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20話

 ■■■


 僕は、いつの間にかフルートの奏でる旋律が耳に流れ込んできていることに気付いた。閉じていた目を開けてみれば、そこにフルートを一生懸命に吹く風華さんの姿がそこにあった。


 「ぁ・・・・・・」


 僕は現実世界に帰ってきたことを実感した。

 目を通して見える優しいような、それでいて心を掻き立てられるような様々な色。

 遠くで生徒達ががやがやしているのと同時に目の前から聞こえてくる不思議な旋律らが入り混じって聞こえる様々な音。

 長い年月を経た木の湿った匂いや、少し据えたような匂いが僕の鼻腔を刺激する。


 それら全てが僕が現実世界に帰ってきたことを教えてくれた。

 睡魔に誘われてからまだそんなに時間が経っていないと感じた。


 「・・・・・・」

 僕は目の前でフルートを吹いている風華さんを再度見つめながら、先程の光景に思いを馳せた。


 『亘くんのことが好きだってこと』


 その言葉を思い出して僕は顔を赤らめた。

 本人の口から直接聞いたわけではなく、心の中で聞いた言葉だからこのことは本当なのだろう。

 だけど、風華さんが僕に直接言ってくれたわけではない。いわば、ズルして聞いてしまったことだ。風華さんは僕が知ってしまったことを知らないだろう。それならば僕は知らないふりをしているしかない。僕には風華さんが直接言ってくれるまで知らないふりをすることを固く誓った。





 「ふぅ、どうだった?」

 演奏を終え、風華さんは額ににじむ汗を吹きながら僕へ問いかけてきた。それは僕に対する質問であると同時に自分の安心を確認するための言葉であるように思えた。事実、風華さんは僕の目を見ながら切実に答えを待っていた。


 「あぁ、良かったよ。とても綺麗な演奏だったよ」

 「そんなぁ・・・」


 風華さんは嬉しそうに顔をほころばせた。


 「そこの君たちはどう思った?素人の僕だとうまいこと言えないからさ、何かアドバイスしてくれないかな?」

 僕はその場にいた2,3人の生徒達に訊ねた。彼等はどうも1年生のようだったが、少なくとも僕よりは音楽の知識は持っているだろうと思った。


 「あのー、良かったと思います。だけど、強いて言えば、曲のこの部分のブレスが乱れていたと思うのですが・・・」

 一人の女の子がおずおずと答えた。


 「ふむふむ」

 風華さんは頷きながら自分のメモ帳に書き連ねていく。


 「他には何かあった?」

 「後は・・・」


 それからしばらく1年生の感想・意見を聞き、それを風華さんがメモしていき時間は過ぎていった。

 

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