9話
現実に戻った僕は悲鳴を聞いた。それもそのはずだ。いきなり教室が真っ暗になったのだから。
がたがたと“彼”が“彼女”を庇う音が聞こえた。今頃二人は抱き合っていることだろう。
さて、頃合いだ。
僕は手持ちのマイクにスイッチを入れた。
「やぁ、諸君。今の気分はどうだい?」
変声機を通した僕の声が教室の中に置いた小型スピーカーから流れ出た。
「きゃっ」
「なんだお前は!?」
突如聞こえてきた声に二人は驚いているのが手に取るようにわかる。
僕は柄にもないくさい演技を続けた。
「今君達はどういう状況にいるかわかっているかい?」
飄々としたからかうような喋り方。本来の僕ではない喋り方。僕は“彼ら”に対し飄々とした謎の男を演じた。
「どういうことだっ!」
僕の問い掛けに対して“彼”は噛み付いてきた。
「今、君達はどういう体勢でいるんだい?言ってみろ」
僕のその一言に“彼”は静かになった。自分が無意識にしたことに赤面していることだろう。
「私は君達の恋路を応援したいと思っているんだよ」
僕は強引に話を進めた。“彼ら”は違和感を感じて何かしらかアクションを起こすかと思えば、“彼ら”は僕の強引なやり方についてきているのだった。
「私は君達の“想い”を知っている。知っているからこそ、じれったく思っているだよ」
くさい、くさすぎる。こんな台詞を吐くなんて、僕が僕じゃないみたいだ。これはもしかして夢なのか?現実でないのか?
「ここまでお膳立てしたんだ。後は・・・・・・わかるだろ?それともなんだ、私に君達の“想い”を代弁してやればいいのか?」
誰なんだ、こんな台詞を吐く奴は。僕は何様のつもりなんだろう。
しばらくして、“彼ら”は自らの“想い”を伝え始めた。
その様子を脇目に見ながら、本来の僕のやるべきだったことを思い出した。そう、“彼”をこの空き教室に呼び出していたのは僕だ。
僕は少し離れたところから足音を立てて教室のドアを開けた。
「遅れてごめんな・・・・・・って」
僕は二人がいるのが見えた。ドアを開けたことにより少し光が入り、二人が抱き合っているのが見えた。
「いや、これは」
「違うの、違わないんだけど」
“彼”と“彼女”は慌てふためいた。
「ごめんな、まさかこんなことしているとは思わなかったよ。これに比べたら僕の相談なんてちっぽけだから、また今度ということで。お邪魔したね」
僕はそそくさと退散した。
僕には2つの赤い華が咲いているように見えた。