの足がピタリと止まっていることに、彼らはまだ気がついていない。


『相手は照れ屋さんなので、僕から声をかけることにした。今日は近くの川で遊んでいるようだ。話しかけたかったけど、よく考えたら母さん以外とまともに話したことがなかった。やり方がわからないので、遠くから眺めているだけにしておこう。笑った顔がとても可愛かった』


 土塊は淡々と子供の声真似をしながら話を続ける。どうも、その内容は小さな子供が女の子に惚れられていると勘違いし、何とか接点を持とうと頑張っている可愛らしい話のようだ。


『陽の日 晴れ。今日もあの子を見つけた。今日は森の中で山菜をとっているようだ。やっぱり声はかけられない。何か、少し甘い香りがしてくる。あの子の香りだろうか。今日も遠くから見ているだけだったが、満足だ』


 初めはほのぼのしていた話だったのだが、どうも風向きが怪しくなってきている。遠くから見つめている男の子がちょっと執着しすぎているような感じだ。


「ねえ、これってどういうことなの? ライトちゃん完全に動きが止まったんだけど」


 キャサリンの言葉に反応してエクスたちがライトへ目を向ける。そこには呆然と突っ立ったまま、右手で顔を覆うライトの姿があった。


「反応しているってことは、これってライトの過去なのか?」


「あらあらあら、やだ、ライトさんにもこんな時代が。ふふふふ」


「んもう、ライトちゃんも昔はちゃんと女の子に興味あったんじゃないのぉ」


 心は乙女な二人が頬に手を当て「かわいらしぃぃ」と体をくねくねと揺らしニヤついた笑みを浮かべている。


『今日は思い切って声をかけてみよう。裏庭で摘んだ綺麗なお花も持ってきたし、かんぺきだ。どうやって言おうかな。今日はいい天気だねがいいのかな。それとも、もっと気軽に何しているの。ぐらいがいいのかな……よっし、出たとこ勝負だ、いくぞ!』


「いい加減にしてもらえますかっ!」


 ライトの全身から吹き上がる炎が激しさを増し、天まで炎が届きそうな勢いで伸びる。溢れ出す神力に空間が軋み、ライトの周囲に暴風が吹き荒れた。

 この状態では大声を張り上げたところで、誰の耳にも届かない筈なのだが、土塊のそれ程、大きくもない声はこの場にいる全員の耳に鮮明に聞こえている。


「この状態でも聞こえるなんて! もしかして『神声』なのっ!? ライトさんに譲渡して使えない筈じゃ!」


 ミミカがすぐ隣にいるロジックに話しかけるのにも、大声を張り上げないと聞こえない状況なのに、今も土塊の声は他の音に紛れることなく、聞き取ることができる。


「たぶんそうだね! おそらく何だけど! 僕たちはライト君と魂の繋がりがあるから! ライト君に受け渡した特別な贈り物スペシャルギフトを! 元の所有者なら使えるんじゃないかなっ!」


 ロジックの憶測は間違っていない。『神声』は元々、土塊が所有していた特別な贈り物だ。それを譲渡したとはいえ、ライトと魂の繋がりがある現状なら、元所有者にもその力を使用することができる。

 ちなみに、他の特別な贈り物を三英雄やキャサリンが使うことは出来ない。土塊も『神声』以外の能力を使用することは不可であり、もしも、ミミカが『神眼』をライトに渡していたのなら今使用できていたのだが。


『僕が近づくと、あの子は目を逸らし、体が震えている。きっと緊張しすぎているのだろう。ここは男らしく僕から話しかけよう「こんにちは、いい天気だね。良かったらこの花を」昨日眠らずに考えていた台詞をちゃんと言えた。相手の顔を見ながらは恥ずかしいので、横を向いたまま花を突き出した。いつまでたっても、受け取ってくれないし、返事もしてくれないので正面を向いたら。あの子はもういなかった……困ったな。思っている以上に照れ屋さんだったみたいだ。モテる男はつらいな。もう少しアプローチの仕方を考えないと』


 母親以外とまともに触れ合ったことが無い事が影響し、思い込みが激し過ぎる幼い頃のライトが、暴走気味に動き始めているようだ。

 幼い頃の恋愛絡みの話と言うのは、誰だって恥ずかしく思うのは当たり前だ。自分が誰にも見られたくないとひた隠しにしていた過去の日記を、親しい仲間の前で公表されているような現状にライトは悶え苦しんでいる。

 力なく崩れ落ち大地に片膝をつくと、体から溢れ出ていた白銀の炎が一気に衰えていく。今は風が吹いただけで消えそうな程、弱々しく、燃え尽きる寸前の炎のように辛うじて光りを保持している。


「なあ、もう、やめてやったら……」


「う、うん、もういいんじゃないかな……」


 エクス、ロジックの両名は自分の過去と照らし合わせ、何か思うところがあるようだ。地面に転がったままピクリとも動かなくなったライトを、同情の眼差しで見つめている。


「こ、ここからどうなるの! 早く続き続き!」


「やだもう、大胆ねぇ。でも、そういうの嫌いじゃないわよ」


 ミミカとキャサリンはこの先の展開が気になるようで鼻息も荒く、土塊を急かしている。


『あっ、そうだ。あの子が僕の顔を見られないというのなら、あの子の為に歌を作って聞かせてあげるのはどうだろう! うん、凄く言い考えだ。そうしよう。今日から頑張って考えるぞー!』


「「やめてあげてっ!」」


 この先の展開が酷いことになることを予期した男性二人が同時に叫ぶが、土塊が黙ることは無い。

 土塊の語りは留まること知らず、内容は更に進んでいく。歌詞が出来上がり、意中のあの子の前で発表することを決め、ライトが家を飛び出したところで、エクス、ロジック両名はこれ以上聞いていられなくなり耳を塞ぐが『神声』はその程度で聞こえなくなるようなものではない。

 あの子の前に飛び出し、驚きと恐怖で身がすくんでいる女の子の前でライトは大声を張り上げ歌い始めてしまう。


『キミは可愛いー とても可愛いー 笑った顔が明るいー いい匂いがするー とっても素敵だー』


 単調なリズムに捻りもない歌詞なのだが、歌唱力がありすぎる土塊が全力で歌い上げ、即興でつけられた曲が相まってそれなりの曲に聞こえてしまう。それは羞恥心を刺激する威力が底上げされる要因となる。


「土塊もう、やめてあげるんだ……」


 オリジナルの歌が三番に差し掛かったところで、気持ち良く歌い続けていた土塊の肩に手が置かれた。

 土塊が見上げた先には、目を閉じ悲しそうに頭を左右に振るロジックの姿がある。

 そのロジックが指差す方向には、体の色素が殆どなくなり、透明に近い状態のライトが膝を抱え座り込んでいた。

 これが普通の状態で恋愛絡みの恥ずかしい話を暴露されたのであれば、ライトは動揺しながらも平然を装っていた事だろう。だが、ここは心の中。ライトの心の動きがダイレクトに伝わってしまう世界。動揺はそのまま行動となって表れてしまう。

 それに加え光の神に強制的に眠らされ、精神の抵抗力が弱まっている状態。

 心の世界で意識がむき出しのライトへ『神声』を用いた精神への直接攻撃。

 その効果は絶大だったらしく、このまま放置していても消滅するのは間違いないだろう。


「その、なんだ、止めを刺すぞ。このまま、いるよりはいいだろうしな」


 エクスが振り下ろした大剣に両断されたライトが消える寸前に浮かべた表情は、安堵しているようだった。

 ライトの姿が完全に消え去ると同時に、大地に突き刺さっていた扉の錠が弾け飛び、扉を拘束していた鎖が解け落ちる。

 両開きの扉は誰も手を触れていないのにゆっくりと開いていき、開口部から眩い光が漏れ、彼らは目を開けていられなかった。

 扉が開き終わり、光も収まると、きつく閉じられていた瞼を開き、扉の開いた先に視線を向ける。そこには――仰向けの状態で静かに眠るライトが居た。


記念すべき100話目いかがだったでしょうか。

話は終盤へと差し掛かっています。

最後までお付き合いの程、よろしくお願いします。

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